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2024.12.12
アボリジナルアートとは?魅力とその歴史、現代アートへの影響を徹底解説
アボリジナルアートは、オーストラリアの先住民族によって生み出された、数千年の歴史を持つ独自のアート形式です。特に「ドットペインティング」などの技法を使い、土地や動物、先祖の物語を視覚的に表現することが特徴です。
今回はアボリジナルアートについて魅力、歴史、描き方、特徴、動物や花などのモチーフについて、網羅的に解説します。気になる方は、ぜひアボリジナルアートの魅力を知ったうえで、鑑賞に生かしてみてください。
目次
アボリジナルアートとは
キープ・リバー国立公園のアボリジナルの岩絵, Aboriginal Rock Art in Keep River National Park, Public domain, via Wikimedia Commons.
アボリジナルアートは、オーストラリアの先住民族に由来する伝統的なアートスタイルで、数千年にわたる歴史を持ちます。
このアートは、アボリジナル族が自然と深く結びつき、神話や歴史を表現するために用いられました。アボリジナルアートはただの装飾的な絵画ではなく、先住民の文化や精神的な信念を伝えていることが特徴です。
アボリジナルアートの歴史
アボリジナル族の人々は、ヨーロッパ人がオーストラリアを発見するずっと前から、オーストラリア大陸で生活しており、その歴史は5万年以上も遡ります。彼らは狩猟と採集を行い、洞窟に住みながら限られた範囲内を移動して生活していました。
文字を持たなかったアボリジナル族の人々は、絵を描くことによって文化を後世に伝えていたのです。彼らの哲学や信仰は2万年以上前に描かれた岩壁に見ることができます。
西オーストラリア州北西部キンバリー地方で発見されたグウィオン・グウィオンの岩絵, Gwion Gwion rock art found in the north-west Kimberley region of Western Australia, Public domain, via Wikimedia Commons.
18世紀になると、イギリス人探検家ジェームス・クックが1770年にオーストラリア東海岸を英国領として宣言し、その後1788年にシドニーバウにて正式に植民地化が始まりました。
この過程でアボリジナルの人々は迫害され、人口は90%以上減少し、伝統的な文化や言語も大きな影響を受けました。
アボリジナル族の信仰体系「ドリーミング」とは
アボリジナルの信仰体系「ドリーミング」では、彼らが自然界の精霊を崇拝し、すべての創造物は精霊によって生み出されたと考えています。
「ドリーミング」とは、天地創造に関する神話であり、アボリジナルの社会における中心的な宗教的概念です。ここでいう「ドリーム(夢)」は時間的な感覚を意味し、過去や未来の概念を持たない彼らにとって、祖先たちの物語は時間を超越した出来事として理解されています。
ドリーミングは、現在も未来も続く神話の一部として、自然界にあるすべてのものから創造の物語をたどる行為として行われていますが、その解釈は部族によって異なり、学問的にも深い謎が多い概念です。
アボリジナルアートの特徴的な技法と描き方
オーストラリア先住民の岩絵, Indigenous Australia Rock Art, Public domain, via Wikimedia Commons.
アボリジナルアートはその独自の技法と視覚的な特徴により、他のアートスタイルと一線を画しています。
ここでは、アボリジナルアートの最も特徴的な技法である「ドットペインティング」や、動物や自然の描写、さらに独特な模様に焦点を当てて、これらがどのように表現されているのかを探ります。
ドットペインティング: 精緻な描き方
アボリジナルアートにおける最も有名な技法は「ドットペインティング」です。この技法は、1970年代に中央オーストラリアのアボリジナル族が広めたもので、点を使って絵を描くスタイルが特徴です。
ドットペインティングでは、無数の小さな点を重ねることで、視覚的なリズムや動き、さらには深い象徴的意味を表現します。アボリジナル族にとって、この技法は「ドリームタイム」の神話や精霊的な物語を伝える手段としても使用されており、点の配置や色使いには非常に強い意味が込められています。
動物や花などの描写
アボリジナル・アート, オーストラリア, Aboriginal Art Australia, Public domain, via Wikimedia Commons.
アボリジナルアートにおける動物や自然のモチーフは、その社会や文化、宗教的背景と密接に結びついています。アボリジナル族にとって、動物や自然は単なる絵の題材ではなく、生命や霊的な存在として尊重されているためです。
例えば、カンガルーやワラビー、トカゲ、鳥などの動物は、アボリジナル族の神話や儀式において重要な役割を果たします。これらの動物は「ドリームタイム」の神話に登場し、それぞれが特定の意味を持ち、アボリジナルの生活や信仰に深く結びついています。
動物の描写は、アボリジナル族の人々が自然と調和しながら生きる姿を象徴しており、その描き方には精霊的な意味が込められていました。動物の足跡や羽、線描で描かれる場合、これらはその動物が持つ力や神聖な役割を表現する手段を描いているのです。
特徴的な模様
アボリジナルアートのもう一つの特徴的な要素は、繰り返される模様です。これらの模様は、アボリジナル族の文化において重要な意味を持つシンボリックな表現です。
たとえば、円や渦巻き模様、直線やジグザグ線などの図形は、それぞれ特定の意味を持ち、物語や儀式、場所、精霊を象徴しています。
現代アートにおけるアボリジナルアートの位置
アボリジナルの絵画, パプンニャ・トゥーラ様式、2014年頃, Aboriginal-art-503444 960 720, Public domain, via Wikimedia Commons.
アボリジナルアートは、現代アートの世界においても高く評価されています。その独自の技法や象徴性は、今なお多くのアーティストに影響を与えています。
特に「ドットペインティング」などの伝統的な技法は、現代アーティストによって新たな形で表現されていることが特徴です。
近年では、アボリジナルアートを現代的な感覚で解釈し、デジタルアートやインスタレーションアートの手法を取り入れるアーティストも増えており、伝統と現代の境界を越えた作品が生まれています。
社会的・文化的影響
アボリジナルアートは、美的価値だけでなく、社会的・文化的にも大きな影響を与えています。特に、先住民の権利や文化の保護に関するメッセージを発信する手段として重要です。
アボリジナル族の歴史や経験、苦しみを描く作品は、アートを通じて広く社会に訴えかけ、アボリジナル族の権利や土地の保護の重要性を認識させています。
実際、アボリジナルアートの展覧会やコレクションはアボリジナル文化を世界に広める役割を担っています。芸術的価値の高まりにともない、アート市場でも注目を集めています。
まとめ
アボリジナルアートは、オーストラリアの先住民文化に根ざした深い歴史と精神性を持つ芸術です。その特徴的な技法、特に「ドットペインティング」や動物、自然のモチーフは、アボリジナルの文化や哲学を色鮮やかに表現しています。
アートを通じて、彼らは自然界との繋がりや祖先たちの物語を後世に伝えており、また現代アートの世界でも大きな影響力を持っています。
アボリジナルアートは、単なる装飾的な要素を超えて、精神的な象徴や文化的なメッセージを発信しています。動物や自然、そして季節の変化を描いたシンボルは、それぞれ深い意味を持ち、アボリジナル文化における「ドリーミング」や自然との調和を示しているのですね。
さらに、アボリジナルアートは現代アートの一部としても進化を続け、伝統と現代の融合が見られます。代表的なアーティストたちの作品は、国際的な舞台でも高く評価されており、その独自の表現方法は世界中から愛されています。
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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。
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