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2025.2.4
横浜美術館がいよいよ全館オープン!『記念展「おかえり、ヨコハマ」』の見どころとは?
大規模改修工事を終え、昨年11月に一部開館していた横浜美術館が、いよいよ2025年2月8日(土)より全館オープン!その船出を記念して『横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」』が開催されます。見どころをご紹介します。
目次
奈良美智 《春少女》 2012年 アクリル絵具、カンヴァス 227.0 x 182.0 cm 横浜美術館蔵 ©YoshitomoNara
記念展「おかえり、ヨコハマ」の3つの主なポイント
ルネ・マグリット 《王様の美術館》 1966年 油彩、カンヴァス 130.0 x 89.0 cm 横浜美術館蔵
主な見どころは3つ。「横浜」をキーワードに、「多様性」という観点のもと、絵画、写真、工芸、映像などの作品や資料を通して、新たな視点での横浜の意外な歴史を深掘りします。
かねてより近現代美術のコレクションが充実している横浜美術館。セザンヌ、ピカソ、マグリットや奈良美智などの名品が久しぶりに一堂に公開されます。
さらに会場内には子どもたちと一緒に楽しめる「子どもの目でみるコーナー」を設置。子どものために作品を選び、見やすいように工夫して展示し、親子で話し合いながら鑑賞できる仕掛けが用意されています。
開港以前から2010年以降の作品まで。「おかえり、ヨコハマ」の構成と各章の内容を紹介
それでは全8章の展覧会の構成に沿って、各章の内容をご紹介しましょう。
第1章【みなとが、ひらく前】
ペーター・ベルンハルト・ヴィルヘルム・ハイネ(伝)《ペルリ提督横浜上陸の図》 1854年以降 油彩、カンヴァス 53.3 x 80.5 cm 横浜美術館蔵(原範行氏・原會津子氏寄贈)
「横浜の歴史は開港に始まる。それ以前は小さな漁村に過ぎなかった」。そう語られることもある横浜についての決まり文句、でも本当なのでしょうか…?
本章では横浜市歴史博物館や神奈川県立歴史博物館の協力のもと、縄文時代から広い意味での横浜市域に住んでいた人びとがつかい、遺したモノを、「女性」や「子ども」などのテーマで紹介します。
「おかえり、ヨコハマ」と通して、開港以前に横浜に暮らした人びとや、ローカルな歴史を掘り起こすことで、横浜の歴史に新しい発見を見出すことでしょう。
第2章【みなとを、ひらけ】
1859年に開港した横浜は、当初から国内外から向けられる視線を意識しながら、どのように自らを「見せる」かを考える、「見られる/見せる」都市として出発しました。
そして西洋風の街並みや来日した人たちの姿、さらに鉄道などの新たな風物は錦絵となって、人びとの好奇心を満たします。「おかえり、ヨコハマ」の第2章ではそうした錦絵を中心に、開港直後に始まった横浜の遊郭の歴史などをたどります。
第3章【ひらけた、みなと】
宮川香山 《高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒大香炉》 明治前期 陶磁器 H29.7cm 田邊哲人コレクション(横浜美術館に寄託)
外国人が多く集まった横浜では、みやげものや輸出品として多くの絵画や工芸品が作られました。五姓田義松はみやげ品として絵を制作した父、五姓田芳柳の元に生まれた洋画家です。また女性が美術を学ぶ機会が限られていた中、義松の妹の幽香は、学校ではなく家業として絵画を学び、大成します。
「おかえり、ヨコハマ」第3章では五姓田芳柳や宮川香山など、文化と文化の接触面である「コンタクト・ゾーン」に生まれた品々を展示します。
第4章【こわれた、みなと】
急激に増加した横浜の人口の多くは、輸出入関連の仕事を求めて日本各地から横浜へ集まった人びとでした。こうした家庭に生まれた横浜二世のふたりが、ともに日本画家である今村紫紅と牛田雞村です。今村の生家は輸出向けの提灯を商い、牛田の生家は輸出陶磁器の梱包業を営んでいました。
「おかえり、ヨコハマ」の第4章では、コレクター・原三溪の役割について触れながら、今村紫紅と牛田雞村の作品を公開。さらに1923年の関東大震災で被害を受けた横浜にて、アーティストらが何を描き残したのかについて紹介します。
第5章【また、こわれたみなと】
片岡球子 《緑蔭》 1939 年 紙本着色 194.0 x 286.0 cm 横浜美術館蔵(片岡球子氏寄贈)
世界恐慌による打撃を乗り越え、徐々に震災からの復興を果たした横浜。1930年には瓦礫を埋め立てて山下公園が完成し、幾つもの焼け落ちた橋梁が架け替えられました。本章では震災復興から戦時下まで、アーティストらが時代によって変化する横浜を描いた川や橋の風景を紹介します。
また洋画家、松本竣介を代表するシリーズとして知られ、横浜駅近くの月見橋を描いた一連の《Y市の橋》が、「おかえり、ヨコハマ」にて横浜の地で初めてまとまって展示されます。
第6章【あぶない、みなと】
1945年5月の横浜大空襲で甚大な被害を被った横浜は、戦後になっても中心部が占領軍に接収されるなど、長く復興することが叶いませんでした。
