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2023.3.21
ルーヴル美術館のコレクションからひもとく西洋における愛の概念とは
古代以来、西洋美術の根幹をなすテーマのひとつだった愛。それは古代の神々の愛やキリスト教の愛、また恋人や家族の愛、それに悲劇の愛といったさまざまなかたちで表現され、神話画、宗教画、風俗画などに描かれてきました。
目次
左:ギヨーム・ボディニエ『イタリアの婚姻契約』 1831年 右:ジャン=バティスト・グルーズ『アモルに導かれる「無垢」』、または『ヒュメナイオスの勝利』 1786年頃 ともにパリ、ルーヴル美術館 展示風景
現在、国立新美術館にて開催中の『ルーヴル美術館展 愛を描く』では、同館の所蔵する16世紀から19世紀半ばまでの画家の作品73点によって、西洋における愛の概念がどのように絵画へ描出されたのかをたどっています。見どころをレポートします。
ギリシア・ローマ神話における愛のかたち。セバスティアーノ・コンカの『オレイテュイアを掠奪するボレアス』
フランソワ・ブーシェ『アモルの標的』 1758年 パリ、ルーヴル美術館 展示風景
まず冒頭のプロローグ「愛の発明」にて目を引くのが、18世紀フランスの巨匠フランソワ・ブーシェの『アモルの標的』です。高さ2メートル70センチ近くもある大きな作品で、「神々の愛」をテーマに、道徳的に正しい愛の瞬間を象徴的に描いています。古代神話では神であれ人間であれ、愛の感情はヴィーナスの息子である愛の神アモル(キューピッド)が放った矢で心臓を射抜かれた時に生まれるとされました。
『ルーヴル美術館展 愛を描く』より第1章「愛の神のもとに」展示風景
こうした古代神話における愛をテーマとしたのが、第1章「愛の神のもとに」です。ギリシア・ローマ神話の愛は、相手のすべてを自分のものにしたいという強烈な欲望と一体となっていて、展示ではその欲望を原動力とする神々や人間の愛の展開が絵画でどう表現されたのかを紹介しています。
セバスティアーノ・コンカ『オレイテュイアを掠奪するボレアス』 1715〜1730年頃 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Mathieu Rabeau / distributed by AMF-DNPartcom
セバスティアーノ・コンカの『オレイテュイアを掠奪するボレアス』は、ルネサンス以降の神話画において定番の主題となった、ギリシア・ローマ神話の男性の神々が気に入った女性を誘拐するエピソードを描いたもの。そこには肉体の強さを利用して、愛する者を手に入れようとする男性のギラギラしたような欲望を読み取ることができます。
「聖母子」や「聖家族」に見るキリスト教の愛の概念
左:リオネッロ・スパーダ『放蕩息子の帰宅』 1615年右:シャルル・メラン『ローマの慈愛』、または『キモンとペロ』 1628〜1630年頃 ともにパリ、ルーヴル美術館 展示風景
一方で古代神話の愛とは対照的であるのが、キリスト教の愛の概念です。ここでは子が親を敬う愛の孝心といった、愛する者のために自分を犠牲にする愛が見いだされます。それは聖母マリアと幼子イエスのよる「聖母子」や、彼らを中心に父のヨセフらの集う様子を描いた「聖家族」などに表されました。
サッソフェラート(本名 ジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィ)『眠る幼子イエス』 1640〜1685年頃 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Stéphane Maréchalle / distributed by AMF-DNPartcom
「聖母子」の手本ともいえるのが、サッソフェラート(本名 ジョヴァンニ・バッティスタ・サルヴィ)の『眠る幼子イエス』です。幼子イエスを抱く聖母マリアの表情は慈愛に溢れつつも、わずかな憂いも感じさせ、いずれ十字架にかけられて命を落とす子の運命を暗示しているようにも見えます。
左:マリアーノ・ロッシ『聖アガタの殉教』 1785〜1786年頃 右:ウスターシュ・ル・シュウール『キリストの十字架降下』 1651年頃 ともにパリ、ルーヴル美術館 展示風景
このほかに第2章「キリスト教の神のもとに」では、犠牲的な愛の規範を描くリオネッロ・スパーダの『放蕩息子の帰宅』や受難をテーマとしたウスターシュ・ル・シュウールの『キリストの十字架降下』などを展示し、キリスト教における愛のかたちを紹介しています。
現実世界に生きる人間の愛。ジャン=オノレ・フラゴナールの『かんぬき』が26年ぶりに来日
左:ハブリエル・メツー『若い女性を訪ねる兵士』、または『朝の訪問』 1660〜1661年頃 右:ヘラルト・テル・ボルフ『粋な兵士』、または『男性から金を渡される若い女性』 1660〜1663年頃 ともにパリ、ルーヴル美術館 展示風景
