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2023.4.5

【レポート】名品揃いなのに、ただの名品展ではない?!『東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密』の見どころ

2022年11月現在、全国にて指定された10, 872件の重要文化財。そのうち明治時代以降の絵画、彫刻、工芸に限ると、重要文化財は何件指定されているか分かりますか?「1000件、500件?それとも100件?」と色々な声が聞こえてきますが、実は68件(※)に過ぎません。※2023年3月現在

川合玉堂『行く春』 重要文化財 1916(大正5)年 東京国立近代美術館 展示期間:3月17日〜5月1日

その68件のうち51件の重要文化財を紹介するのが、東京国立近代美術館にて開催中の『東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密』です。かつてないオール重要文化財の展覧会は見どころも満載。そしてタイトルに記された「秘密」とは?展覧会の魅力をひも解きます。

まず知りたい!重要文化財の定義とは?明治以降の近代美術作品における最初の重要文化財を知ろう

原田直次郎『騎龍観音』 重要文化財 1890(明治23)年 護國寺(東京国立近代美術館寄託) 通期展示

まず重要文化財の定義についておさえておきましょう。重要文化財とは、1950年に公布された文化財保護法に基づき、日本に所在する建造物、美術工芸品、考古資料などの有形文化財のうち、製作優秀で我が国の文化史上貴重なもの等について文部科学大臣が定めたものです。

狩野芳崖『悲母観音』 重要文化財 1888(明治21)年  東京藝術大学 展示期間:4月25日〜5月8日

明治以降の近代美術作品が初めて重要文化財に指定されたのは1955年のこと。狩野芳崖の『不動明王図』と『悲母観音』、そして橋本雅邦の『白雲紅樹』に『龍虎図屏風』の4件でした。

横山大観『生々流転』(部分) 重要文化財 1923(大正12)年 東京国立近代美術館 通期展示

制作されてから最も速く指定されたのは、横山大観の『生々流転』です。大観は山奥の水が渓流となり、大河となって海へ注ぎ、さらに嵐と共に龍と化して天へと還るという水の輪廻を、全長40メートルにも及ぶ画巻に描きました。そして1923年に制作された本作は、44年後の1967年に重要文化財として指定されます。

今でこそ「傑作」の重要文化財もかつては「問題作」だった?

萬鉄五郎『裸体美人』 重要文化財 1912(明治45)年 東京国立近代美術館 通期展示

それでは「秘密」と題した展覧会の核心へと迫りましょう。重要文化財に指定された作品は今でこそ「傑作」の呼び声の高い作品ばかりですが、実は発表された当初はそれまでにない新しい表現を打ち立てたゆえに、さまざまな物議を醸した「問題作」でもありました。

左:藤島武二『天平の面影』 1902(明治35)年 右:青木繁『わだつみのいろこの宮』 1907(明治40)年 ともに重要文化財 石橋財団アーティゾン美術館 通期展示

また古い時代の美術とは異なり、近代美術の指定にあたっては評価が難しいという問題があります。そもそも作られてからあまり時間が経っていないため、本当に価値があるのかどうか見極るのが難しいのです。さらに近代美術そのものが従来の価値観を揺さぶろうとして作られているので、従来のモノサシで価値をはかって良いのかという問題も存在します。

黒田清輝の『湖畔』や高村光雲の『老猿』などから明らかになる重要文化財の秘密

黒田清輝『湖畔』 重要文化財 1897(明治30)年 東京国立博物館 展示期間:4月11日〜5月14日

出展された作品から重要文化財の知られざる「秘密」を解き明かしましょう。まずは誰もが知る名作、黒田清輝の『湖畔』です。箱根の足ノ湖畔に佇む浴衣姿の夫人を描いた作品ですが、重要文化財に指定されたのは意外にも比較的最近の1999年のこと。実は明治100年を記念して1967年から翌年にかけて明治時代の作品がまとめて指定された際、この作品も候補に上がりましたが、最終的には選から外れたのです。

その理由とは…?当時は西洋の価値基準が強く反映されていたからでした。というのも黒田は本作において自覚的に油彩画の日本化を追求したものの、それが「弱々しく、甘ったるい劣作」とされてしまうのです。結果として日本的な主題へ西洋画の技法を融合させた試みが評価されるまで、この後、約30年待たなくてはなりませんでした。

