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2026.11.6
【東京国立博物館・取材レポート】700年の歴史の生き証人 大徳寺展の魅力を紹介!
京都に数多く存在する寺の中で、特別な地位を占めるものの一つが大徳寺だ。
鎌倉時代末期に開かれ、後醍醐天皇からは「本朝無双之禅苑」と讃えられた大徳寺は、「一休さん」で名高い一休宗純や沢庵宗彭らの名僧、織田信長や豊臣秀吉、千利休ら歴史上の人物たちとの関わりも深い。
境内に立ち並ぶ塔頭は、狩野派をはじめ、時代を代表する絵師たちの障壁画によって彩られた。そんな大徳寺の開創700年を記念し、大徳寺が誇る宝の数々が揃う『開創700年記念特別展 大徳寺 本朝無双之禅苑』が、10月14日から東京国立博物館でスタートした。
その見どころを紹介しよう。
①大徳寺が誇る宝たち
大徳寺は、文字通り宝の山である。
禅宗は、もともと6世紀頃にインドから中国に渡ったとされる達磨大師を開祖と仰ぎ、同地で発展した。鎌倉時代には日本にも本格的にもたらされた。
以来、禅宗の寺は中国文化の窓口ともなった。水墨画や茶の湯も禅宗寺院との関わりが深く、後には日本文化の主要な一角を占めるに至った。
「本朝無双之禅苑」と讃えられた大徳寺にも、国宝に指定されたものを含む、貴重な美術工芸品の数々が伝わっている。
その一つが、展覧会1章前半で私たちを迎えてくれる牧谿の水墨画だ。
牧谿は13世紀後半、南宋時代の中国に生きた画僧で、その作品は長谷川等伯をはじめ多くの日本の絵師たちに影響を与えた。
国宝《観音猿鶴図》は、そんな彼の代表作であり、大徳寺が誇る宝の筆頭格と言って良い。
左には、天を仰いで鳴く鶴。右には枝の上で体を寄せ合う猿の親子。墨の微妙な濃淡やぼかしによって表された霧は、あたりに満ちるひんやりと湿った空気まで肌で感じられそうだ。猿を描いた一幅からは、木の枝を揺らす風の音が聞こえてきそうだ。
そして、真ん中には、白衣をまとった観世音菩薩が静かに座している。この静寂を前にすると、こちらも襟を正したくなる。そして、もうしばし、少しでも長くこの絵に向き合っていたいと思う。
それにしても、仏と動物とは、一見すると奇妙な取り合わせだ。だが、実はここには仏教的な意味がこめられている。
そのカギは、鶴も猿も鳴き声を発する生き物である、ということだ。中国の漢詩でも、両者の鳴き声はしばしば詠み込まれている。
そして禅においては、音が悟りに至るための媒体になることもある。実際に、大徳寺の開祖・宗峰妙超にも、音をきっかけに悟りを開いたというエピソードがある。
さらに、真ん中に描かれている仏の名は「観世音菩薩」だ。菩薩は今まさに目を開き、高く尾を引いて響く鶴の声を、風に揺れる木の枝を、その上で寄り添う猿の親子の情愛までも「観じている」のだ。
特に猿の親子が示す愛は、観世音菩薩の持つ慈悲の心とも響き合うものがあると言える。
大徳寺では、この三幅対に同じく牧谿の手になると伝わる《龍虎図》(重要文化財、前期展示)の二幅を加えた五幅対として儀礼で用いてきた。
(展示風景より)牧谿筆 観音猿鶴図 13世紀 および 牧谿筆 龍虎図 13世紀(筆者撮影)
展覧会場では、このように五幅対の並びで展示されており、ぜひこの機会に見ておきたい。
②襖絵群ーーー絵師たちの競演
大徳寺は、当代の名高い絵師たちが腕を振るう大舞台でもあった。
展覧会第5章の後半には、室町時代から安土桃山、江戸初期にかけて活躍した絵師たちの襖絵が集められている。
中でも注目したいのが、狩野派の歴史を作った3人の統領、元信・永徳・探幽がそれぞれに手がけた襖絵だ。
一人目の元信は、狩野派の初代・正信の息子で2代目にあたる。彼は父から中国風の山水水墨画の技を受け継ぎ、さらに土佐家出身の妻の父からはやまと絵の伝統を学んだ。そして両者を融合させた「水墨花鳥画」を確立させた。
その代表作が、この《四季花鳥図》だ。もともと襖絵として制作されたが、現在はこのように四幅の掛け軸へと作り替えられている。
(展示風景より)狩野元信 四季花鳥図 1513年 大仙院(前期展示)(筆者撮影)
左の二幅には、流れ落ちる滝や大きな松、ごつごつした巌などモチーフがみっしりと描き込まれている。対して右二幅には大きな池が広がり、水鳥が遊んでいる。力強く躍動感溢れる左半分に対し、右半分は静的で、はるか奥へと広がる空間には解放感がある。
そして墨の黒による雄大な景観に、ほぼ実物大に描き出された鳥や植物が華やかさを添えている。まさに中国から入った水墨画と、日本の伝統であるやまと絵がここに一つに溶け合っている。
隣にあるのが、そんな元信の薫陶を受けた孫の四代目・永徳の水墨作品だ。
(展示風景より)狩野永徳 花鳥図襖 16世紀 聚光院(前期展示)(筆者撮影)
樹の描き方を比べてもだいぶ趣が違う。
