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2024.6.19

【ローマ】ミケランジェロ“以外”も必見!システィーナ礼拝堂のディープな美術解説

ローマ(ヴァチカン市国)を訪れる方の多くは、システィーナ礼拝堂の鑑賞を楽しみにしているのではないでしょうか?有名なミケランジェロのフレスコ画『創世記』と『最後の審判』は、500年以上にわたって訪れる人の心を掴む名画中の名画です。

Chapelle sixtinePublic domain, via Wikimedia Commons.

しかし、システィーナ礼拝堂にはミケランジェロ以外にも有名な芸術家の壁画があることをご存じでしたか?システィーナ礼拝堂では、ボッティチェッリ、ギルランダイオ、ペルジーノなど、初期ルネッサンスを支えた重要な芸術家の作品が鑑賞できます。

この記事では、システィーナ礼拝堂にある「ミケランジェロ以外」の美術作品について、ローマで美術史を勉強した筆者が紹介します!

15世紀後半に著名な芸術家が作品を残したシスティーナ礼拝堂

Sistina-internoPublic domain, via Wikimedia Commons.

システィーナ礼拝堂が現在の、唯一無二の荘厳な空間になるまでには、実は長い時間がかかっています。というのも、すべての作品が一度に依頼されたわけではなく、部分ごとに、数年~数十年の間隔を経て制作されたためです。

ミケランジェロが残したシスティーナ礼拝堂の壮大な天井画『創世記』と祭壇側の壁画『最後の審判』も、実は同時に制作されたわけではありません。『創世記』は1508-1512年に、『最後の審判』は1534-1541年に描かれ、『最後の審判』が完成したときミケランジェロはすでに66歳でした。

ミケランジェロが教皇から最初の壁画の依頼をされるより27年前の1481年、システィーナ礼拝堂のホールの側壁は、5人の著名な芸術家によって装飾されることになりました。

側壁の窓の下には、帯のように左右6枚ずつ、計12枚の絵画が今も残されています。絵画を担当した芸術家は、次の5人です*
・ペルジーノ
・ボッティチェッリ
・ギルランダイオ
・ロッゼッリ
・シニョレッリ

*画家と作品の特定には諸説あります。ここでは、次の本を参考にしています。
参照:John Marciari, Art of Renaissance Rome: Artists and Patrons in the Eternal City, Laurence King Publishing, 2017, pp. 67-76.

15世紀後半、システィーナ礼拝堂は祈りの場としてだけではなく、新しい教皇の選出のための「コンクラーヴェ」会議など実務的な目的に使われることがありました。

二面的な使用目的に対応するため、システィーナ礼拝堂は縦長のホールのような造りで、「礼拝堂」というにはかなりシンプルな構造をしています。シンプルな建築構造を感じさせないのは、壁面を埋め尽くすように覆う名作の数々があるからでしょう。

関連記事:ミケランジェロ・ブオナローティとは|生涯とともにピエタ、最後の審判などの代表作、すごさを紹介

システィーナ礼拝堂で活躍した画家と作品

システィーナ礼拝堂で絵画を担当したのは、ミケランジェロを含めると6人です。
・ペルジーノ
・ボッティチェッリ
・ギルランダイオ
・ロッゼッリ
・シニョレッリ
・ミケランジェロ

サイゼリヤでも装飾に用いられている『プリマヴェーラ(春)』や『ヴィーナスの誕生』を描いた、ボッティチェッリの名を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。ペルジーノやギルランダイオもイタリア・ルネッサンスを彩った有名な巨匠です。

関連記事:サイゼリヤにある絵ってなに?よく見る絵画についてイタリア在住者が解説!

側壁の12枚の絵は、南側面の「モーゼの物語」と北側面の「イエスの物語」がテーマです。モーゼとは旧約聖書の預言者(ユダヤ教)で、しばしば新約聖書のイエスの物語と比較されることがありました。

南壁面
1.『エジプトへ出発するモーセ』ペルジーノ
2.『モーセの試練』ボッティチェッリ
3.『紅海横断』ロッゼッリ
4.『シナイ山から下山したモーセ』ロッゼッリ
5.『反逆者たちの懲罰』ボッティチェッリ
6.『モーセの死と遺言』シニョレッリ

北壁面
1.『キリストの洗礼』ペルジーノ
2.『キリストの誘惑』ボッティチェッリ
3.『聖ペテロと聖アンデレの召命』ギルランダイオ
4.『山上の説教』ロッゼッリ
5.『聖ペテロへの天国の鍵の授与』ペルジーノ
6.『最後の晩餐』ロッゼッリ

参照:John Marciari, Art of Renaissance Rome: Artists and Patrons in the Eternal City, Laurence King Publishing, 2017, pp. 68.

キリスト教はユダヤ教から派生した宗教です。旧約聖書のストーリーは新約聖書のストーリーと同じくらい大切にされるケースもあり、とくにモーゼの物語が教会に描かれることは珍しくありません。

しかし、システィーナ礼拝堂の作品をよく観察すると、モーゼの物語は戦いのシーンや困難を中心に描いており、反対にイエスの物語は平穏な題材ばかりです。ルネッサンスの教皇はアートを通じて、由来となった旧約聖書を大切にする姿勢は維持しつつ、新約聖書とキリスト教の優位性を示そうとしたのです。

システィーナ礼拝堂の注目作品:ペルジーノ『聖ペテロへの天国の鍵の授与』

Perugino - Entrega de las llaves a San Pedro (Capilla Sixtina, 1481-82)Public domain, via Wikimedia Commons.

システィーナ礼拝堂で鑑賞できるミケランジェロ以外の作者による12作のうち、ぜひ注目してほしい作品がペルジーノの『聖ペテロへの天国の鍵の授与』です。

『聖ペテロへの天国の鍵の授与』はミケランジェロの『最後の審判』とは反対側の、現在の出口に近い位置にあります。この作品は、ヴァチカン市国と「教皇」を理解するために重要な作品です。

そもそも教皇という存在は、イエスに一番近かった弟子のひとり聖ペトロの正当な後継者と考えられています。聖ペトロはイエスから天国への鍵を受け取っており、教皇は代々それを引き継いで、人々を天国に導く役割を担っている、と考えられています。ヴァチカン教皇庁のシンボルに教皇の帽子と2本のクロスした鍵が描かれているのは、そのためです。

『聖ペテロへの天国の鍵の授与』のシーンは、初代教皇である聖ペトロがイエスから天国の鍵を受け取る、まさにその瞬間を描いています。

ペルジーノの『聖ペテロへの天国の鍵の授与』の背景には、ドームがある左右対称の建造物や、「コンスタンティヌス帝の凱旋門」のような建造物が描かれています。これは、ルネッサンス時代の作品によく見られる特徴です。古代的な建造物を作中に盛り込み、偉大なる古代の文化の復興を示すだけではなく、遠近法によるリアルな奥行き表現を目指したのです。

システィーナ礼拝堂を訪れる際は、ミケランジェロだけ見て満足!ではなく、ぜひほかの作品にも目を向けてください。どれも見ごたえのある作品ばかりですよ!以上、ミケランジェロ以外のシスティーナ礼拝堂の美術解説でした。

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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。

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