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2022.12.26
37年ぶりの公開作品も!“蔵が深い”山種美術館のコレクションで愛でる日本の風景
何かと忙しい年末年始。日々の暮らしや仕事に追われ、ゆっくりと心を落ち着けて過ごす時間がなかなかとれない方も多いかもしれません。
でも、そういう時こそ一息ついて、美しい風景や絵画に目を向けたいもの。現在、東京・広尾の山種美術館では、江戸時代から現代までの画家たちによる日本の風景画を紹介する展覧会が開かれています。
目次
抱一から山本梅逸、椿椿山まで。江戸時代の風景画の優品を味わおう
日本で風景が描かれはじめたのは平安時代のことです。和歌で日本各地の名所が詠まれると、その景色を絵画化した名所絵が屏風などに描かれます。さらに室町時代には中国の風景を題材した山水画が流行。ただし名所絵と同じく、実際の景観をリアルに再現するのではなく、心の中に浮かぶ理想の風景を描き出すのが基本でした。
そして江戸時代に入ると交通の利便性が向上し、画家や絵師らが全国各地を訪ねる機会が増えます。すると名所絵や山水図に加え、実際の地を目にして描いた真景図と呼ばれる作品や、街道の風景を題材にした浮世絵が制作されました。
椿椿山『久能山真景図』 1837(天保8)年 重要文化財 ※前期展示 山種美術館
酒井抱一の『宇津の山図』は伊勢物語で詠まれた和歌の名所を題材とした作品です。また山本梅逸の『桃花源図』は山間に桃の花が咲く中国の理想郷を表したもの。一方で椿椿山(つばき ちんざん)は『久能山真景図』において、家康が祀られている久能山東照宮を実際に訪ねてスケッチし、10年後に本画として描きました。
西洋絵画の技術を習得。明治時代以降の日本画家の描いた風景とは?
黒田清輝『湘南の海水浴』 1908(明治41)年 山種美術館
明治時代に入ると西洋絵画の技術を習得した洋画家が登場し、いわゆる名所だけでなく、山間部や海浜といった国内の身近な景色も描かれました。また明治20年以降はナショナリズムの高まりを背景に、日本の風土に関心が高まり、自然へと目が向けられるようになります。
一方の日本画家らは山水や名所を描きつつも、西洋絵画の技法を取り入れると、新たな表現を模索し、身近な場所の名もなき風景を絵に描くようになります。そして戦後は都市や建物も画題として頻繁に描かれ、心象風景や抽象的な表現による風景画も制作されていきました。
京都では竹内栖鳳(たけうち せいほう)に次ぐ円山四条派の画家として知られる山元春挙の『火口の水』に注目してください。雪山の上に浮かぶ三日月のもと、風化する溶岩の岩肌や火口湖などが写実的に描かれています。山元は当時普及しはじめた写真に関心を抱くと、実際に登山して撮影し、それを元にして山を主題とした作品を描きました。カメラを持ってロッキー山脈へ行った経験もあるそうです。
渋谷へ移転後の初公開多数!秘蔵の山種コレクションが見逃せない
安井曽太郎『初秋遠山』 1945〜55(昭和20〜30)年頃 山種美術館
さて展覧会の見どころはいくつもありますが、中でも強調したいのが、山種美術館が13年前に渋谷区に移転してから初めて公開される作品が多いことです。
まず千住博の『街・校舎・空』と木村光宏の『兆』は15年ぶり、また山本梅逸の『蓬莱山図』と米谷清和の『暮れてゆく街』や関出の『廃園濃紫』などは17年ぶり、さらに安井曽太郎の『初秋遠山』に至っては37年ぶりの公開となります。
石田武の『四季奥入瀬』の連作4点のうち『春渓』と『瑠璃』の展示も37年ぶりのこと。また連作4点が全て公開されるのも、作品が発表されて以降、初めてのことになります。いずれも奥入瀬へ取材して描いた作品ですが、特に雪に閉ざされた空気感を巧みに表した『幻冬』が魅惑的ではないでしょうか。
左:石田武『四季奥入瀬 幻冬』 1985(昭和60)年 個人蔵
日本画を中心とする豊富なコレクションで知られる山種美術館は、よく同館学芸部顧問の山下裕二先生(明治学院大学教授)の言葉を借りて“蔵が深い”と称されますが、それこそ「こんな作品もあったのか!」というような発見や驚きの多い展覧会でもあるのです。
見ておきたいおすすめ2点!田渕俊夫『輪中の村』と米谷清和『暮れてゆく街』
右:田渕俊夫『輪中の村』 1979(昭和54)年 山種美術館
特におすすめの2点の作品をご紹介しましょう。まずは田渕俊夫の『輪中の村』です。舞台は木曽川と長良川に囲まれた福原輪中と呼ばれる地域。送電線の立つ農村風景を描いていますが、アルミ箔を用いて生み出された銀色の空が独特の雰囲気を醸しています。
米谷清和『暮れてゆく街』 1985(昭和60)年 山種美術館
もう1点は山種美術館からも近い渋谷駅を描いた米谷清和の『暮れてゆく街』です。2020年に営業を終えた東急百貨店東横店の建物を正面に、白い柵に囲まれたモヤイ像や西口バスターミナルを見下ろす構図にて描いています。また薄暗がりの雨の中、家路へと急いだり、待ち合わせをする大勢の人々もひしめいています。再開発が進み、日々すがたを変えていく渋谷ですが、1980年代のありし日の日常をリアルに表現した作品と言えるかもしれません。
高校生と大学生は半額!「冬の学割」を実施中!
この展覧会にあわせて現在、山種美術館では「#私が好きな日本の風景」のSNS企画を実施中。思い出の風景や未来に残した風景などをSNSにて募っています。
※ハッシュタグ「#私が好きな日本の風景 #山種美術館」をつけてTwitterかInstagramに写真を投稿。同館のSNSで紹介される場合もあります。
Cafe椿では、展覧会にちなんだオリジナルの創作和菓子を提供中です。和菓子は青山・菊家による逸品。京都・蓬莱堂茶舗の抹茶やスマート珈琲店のコーヒーとともに味わえます。
最後に学生の皆さんにお得な情報です。本展覧会に限り、大学生と高校生は通常1000円のところ、半額の500円で入館できる「冬の学割」を実施中です。この機会に風景画の名品を通して、日本美術の魅力に触れてみてはいかがでしょうか?
展覧会情報
『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』 山種美術館
開催期間:2022年12月10日(土)~2023年2月26日(日)
前期:12月10日(土)〜1月15日(日) 後期:1月17日(火)〜2月26日(日)
※会期中、一部展示替えあり
所在地:東京都渋谷区広尾3-12-36
アクセス:JR線恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。渋谷駅東口ターミナルより日赤医療センター前行都バス(学03番)に乗車し、「東4丁目」下車徒歩2分。
開館時間:9:00~17:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし1月9日(月)は開館)、1月10日(火)、年末年始(12月29日(木)~1月2日(月))
観覧料:一般1300円、中学生以下無料
※冬の学割:大学・高校生500円(本展に限り、入館料が通常1000円のところ半額)
※きもの特典:きもので来館すると、一般200円引、大学生・高校生100円引
https://www.yamatane-museum.jp
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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