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2021.8.24
植物の驚くべき多様性を楽しく学べる!特別展『植物 地球を支える仲間たち』レポート
お盆を過ぎ、夏休みもいよいよ終盤。まだまだ暑い日が続きますが、上野の国立科学博物館では夏の自由研究にもぴったりの特別展『植物 地球を支える仲間たち』が開催中です。「びっくり!」、「なぜ?」、「不思議!」と、知っているようで知らない植物に対する驚きや発見に満ちた展覧会です。見どころをご紹介します!
目次
地球にはどんな植物がある?環境に応じて進化した「○○○」すぎる植物
植物の多様性がよく現れた花。被子植物は、現在、25万種を超える最も多様化したグループと言われています
太陽エネルギーを利用し、水と二酸化炭素から有機物を作り出すことで、あらゆる生命体を支える植物。今や地球上のさまざまな環境へと進出し、最も広い空間を閉める生物群となりました。人々の暮らしにとっても「植物を見ない日はない」と言っても過言ではないほど身近な存在です。
『ラフレシア』(実物大模型) 産地:インドネシア(スマトラ島) 京都府立植物園蔵
また植物は環境に応じて、花や葉といった形や大きさ、生き方などを多様に進化させてきました。そうした中でまず展覧会では大きすぎる植物に注目。世界最大の花の『ラフレシア』や、数年に一度しか咲かない高さ2メートル70センチを超える巨大な『ショクダイオオコンニャク』などの実物大模型を展示しています。
スマトラ島の低地熱帯雨林に自生する『ショクダイオオコンニャク』の実物大模型。ろうそくの燭台のような形をしていて、全体として1つの花のように機能しています。
『ショクダイオオコンニャク』は強烈な臭気を放つことでも知られていますが、それを再現した臭いを体験できるスポットがあるのも見過ごせません。是非、怖がらずに嗅いでみてください!
天井に吊られた『メキシコラクウショウ』の幹周りを再現した展示。カメラに写りきらないほどの大きさです。
「太すぎる幹」として知られる『メキシコラクウショウ』の幹周りを再現する展示も見どころ。36メートルとあまりにも大きいため、下に置くことはできずに、天井に吊ったタペストリーで幹を表しています。かつては複数の個体が合わさっていると考えられていましたが、現在はDNAの調査によって1つの個体であることが判明したそうです。見上げては驚くばかりの巨大さでした。
最古の植物化石も世界初公開!最新の研究で明らかになった植物の世界を知ろう
特別展『植物 地球を支える仲間たち』では、最新の研究成果も反映されています。例えば遺伝子操作により開発に成功した『青いキク』や『青いバラ』のサンプルを公開。このうち『青いキク』は2001年から研究を続け、実に約3000本ものキクを栽培して開発に成功しました。なかなか青い色が表れずに失敗の連続だったそうですが、研究者の方々の熱意が実った成果といえるかもしれません。
すでに一般にも市販されるようになった『青いバラ』ですが、初めて作り出されたのは2004年のこと。現在もより鮮やかな青いバラを開発するために努力が続けられています。いつの日か「フェルメール・ブルー」のように深みがかった青いバラが誕生するのでしょうか。
左から『クックソニア・バランデイ』(産地:チェコ チェコ国立博物館蔵)と『クックソニア』(大阪市立自然史博物館蔵)の実物大模型。
さて植物の祖先が陸に上がったのは今から約4億7000年前。古い化石も植物の誕生を物語る上で重要な資料です。そのうち『クックソニア・バランデイ』は、約4億3200年万前までさかのぼる維管束(※)植物の世界最古でかつ最大の標本です。
※植物の根や茎、葉を貫く束状の複合組織。
約3億年前の『オドントプテリス・デュフレスノイ(葉)』(福井県立恐竜博物館蔵)。後期石炭紀を代表し、メデゥロサ類と呼ばれるシダ種子類の葉の化石。
100年以上も前にフランス人の古生物学者により発見され、チェコ国立博物館に収蔵されていましたが、最近になって価値が再発見され、今回世界で初めて公開されました。なお約4億7000年前の頃に植物が上陸したのは、この時期に活発化した火山活動によって栄養の多い火山灰がもたらされたことに関係すると指摘されています。
植物の恐るべき本性とは?本当は怖い植物たち…
『モウセンゴケ』の約200倍拡大模型。葉の表面に生えた触毛の先の水玉は強い粘着性のある消化液で、獲物を溶かしてしまいます。
