STUDY
2023.3.20
アートとそうじゃないものの本質的な話
別の記事でもまとめましたが、「アート」と「ART」と「芸術」と「美術」は別物。そんな中まだもうひとつまとめておかなければならないのが、デザイナーとクリエイター。つまりデザインとクリエイションの違いも考えてみる必要があると思いました。
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今回は現代美術家として活動している筆者が、「アート」と「デザイン」と「クリエイション」の3つについて考えてみようと思います。
美術に必要な「学術的価値」とは
Photo by Lucine Moone on Unsplash
本質的な分類としての「美術」というのは数千年(洞窟絵画から言えばもっともっと)以上の歴史があるような、世界中の大学でも扱っている「学術・学問」です。内容的な部分のみを研究する美術史学者もいれは、実際に制作を行なっているアーティストという人たちがいます。
世界中、日本では特に「アート」という言葉が広義化しているので、例えば「ラテアート」だってアートという言葉を使っているし、「現代アート」っていうものと言葉の意味では並列で扱われている状態です。もっと言えば、チョークアート、書道アート、フラワーアートとか、デジタルアート、クリプトアートとか。「○○アート」という言い方で、自由な表現を行なっているものはみんなアートという括りになってしまい、特にその○○の部分には多くの場合その技法やら素材が当てこまれることが多いです。
一方学問的な美術では、○○の部分では流派や形状、アブストラクト、コンセプチュアルなどといった内容の部分の名称が付けられることが多いです。もちろんこれは後々数年後に振り返って名前を付けられることがほとんどですが、中には作家たちが自分たちのスタンスを誇示するために名称を用意したケースも存在します。
日本では西洋美術というものが、明治になってようやく日本に入ってきました。鎖国が明け、開国したと同時に西洋の文化が勢いよく入ってきたため、一般人には内容よりも、表面的な言葉の部分が広まり、一般論として間違ったアートの解釈が広まってしまいました。これは仕方ないことでしょう。紙と色鉛筆なんかで、人間は1歳くらいからきっと表現が可能な訳なので、「子どもはみんなアーティストだ」とか「自由な表現がアート」「個性・感性で語るのがアート」というような誰が最初に言ったかわかんないような言葉が先行して広まってしまいました。
「美術は学問」と、「子どもの頃から誰だって自由な表現をして生きてきた」っていうことはとてもとても対照的です。かたや学問を専門的に勉強しないといけない分野に対して、かたや普遍的な誰でも可能な分野だからです。例えば「アートはアーティストの感性で描くもの」「アートは見る人の感性で見るもの」みたいなことを言う人がいるとしましょう。では美術史の中で1500年もの長い期間続いた宗教絵画の「ルネサンス」は、教会から依頼された宗教画を描く必要があり感性で描かれているわけではありませんよね?と説明すると、わかりやすいのかなと思います。
美術を学問としての解釈ができない人が大多数なので一般の人がどうやってアートを評価するのか?というと近年それがお金の価値になりつつあります。「世界レベルのコンクールで賞金はでないけれど、美術の評価ができる審査員の評価を得て優勝した作品」と「例えばNFTとかで美術のことを分からない人が数十億円で落札した作品」はどっちが優れているのか?みたいな話。
美術というのは長い歴史があって、その歴史上の価値を踏まえた上でその価値を保持することが必要です。なのでアートは、1つはその文化的価値を守るタイプのもの、そしてもう1つはその文化を進めるための新しい制作を行うものの2種類あるのかなと思います。前者は「クラシック」的な意味があるし、後者は「コンテンポラリー」的な意味が含まれているわけですね。
クリエイションというものの本質的な分類
Photo by Dushawn Jovic on Unsplash
上の話をまとめると、じゃぁ学術的価値を含んでいないものは何になるのか?ということ。そう、その分野にちゃんとした名前がないことが、このアートという言葉の広義化の一番の原因だと思います。
学術を勉強した上でアートを理解している人間なんて世界中で見てももちろんごくわずかで少数派なわけです。ルネサンスとかの時代で言えばもうそれはそれは限られた人間だったわけでした。ですが画材が普及したりしたことで、人類の大多数が学問的な価値を理解しないまま、表現を行い続けています。それ自体はもちろん素晴らしいことなんですが、その部分に何の名前もないので、それを「アート」と名付ける他なかったことが問題だったわけです。
