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2022.1.20
過去最大のスケール!特別展 『ポンペイ』で体感する古代ローマの人々のリアルなくらし
西暦79年、イタリア・ナポリ近郊のヴェスヴィオ山の噴火によって埋没したポンペイ。街は歴史の表舞台から姿を消すも、火山灰に丸ごと埋まったため、当時の人々の生活空間や家財がそのままのかたちで残されました。
目次
左:ポリュクレイトス『槍を持つ人』 前1〜後1世紀(オリジナルは前450〜前440年)
そして18世紀以降にポンペイの調査が行われると、モザイク、壁画、彫像や工芸品、さらに食器や調理具などが発掘され、古代ローマの都市の繁栄や市民の生活が明らかになりました。そのポンペイの魅力を紹介する展覧会が東京国立博物館でスタート!見どころをご紹介します。
古代ローマの都市、ポンペイの歴史と噴火の経緯とは?
まずポンペイの歴史と噴火の経緯についておさらいしておきましょう。ポンペイの地に都市が建設されたのは紀元前7世紀末。紀元前2世紀のサムニウム人の時代になると、東地中海世界との交流が活発になってヘレニズム文化が流入し、経済的な繁栄を遂げていきます。その後、ローマが台頭すると、紀元前80年には植民市となって、ローマ化の時代を迎えました。
当時のポンペイの人口は約1万人。東西1600メートル、南北800メートルあまりの中規模の都市で、フォルム(中央広場)、劇場、円形闘技場や浴場といった公共施設があり、水道などのインフラも整備されていました。またヴェスヴィオ山に由来する火山灰土壌によって果物の栽培に適し、ワインやオリーブ油を多く生産。人々は何世紀も噴火していなかったヴィスヴィオ山の恵みを受けていました。
ところが紀元後62年に地震に見舞わると大きな被害を受けます。そして復興の半ばだった79年のある朝、ついにヴェスヴィオ山の噴火がはじまるのです。火口から10キロ離れたポンペイには昼過ぎから11時間にもわたって灰や軽石が降り注ぎ、街や人々を閉じ込めていきます。さらに翌朝に高温の火砕流がポンペイに到達し、街はすべて死に絶えて埋れました。なお噴火の日付には諸説あるものの、2018年に発見された落書きの内容から、10月24日の可能性が高いと考えられています。
ポンペイの人々はパン好きだった?階級や食事から見る人々のくらし
右:『ヘタイア(遊女)のいる饗宴』 1世紀 左:『饗宴場面』 1世紀
当時のポンペイはどのような社会だったのでしょうか?まず裕福な市民たちは邸宅を贅を凝らした装飾で飾り、ギリシャ文化に精通した教養人として振る舞っていました。一方で貧富の差が激しかったポンペイには、人口の4分の1とも言われるほど多くの奴隷も存在していました。彼らは過酷な労働を強いられましたが、古代社会としては流動性が高く、中には金融業で財を成した解放奴隷の一家も現れました。また家父長制のローマと同様、女性の地位は高くありませんでしたが、社会的に影響力を持った者もいて、借家業や浴場経営を行うなど実業家として活躍する者もいました。
食事についても階級で異なり、富裕層は邸宅にて使用人が調理した豪華な食事を楽しんでいた一方、それ以外の人々は家に台所がなかったため、街のパン屋などの外食に頼っていました。実にポンペイの街には30軒以上のパン屋があったとも考えられています。昨今の高級食パン店ブームならぬ、人気のパン屋には行列もできていたのかもしれません。
またポンペイには多くの神々が祀られていて、アポロ神殿をはじめミネルヴァやヘラクレスの神殿は、紀元前6世紀にさかのぼるほど古くから存在しました。そしてローマに属するようになると、新たな街の守護神となった女神ウェヌスの神殿も建てられました。沐浴する前のウェヌスの姿を表現した『ビキニのウェヌス』には、装身具を表す金色の彩色も残されているから、目に焼き付けたいところです。
日本初公開も!特別展 『ポンペイ』で見ておきたい貴重な遺物の数々
『バックス(ディオニュソス)とヴェスヴィオ山』 62〜79年
いくつか押さえておきたい出土品をご紹介しましょう。まずはフレスコ画の『バックス(ディオニュソス)とヴェスヴィオ山』です。ヴェスヴィオ山を背景に、ワインの神バッカスとブトウ棚の列などが描かれていますが、実は噴火以前のヴェスヴィオ山を写した現存唯一のもの。噴火でかたちが変わる前の山が記録されている貴重な作品なのです。
『ブドウ摘みを表わした小アンフォラ(通称「青の壺」)』 1世紀前半
『ブドウ摘みを表わした小アンフォラ(通称「青の壺」)』も美しい輝きを放っているのではないでしょうか。紺青色のガラスに白色ガラスを重ねたカメオ・ガラスと呼ばれる技法で製作された壺で、ブドウを摘み、ワイン作りに勤しむクピドたちを描いています。上流階級に属した裕福な暮らしぶりをいまに伝える遺物といえるかもしれません。
左から『南ガリア製の陶器の杯』(1世紀)、『目玉焼き器、あるいは丸パン焼き器』(1世紀)、『アヒルのケーキ型』(1世紀)
地味に映るかもしれませんが、調理具や食器類、また大工に使われた道具なども見過ごせません。ヴェスヴィオ山周辺にはブロンズ製の容器が3000点も発見されていますが、細かい装飾が見られる『仮面のあるパテラ』などの他には、まるでたこ焼き器のような『目玉焼き器、あるいは丸パン焼き器』といった実用的な器具も少なくありません。今日と同様、ポンペイの人々も用途に合わせてさまざまな日用品を使っていたわけです。