この聚光院の襖絵群は20代後半の若き日の作品だが、地面を鷲掴みにするような根の張り方や画面の枠を突き破らんばかりの樹の大きさに、後に安土桃山時代の画壇をリードする立場となる彼の萌芽を見出すことができよう。
その永徳の孫で江戸狩野の祖となった狩野探幽の作品は、また趣を異にする。
(展示風景より)狩野探幽 梅鷺図襖 1641年 大徳寺(前期展示)(筆者撮影)
墨の濃淡を使い分け、余白を大きくとったその作品は、前に押し出すエネルギーを感じさせる永徳に比べると、すっきりとしていると同時に、胸の深部にまで染み込んでくるような情感を感じさせる。
長く立っていても、飽きず疲れることもない。
このセクションでは、彼らの他にも曽我蛇足や雲谷等顔、相阿弥(後期展示)など、各時代を代表する絵師たちの作品も見ることができる。室町から江戸にかけての絵の好みの変遷を是非体感してほしい。
③祈りの場としての大徳寺
これまで寺が所蔵する中国や日本の美術作品の名品を見て来たが、忘れてはならないことがある。
大徳寺とは、禅宗の寺であり、数百年にわたって多くの人々の祈りを受け止めて来た場である、という事実だ。
それを感じさせる展示作品が二つある。
一つは永徳の父・松栄の手による《仏涅槃図》。
重要文化財「仏涅槃図」 狩野松栄筆 室町時代・永禄6年(1563年) 大徳寺蔵
縦6メートルをこえる画面には、横たわり、最期の時を迎えようとする釈迦と、それを嘆き悲しむ羅漢や動物たちがひしめいている。空を仰ぎ、あるいは地面に身体を投げ出す。そして釈迦のまわりに集い、瞬きもせずに見つめる者。
近くで見るとその描きぶりには何かの執念すらうかがえる。
毎年2月15日の涅槃会の日には、大徳寺ではこの《仏涅槃図》をかけて法要が行われる。その様子を撮影したVTRも横で流されている。
それを見ていると、この絵は、これまで一体何人の祈りを受け止め続けて来たのだろうか、とも思わされる。
もう一つが展覧会終章に再現された大徳寺三門の世界だ。
三門は、応仁の乱で一度焼失した後、まず下層が再建され、さらに千利休が金毛閣を造営した。この金毛閣に安置した利休自身の木像が、太閤・豊臣秀吉の怒りを買い、利休切腹の一因となったエピソードはよく知られていよう。
展覧会では、三門の釈迦三尊像にくわえ、明治時代に安置された《千利休立像》などとともに、通常は非公開となっている三門の世界が再現されている。
「千利休立像」 体部:田中浄慶作 頭部:天保11年(1840) 体部:明治2年(1869) 大徳寺蔵(三門安置)(通期展示)
2026年2月28日には、この三門の楼上で三千家合同の献茶式も行われ、その様子を撮影したVTRもある。
それらを見ていると、現在まで切れ目なく続く祈りがこの寺を支えていることを実感させられる。
700年。
会場を出た後で、その数字へと思いをはせる。
開創以来、大徳寺は700年にわたって多くの人の祈りを受け止めてきた。応仁の乱をはじめ、いくつもの争いや人々の営みを見つめてきた。数々の名宝を集める文化の場ともなった。
その時間の厚み、存在感をこの展覧会は教えてくれる。
歴史の生き証人と出会う機会を逃してはなるまい。
展覧会情報
展覧会名:開創700年記念 特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」
会場:東京国立博物館 平成館
会期:2026年10月14日(水)~12月6日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時
※毎週金・土曜、11月1日・2日・22日は午後8時まで
入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし、11月2日・23日・30日は開館)、11月24日
※11月30日は大徳寺展のみ開館(東博コレクション展は休館日のため観覧不可)
観覧料:一般2300円、大学生1300円、高校生900円
※チケットの詳細はチケットページをご確認ください。
展覧会サイト:大徳寺 本朝無双之禅苑
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アート・ライター。大学ではイタリア美術を専攻し、学部3年の時に、交換留学制度を利用し、ヴェネツィア大学へ1年間留学。作品を見る楽しみだけではなく、作者の内面や作品にこめられた物語を紐解き、「生きた物語」として蘇らせる記事を目標として、『Web版美術手帖』など複数のWebメディアに、コラム記事を執筆。
アート・ライター。大学ではイタリア美術を専攻し、学部3年の時に、交換留学制度を利用し、ヴェネツィア大学へ1年間留学。作品を見る楽しみだけではなく、作者の内面や作品にこめられた物語を紐解き、「生きた物語」として蘇らせる記事を目標として、『Web版美術手帖』など複数のWebメディアに、コラム記事を執筆。
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