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2021.10.19
東京の土器や土偶が大集合!江戸東京博物館の『縄文2021―東京に生きた縄文人―』で知る縄文の人々の暮らし
約1万年以上にわたって続いた日本の縄文時代。最新の調査結果では1万6千年前頃にはじまったとされ、人々は豊かな自然環境を背景に、狩猟や植物の採取を中心とした生活を行いつつ、世界に類を見ないユニークな土器や土偶を作り出しました。
目次
近年、縄文文化に対しての関心は目覚ましく、2018年には日本各地の縄文の土器や土偶を一堂に展示した特別展『縄文―1万年の美の鼓動』(東京国立博物館)が開催されて話題を集めました。そして現在、江戸東京博物館では、東京の地域に着目して縄文人の暮らしを紹介する『縄文2021―東京に生きた縄文人―』が行われています。
東京都内に約3800ヵ所確認された縄文時代の遺跡。その調査の起源とは?
東京の縄文時代遺跡の発掘は、1877年、日本の近代考古学や動物学の基礎を築いたエドワード・S・モースによる大森貝塚の調査にはじまります。横浜から汽車で新橋に向かう途中、大森付近で崖に貝殻が露出しているのを発見したモースは、石器時代の貝塚であると直感。約4ヶ月後には調査が行われ、土器を含む多量の遺物を発見しました。
その際、土器に施された「縄文」をモースは「cord marked」と呼び、「索紋」と訳されましたが、のちに「縄紋」とされ、現在の縄文土器の原点となりました。そして東京では戦前から北区西ヶ原貝塚など貝塚の調査が行われ、戦後になると宅地開発や鉄道や道路工事による調査が増加。現在では多摩地域や島嶼部を含め、実に約3800ヵ所もの縄文時代の遺跡が確認されています。想像以上の多さに「縄文の東京も人口密集地帯だった?」と思ってしまうほどでした。
石器や土器などの道具から縄文の人々の暮らしを知る
縄文時代の東京の人々の暮らしを考える上で重要なのは、集落や葬墓のあり方をはじめ、石器や土器、骨角器、またヒスイや石材といった道具の変化です。そのうち展示では磨製石斧の移り変わりに注目。早期には薄手で小型だったものが、次第に厚手で大型となり、後・晩期には円や楕円状の断面をした乳棒状の形へと変わっていく様子を見ることができます。
一方で石器には現代の観点からすると奇妙なカタチ、つまり一体何のために作られたのか良くわからないものも少なくありません。また土器の欠片を利用して石器のカタチを真似たものなど、そもそも石器の代用品としてすら利用不可能な遺物も見つかっています。あくまでも推測に過ぎませんが、そこには縄文の人々ならではの遊び心が表れているのかもしれません。
さまざまなカタチの土器が大集合!あなたの好きなデザインの土器を探そう
会場にて特に目立っているのは、草創期から中期、晩期へと至るさまざまな土器です。「煮る」、「貯める」、「盛る」の3つの用途が考えられる土器は、早期から前期にかけて文様がつけられるようになり、中期には過度ともいえる装飾と大型化が進みました。そして日常の生活とマツリなどの特別な時に使う土器を作り分けるなど、カタチの多様化が進んで、それぞれの機能美に合わせたスタイリッシュともいえる土器の姿へとたどり着きました。
こうした土器の中には造形や文様が極めてデコラティブなものがある一方で、現代の私たちのお茶の間でもごく普通に使えそうな注口土器など、「本当にこれが縄文時代に作られたの?」と驚いてしまうものも少なくありません。
『深鉢形土器』 縄文時代中期前半・勝坂式 多摩ニュータウンNo.446遺跡出土 東京都教育委員会蔵 など
今回の展覧会は撮影がOK(フラッシュ不可)。作品や資料への接写もできます(※)ので、好きな土器のカタチや文様を探しながら撮影を楽しむのも良さそうです。
※展示ケースにご注意ください。
縄文時代にタイムスリップ?迫力満点の『環状集落再現模型』
「東京の縄文の人々の暮らしとは?」それを最も分かりやすく体験的に楽しめる展示が登場しました。八王子市多摩ニュータウンNo.107遺跡をモデルとして、台地先端の平坦部に立地していたという、縄文時代中期の環状集落を20分の1のスケールで再現した模型です。
自然の恵みをもたらす豊かな森に囲まれた集落は、そばに小川が流れていたため、水の確保や舟による移動に便利な場所でもありました。また日当たりと水はけが良かったとされていて、生活の場を選ぶ条件は、ひょっとすると現代人とあまり変わらなかったのかもしれません。
木を切り、家を建て、亡くなった人を埋葬したり、土器でゴミを運んだりする人々の姿は実にリアルそのもので、まるで縄文時代にタイムスリップしたかのような臨場感をもって見ることができます。小川の中のすいすいと泳ぐ魚までもが精巧に再現されていました。
『多摩ニュータウンのビーナス(土偶)』 多摩ニュータウンNo.471遺跡出土 縄文時代中期 東京都教育委員会蔵
この他にも微笑みをたたえるような『多摩丘陵のビーナス』をはじめとする東京都内から発見された101点の土偶も見どころ。縄文時代の重要な乗り物であった全長6メートルを超える丸木舟なども展示されています。
「東京の縄文土偶100」より。中央は『ハート形土偶』 北区東谷戸遺跡出土 縄文時代後期 北区飛鳥山博物館蔵
また展覧会には「特別出演」として、長野県茅野市より2点の国宝、通称『縄文のビーナス』(10月19日~11月14日)と『仮面の女神』(11月16日〜12月5日)もそれぞれ期間限定にて公開されます。そちらも人気を集めそうです!
東京という地域に限って縄文時代を考える大規模な展覧会は、1986年に銀座ソニービルで開幕した「第2回 東京の遺跡展」以来、実に約35年ぶりのことです。考古学ファンならずとも、親子で楽しめるような『縄文2021―東京に生きた縄文人―』。いにしえの東京の知られざる姿を、縄文の人々の暮らしを通して学びましょう。
『縄文2021―東京に生きた縄文人―』 江戸東京博物館
開催期間:2021年10月9日(土)~12月5日(日)
所在地:東京都墨田区横網1-4-1
アクセス:JR線両国駅西口より徒歩3分。都営大江戸線両国駅A3・A4出口より徒歩1分
開館時間:9:30〜17:30(入場は17:00まで)
休館日:月曜日
観覧料:一般1300円、大学・専門学校生1040円、高校・中学・小学生650円
※電子チケット「アソビュー!」での日時指定予約を推奨
https://www.edo-tokyo-museum.or.jp
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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