また台所から見つかったパンや干しブドウなど、炭化した食品の遺物なども展示。パンに至ってはナイフで入れられた切り込みまでが残っています。ポンペイ遺跡の魅力として出土品の保存状態が良いことがあげられますが、まさか食品まで残されているとは思いませんでした。
フレスコ画や彫刻に表現された「意味」を探る
フレスコ画や彫刻に見え隠れする「意味」を考えながら見るのも面白いのではないでしょうか。例えば女性神官として表現した『エウマキア像』は優美な姿を見せていますが、これはポンペイの毛織物業者たちが、同業者組合の保護者であった人物の娘であるエウマキアを顕彰して立てたとされています。エウマキアは組合を管理しながら息子のキャリアを支援し、一族の資産を握っていたというから、公私にわたって活躍した相当の実力者であったことでしょう。
『テーブル天板(通称「メメント・モリ」)』は、死を象徴する髑髏とともに、権力や富を示す笏と紫のマント、右に貧困を表す貧者の杖などが描かれていますが、これはどのような身分や立場であれ、すべての人に死が訪れるということを意味しています。このように古代ローマの社会では常に死を意識しつつ、ひるがえって今を楽しもうとする気風がありました。
赤い首輪をつけた黒い犬が描かれた『猛犬注意』とは、訪問者に番犬がいることを注意喚起するための床モザイクです。現代でも住宅で見かけることの多い「猛犬注意」ですが、文字ではなく絵で表すことで、よりインパクトのある姿になっています。古代ローマの帝政期では好まれた主題とのことですが、犬にびっくりした訪問者の姿を想像すると、今から2000年前の人々の生活がとても親近感をもって感じられるのではないでしょうか。
ローマの時代へタイムスリップ?臨場感にあふれた邸宅再現展示
特別展 『ポンペイ』 より8K映像「アレクサンドロス大王のモザイク」
過去に国内でも何度か開かれてきたポンペイの発掘調査を紹介する展覧会ですが、今回は遺物を収蔵するナポリ国立考古学博物館の全面協力のもと、約150点の至宝が集結。まさに「決定版」とうたうように、過去にないスケールでの『ポンペイ展』となっています。
そして東京国立博物館平成館の広い展示スペースを用い、ポンペイの繁栄の歴史を示す「ファウヌスの家」、「竪琴奏者の家」、「悲劇詩人の家」の邸宅の一部を再現。まるでローマの時代にタイムスリップしてポンペイの街を歩いているような雰囲気を楽しめるのです。
右、『ブリセイスの引き渡し』 50〜79年 左、『ヘレネの略奪(あるいはクリュセイスの帰還)』 50〜79年
紀元前2世紀にさかのぼる「ファウヌスの家」は、『葉綱と悲劇の仮面』といったヘレニズム美術屈指のモザイク装飾が見どころ。そして「竪琴奏者の家」にはローマ文化黄金期時代のフレスコ画やブロンズ彫刻が残され、「悲劇詩人の家」には噴火直前に描かれた『ユピテルとユノの聖婚』といったフレスコ画が伝わっています。順を追って鑑賞することで、ポンペイの歴史の流れを追いかけることができるのです。
今も続くポンペイの調査。そして未来に残すための大切な取り組み
映像「アレクサンドロス大王のモザイク 修復作業と最新の発掘現場」
ラストにはヴェスヴィオ山の噴火で埋没した遺跡の発掘の歴史が取り上げられ、ナポリ国立考古学博物館の活動とともに、同館で修復が進む『アレクサンドロス大王のモザイク』が高精細映像で紹介されています。
特別展 『ポンペイ』 より『金のランプ』(62〜64年)、『青い水差し』(1世紀)、『黒曜石の杯』(前1世紀)など
18世紀頃の発掘はいわゆる「宝探し」でしたが、その後は美術品などの体系だった収集が行われ、今でも厳重な管理の元に調査が続いています。また発掘だけでなく、遺跡を残すための保存や修復の作業、さらに過去の災害に向き合い、未来に生かすための震災考古学の観点も重要になっています。
東京国立博物館 平成館にて開催中の特別展 『ポンペイ』。個人利用に限って全作品撮影OKです。また炭化パンのクッションや古代遺跡の柱の抱き枕といったおもしろグッズの揃う特設ショップも充実。アーティスト長場雄さんの書き下ろしデザインによる会場限定品も見逃せません。
入場は事前予約(日時指定券)を推奨しています。当日分の入場枠での案内もありますが、混雑状況によっては希望の時間に入場できない場合もあるので、WEBでの事前予約がおすすめです。また新型コロナウイルス感染症の状況等により、会期や時間の変更、また入場の方法が変わる可能性があります。最新の開館状況はウェブサイト、もしくは公式Twitterアカウントなどでご確認ください。
特別展 『ポンペイ』 東京国立博物館 平成館
開催期間:2022年1月14日(金)~4月3日(日)
所在地:東京都台東区上野公園13-9
アクセス:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
開館時間:9:30〜17:00
※入館は16:30まで
休館日:月曜日、3/22(火)※ただし、3/21(月・祝)、3/28(月)は開館
観覧料:一般2100円、大学生1300円、高校生900円。
※事前予約(日時指定券)を推奨
https://pompeii2022.jp
※掲載写真の所蔵先はすべてナポリ国立考古学博物館
※京都市京セラ美術館:2022年4月21日(木)~7月3日(日)、九州国立博物館:2022年10月12日(水)~12月4日(日)、ほか1会場(宮城)へ巡回予定
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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