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2026.10.16

【東京・国立新美術館 取材レポート】『ルーヴル美術館展 ルネサンス』を楽しむポイントを徹底紹介

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東京・六本木の国立新美術館で、9月9日より『ルーヴル美術館展 ルネサンス』が始まった。国立新美術館では、ルーヴル美術館に関する展覧会はこれまでにも数回催されている。

(展示風景から)レオナルド・ダ・ヴィンチ《女性の肖像》、誤って付された別称《美しきフェロニエール》1490‒1497年頃 パリ、ルーヴル美術館 (筆者撮影)


今回は、初来日となるレオナルドの傑作《女性の肖像》、《通称・美しきフェロニエール》を中心に、15〜16世紀のヨーロッパで花開いたルネサンス文化を4つの切り口から多角的に紹介することが狙いだ。

今回は、その主な見どころと、展覧会の魅力を紹介しよう。


①「越境」:「ルネサンス」の根底を貫くキーワード


展覧会会場を一通り歩く中で浮かんだキーワードがある。

「越境」だ。

これは、本展のテーマである「ルネサンス文化」というものの根底にあるものを端的に表す言葉とも言えるだろう。

15〜16世紀のヨーロッパでは人や物の往来が活発になった。商人のみならず芸術家や文人も各地を旅し、見聞を広めた。彼らは現地の技法や思想を学び取り、持ち帰るだけでなく、現地にも少なからぬ置き土産を残した。

そんな国境を越えた交流を象徴する1枚として、第一章「旅」に展示されているアルブレヒト・デューラーの《サイ》を紹介しよう。


アルブレヒト・デューラー《サイ》1515年(初版) パリ、ルーヴル美術館 Photo © GrandPalaisRmn (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom


デューラーは、ドイツの巨匠だ。アルプスを越えて、遠近法や人体比率などのイタリア・ルネサンスの成果をドイツに持ち帰り、ドイツ・ルネサンスの礎を作った。

この木版画《サイ》は、当時インドのゴアからポルトガル王への贈り物として、海路でリスボンへと運び込まれた動物サイを、実際に見た人の伝聞や版画などを元に描いたものだ。

首の後にある小さな角や、鎧状になった胴体の皮膚、鱗で覆われた足など、細部を見ると現実のサイにはない要素も多々見受けられる。しかし、実物を見ていないにも関わらず、基本的なシルエットはほぼおさえられているし、限られた情報と想像力によって、一匹の動物をここまで作り上げた手腕は、見事と言うべきか。

この《サイ》は、デューラーの死後も版を重ね、博物学の本の挿絵にも転用された。そして、その本はなんとはるか海を越えて日本にもたどり着いた。

まさに、いくつもの「越境」がこの作品1枚の中に凝縮されているのだ。


②時代を、技法を、枠を越える


ルネサンス文化の礎の一つとして挙げられ、第三章のタイトルともなっている「古代へのまなざし」もまた、時代の枠を「越境」したと言えるだろう。

その象徴とも言うべき存在がヴィーナスをはじめとするギリシア・ローマ神話の女神たちだ。ルネサンス期、古代への関心の高まりと共に、理想的な美しさを備えた裸婦像としての女神は、美術のモチーフとして絵画のみならず版画や陶磁器の絵付けなどにも登場。さらに、それらを通して、文化圏を異にするドイツにも入っていったのだ。

そんな女神の「旅」を象徴する1枚が、デューラーと並ぶドイツの巨匠クラーナハの《三美神》だ。


ルカス・クラーナハ(父) 《三美神》1531年 パリ、ルーヴル美術館 Photo © GrandPalaisRmn (musée du Louvre) / Mathieu Rabeau / distributed by AMF-DNPartcom


三美神は、ヴィーナスのお付きの三人一組の女神で、ボッティチェリの《春》にも登場している。


(参考図版)サンドロ・ボッティチェリ、《春》(部分)、1482年頃、ウフィツィ美術館, Public domain, via Wikimedia Commons.(パブリックドメイン)*展覧会には出品されていません


(参考図版)ラファエロ・サンティ、《三美神》、1504~5年、コンデ美術館, Public domain, via Wikimedia Commons. (パブリックドメイン)*展覧会には出品されていません