心に「癒やし」や「安らぎ」をもたらす植物たち。しかし実は過酷な環境に対応するため、生き残りをかけたアクティブな仕組みを備えています。そうした植物の「怖さ」に着目した展示も面白いのではないでしょうか。
まずは食虫植物です。乏しい土地や根での呼吸が難しい湿地などに生きる植物は、小動物を捕食してはリンや窒素を吸収し、生育に必要な栄養分としてきました。そのうちの1つが『ハエトリソウ』。葉の上に2ミリほどの毛が生えていて、30秒以内に2回触ると葉が閉じて捕食できるように作られています。まさに葉に乗るとパックリと食われてしまうわけです。
『ムラサキウツボカズラ』 分布:インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア
また花のように見える袋の形をした『ムラサキウツボカズラ』は、蓋の裏に甘い蜜が塗られていて、虫が止まったらツルツルと滑り、消化液の溜まった袋の中へ落ちるようになっています。まるで2度と出られない落とし穴のようでした。
生きた食虫植物の展示。下の方に『ハエトリソウ』が葉を開いている様子が見えます。
こうした食虫植物はレプリカだけでなく、実際に生きた姿も目にすることができます。なお会場では生きた植物も多く展示されていますが、目印は「生きてます」と記された赤いキャプションですので、見過ごさないようにしてください。
左から『ライオンゴロシの果実』の6倍拡大模型(国立科学博物館蔵)と実際の果実。
このほか「凶暴な植物」として毒を持つ『ハナトリカブト』や、四方に長く伸びた太いトゲがあり、先端には短いかえしの付いた武器のような『ライオンゴロシの果実』も紹介されています。見るからに毒々しい姿で、植物の攻撃的ともいえる意外な一面を知ることができました。
「花の遺伝子ABCソング」に「光合成FACTORY」。楽しく体感的に学べる植物の魅力
遺伝子の作用を歌詞にした「花の遺伝子ABCソング」や、光合成の仕組みをインスタレーションで体感できる「光合成FACTORY」といった、植物の世界を楽しく学べるのも展覧会の魅力の1つです。
「ABCの遺伝子 Baby ABCの遺伝子 先生♪」にはじまる「花の遺伝子ソング」は、花の形をつくる遺伝子の働きを歌詞に作曲した音楽。どの遺伝子が作用するとどのような形になるのかを、軽快なリズムに乗せて覚えることができます。
そして「光合成FACTORY」は「いのちの実をつくるのは君だ!」として、4名同時にプレイできるゲーム感覚のインスタレーションです。光エネルギーのもと(光子)を集めて、誰が一番多くの「いのちの実」を作れるのかを競い合うようにして楽しめます。ほかのお客さんと一緒に夢中になってしまうこと間違いありません!
クリエイターとのコラボグッズなどが並ぶ特設ショップ。コラボグッズやクリエイターの情報は公式SNSでも順次紹介されています。
ラストの特設ショップも要チェックです。中でもアーティストの黒田潔さんや、絵本作家のtupera tupera(ツペラ ツぺラ)といった4組のクリエイターとコラボしたオリジナルグッズは展覧会限定。どこを探してもここでしか手に入りません。
『特別展「植物 地球を支える仲間たち」』会場風景。この後、大阪市立自然史博物館へと巡回(2022年1月14日〜4月3日)予定。
7月からスタートした展覧会も、会期は残すところ約1ヶ月。驚きの生存戦略に迫った特別展『植物 地球を支える仲間たち』にて、植物のイロハを学びながら、生物の多様性や人間との共生のあり方を考えましょう。
特別展『植物 地球を支える仲間たち』国立科学博物館
開催期間:2021年7月10日(土)~9月20日(月・祝)
所在地:東京都台東区上野公園7-20
アクセス:JR線上野駅(公園口)から徒歩5分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅(7番出口)から徒歩10分。京成線京成上野駅(正面口)から徒歩10分。
開館時間:9:00~17:00 ※最終入場は16:30まで
休館日:9月6日(月)
料金:一般・大学生1900円、小・中・高校生600円。※オンラインでの事前予約制
https://plants.exhibit.jp/

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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