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2023.2.27
あの「サトちゃん」の生みの親!キャラクターデザインの先駆者、土方重巳のすべて
戦前、戦中、そして戦後を通してグラフィックデザイナーとして活躍した土方重巳(ひじかた しげみ。1915〜1986年)。1938年に東宝映画株式会社に入社して以来、映画や舞台公演のポスターなどを制作すると、劇作家の飯沢匡(いいざわ ただす)との出会いにより、戦後は子ども向けの仕事を手がけ、企業広告の分野にも業績を残しました。
目次
『キャラクターデザインの先駆者 土方重巳の世界』の会場入口外の撮影スポット。「サトちゃん」が出迎えてくれます。
その土方の多彩な仕事を紹介する関東初の回顧展が、神奈川県の横須賀美術館にて開催中です。NHKの「おかあさんといっしょ」で人気の人形劇「ブーフーウー」や、誰もが知る佐藤製薬の「サトちゃん」を生み出した土方の足跡とは? 見どころをご紹介します。
東宝映画会社でキャリアをスタート。映画や演劇、バレエのポスターのデザインで才能を発揮する
1915年に兵庫県に生まれた土方は、1933年に帝国美術学校(現・多摩美術大学)の工芸図案科に入学すると、優れた指導者に恵まれ、同級生と研究会を作るなどして活動します。そして卒業年に東宝映画会社に入社し、映画のポスター、新聞・雑誌広告、チラシなどのデザインを担当しました。
「文化映画」のポスターの原画などが並ぶ展示風景。「文化映画」は国家総動員の宣伝のために使われるも、産業や人々の生活、風土、自然科学など幅広い題材を通して記録されたドキュメントでもありました。
また1939年に施行された映画法のもと、映画国策の一環として興行の際に上映が義務付けられた「文化映画」のポスターも制作。3色程度の色調、縦長B3版しか使えないという制約の中においても土方は才能を発揮し、多くのポスターを手がけます。
左:『ハムレット』東京青年劇場公演ポスター 1947年 帝国劇場 右:『白鳥の湖』東京バレエ団結成記念公演ポスター 1946年 帝国劇場 『白鳥の湖』は日本初演のポスターで、装置を藤田嗣治が担当しました。
戦後、東宝が映画宣伝と演劇宣伝を合併すると、土方は演劇のデザインにも携わります。しかし戦後最大の労働争議である「東宝争議」によって東宝を辞職。その後は他社の映画、演劇、バレエのグラフィックデザインの仕事を中心に、舞台装置や装幀といった幅広い仕事を行いました。
『北ホテル』や『大いなる幻影』(ともに日本初公開:1949年)の原画などが並ぶ展示風景。
展示では当時のポスター、チラシなども多数紹介。土方が自ら好きな作品とした『大いなる幻影』のポスターや、現存するものが少ない戦前の映画ポスターの貴重な原画も見どころといえそうです。
飯沢匡との出会いにより子ども向けの仕事へ。大人気の「ブーフーウー」から世界へ羽ばたいた『人形絵本』まで
1949年に土方は、当時『婦人朝日』の編集長を務めていた劇作家の飯沢匡に「子どものものを描かないか」と勧められ、子ども向けの仕事に取り組むようになります。そして初の童画『森の大さわぎ』を制作し、『婦人朝日』にて発表しました。当時、初の童画に戸惑う土方に対し、飯沢は外国のクマのオモチャを貸したり、一緒にリスを探して歩いたりしたといわれています。この飯沢とのコンビは土方が亡くなるまで続きました。
ラジオやテレビ番組をきっかけとした仕事も重要です。1955年、NHKラジオにて好評を博していた『ヤンボウ ニンボウ トンボウ』(翻案・飯沢匡)の絵本版を手がけると、1959年に放送がはじまったNHKテレビ『おかあさんといっしょ』の人形劇「ブーフーウー」をはじめ、「ダットくん」、「とんでけブッチー」といった歴代の人形劇のデザインを担うのです。
そして土方のデザインしたキャラクターたちは、ラジオやブラウン管を飛び出してグッズ化され、高度経済成長期の子どもたちの手に渡りました。
『人形絵本』の並ぶ展示風景。人形絵本は土方のデザインに基づき、登場人物の人形を作り、衣装を着せ、背景などをデザイン画に基づいて作ることからはじまりました。