しかし、クラーナハの描く女神は、ボッティチェリやラファエロによる図像とは趣きが違う。

イタリアの画家たちが描いた女神たちは、自然体でゆったりとした大らかさを感じさせるが、クラーナハの女神たちは真っ黒に塗りつぶされた背景から、白くほっそりした体が浮かび上がる。

優美な曲線を描く立ち姿や長い手足は、一級の工芸品のようだ。

一方、彼女たちが踏みしめる石だらけの地面は、その肌の柔らかな質感をより際立たせる。

アクセサリーにも注目したい。

大きな赤い帽子や首にかけられたチェーンは、いずれもクラーナハが生きた16世紀ドイツの宮廷で流行していたファッションアイテムだ。それらは、彼女たちを神話の女神というよりも、現実の生身の女性に近づけ、「服を脱いだ状態」であるという事実を見る者に突きつける。

また、イタリア版やそのもとになった古代の彫刻・レリーフでは、中央の女神は後ろを向いているが、クラーナハ作品では正面を向き、こちらに微笑みかけている。

そのため、本来なら見てはならないものを見ているかのようなスリルがここに生まれ、離れがたく忘れがたい印象を残すのだ。

各地に伝播する中でその土地のカラーも吸収していった、ルネサンスという現象の多様性をここに見ることができよう。

「越境」は、異なる技法やジャンルの間にも見られる。

こちらの《「田園風陶法」による楕円水盤》を見てみよう。


フランス、おそらくパリ《「田園風陶法」による楕円水盤》1600 ‒1650年 パリ、ルーヴル美術館 Photo © GrandPalaisRmn (musée du Louvre) / Martine Beck-Coppola / distributed by AMF-DNPartcom


楕円形の水盤の底や周囲には、蛇やトンボ、カエルなどの生き物だけでなく、無数の小さな貝殻や植物をモチーフにした立体的な装飾がちりばめられている。

展示ケースの周りを歩き、角度を変えながら見ると、鱗や葉脈までもが緻密に再現されていることに驚かされる。


フランス、おそらくパリ《「田園風陶法」による楕円水盤》1600 ‒1650年 パリ、ルーヴル美術館 Photo © GrandPalaisRmn (musée du Louvre) / Martine Beck-Coppola / distributed by AMF-DNPartcom


(共に展示風景から)《「田園風陶法」による楕円水盤》1600 ‒1650年 パリ、ルーヴル美術館(筆者撮影)


なぜ、ここまでリアルな表現が可能なのか。

実は、これらの装飾パーツは、実際の動植物から型を取って作られているのだ。「田園風陶法」と呼ばれるこの技法は、もともとはブロンズ像の型取りの技法を応用し、陶工ベルナール・パリシーによって16世紀後半に開発された。

今回展示されているのは、技法を受け継いだ17世紀の工房による作品だが、自然科学への関心と、「越境」を通して新しい道を切り開くルネサンスの精神とが凝縮されている、と言えるかもしれない。


③レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作《女性の肖像》!


展覧会のクライマックス、第4章は肖像画や肖像芸術の紹介に充てられている。

西洋美術の中で私たちにとって親しみやすいジャンルの一つと言えよう。モデルがまとう当時のファッションは興味深いし、モデル自身の性格などを推し量るのも楽しい。

ルネサンスという時代は、この肖像画というジャンルにおいて大きな革新が起きた時代でもあった。

もともとイタリアの肖像画は、古代ローマのメダルに見られるような横顔(プロフィール)が主流だった。

しかし、15世紀後半から、人物が斜め前を向く四分の三正面観が、北方から流入した。モデルの特徴を捉えつつ、威厳と永続性を付与するプロフィールに対し、モデルの内面までをも表現できる四分の三正面観は、画家たちの表現の幅を広げ、肖像画の主流となっていく。

この四分の三正面観を取り入れた肖像画の傑作が、レオナルドの《女性の肖像》だ。


レオナルド・ダ・ヴィンチ《女性の肖像》、誤って付された別称《美しきフェロニエール》1490‒1497年頃 パリ、ルーヴル美術館 © GrandPalaisRmn (musée du Louvre) / Michel Urtado


