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2024.3.19
100点を前後期に分けて全点公開!太田記念美術館の『月岡芳年 月百姿』が見逃せない。
幕末から明治時代前半にかけて活躍した浮世絵師の月岡芳年(つきおか よしとし 1839〜92年)。12歳にて歌川国芳に入門すると、師に倣った武者絵や歴史画を中心に、美人画や戯画などの作品を手がけました。
目次
その芳年が晩年にかけて制作したのが、月にちなんださまざまな物語を100点描いたシリーズの『月百姿』(つきひゃくし)です。4月3日より太田記念美術館でははじまる『月岡芳年 月百姿』では、『月百姿』100点を前期と後期に分けて全点公開します。
全100点の刊行から僅か2ヶ月後に世を去る。芳年の晩年の代表作『月百姿』。
まず『月百姿』が作られた経緯について知っておきましょう。芳年が『月百姿』を手がけはじめたのは明治18年、数え47歳の時でした。刊行がスタートしてから翌年6月頃までには全体の3分の1ほどが完成し、その後はペースが落ちるものの、明治24年に6月頃までにコンスタントに発表し続けます。
しかし同年7月に「脳充血」、「鬱憂狂」、「癩狂病」などと記された神経の病にかかり入院すると、残り3点を残して刊行が滞ってしまいます。実は芳年は明治5年〜6年頃にも強度の神経衰弱を患ったことがあり、この時は1年ほどで回復しましたが、今回は同じようになりませんでした。
明治25年4月になって、残りの『むさしのの月』、『猿楽月』、『いでしほの月』が刊行。この3点は元々版下絵があり、門人の水野年方が色ざしをしたとも言われていますが、ようやく全100点が揃いました。
ところが芳年は全100点の刊行から僅か2ヶ月後、数え54歳という若さで世を去ってしまいます。まさに『月百姿』は病に侵されてもなお、渾身の力を振り絞って完成させた晩年の代表作なのです。
美人画から武者絵、さらに風俗画から説話まで。『月百姿』に登場するさまざまな題材とは?
『月百姿』にはどのようなモチーフが描かれているのでしょうか。月にちなんだ物語や説話を出典とする『月百姿』には、日本や中国の女性を描いた美人画や、戦国時代の武将たちが登場する武者絵、さらに幽霊や妖怪らの説話を題材にした作品や、江戸の町で暮らす人々の風俗画など、さまざまなヴァリエーションがあります。
このうち特に目立つと指摘されるモチーフが、謡曲(ようきょく)と関連した作品です。ここでは『大物海上月 弁慶』や『五條橋の月』など、江戸時代の浮世絵でも頻繁に描かれた弁慶や牛若丸なども登場しますが、幽霊姿の夕顔を表した『源氏夕顔巻』といった、謡曲に依拠しながらも芳年に独特な表現を見ることもできます。
明智光秀や家臣といった、江戸時代の武者絵ではあまり取り上げられない人物たちが多く含まれているのも特徴です。2人以上の人物を描かず、複数の人物が登場するような場面でもひとりの人物にスポットを当て、動と静の対比を強調したような構図も魅力と言えます。
芳年の描いた「月」とともに楽しみたい、弟子たちの「花」と「雪」の世界。
月岡芳年「月百姿 はかなしや波の下にも入ぬべしつきの都の人や見るとて 有子」(後期展示)
太田記念美術館での『月岡芳年 月百姿』では、月にちなんだ物語を題材とする『月百姿』を、音曲や和歌、謡曲、人々の暮らしなど、描かれている題材を切り口に紹介します。
『月百姿』の版元である秋山武右衛門からは、芳年の門人である水野年方と新井芳宗の揃物も刊行されました。そして年方の『三十六佳撰』は花を連想させる美人たちを、新井芳宗の「撰雪六六談」は雪にまつわる故事を題材としています。
本展ではこうした弟子たちによる「花」と「雪」も合わせて紹介し、芳年の描いた『月百姿』の「月」とともに楽しむことができます。
はかなく物悲しい女性たちから、内に熱い感情を秘めた武将、さらに神仏に近いような泰然とした妖怪や幽霊、また友人との別れや運命に悲しむ人々などを描いた『月百姿』には、時に静謐でかつ時にドラマティックな100の物語が表現されています。
芳年が晩年に達した画業の集大成とも言える『月百姿』を、太田記念美術館にて目に焼き付けてください。
※参考文献・出典:『月岡芳年 月百姿』 青幻舎 日野原健司 (著)、太田記念美術館 (監修)
展覧会情報
『月岡芳年 月百姿』 太田記念美術館
開催期間:2024年4月3日(水)~5月26日(日)
※前期:4月3日(水)~4月29日(月・祝)、後期:5月3日(金・祝)~5月26日(日)
※前期と後期で全点入れ替え。
所在地:東京都渋谷区神宮前1-10-10
アクセス:JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分
開館時間:10:30~17:30
※入館は17:00まで
休館日:月曜日(4月29日と5月6日は開館)、4月30日〜5月2日(展示替えのため)、5月7日。
観覧料:一般1000円、大高生700円、中学生以下無料
公式サイト:『月岡芳年 月百姿』 太田記念美術館

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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