STUDY
2026.3.9
《真珠の耳飾りの少女》だけじゃない!フェルメールの代表作6点を解説
繊細な光の表現で知られる画家、フェルメール。17世紀オランダで活躍しましたが、資料が少ないため人物像は謎に包まれており、ミステリアスな画家でもあります。
そんなフェルメールが残した作品は、わずか30点強。同時代を生きたレンブラントは数百点の絵画を残しており、フェルメールの寡作ぶりは明らかです。パトロンや裕福な義母のおかげで、絵を量産せずとも何とかなっていた、とする説も…?
この記事では、押さえておきたい代表作を6つピックアップしました。静謐で穏やかなフェルメールの絵画を、一緒に見ていきましょう。
目次
《真珠の耳飾りの少女》だけじゃない!フェルメールの代表作6点を解説
珍しい構図の《真珠の耳飾りの少女》
ヨハネス・フェルメール《真珠の耳飾りの少女》, Public domain, via Wikimedia Commons.
極限まで引き算された暗い背景に、浮かび上がる少女の顔。「北方のモナ・リザ」とも呼ばれ、フェルメールの代表作として知られています。
…が、実は他のフェルメール作品と比べると異色の作品でもあります。彼の画業の全体的には、人の日常を離れたところから見守るような絵画が多いのです。1人の人物にここまで近寄り、しかも絵画の中の人物と目が合うのは、数少ない作例です。
珍しい構図ですが、ターバンの鮮やかな青や、瞳と唇に散りばめられた光の点など、フェルメールらしさがぎゅっと詰まっています。絵画と対面したら、つやめく大きな瞳に吸い込まれそうになるはずです。
日常を神聖に描いた《牛乳を注ぐ女》
ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》, Public domain, via Wikimedia Commons.
女性が牛乳を注ぐという、よくある家事の一瞬を描いた作品。なのに、フェルメールの手にかかれば宗教画のような神聖さまで生まれてしまう…そんな不思議な一作です。
静けさや神聖さを生むヒミツといえば、余白として残された白い壁。思い切って背景を引き算することで、静かな空間を演出しました。
ヨハネス・フェルメール《牛乳を注ぐ女》(部分), Public domain, via Wikimedia Commons.
当初、フェルメールはここに地図を描いていたのですが、制作途中で塗りつぶしたようです。結果として静けさが際立ち、画家の代表作のひとつとなりました。
なお、窓ガラスに注目してみると…実は、一部が割れているんです。理由はわかっていませんが、フェルメールには何らかの意図があったはず。静かな画面に忍ばせた、不穏なモチーフ…空想を広げるのも楽しい作品です。
手紙の内容が気になる《手紙を読む青衣の女》
ヨハネス・フェルメール《手紙を読む青衣の女》, Public domain, via Wikimedia Commons.
フェルメール・ブルーがふんだんに使われ、かつ彼の作品に欠かせない「手紙」がモチーフとなっている、1枚で深くフェルメールを味わえるお得な絵画。ここでは手紙に注目してみましょう。
17世紀当時のヨーロッパでは、文字を読める人はかなりの少数派でした。ところが、フェルメールが活躍したオランダは例外で、ずば抜けて識字率が高かったのです。大都市に暮らす人々のほとんどは文字を読むことができ、手紙をやり取りする文化が花開きました。
ヨハネス・フェルメール《手紙を読む青衣の女》(部分), Public domain, via Wikimedia Commons.
本作に描かれるのは、真剣に手紙を読む女性。彼女のお腹は膨らんで見え、妊娠しているかのよう。となると、手紙は離れて暮らす夫から届いたものでしょうか?
「世界一の港町」と呼ばれたオランダは海上貿易が盛んで、仕事のために男性が長く家を空けることがよくあったそうです。手紙も到着するまでに数ヶ月はかかるため、夢中で読みふける女性の気持ちもわかるような気がします。
画家の栄光と名声を描いた?《絵画芸術》
ヨハネス・フェルメール《絵画芸術》, Public domain, via Wikimedia Commons.
