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EVENT

2023.6.29

リアルとファンタジーが交錯する。彫刻家・三沢厚彦の個展が千葉市美術館にて開催中!

日本を代表する彫刻家の三沢厚彦(1961年生まれ)を知っていますか? 京都で生まれ育った三沢は幼少期から仏像に親しむと、東京藝術大学および同大学院で彫刻を学び、1990年代に流木などを寄せ集めて制作された「コロイドトンプ」シリーズにて注目を浴びます。

手前:三沢厚彦『Animal 2020-03』 2020年

そして2000年に動物のすがたを等身大で彫った木彫「ANIMALS」シリーズの制作をスタート。クマやトラ、キリンといった動物から、近年は空想上の生き物である麒麟やキメラなどの作品で人気を集めてきました。

『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』展示作品

「白いライオン」がお出迎え。「ANIMALS」の素材と制作方法とは?

『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』展示作品

千葉市美術館にて開催中の『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』では、1990年代の初期未発表作から、代表作の「ANIMALS」シリーズ、そして2023年の最新作「キメラ」のほか、作家の撮影・演奏による映像『Pulse moment』など220点あまりの作品を展示。千葉県では初めての個展で、関東の美術館では2018年の横須賀美術館以来、約5年ぶりとなります。

三沢厚彦『Animal 2016-01』 2016年

まず最初の展示室で出迎えてくれるのは白いライオン。「ANIMALS」の代表的な作品のひとつです。「ANIMALS」では「木を彫りたい」との思いから、木の硬さや彫り味が良いとする樟(クスノキ)を使用し、丸太からチェーンソーと鑿(のみ)によって彫り出していきます。実際に会場内に入ると樟の香りがほのかに感じられます。※ブロンズによる作品も展示。

三沢厚彦『Animal 2013-01』 2013年

大きな動物の場合は、木彫仏の造像技法のひとつで、木を組み合わせる「寄木造」にて作られます。そして油絵具によって丁寧に彩色が施されます。動物たちは具象的で現実に目の前にいるにも関わらず、どこか飄々とした、別の世界からやってきたようなファンタジックな存在に見えるのも、「ANIMALS」の魅力といえるでしょう。

美術館全体が会場に!ネオ・ルネサンス様式の「さや堂ホール」の展示が見逃せない。

『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』展示作品

さて「Multi-dimensions」、つまり多次元をテーマとした今回の最大の見どころは、企画展示室だけでなく、美術館の建築物全体が会場となっていることです。

三沢厚彦『Animal 2011-07』 2011年 ※8階ロビーでの展示風景

千葉市美術館は、大谷幸夫よる階段状に設計された建築や、戦前の銀行建築を保存したさや堂ホールを特徴としていますが、展示ではさや堂ホールをはじめ、建物内のさまざまな場所に作品を設置。エレベーターホールやロビー、さらにはびじゅつライブラリー(図書室)など思わぬ場所にて「ANIMALS」と出会うことができます。

手前:舟越桂『青い体を船がゆく』 2021年 奥:三沢厚彦『Animal 2010-10』 2010年 ※さや堂ホールでの展示風景

中でもひとつのハイライトと化しているのが、さや堂ホールでの展示ではないでしょうか。ネオ・ルネサンス様式の旧川崎銀行千葉支店を保存した同ホールでは、三沢の「ANIMALS」のペガサスとともに、舟越桂の『青い体を船がゆく』といった彫刻や杉戸洋の『おほしさま』などの絵画が展示されていて、互いの作品が響き合う光景を見ることができます。

三沢厚彦『Animal 2013-B』 2018年 ※びじゅつライブラリーでの展示風景

またびじゅつライブラリーではヒョウが身を構えていたり、常設展示室では浮世絵や屏風のそばに小さなセミやカエルが潜んでいたりと、かつてないような古美術との出会いも果たしています。「こんなところにもANIMALSが!」という驚きと発見に満ちた展示でもあるのです。


「中庭部屋」での滞在制作も実施。初期作から美術館のコレクションとのコラボレーションまで。

『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』より「中庭部屋」展示風景

見どころはこれだけに留まりません。大谷が建築において重視した「中庭」という思想に着想を得た三沢は、滞在制作を行う場所を展示室内に設け、「中庭部屋」と名付けました。

「中庭部屋」での三沢厚彦 ※記者内覧会時に撮影

この部屋では会期中、三沢が新作の制作や作品の補修を行うほか、音楽家の山本精一によるライブイベントも予定されています。(事前申込制)さらに7月14日からは子どもアトリエにおいて「つくりかけラボ12 三沢厚彦|コネクションズ 空洞をうめる」も開催。三沢本人と三沢を中心に活動するアートコレクティブ「コネクションズ」のメンバーが、来場者とともに千葉の街から着想を得たプロジェクトを展開します。(10月15日まで)

三沢厚彦『人魚と魚』 2023年

このほか、千葉市美術館の所蔵作品である長谷川潔の『水浴の少女と魚』から着想を得た新作『人魚と魚』も公開。また「ANIMALS」 以前に手がけていた「コロイドトンプ」シリーズの作品も展示されています。

三沢厚彦『コロイドトンプ(ヒトウマ)』 1998年

美術館のコレクションとの新たなコラボはもちろん、1990年年代の初期の未発表作など、三沢の知られざる制作も注目の展示といえそうです。


「多次元」の象徴としてのキメラ。その神秘的なすがたを目に焼き付けよう。

三沢厚彦『Animal 2020-01』 2023年

ラストの展示室では、近年、三沢が制作に注力するキメラが登場。四つ脚のキメラに加え、最新作となる二本脚で立ち上がるキメラが暗がりの空間へ浮かびがるように置かれています。

右:三沢厚彦『Animal 2020-01』 2023年 左奥:三沢厚彦『Animal 2020-03』 2020年

「キメラのことを考えていると、多次元の存在を感じる瞬間がありそうだ。」との言葉を記す三沢。ギリシア神話の生物「キマイラ」に由来するキメラは、それぞれ違う意志を持った生物が共存する状態にあるともいえます。まさに多次元をテーマとする展覧会の象徴であり、三沢のいまの関心を最も反映した作品と位置付けることもできるでしょう。

三沢厚彦『Animal 2010-10』 2010年 ※さや堂ホールでの展示風景

「中庭部屋」などにて制作された新作は、会期中に新たな作品として公開される場合もあります。つまり会場は変化し続けるのです。※2回目以降の観覧料が半額になるリピーター割引も実施。

『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』展示作品

「コロイドトンプ」から「ANIMALS」のキメラへと至る三沢の30年を超える創作の軌跡を、千葉市美術館だけのオリジナルな展示にてたどってください。

展覧会情報

『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』 千葉市美術館
開催期間:2023年6月10日(土)~9月10日(日) 
所在地:千葉県千葉市中央区中央3-10-8
アクセス: JR線千葉駅東口から徒歩約15分。京成バス(バスのりば7)から大学病院行または南矢作行にて中央3丁目または大和橋下車徒歩約3分。千葉都市モノレール葭川(よしかわ)公園駅より徒歩5分
開館時間:10:00~18:00
 ※金・土曜日は20:00まで
 ※入館は閉館の30分前まで
休室日:6月12日(月)、19日(月)、26日(月)、7月3日(月)、10日(月)、18日(火)、8月7日(月)、21日(月)、9月4日(月)
※第1月曜日は全館休館
料金:一般1200円、大学生700円、高校生以下無料
 ※ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18:00以降は観覧料半額
https://www.ccma-net.jp

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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