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EVENT

2023.6.9

絵画の中でよみがえる、恐竜の生命の軌跡。上野の森美術館にて『恐竜図鑑』展が開催中!

人類が誕生するはるか前、主に中生代(約2億5000万年前~6600万年前)の地球に生きていた恐竜。その存在が広く知られるようになったのはいつ頃だと思いますか? 実は意外なことに必ずしも大昔というわけではなく、約200年前、つまり19世紀のことでした。

小田隆『追跡1』 2000〜01年 群馬県立自然史博物館

左からズデニェク・ブリアン『イグアノドン・ベルニサルテンシス』(1950年)、『タルボサウルス・バタール』 1970年 ともにモラヴィア博物館、ブルノ

1822年にイギリスで最初の恐竜の化石が発見されると、人々は化石などの痕跡から想像をふくらませ、絵画を主な手段として恐竜のすがたを描いてきました。そうした恐竜のイメージに着目した『恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造』が、上野の森美術館にて開催中です。

謎の恐竜たちがいっぱい…19世紀に描かれた黎明期の恐竜の作品。

ジョージ・シャーフ(ヘンリー・デ・ラ・ビーチによる)『ドゥリア・アンティクィオル(太古のドーセット)』 1830年 ロンドン自然史博物館

まず最初に紹介されるのは19世紀に描かれた黎明期の作品です。イギリスの化石採集者、メアリー・アニングは次々と恐竜の化石を発見するなどして功績を残したものの、わずかな報酬しか得られませんでした。そこで友人の地質学者、ヘンリー・デ・ラ・ビーチは、彼女を経済的に援助するために、恐竜などの古生物を復元した原画から版画を制作します。

ロバート・ファレン『ジュラ紀の海の生き物―ドゥリア・アンティクィオル(太古のドーセット)』 1850年頃 ケンブリッジ大学セジウィック地球科学博物館

それを後年になって画家、ロバート・ファレンが油彩画に拡大して描いたのが『ジュラ紀の海の生き物―ドゥリア・アンティクィオル(太古のドーセット)』です。しかしその描写はどこかシュール。魚竜のイクチオサウルスが首長竜のプレシオサウルスを襲うなど、現代では考えられない光景が表されています。

ジョン・マーティン『イグアノドンの国』 1837年 ニュージーランド国立博物館テ・パパ・トンガレワ、ウェリントン

19世紀では恐竜に対する研究が進んでいなかったため、ほとんどイマジネーションで描かれていたのが実情でした。たとえばジョン・マーティンの『イグアノドンの国』もそのひとつ。イグアノドンががぶりと噛みつかれていますが、鼻の上にツノがあるなど、現代とはほぼ別のすがたをしています。おそらく歯がイグアナに似ていたため、イグアナを巨大化して描いたと考えられています。

ベンジャミン・ウォーターハウス・ホーキンズ『白亜紀の生き物ーニュージャージー』 1877年 プリンストン大学地球科学部、ギヨー・ホール

ベンジャミン・ウォーターハウス・ホーキンズの『白亜紀の生き物ーニュージャージー』や『ジュラ紀初期の海棲爬虫類』もユニークではないでしょうか。そこには恐竜の復元したすがたというよりも、空想上の物語画を思わせるような世界を見ることができます。

2大巨匠が夢の競演!チャールズ・R・ナイトとズデニェク・ブリアンの描いた恐竜とは?

チャールズ・R・ナイト『ステゴサウルス』 1901年 アメリカ自然史博物館

1878年から80年にかけて、ベルギーにてイグアノドンの化石が多く発掘されると、従来の復元のすがたは大きく修正を迫られました。そしてアメリカで「化石戦争」と呼ばれる発掘競争によって次々と新しい恐竜が発見されると、動物画家のチャールズ・R・ナイトがビジュアル化し、古典的な恐竜のイメージの規範として多くの人々に影響を与えました。

ズデニェク・ブリアン『アントロデムス・バレンスとステゴサウルス・ステノプス』 1950年 ドヴール・クラーロヴェー動物園

一方、ナイト以後の世代の画家として重要なのが、チェコスロバキアで活動したズデニェク・ブリアンです。化石発掘の中心地であるアメリカから遠く離れていたにも関わらず、優れた才能を発揮したブリアンは恐竜をリアリティに富んだすがたで描き出します。そして一連の作品は『前世紀の生物』をはじめとする書籍によって世界中へと拡散し、多数の模倣者を生み出すと、日本でも人気を呼びました。

