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2023.10.10

SOMPO美術館『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』の見どころは?コロナ禍から3年の時を経て開催!

花や日用品、それに楽器や死んだ狩りの獲物や魚、食べ物など、生命を持たずに動かない物を描いた静物画。ポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890年)もまた、『ひまわり』に代表されるような静物画を多く描きました。

『ゴッホと静物画ー伝統から革新へ』

そのゴッホをヨーロッパの静物画の流れのなかに位置付け、先人達から何を学び、いかに自らの作品に反映させ、さらに次の世代の画家らにどのような影響を与えたのかを探る『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』が、東京・西新宿のSOMPO美術館にてスタート。見どころをご紹介します。

17世紀のネーデルランドにて確立。西洋美術における静物画の歴史とは?

ピーテル・クラース『ヴァニタス』 1630年頃 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

まず西洋美術と静物画の歴史をおさらいしておきましょう。古代ギリシャ・ローマ時代から事物をリアルに表現した絵画は存在していましたが、西洋美術史上、静物画がひとつの分野として確立したのは17世紀のこと。

ネーデルランド(現在のオランダ)において、それまで教会に飾られていた大型の宗教画に代わり、現世の事物をリアルに描いた小型の静物画が流行しました。

18世紀においてアカデミスムでは歴史画が最も高尚な分野とみなされ、静物画は下位に位置づけられていました。しかし静物画の愛好者は多く、特に大航海時代に端を発する植物学への関心が高まると、花の静物画が多く描かれるようになりました。

19世紀の中頃に入ると、フランスでは17世紀のオランダの静物画を再評価する機運が高まります。また新興ブルジョワジーの多くは、手ごろで理解しやすい静物画を好んで買い求め、画家にとっても静物画は対象を緻密に描くという点において、力量が試される分野でした。

ゴッホの描いた静物画とは?『麦わら帽のある静物』から『ひまわり』、『アイリス』へ。

フィンセント・ファン・ゴッホ『麦わら帽のある静物』 1881年 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

ゴッホはどのように静物画と向き合っていたのでしょうか。人物を描く画家を目指していたゴッホは当初、静物画を油彩の技術を磨くための習作とみなします。

初期の静物画には花を主題としたものは少なく、瓶や壺、野菜や靴などのモチーフを、褐色や茶を中心とする暗い色調にて描きました。『麦わら帽のある静物』はゴッホ最初期の静物画として知られています。

フィンセント・ファン・ゴッホ『赤と白の花をいけた花瓶』 1886年 ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館、ロッテルダム Collection Museum Boijmans Van Beuningen, Rotterdam

ゴッホが花の静物画を多く描くようになったのは、1886年、33歳になってフランスのパリへ移ってからのことです。自らも手紙のなかで、パリ滞在1年目の夏は「花しか描かなかった」と語っていますが、モデル代の不足といった理由に加えて、色彩の研究のために花の静物画に取り組みました。

アドルフ=ジョゼフ・モンティセリ『花瓶の花』 1875年頃 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

やや重々しい色調の『赤と白の花をいけた花瓶』は、印象派よりもマルセイユ出身で肖像画や静物画、優美な貴婦人や貴公子が集う「雅宴画」を手がけた、アドルフ=ジョゼフ・モンティセリの影響を見ることができます。

フィンセント・ファン・ゴッホ『ひまわり』 1888年 SOMPO美術館

『ひまわり』の連作に着手したのは1888年8月のことです。ゴッホは南フランスのアルルで画家仲間との共同生活を計画するとポール・ゴーギャンを招き、ゴーギャンの部屋を飾るために『ひまわり』を描きました。なおふたりの生活は約2ヶ月ほど続いたものの、ゴッホはゴーギャンとの口論の末、自ら左耳を切る「耳切り事件」を引き起こすと、アルルの病院に入院します。

フィンセント・ファン・ゴッホ『アイリス』 1890年 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団) Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

この『ひまわり』の構図と共通するのが、ゴッホが世を去る1890年に描かれた『アイリス』です。そもそもアイリスは白ユリと並ぶ純潔の象徴として、聖母マリアとともに多く描かれていて、ゴッホもアルルやサン=レミにてアイリスを描きました。

しかしゴッホはここに宗教的な理由よりも、「互いに高め合う全く異なる補色の効果」と手紙に語ったように、黄と紫を対比させる色彩の試みとして制作したと考えられています。

出展作品は国内外25か所からの全69点。そのうち25点がゴッホの油彩画!

ポール・セザンヌ『りんごとナプキン』 1879-80年 SOMPO美術館

展示では17世紀から20世紀の静物画の流れのなかでゴッホを位置付けるべく、クラウス、ドラクロワ、マネ、モネ、ピサロ、ルノワール、ゴーギャン、セザンヌ、ヴラマンク、シャガールなどといった画家とともに、ゴッホの静物画を紹介。

国内外25か所からの出展作品全69点のうち、『ひまわり』や『アイリス』をはじめとした25点がゴッホによる油彩画となります。

フィンセント・ファン・ゴッホ『髑髏』 1887年 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

本展は一度、SOMPO美術館移転後の開館特別企画展として2020年に開催が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症拡大のため中止となり、実に3年の時を経て開かれます。巡回はありません。

「静物画を見なければ、ゴッホは語れない」ともうたう『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』にて、名だたる画家の名品とともに、ゴッホの静物画の真髄を味わってみてください。

展覧会情報

『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』 SOMPO美術館
開催期間:2023年10月17日(火)~2024年1月21日(日)
所在地:東京都新宿区西新宿1-26-1
アクセス:JR線新宿駅西口から徒歩5分、東京メトロ丸ノ内線新宿駅から徒歩5分
開館時間:10:00~18:00
 ※ただし11月17日(金)と12月8日(金)は20時まで
 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし1月8日は開館)、年末年始(12月28日~1月3日)。
観覧料:一般2000(1800)円、大学生1300(1100)円、高校生以下無料
 ※当日券料金。()内は事前購入券料金。
 ※日時指定予約制。
公式サイト:『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』 

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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