漆黒に塗りつぶされた背景から、赤いドレスを着た女性の姿が浮かび上がり、石づくりの欄干ごしにこちらへと視線を投げかけている。

その表情は微かに笑っているようにも見えるが、その目はどこか遠くを見ているように思える。

また、手前に配された欄干は、画面に奥行きを与え、見る者にまるで画面の中に別の空間が存在しているかのように錯覚させる。

特に今回の展覧会の展示室のように、照明を落とした空間に置かれると、柔らかな陰影(スフマート)によって顔立ちが表された女性は、より生身に近い存在となって、見る者の前に現れる。

写真技術のなかった時代、この絵は人々にどのような印象を与えていただろう。

この《女性の肖像》の展示室には、この作品に誤って付された別称《美しきフェロニエール》の元となったロンバルディアの画家による作品や、モデル候補の一人とされるミラノ公妃ベアトリーチェ・デステの肖像彫刻など、関連作が複数集められている。

特に注目したいのが、肖像彫刻《ベアトリーチェ・デステ》だ。


ジャン・クリストフォロ・ロマーノ、本名ジャン・クリストフォロ・ガンティ《ベアトリーチェ・デステ》1490 ‒1491年頃 パリ、ルーヴル美術館 Photo © GrandPalaisRmn (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle / distributed by AMF-DNPartcom


額の中央で髪を分け、耳を覆うようにして後ろで一つにまとめる髪型や、額に巻いた細い飾り紐などが、《女性の肖像》と共通している。

しかも、立体作品なので、このように後ろからも見ることができる。


「ルーヴル美術館展 ルネサンス」国立新美術館、2026年、展示風景(筆者撮影)


この後に再び《女性の肖像》と相対すると、後頭部を覆う精緻なボンネットや一本にまとめた髪の一部まで、確かに描かれていることに気づく。

また、第一章に展示されていたタペストリー作品の右下にも、よく似た髪型の女性がいる。


南ネーデルラント(?) 《田園の合奏》16世紀第1四半期 パリ、ルーヴル美術館 Photo © Musée du Louvre, Dist. GrandPalaisRmn / Philippe Fuzeau / distributed by AMF-DNPartcom


このように、レオナルドの作品だけではなく、会場に集められた他の作品とも併せてみることで、新たな発見もできるだろう。

異質なもの同士の出会いは、新しいものを生むきっかけともなる。

それが広域で、連鎖するようにして発生したのがルネサンスという時代ではないだろうか。

ルネサンスに関する展覧会は、これまでにも数多く開催されてきたが、このように「新たな発見」や「気づき」を提供してくれるものは、これまではそう無かったようにも思う。

ぜひ、足を運んでみてほしい。


展覧会情報


◆ルーヴル美術館展 ルネサンス
Masterpieces of the Renaissance from the Musée du Louvre

会期:2026年9月9日(水)~2026年12月13日(日)
休館日:毎週火曜日
※ただし、11月3日(火・祝)、12月8日(火)は開館、11月4日(水)は休館
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
チケット・観覧料:
前売 2,200円(一般)、1,300円(大学生)、900円(高校生)
当日 2,400円(一般)、1,400円(大学生)、1,000円(高校生)

展覧会公式サイト
ルーヴル美術館展 ルネサンス

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ヴェルデ

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アート・ライター。大学ではイタリア美術を専攻し、学部3年の時に、交換留学制度を利用し、ヴェネツィア大学へ1年間留学。作品を見る楽しみだけではなく、作者の内面や作品にこめられた物語を紐解き、「生きた物語」として蘇らせる記事を目標として、『Web版美術手帖』など複数のWebメディアに、コラム記事を執筆。

アート・ライター。大学ではイタリア美術を専攻し、学部3年の時に、交換留学制度を利用し、ヴェネツィア大学へ1年間留学。作品を見る楽しみだけではなく、作者の内面や作品にこめられた物語を紐解き、「生きた物語」として蘇らせる記事を目標として、『Web版美術手帖』など複数のWebメディアに、コラム記事を執筆。

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