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2022.10.21
彫刻家・名和晃平の個展が開催中【青森県十和田市】10月から新たな展示がスタート!
京都を拠点に活動する彫刻家の名和晃平(なわ こうへい。1975年生まれ)。細胞や粒を意味する「セル」で世界を認識するという概念を元にしながら、ガラスや液体などのさまざまな素材や技法を用いて、彫刻の新たなあり方を追求しています。
目次
名和晃平《PixCell-Deer#52》 2018年 個人蔵(寄託) 十和田市現代美術館の常設展示室にて2023年9月まで公開されます。
名和の国内の美術館では約10年ぶりとなる個展が、青森県の十和田市現代美術館にて開催中です。さらに10月1日からは同市内の地域交流センターでも展示がスタートし、2つの会場にて大学院時代のドローイングから代表作の「PixCell」シリーズ、それに新作の「Black Field」シリーズといったさまざまな作品を公開しています。名和の切り開く新たな表現とは? 見どころをご紹介します。
「気泡が湧き起こる?!」新作の《Biomatrix (W) 》のメカニズムとは?
名和晃平《Biomatrix (W) 》展示風景 2022年 作家蔵
まず十和田市現代美術館の展示から見ていきましょう。「気泡がつぎつぎと床から湧き起こる?」そうした不思議な現象に驚くのが、《Biomatrix (W)》と呼ばれる作品です。ちょうど展示室の中央には長方形の窪みがあり、そこに真珠のような輝きを放つシリコーンオイルが入れられています。そして空気が送り込まれていて、表面張力いっぱいに張り詰めた透明な気泡が弾けながら、あたかも水がぐつぐつと沸騰していくかのように湧き上がっているのです。
しかし本来、水の沸騰する動きは早く、水が破れる様子を肉眼で捉えるのは難しいもの。それを粘度のあるシリコーンオイルに置き換えることで、視覚化することに成功しています。またひとつひとつの気泡に仕切りはなく、あくまでも湧き上がる運動そのものが、隣り合う泡同士の境界面を作り上げています。湧き上がり、また弾けて再び湧き上がる。ずっと見続けたくなるほど神秘的な光景が広がっていました。
大学院時代のドローイングから美術館初公開の「White Code」シリーズまで
大学院在学時に制作した「Esquisse」シリーズも見逃せません。最近、名和が実家を整理した際に発見したという一連のドローイングには、淡い水彩絵具や鉛筆の粉によって、細胞や微生物を思わせるようなイメージが描かれています。また興味深いのは描かれた紙の質感が一定ではないことです。画用紙や半紙、コピー用紙などとバラバラ。名和は異なった質感に応じて、絵具を染み込ませたり、広げたりしています。
名和晃平「White Code」展示風景 2022年 作家蔵
新作の「White Code」のシリーズが初めて美術館にて公開されました。遠目ではキャンバスの上に細い線が横へ何本も描かれているように見えますが、実は絵具のドットが連なった作品です。しかも筆で描きこんだものではありません。麻地を張ったキャンバスを秒速1cm程で移動させ、上から絵具を点滴のように垂らして制作しています。
名和晃平「White Code」展示風景 2022年 作家蔵
5点展示された「White Code」のパターンはすべて異なっていて、ドットも重なり合ったりしているなど表情は一様ではありません。信号や記号、また音の記録なども連想させますが、近づいて目を凝らすと宇宙に浮かぶ小惑星の帯のようにも見えました。
10月1日から十和田市地域交流センターでも展示がスタート
十和田市地域交流センターでの『名和晃平 生成する表皮』 展示風景
こうした十和田市現代美術館に続くのが、10月1日から新たにはじまった十和田市地域交流センターでの展示です。同センターは9月に開館したばかりの真新しい施設ですが、ギャラリーの一室を用いて円と線で構成された「Array - Black」シリーズの《Dot》や《Line》、パイル地で覆い、苔や菌糸の質感を連想させる「Velvet」シリーズを展示しています。
手前の列が「Black Field」のシリーズ 2022年 作家蔵
ここで注目したいのは地域交流センターの真っ白な空間に対して、あえて強く主張するような作品の黒の凄みです。そのうち「Black Field」とは、黒い油絵具でモチーフを覆った彫刻のシリーズ。複数のメディウムが混合された絵具は、空気に触れた表皮の部分より酸化し、シワを刻みながら収縮します。そして裂けた箇所から液体の絵具が露出すると新たな反応がはじまるため、何ヶ月かかけて表情が変化していきます。
一方の「Velvet」は、モチーフの表面を真っ黒なパイル地で覆い、均質化した作品です。その質感は苔や菌糸に似ているのが特徴で、パイル地によってモチーフのシルエットは分かりにくくなっています。そして「Black Field」と「Velvet」の両シリーズには、埴輪やこけしなどのかたちが浮き上がっていますが、これらは一部に十和田をはじめとする青森に関する文物をモチーフにしています。中にはねぶた祭りの跳人(はねと)と呼ばれる踊り手のすがたも見られました。
十和田だけのオリジナル展示。名和晃平の進化する創作世界を楽しもう
2008年に開館した十和田市現代美術館。2022年8月には総入館者数200万人を達成しました。
この他、十和田市現代美術館では常設展示として、鹿の剥製を透明な球体で覆った《PixCell-Deer#52》も公開され、名和の代名詞といえる作品も鑑賞することができます。
十和田市地域交流センター。藤本壮介の設計による純白の建物です。美術館より300メートルほど離れた十和田市のまちなかに位置します。
近年はアートパビリオン「洸庭」といった建築のプロジェクトや、べルギーの振付家でダンサーのダミアン・ジャレとの協働によるパフォーマンス作品「VESSEL」を国内外で公演するなど、ジャンルを超えて幅広く活動する名和。「セル」を基軸とした彫刻においても、同じ表現にとどまることなく、素材や技法を次々と変え、常に新たな境地を切り開いています。
名和の過去と現在、さらに未来を見据えて進化する創作世界を、十和田限定のオリジナルの展示にて味わってみてください。
展覧会情報
『名和晃平 生成する表皮』 十和田市現代美術館、十和田市地域交流センター
開催期間:2022年6月18日(土)~11月20日(日)
※十和田市地域交流センター:2022年10月1日(土) 〜11月20日(日)
所在地:青森県十和田市西二番町10-9(十和田市現代美術館)
アクセス:八戸駅より十和田観光電鉄バス「八戸駅」東口5から乗車、「官庁街通」バス停下車、美術館まで徒歩5分。(所要時間 約1時間)七戸十和田駅より十和田観光電鉄バス「七戸十和田駅」南口2番から乗車(所要時間 約35分)
開館時間:9:00~17:00
※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)
料金:一般1800円、高校生以下無料
※十和田市地域交流センターは無料
https://towadaartcenter.com
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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