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2023.1.16
オルセー美術館の改修を手がけた建築家、ガエ・アウレンティの知られざる足跡
東京・千代田区の九段南に位置するイタリア文化会館(地上12階、地下2階)。赤いファサード(編集部注:建物の正面部分のこと)が特徴的な建物で知られ、館内にて美術や音楽といった文化催事やイタリア語講座などを開き、イタリア政府の機関として同国の文化の普及を目的に活動をしてきました。
目次
このイタリア文化会館のコンセプトデザインを担ったのが、イタリアの建築家でデザイナーのガエ・アウレンティ(1927〜2012年)です。現在、同館のエキジビションホールでは、アウレンティの業績を紹介する展覧会が開催されています。アウレンティが手がけた仕事とは? その知られざる足跡をたどります。
家具や照明のデザインで頭角を現したアウレンティ。ショールームの仕事にて名声を高める
1927年、イタリア北部の小さな町のパラッツォーロ・デッロ・ステッラに生まれたアウレンティ。1953年にミラノ工科大学建築学部を卒業すると、有力な建築メディアの雑誌『カーサベッラ』の編集に10年ほど携わります。そして本格的な設計の活動を開始し、家具や照明といったデザインの分野で頭角を現していきました。
1960年代後半からオリヴェッティ社やフィアット社のショールームを手がけると、イタリア国外でも名声を広めます。1970年には個人事務所を開設し、住宅設計の仕事などを旺盛にこなしていきました。
あのオルセー美術館を改修!美術館建築の分野で世界的に活躍したアウレンティ
オルセー美術館 1986年 パリ 写真:マリオ・カッリエーリ ※右は改修工事中の写真
アウレンティの名を世界的に広めたのは、1986年に完成したオルセー美術館の改修のプロジェクトです。もともとパリのオルセー駅の古い駅舎だった建物を美術館に活用する計画が1970年代に起こると、駅舎を躯体として保存し、内部に美術館の機能を埋め込む方針が決まります。
オルセー美術館 1986年 パリ 写真:マリオ・カッリエーリ
1978年に美術館のコンペが行われ、フランス人若手建築家グループACTアルシテクチュールの手によって、駅舎躯体の保存方法と大屋根で覆われる大空間に、約2万平米もの展示空間を配置する基本計画が策定されます。その後、展示空間の創出に向けてアウレンティに内装の設計が任されたのです。
「美術館を巡ること」展示風景。オルセー美術館やポンピドゥー・センター国立近代美術館の断面図などが展示されています。
アウレンティは古い鉄道駅の面影を残しつつも、機能的でかつ美しい展示空間を作り上げることに成功します。リノベーションが建築家の作品としてさほど注目されていない時代に、保存と活用のプロジェクトの重要性を知らしめると、世界中から高く評価されました。
イタリアから日本へ。朱色漆の「赤」を取り入れたイタリア文化会館
アジア美術館 2003年 サンフランシスコ 写真:ローランド・ハルべ ※下段は内観透視図
オルセー美術館の成功を機に、アウレンティの美術館の改修の仕事が一気に増えます。まずオルセーの工期中に受注して完成させたポンピドゥー・センター国立近代美術館(1985年、パリ)をはじめ、パラッツォ・グラッシ(ヴェネツィア、1986年)、さらにアジア美術館(サンフランシスコ、2003年)やカタルーニャ美術館(バルセロナ、2004年)などを次々と手がけていきました。
アウレンティが美術館の改修に際して重要だと考えていたのは、作品を大事にするという視点に加え、来館者が作品を受動的に見るのではなく、空間を通して能動的に作品と関われるようにすることでした。
そしてアウレンティはミラノ・カドルナ広場(2000年)の再生プロジェクトなどにも携わると、日本でもイタリア大使館事務棟(2004年)とイタリア文化会館(2005年)を設計します。イタリア文化会館の壁面を彩る「赤」は、日本の朱色漆をイメージしつつ、快活なイタリアン・カラーとの融合を意図していました。
戦後イタリアの数少ない女性の建築家として道を切り開く。日本で撮った貴重な写真も公開
『ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし』会場内映像より。
2012年に84歳で生涯を閉じたアウレンティ。その業績は建築だけでなく、インテリア、家具や工業デザイン、商品ディスプレイ、庭園設計など多岐にわたります。また演出家のルカ・ロンコーニと協働して、ロッシーニの『ランスの旅』といったオペラの舞台演出までを手がけました。
「文化とコンテクスト」展示風景。上にイタリア文化会館に関する写真や立体図が並び、下にカドルナ広場を撮影した写真などが展示されています。
今回の展覧会では「アーバンインテリア」、「美術館を巡ること」、それに「文化とコンテクスト」の3つのテーマを基本に、ドローイング、写真、模型、建築素材、パネルなど100点以上を展示。また1971年に自らの展覧会のために来日した際、滞在中に撮影した撮り下ろしの写真も公開されています。
そこには金閣寺をはじめ、浅草寺の仲見世から子どもたちの金魚すくいなど、日本のさまざまな風景が捉えられていますが、中には手水舎や竹のあしらえなども写され、アウレンティの建築家としての細かい観察眼を伺うこともできます。
『ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし』展示風景。
アウレンティが建築家を志したきっかけの1つに、「素敵な社交界令嬢」になって欲しいという両親への反発があったそうです。建築が圧倒的に男性の職場だった時代においても自らの道を切り開き、幅広い分野にて多くの作品を残したアウレンティの業績をイタリア文化会館にてたどってみてください。
会場のイタリア文化会館。九段下駅、および半蔵門駅が最寄り駅です。
展覧会情報
『ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし』 イタリア文化会館エキジビションホール
開催期間:2022年12月11日(日)~2023年3月12日(日)
所在地:東京都千代田区九段南2-1-30
アクセス:東京メトロ東西線・半蔵門線・都営新宿線九段下駅2番出口から徒歩10分
開館時間:11:00~17:00
休館日:月曜日、1月31日(火)~2月2日(木)、2月28日(火)~3月2日(木)
料金:入場無料
https://iictokyo.esteri.it/iic_tokyo/ja
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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