《絵画芸術》は、フェルメールが生涯ずっと手元に置いていた作品。パトロンから注文されたものではなく、画家が自我を出して自己表現した絵画、と言えるかもしれません。
奥にいる女性は女神クリオに扮しているとされ、月桂樹の冠は「栄光」を、トランペットは「名声」を表しています。そんな女性を絵に描こうと、こちらに背を向けてる画家…彼はフェルメール自身ではないか、とも。
ヨハネス・フェルメール《絵画芸術》(部分), Public domain, via Wikimedia Commons.
まるで、自分には「栄光」や「名声」が与えられて然るべし、とでも言いたげな本作には、地図や書物などさまざまなモチーフが詰め込まれています。引き算が特徴のフェルメールにしては珍しく、足し算を重ねた絵画です。
普段の作風を捨ててまで、画家が表現したかったこと…正解は本人にしかわかりませんが、ひとりの芸術家としての矜持があったのだろうと考えられます。生涯手放さなかったことからも、フェルメールにとって特別な価値があったのではないでしょうか。
最初期の宗教画《ディアナとニンフたち》
ヨハネス・フェルメール《ディアナとニンフたち》, Public domain, via Wikimedia Commons.
フェルメールは日常のワンシーンを描いた画家として有名ですが、駆け出しの頃は宗教画を描いていました。当時のヨーロッパでは主題によっても絵画の優劣がつけられ、宗教画は風俗画よりも圧倒的に格上。フェルメールも最初は、最上位とされるジャンルからスタートしました。
そんな初期の代表作が《ディアナとニンフたち》です。フェルメールの数少ない宗教画のひとつで、黄色い服を着た女神ディアナと取り巻きのニンフたちが描かれています。
神話に題材を取ったものの、描かれたのは1人のニンフがディアナの足を洗うという日常的な場面。最初期の作品なのに、何気ない暮らしに着目するフェルメールらしさがすでに醸成されています。
数少ない風景画《デルフトの眺望》
ヨハネス・フェルメール《デルフトの眺望》, Public domain, via Wikimedia Commons.
室内と人物を描いた作品が多いフェルメールにとって、《デルフトの眺望》は珍しく風景を描いた絵画。デルフトは、フェルメールが生まれてから亡くなるまでを過ごした町です。
風景画でも静けさが印象的なのがフェルメールらしいところ。本作は朝の様子を描いており、時計台の描写から「7時10分」であることも読み取れるそうです。研究者やマニアの方は、凄く細かい部分まで見ているのですね…。
さて、本作が描かれたとされる場所を訪れたことがあるので、写真で紹介します。
絵画のほうが広々とした印象ではないでしょうか。上から見下ろす視点もあってか、横の広がりはもちろん、奥行きもより広く描かれているように思います。
人も実際より小さく描かれ、風景の雄大さが際立ちます。建物の位置関係も現実とは異なり、アレンジを加えているそうです。
フェルメールは「カメラ・オブスキュラ」という初期のカメラを使って絵を描いていた、と言われています。ある程度は本当のようですが、カメラが映したものを単純になぞったわけではありません。
《デルフトの眺望》は風景画だからこそ、画家が現実のどこを改変したかが読み取りやすいように思います。フェルメールの美意識をより強く感じられる作品ではないでしょうか?
《デルフトの眺望》と同じ景色が見える場所には、「ここで風景を楽しんでください!!」と言わんばかりのベンチがあります。世界中のフェルメールファンが聖地巡礼に訪れ、このベンチに腰掛けて画家に想いを馳せている…のかもしれません。
【まとめ】一瞬を永遠にしたフェルメール
フェルメールが活躍したバロック期には、光と闇のコントラストの強い絵や、モチーフを詰め込んだ賑やかな絵が主流でした。こうした流れに逆らうように、フェルメールはモチーフを引き算し、柔らかな光に包まれた静かな絵画にこだわりました。
たった30点強しか作品は残っていませんが、日常の何気ない一瞬を神聖なもののように描いた絵はどれも名品として世界に広く知られています。
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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。
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