私がここで言いたいことは、アートが優れていて、アート以外の学問的価値がないものはしょうもない、みたいなことではなくて。どんな形であれ、何かを作って生み出すことは素晴らしいことです。なので、アートが何なのかを分かっている人たちの世界で、そうじゃない人が何にもわからないまま「自分の作品もアートだから」ってことでチャレンジして、評価されなくて「何で自分の作品が評価されないのか」っていうことを悩んでいるのは残念だなっていうことです。どっちが上とかどっちが下っていうことではなくて。別物なわけです。
そしてなぜかみんなが「現代アート」がピラミッドの頂点だと思っている節があって、「あんな意味不明な作品が評価される世界」に難癖つけているのも少し謎なわけです。もちろん言うまでもないですが、デザインにも、工芸にも学術的な価値は付随していて、ただそれらは文脈が別の部分にあるということは忘れてはいけません。
デザインとアート【世間一般的な誤った分類】
先に間違った解釈を図解してみました。ここまで説明してきたように、日本の中では特に「デザイン」と「アート」の分類しかないように思います。商業デザインの方が圧倒的に身近なので、こことぶつかった結果、デザイナーが「デザインじゃないもの・反対のもの」をアートとして説明しがちだなという気がします。「んーこれはデザインっていうより、アートだよね」みたいなこと。
デザインはよく問題解決だと言われたりして、その逆だからアートは問題提起にしとく。
デザインは商業的にクライアントがいて、誰かのために作られているものだったりする、その逆だからアートは自由で、感性で、自己表現だ。美術の中で、自由で、感性に目を向けて、自己表現だったもの、それが主流だった時代などはありますが、それは美術であるための必要十分条件ではなくて、むしろそうでなかった時代の方が圧倒的に長いわけです。
それ以外のものというのが認識の中では少なくて、雑貨とかアクセサリーとか、陶器とかは工芸とアートの間だったりしています。ハンドメンドアクセサリーとかは、「ファッションデザイン」の中に入ったり。これに対しての正しい名称は、多岐に渡るために非常に難しいなと思います。ただ上の図のよう遠い距離にある別物ではなくて、数で言えば実際この部分が一番多いように感じます。なので下の図を見てみましょう。
デザインとアートとOthers【本質的な分類】
「何かを創る」っていうものすべてのことはクリエイションということでいいはずです。それはデザインでもアートでも一緒。そしてそれ以外のまだ名前がはっきりついていないものが存在しています。
この大きく分けて3つのジャンルは、きっとそれぞれ重なり合う部分があります。それ故、ぐちゃぐちゃな解釈になってしまいがちです。デザインの分野にはまだまだ詳しくないのであまり解説はできませんが、本質はきっともう少し別の部分にあるとおもいます。
油絵を描いたところで、それが絶対アートとして評価されるわけではありません。絵師さんとか、Cryptoアートとか、NFTアートなど近年でてきたものや、その技法や素材を用いたら自動的にアートになるわけではありませんし、アートっぽい表現でも学術的価値を保有していないと、美術としては認められない。ただ逆もあるので、何も考えずともそれが実は学術的な価値を保有していることもあるかもしれないし、第三者から見出されることもあるでしょう。
この黄色の部分をやっている人の方が他二分野に比べて何十倍も多いはず。まぁなので黄色い部分をクリエイションにして、アーティストでもデザイナーでもない人をクリエイターって呼ぶってことはありなのかも知れません。
このOthersに含まれる部分を、「クリエイション」として認識するのもありなのかなと思います。上にも述べたようにOthersに含まれる内容はすごく広いので、そういう意味でこの部分を広い意味でクリエイションとして、○○アーティストの人たちを、○○クリエイターというのがしっくりくるのかなと思います。
参考文献
『The Story of art』Ernst Hans Josef Gombrich
『美学への招待』佐々木健一
『現代美術史-欧米、日本、トランスナショナル』山本 浩貴
画像ギャラリー
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Contemporary Artist / 現代美術家。 Diploma(MA) at Burg Giebichenstein University of Arts Halle(2019、ドイツ)現在は日本とドイツを中心に世界中で活動を行う。
Contemporary Artist / 現代美術家。 Diploma(MA) at Burg Giebichenstein University of Arts Halle(2019、ドイツ)現在は日本とドイツを中心に世界中で活動を行う。
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