STUDY
2024.2.21
キリスト教美術史:聖パウロとは?見分ける目印と主な主題紹介
聖パウロはイエスに従った使徒のなかでも異色の経歴を持つ聖人です。聖パウロはもともとキリスト教徒を迫害するファリサイ派のユダヤ教徒でしたが、回心して異邦人(非ローマ人)への宣教に尽力しました。
キリスト教美術史(ローマ・カトリック)においては、聖パウロは聖ペトロと並んで重要な存在です。この記事では、キリスト教美術史のより深い理解のために、聖パウロを見分ける目印や、よく描かれる主題を紹介します!
キリスト教美術史:聖パウロの目印
エル・グレコ『聖パウロ』, Public domain, via Wikimedia Commons
聖パウロの一般的な目印(アトリビュート)は、本と剣です。黒髪でひげを生やし、髪の毛が少し薄い特徴があります。実際の聖パウロが薄毛だったかは定かではありませんが、パウロの人物像が構成される中でヘレニズム文化の影響を受け、「賢人=薄毛」というイメージを投影した結果と考えられています。
本を持っている理由は、聖パウロが「神の言葉」を多く書き記したためです。聖パウロは、『パウロ書簡』と呼ばれる13の書簡を残しています。
• ローマの信徒への手紙
• コリントの信徒への手紙一
• コリントの信徒への手紙二
• ガラテヤの信徒への手紙
• エフェソの信徒への手紙
• フィリピの信徒への手紙
• コロサイの信徒への手紙
• テサロニケの信徒への手紙一
• テサロニケの信徒への手紙
• テモテへの手紙一
• テモテへの手紙二
• テトスへの手紙
• フィレモンへの手紙
剣を手に持っている理由は、複数の説があります。1つ目の理由は「戦士だった過去」のため、2つ目の理由は書簡のなかで『御霊の剣、すなわち、神の言葉を取りなさい』(エペソ6:17)と言ったため、3つ目は「剣で首をはねられて殉教したためです。
聖パウロは確かに軍隊には所属していたものの、実際に戦う部隊ではなかったため「戦士だった過去」を理由とする説には反対意見があります。剣で首をはねられたから剣を持っているという考え方は少し不思議に感じるかもしれませんが、実はこれは初期キリスト教時代の聖人にはよく見られる傾向です。
聖人(キリスト教徒)にとっては、「死んだ日」は「天上の国の本当の人生が始まった日」とみなされるため、お祝いすべきものであると考えられています。実際、イタリアやスペインなどで制定されている聖人の祝日は、誕生日ではなく命日です。
「聖パウロ(サウロ)の回心」とは?
カラヴァッジョ『聖パウロの回心(サウロの回心)』, Public domain, via Wikimedia Commons
キリスト教徒を迫害する立場にあった聖パウロを回心に導いたのは、イエスが聖パウロに対して起こした奇跡でした。聖パウロはサウロとも表記され、一般的に会心のストーリーは「サウロの回心」と言われます。
以下、聖書(使徒言行録 9章)より引用です。
「ところが、サウロが旅をしてダマスコに近づいたとき、突然、天からの光が彼の周りを照らした。 サウロは地に倒れ、『サウル、サウル、なぜ、わたしを迫害するのか』と呼びかける声を聞いた。 『主よ、あなたはどなたですか』と言うと、答えがあった。『わたしは、あなたが迫害しているイエスである。…』…サウロは地面から起き上がって、目を開けたが、何も見えなかった。人々は彼の手を引いてダマスコに連れて行った。サウロは三日間、目が見えず、食べも飲みもしなかった。」
引用元:(使徒言行録 9章3-9行より)
突然目が見えなくなってしまった聖パウロは、ダマスコにいたイエスの弟子から祈りを捧げてもらいます。
「すると、たちまち目からウロコのようなものが落ち、サウロは元どおり見えるようになった。そこで、身を起こして洗礼を受け、 食事をして元気を取り戻した。」
引用元:(使徒言行録 9章18-19行より)
ことわざの「目からウロコ」という表現は、聖パウロの回心に起源があると言われています。日本語の表現にも、聖人のストーリーが影響を与えていたのですね。
聖ペトロと対になる聖パウロ
Plaque with Christ Presenting the Keys to Saint Peter and the Law to Saint Paul, Public domain, via Wikimedia Commons
聖パウロはカトリック教会のなかで非常に重要な聖人であり、初代教皇である聖ペトロと並んで配置されることがよくあります。この伝統は初期キリスト教美術にもよく見られ、イエスをはさんで聖ペトロと聖パウロが配置され、3人で描かれる構図は伝統的定型の1つです。
イエスの両側に聖人が2人配置され、1人は白髪で鍵を手にしている(聖ペトロ)、もう1人は黒髪で本と剣を持っているイメージです。十二使徒全員が描かれる場合でも、イエスの隣の重要なポジションを占めているのをよく見かけます。
余談ですが、筆者の住んでいるローマはこの2人の聖人の殉教の地でもあり、とくに聖ペトロと聖パウロの組み合わせは現在でも人気です。聖ペトロの目印(カギ)はわかりやすいものの、聖パウロの目印(剣)はほかの聖人と見分けることが難しいこともあります。
迫害者から異邦人の伝道者となった異色の経歴を持つ聖パウロは、どんな人でも心を入れ替えてやり直せることを象徴しています。以上、キリスト教美術史における重要な聖人・聖パウロを見分ける目印と主な主題の紹介でした!
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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