第3章「人間のもとに」のテーマは、現実世界に生きる人間たちの愛です。オランダでは17世紀に入ると身分を問わずに男女の愛の諸相が描かれ、フランスでも18世紀には上流階級の男女が会話やダンスをしながら恋の駆け引きをする場面などが絵画に表されました。
ジャン=オノレ・フラゴナール『かんぬき』 1777〜1778年頃 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom
26年ぶりに来日を果たした18世紀フランス絵画の至宝、ジャン=オノレ・フラゴナールの『かんぬき』が見逃せません。右から光の照らされた暗い寝室にいるのは一組の男女。ふたりは抱き合うような仕草を見せつつも、女性は困惑とも陶酔とも受けとめる表情をしていて、男性から顔をそらしています。一方の男性は右手を伸ばしてかんぬきをかけ、女性の顔をしっかり見据えています。
この後のふたりの行動は一体…? 愛に耽るようでもあり、また暴力に転じかねないようでもあり、一義的には解釈できませんが、その行く末を想像して見るのも面白いのではないでしょうか。
ロマン主義の画家の描いたドラマティックな悲劇の愛とは?
フランソワ・ジェラール『アモルとプシュケ』、または『アモルの最初のキスを受けるプシュケ』 1798年 展示風景
ラストの第4章「19世紀フランスの牧歌的恋愛とロマン主義の悲劇」で特に注目したいのは、悲劇の愛をドラマティックに描いたロマン主義の芸術家の作品です。
アリ・シェフェール『ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊』 1855年 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom
アリ・シェフェールの『ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊』とは、14世紀イタリアの詩人ダンテの叙事詩『神曲』の「地獄篇」に登場するパオロとフランチェスカの悲恋を描いたもの。パオロとフランチェスカの官能的な裸体を対角線上に配置し、それぞれが画面から浮かび上がるように表現しています。
ウジェーヌ・ドラクロワ『アビドスの花嫁』 1852〜1853年頃 パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Franck Raux / distributed by AMF-DNPartcom
イギリスの詩人バイロンが1813年に発表した作品に基づいているのが、ウジェーヌ・ドラクロワ『アビドスの花嫁』です。舞台はオスマン帝国、高官の娘ズレイカと兄(実は従兄)で海賊の首領セリムの恋仲を死が引き裂く悲恋物語が描かれていますが、画面ではふたりが洞窟の前で揉めているようすを表現しています。豊かな色彩と荒々しいタッチはドラクロワならではといえますが、小さな画面ながらも想像力を掻き立てられる作品ではないでしょうか。
左:ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネ(兄)『ウルカヌスに驚かされるマルスとヴィーナス』 右:同『眠るアモルを見つめるプシュケ』 ともに1768年 パリ、ルーヴル美術館
このように展示では誰もが知る名作から日本初公開を含めた隠れた名画を並べつつ、時代などによって多様に展開する愛の諸相をたどり、「愛はどのように描かれてきたのか」を明らかにしています。
ルーヴル美術館の絵画コレクションが日本でまとめて公開されるのは、2018年から翌年にかけ東京と大阪にて開かれた『ルーヴル美術館展 肖像芸術』以来のことです。同展は約70万人を動員するなど大変な人気を集めましたが、愛をテーマとした今回の展覧会も多くの人々の心を掴むに違いありません。
本展のキャッチコピーは「ルーヴルには、愛がある。LOUVREには、LOVEがある。」ルーヴル美術館の名画に宿る愛のストーリーをあなたも探してみてください。
※写真の無断転載を禁じます
▼『ルーヴル美術館展 愛を描く』関連記事はこちら!
https://onl.tw/fiUfEkQ
展覧会情報
『ルーヴル美術館展 愛を描く』 国立新美術館
開催期間:2023年3月1日(水)~6月12日(月)
所在地:東京都港区六本木7-22-2
アクセス:東京メトロ千代田線乃木坂駅青山霊園方面改札6出口より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20時まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日。ただし3/21(火・祝)・5/2(火)は開館、3/22(水)は休館。
観覧料:一般2100円、大学生1400円、高校生1000円、中学生以下無料
https://www.ntv.co.jp/love_louvre/
※京都市京セラ美術館へと巡回。会期:2023年6月27日(火)〜9月24日(日)
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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