また1859年の開港時にいち早く港崎(みよざき)に遊郭の開かれた横浜では、敗戦の際にも米軍兵のために慰安施設が準備されます。その役割は真金町遊郭や街娼などに引き継がれ、1958年の売春防止法の完全施行まで続きました。
本章では占領下から高度経済成長期までの横浜のようすを紹介。「港」「外国人組織」「麻薬取引」といったお決まりの要素が見られる、昭和期の横浜を舞台とした映画や小説についても俯瞰します。
第7章【美術館が、ひらく】
1983年にみなとみらい21地区の開発が始まると、1989年には「横浜博覧会(YES’89)」にあわせて、丹下健三設計による横浜美術館が開館します。
本章では横浜美術館の設立過程を紹介するとともに、開館前後に収蔵され、「横浜市民」となって30年以上親しまれてきたコレクションの名品を新たな視点から読み直します。
第8章【いよいよ、みなとが、ひらく】
檜皮一彦 《walkingpractice feat.HIWADROME》 2023年 サイズ可変 車いす、カーブミラー、LED照明、プロジェクター、LCD、メディアプレイヤー、3Dプリンター、マネキン、インシュロック 発表場所:東京都美術館(参考写真)
最終章では、横浜美術館の新たな船出を祝し、2010年代以降の作品と、アーティストの檜皮一彦に制作を委嘱した新作を紹介します。
また本章において「子どもの目でみるコーナー」を設け、多様性を切り口に、横浜に生きるさまざまな生を祝福し、子どもたちに未来への希望を託します。
休館中に収蔵された作品も公開。同時開催のコレクション展も充実!
淺井裕介《八百万の森へ》 2023年 土、アクリル樹脂、木炭、鉛筆、弁柄、パネル 325×390 cm 横浜信用金庫創立100周年記念寄附による購入
『記念展「おかえり、ヨコハマ」』にあわせ、同じ会期にて3階展示室で開催されるコレクション展も見逃せません。
ここでは昨年7月、わずか3日間限定にて特別展示された淺井裕介の《八百万の森へ》を公開。9枚のパネルを組み合わせることで生まれる本作は、淺井が指定した7パターンを基本に絵柄を変化させることができますが、今回は7月とは異なる絵柄にて作品を展示します。
3年間にわたる休館の間に収蔵された新たな作品にも着目しましょう。本コレクション展では、1980年代と2010年代の現代アートを中心に公開。
1980年代には男性が中心だった美術界の価値観を覆す女性アーティストが多く登場しましたが、そうしたアーティストらによる作品を、ジェンダーに対する問いかけや環境問題などを取りあげた2010年代の作品とともに見ることができます。
「おかえり、ヨコハマ」のタイトルの意味とは…?
「おかえり、ヨコハマ」のタイトルには、「久しぶりに横浜美術館が帰ってきた」という意味と、「異なる時代にいろいろな地域からやってきて横浜に暮らした(あるいは現在暮らす)さまざまな人たちを、あらためて『おかえり』と言って迎え入れたい」という希望が込められています。
そう語るのは横浜美術館館長の蔵屋美香です。本展は蔵屋が館長就任後初めてとなる、自らの企画による展覧会となります。
横浜市民だけでなく、県外からでも「横浜美術館の展示を見るためにみなとみらいへ出かける」というほど、多くのファンを抱えていた横浜美術館。ただ2021年から長らく休館していたため、少し寂しい思いをしていたアート好きも少なくなかったかもしれません。
この2月8日、横浜美術館がさらにパワーアップしたかたちにて帰ってきます。『横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」』へぜひお出かけください。
展覧会情報
『横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」』 横浜美術館
開催期間:2025年2月8日(土)〜6月2日(月)
所在地:神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
アクセス:みなとみらい線「みなとみらい」駅〈3番出口〉から、マークイズみなとみらい〈グランドガレリア〉経由徒歩3分、または〈マークイズ連絡口〉(10時~)から徒歩5分。JR(京浜東北・根岸線)・横浜市営地下鉄「桜木町」駅から〈動く歩道〉を利用、徒歩10分。
開館時間:10時~18時(入場は閉場の30分前まで)
休館日:木曜日(ただし3月20日[木・祝]は開館)、3月21日(金)
観覧料:一般1,800(1,700)円、大学生1,500(1,400)円、高校・中学生900(800)円、小学生以下無料。
※( )内は有料20名以上の団体料金(要事前予約、美術館券売所でのみ販売)
展覧会HP:『横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」』
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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