左からニーヴ・パーカー『イグアノドン』、『ヒプシロフォドン』 ともに1950年代 ロンドン自然史博物館

ブリアンと同時代に活動したイギリスのニーヴ・パーカーの作品も見どころです。古生物学者とタッグを組んだパーカーは、イギリスの新聞に古生物画を解説とともに発表して評判を得ます。威風堂々たるティラノサウルスの直立像も魅力的ですが、現在では否定されている「木登り恐竜」ことヒプシロフォドンを描いた作品も面白いかもしれません。

日本における恐竜の受容とは?立体模型から漫画原画、ファインアートまで。

島津製作所『前世紀動物模型(ブロントサウルス)』 1912〜45年頃 金沢大学資料館

日本における恐竜の受容史にも目を向けましょう。19世紀に欧米で成立した恐竜の概念やイメージは、世紀末に日本へ移入されると、明治末期から昭和初期にかけて活動した古生物学者、横山又次郎によって「Dinosaur」が「恐竜」として訳されます。

所十三『vol.1「掟」』 『DINO2』漫画原稿 2002年 作家蔵

以来、科学雑誌や子ども向けの漫画、またジュール・ヴェルヌといった古典SFの翻訳など、恐竜を取り上げた出版物が刊行されるとともに、恐竜のすがたを模した玩具や立体模型も数多く制作されました。

福沢一郎『爬虫類はびこる』 1974年 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館

そして展覧会では国内有数の恐竜グッズの収集家である田村博のコレクションを中心に、明治や昭和にかけて登場したさまざまな恐竜を紹介。加えて恐竜をテーマにした漫画家の所十三の代表作『DINO2』や、同じく恐竜をモチーフとした福沢一郎や立石紘一などのファインアートも展示されています。

進化する恐竜アート。「恐竜ルネサンス」以降の展開を追いかける。

ショーン・マーサ『ホースシュー・キャニオンでの遭遇』 1997年 インディアナポリス子供博物館(ランツェンドルフ・コレクション)

1960年代から70年代にかけて恐竜研究は大きな転換点を迎えました。というのも古生物学者、ジョン・オストロムにより、恐竜はそれまでに考えられていた鈍重な変温動物ではなく、活発に活動する恒温動物であるという見解が示されたのです。これが「恐竜ルネサンス」と命名されると、「ジュラシック・パーク」のような映画などを通して広く一般にも浸透していきました。

マーク・ハレット『ディプロドクスの群れ』 1991年 福井県立恐竜博物館

この「恐竜ルネサンス」以降、新たな知見によって得られた恐竜を表現する画家や彫刻家が多く出現しました。

ダグラス・ヘンダーソン『ティラノサウルス』 1992年 インディアナポリス子供博物館(ランツェンドルフ・コレクション)

アメリカのダグラス・ヘンダーソンは、恐竜そのものだけでなく風景、つまり恐竜を当時の生息環境とともに描き出す作風で知られ、パステルを駆使して太古の世界の光や影、それに空気感などまでも巧みに表しています。まるでシルエットのように風景に溶け込む恐竜のすがたも魅力ではないでしょうか。

『恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造』展示風景

さらにファンタジーアートでも人気を呼ぶウィリアム・スタウトや、現代の日本で活躍する画家の小田隆や古生物造形作家の徳川広和などの作品も展示し、進化し続ける恐竜アートのいまを楽しむことができます。

「イグアノドンの復元像の変遷」展示風景

約200年前の最初に発見された恐竜のひとつであるイグアノドンは、19世紀半ばには四つん這いとして描かれていました。しかし全身骨格が発見されると、20世紀半ばにはゴジラのようなすがたに変身。しかしさらなる研究が進んだ現代では、すばしっこそうな身体として表現されています。

『恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造』フォトスポット

博物館でも化石でもない、恐竜アートに注目した美術館での恐竜展にて、人間が表現してきた恐竜のすがたの変遷をたどってください。

展覧会情報

『恐竜図鑑 失われた世界の想像/創造』 上野の森美術館
開催期間:2023年5月31日 (水) 〜7月22日(土)
所在地:東京都台東区上野公園1-2
アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ・京成電鉄上野駅より徒歩5分
開館時間:10:00~17:00
 ※土日祝は9:30開館
 ※入場は閉館の30分前まで
会期中無休
観覧料:一般2300円、大学・専門学生1600円、高・中・小学生1000円
https://www.ueno-mori.org/
https://kyoryu-zukan.jp/

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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