土方の携わった作品は海外でも人気を呼びます。1952年からはじまった『人形絵本』は、構成と文章を飯沢、デザインを土方、人形制作を川本喜八郎が担い、翌年にかけて「シンデレラ」や「ロビンフッドの冒険」、それに「しらゆきひめ」などが刊行されると、文部大臣奨励賞を受賞するなどして高く評価されます。
左からトッパンの人形絵本『あかいくつ』下絵(1964年)と『ゆきのじょおう』下絵(1963年)鉛筆と色鉛筆、そして水彩を用いて描かれています。
そして絵本は海を越え、アメリカ、フランス、ドイツをはじめとする世界78ヶ国、15ヶ国語にて80種類も出版されました。淡い水彩が施され、土方の息遣いが感じられるような線によって描かれた『人形絵本』の下絵も魅力的ではないでしょうか。
企業広告でも多くの業績を残した土方。日本初の人形アニメーション映画を手がける
手前:『ほろにが君』人形(人形制作:川本喜八郎) 1950年代
この飯沢匡、川本喜八郎とのコンビは、企業広告や誕生間もないテレビCMの分野でも画期的な作品を生み出しました。
『アサヒビール』の傑作ポスター。1950年代、アサヒビールのシンボルキャラクターの『ほろにが君』は、新聞、雑誌などでアサヒビールの広告の顔として活躍し、ストーリー性のある数多くのポスターが制作されました。
まず1950年に朝日麦酒のPR誌『ほろにが通信』にて、土方のデザインを川本が人形にした「ほろにが君」が登場。のちにこの人形を主人公とした企業PR映画であり、日本初の人形アニメーション映画とされる『ほろにが君の魔術師』が制作されます。土方はコマ撮りによる人形アニメーションCMのパイオニアのひとりでもありました。
手前:三ツ矢サイダーCMキャラクター『ドレミファ・コップ』 コップと箱 1969年
そして土方は花王や大丸、ヤマハ、セイコーなど企業のためのデザインを担当していきます。こうしたテレビCMや新聞・雑誌広告などで見られたキャラクターたちの誕生の瞬間を、展示では貴重な原画にてたどることができるのです。
約300体もの「サトちゃん」が大集合!「サトちゃんワールド」で撮影も楽しもう
「サトちゃんワールド」展示風景。象は子どもからお年寄りまで愛される動物園のアイドル的存在で、寿命も約70〜80年と長いことから、製薬会社に相応しいシンボル・キャラクターとして考案されました。
最後にお目見えするのが約300体もの「サトちゃん」による「サトちゃんワールド」です。1959年、皇太子殿下(第125代天皇陛下)のご成婚を記念し、佐藤製薬の店頭ディスプレイ用人形として発表されたオレンジの子象のキャラクター「サトちゃん」は、土方の代表作のひとつ。いまも世代を超えて多くの人々に愛され続けています。
「サトちゃんブック」などが並ぶ展示風景。「サトちゃん」の名前は全国から寄せられた46600通もの応募の中より選ばれました。
展示ではデザインの原画から「サトちゃん」がレイアウトされた佐藤製薬のチラシ、さらに「サトちゃん」がデザインされたさまざまな商品を紹介し、愛らしい「サトちゃん」の世界を存分に味わうことができます。また1959年の最初期に作られ、木製の台座に乗った「サトちゃん」も貴重な作品ではないでしょうか。
木製の台座に乗った「サトちゃん」。オレンジ色は健康的なイメージの明るい色として採用されました。
「サトちゃんワールド」は撮影もOKです。佐藤製薬の永遠のシンボルキャラクター「サトちゃん」と一緒に記念撮影も楽しみましょう!
※展示室外の2体のサトちゃん(佐藤製薬蔵)を除き、すべてNPO法人古き良き文化を継承する会蔵。
展覧会情報
『キャラクターデザインの先駆者 土方重巳の世界』 横須賀美術館
開催期間:2023年2月11日(土)~4月9日(日)
所在地:神奈川県横須賀市鴨居4丁目1番地
アクセス:京急線馬堀海岸駅1番乗り場から京急バス「観音崎」行(須24、馬24)、「観音崎京急ホテル・横須賀美術館前」(約10分)下車、徒歩約2分
開館時間:10:00~18:00
休館日:3月6日(月)、4月3日(月)
料金:一般1000円、大学生・高校生・65歳以上800円、中学生以下無料
https://www.yokosuka-moa.jp/
▼サトちゃん・サトコちゃんの情報が満載!
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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