高村光雲『老猿』 重要文化財 1893(明治26)年 東京国立博物館 通期展示

同じく1999年に指定された高村光雲の『老猿』も同様です。早くから明治期の木彫を代表する作品と目されながら指定が遅れたのは、西洋的な造形が優先されたからです。ロダンに学び、優美な裸婦を象った荻原守衛の『女』(※)といった作品の方が先に評価されました。
※1967年指定。

評価のモノサシは時代によって変化する?「重要文化財指定年順年表」から浮かび上がる傾向

初代宮川香山『褐釉蟹貼付台付鉢』 重要文化財 1881(明治14)年 東京国立博物館 通期展示

初代宮川香山の『褐釉蟹貼付台付鉢(かつゆうかにはりつきだいつきばち)』にも注目してください。変形された壺の上には本物そっくりの渡り蟹が象られていて、鮮烈な印象を与えますが、本作が指定されたのは2002年のこと。こうした明治時代の輸出工芸は日本趣味を過剰にまとった欧米向けの土産物として、長らく低く評価されてきました。しかし1990年代以降の研究の進展によって再評価が進み、今では「超絶技巧」を示す作品として脚光を浴びています。つまり評価のモノサシが大きく変化したわけです。

鈴木長吉『十二の鷹』 重要文化財 1893(明治26)年 国立工芸館 通期展示

明治以降の絵画・彫刻・工芸の重要文化財の指定の推移をたどると、さまざまな傾向が浮かび上がります。まず1955年に日本画によって指定が開始した重要文化財は、明治100年記念の1968年前後に指定が集中します。その後、洋画と彫刻の指定がスタートしました。

平福百穂『豫譲』 重要文化財 1917(大正6)年 永青文庫(熊本県立美術館寄託) 展示期間:3月17日〜4月16日

しかし1982年を最後に指定が途切れます。再開したのは1999年。この間、明治美術学会が設立(1984年)されるなど、近代日本美術史の研究が進展します。そして2001年からようやく工芸の指定がはじまります。最近では2022年に鏑木清方の『築地明石町』が新たに指定されました。

「重要文化財指定年順年表」より(会場内)。本展不出品の作品も含め、明治以降に制作された日本画、洋画、彫刻、工芸の重要文化財68件を、制作年順ではなく、重要文化財に指定された順に並べて示しています。

またあくまでも作品本位の指定のため、作家を選定しているわけではありませんが、近代以降の女性の画家で重要文化財の作品が存在するのは上村松園だけなど、思いがけない美術史の裏側も浮き彫りになります。

「MOMATコレクション」にて開催中の重要文化財の関連展示も見逃せない

菱田春草『黒き猫』 重要文化財 1910(明治43)年 永青文庫(熊本県立美術館寄託)  展示期間:5月9日〜5月14日

「重要文化財がただ素晴らしい」のではなく、「どうして作品が重要文化財なのか?」を探る『東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密』。結果的に名品ばかりが揃いましたが、単なる名品展ではない点が、最大の特徴であり、見どころです。

左:藤島武二『匂い』 1915(大正4)年 右:関根正二『三星(さんせい)』 1919(大正8)年 ともに東京国立近代美術館 ※所蔵作品展「MOMATコレクション」、「重文作家の秘密」より

また東京国立近代美術館の所蔵作品展「MOMATコレクション」の4階の1~4室では、「重文作家の秘密」や「からだをひねれば」などと題し、重要文化財ではない作品によって重要文化財を照らし出す企画を展開しています。こちらもお見逃しなきようにおすすめします。

『東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密』パネル(会場外)

展覧会情報

『東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密』
東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
開催期間:2023年3月17日(金)~5月14日(日)
所在地:東京都千代田区北の丸公園3-1
アクセス:東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分
開館時間:9:30~17:00
 ※金曜・土曜は20:00まで
 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし5月1日、8日は開館)
料金:一般1800円、大学生1200円、高校生700円、中学生以下無料
https://jubun2023.jp/

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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