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2024.10.25
サモトラケのニケを徹底解説!顔がない理由、作者の情報、見どころなどを紹介
世界一の入場者数を誇るルーヴル美術館。その展示物で『モナ・リザ』や『ミロのヴィーナス』と並んで人気の展示物が『サモトラケのニケ』です。「ダリュの階段踊り場」に展示されているニケ像は、神々しさすら覚えます。
今回は『サモトラケのニケ』について詳しく解説していきます。
目次
サモトラケのニケの概要
Winged Nike of Samothrace. Parian marble, ca. 190 BC. Found in Samothrace in 1863, Public domain, via Wikimedia Commons.
『サモトラケのニケ』が作られたのは紀元前190年頃と考えられています。サモトラケ島で発見された女神・ニケの像を指します。台座は船首の形を模しており、船に降り立った姿が彫られました。
この時期は、ヘレニズム期といわれギリシャ彫刻の黄金期です。サモトラケのニケのほか、『ミロのヴィーナス』や『ラオコーン』といった、完成度の高い彫像が作られました。
1863年にサモトラケ島で発見されたときには、頭部と両腕がない状態でした。胴体部分はそのまま見つけられましたが、片翼は1118点の断片として散在しており、復元された形がいまの姿となっています。
頭部がないことで、むしろ神々しさが高まっているような印象を受ける作品です。
サモトラケのニケに顔がない理由
台座の上の像, Public domain, via Wikimedia Commons.
サモトラケのニケはもともと顔があったと推測されています。しかし発見された際には既に首から上がない状態でした。
なぜ顔がなくなってしまったのか。それは古代ギリシャから古代ローマへの移行が関係しています。
古代ギリシャの時代が終わりを告げ、ローマ帝国の時代になると、キリスト教が国教となります。すると、だんだんキリスト教以外の宗教を邪教として扱うようになり、かつてのギリシャ神殿はローマ人によって破壊されていったのです。
ギリシャ神話の神々の像が壊されるなか、ニケも同様に破壊されてしまいました。そのため、顔がない状態となっています。
ニケ像が作られたヘレニズム期とは
先述した通り、ニケ像は古代ギリシャ時代の後期であるヘレニズム期に作られた作品です。この時代、ギリシャ文化は世界中で大きな力を持つようになりました。
紀元前334年にギリシャを支配していたアレクサンドロス大王が「東方大遠征」をします。スパルタと呼ばれた兵たちを引き連れ、アジア、エジプト、メソポタミアなどを支配します。
これにより世界中にギリシャ文化が伝播し、ギリシャは国全体がうるおいました。彫刻作品はこの時期に大きく進化し、体や衣類の曲線表現が派手になりました。ダイナミックになったのです。
この時期の彫刻作品は『サモトラケのニケ』のほか『ミロのヴィーナス』や『ラオコーン』などがあります。
Vénus de Milo - Musée du Louvre AGER LL 299 ; N 527 ; Ma 399, Public domain, via Wikimedia Commons.
Laocoön and his sons, also known as the Laocoön Group. Marble, copy after an Hellenistic original from ca. 200 BC. Found in the Baths of Trajan, 1506., Public domain, via Wikimedia Commons.
この時代の彫刻は、令和のいま見ても完成度が高い美術品です。この後の美術史でも教科書的な作品として扱われました。
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勝利の女神・ニケとは
ニケとはギリシャ神話に登場する女神です。「勝利」を司っており、サモトラケのニケだけではなく、他の美術品でも翼がある姿で描かれています。天空・雷の神、ゼウスと、知恵の女神・アテナの従者です。
ニケの系譜に関しては、ホメロスの詩ではアレス(戦争の神)が父であるとされる一方、ヘシオドスの『神統記』では、パラスとステュクスの娘として描かれています。彼女の兄弟には、ゼロス(熱意の神)、クラトス(力の神)、ビア(暴力の神)がいます。
有名な話だと、スポーツブランドのナイキはニケを参考に社名を取っており、ロゴもニケの翼の形をモチーフにしています。
サモトラケのニケは誰が・なぜ作ったのか
この彫像について記述した古文書は存在しません。そのため「誰が作ったのか」「どんな目的があったのか」などは推測でしか判断できない状態です。1860年代から専門家がサモトラケ島に赴き、調査を進めてきました。
様々な説が唱えられてきましたが、作者は正確には分かっていません。
作られた理由については、様々な説があります。「ロードス島の人々が、シリアのアンティオコス3世との戦いでの勝利を祝い、勝利の女神・ニケの像を立てた」という説が有力です。
サモトラケのニケの見どころは「ダイナミックさ」
2014年の修復後のサモトラケのニケ。, Public domain, via Wikimedia Commons.
『サモトラケのニケ』の見どころはなんといっても、その躍動感です。この時代の他の作品も、動きを感じられますが、ニケは特にダイナミックな彫像といえます。
他のニケを描いた彫像にも共通する特徴として「前に踏み出すポージング」が見られます。ただし『サモトラケのニケ』の場合は、加えて風になびく衣装の襞も見て取れるのが、見どころです。まさに「勝利の女神」を感じさせる力強さがあります。
ルーヴル美術館で見ると、さらに格別です。「ダリュの階段踊り場」という舞台があり、より神々しく見えます。
「ダリュの階段踊り場」, Public domain, via Wikimedia Commons.
まるで美術館全体をつかさどっているかのような演出が美しいです。
『サモトラケのニケ』の実物を見たい方は早めにルーヴルへ
今回はルーヴル美術館に所蔵されている『サモトラケのニケ』について紹介しました。紀元前の作品とは思えないほどのクオリティと、頭部がないことによる神々しさが魅力の作品です。
現在はルーヴル美術館に所蔵されていますが、実は2013年からギリシャが返還を求めている状況でもあります。もしかしたら、ルーヴル美術館で見られなくなるかもしれません。
気になる方はぜひ早めに実物を見てみましょう。その躍動感に圧倒されることは間違いありません。
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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。
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