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2024.3.27
「最後の四条派」と称された木島櫻谷の「四季連作屏風」の全点公開、円山・四条派の画家たちとの動物画の競演。
四条派の伝統を受け継いだ技巧的な写生力と情趣ある画風で、「大正の呉春」「最後の四条派」とも称され、明治から昭和初期にかけて活躍した画家、木島櫻谷の展覧会が六本木・泉屋博古館東京で2024年5月12日まで開催されています。
展覧会の見どころは、住友家旧邸に飾られていた櫻谷の「四季連作屏風」の全点公開。もう一点の見どころは、円山応挙をはじめとする円山・四条派の画家たちと櫻谷の作品を通じて、櫻谷の追求した写生の深みに迫ることができることです。泉屋博古館東京の野地耕一郎館長のレクチャーを基に、展覧会の章ごとのハイライトを紹介していきます。
目次
一章 四季連作屏風のパノラマ空間へ、ようこそ 〜金地の大屏風「四季連作屏風」の完全公開
木島櫻谷《燕子花図》 大正6年(1917)泉屋博古館東京(撮影:筆者)
展示される櫻谷による四季をテーマにした金地の大屏風は、《柳桜図》、《燕子花図》、《菊花図》、《雪中梅花》の4作品から成り立ち、大正中期に大阪の茶臼山、住友家本邸のために約2年の期間をかけて、大正6~7年に制作されました。
その高さは従来の本間屏風の約175cmよりひと回り大きい200cm近くに及び、大座敷の壮大さに合わせた迫力のあるサイズで製作されました。四季ごとに変えられるこの屏風絵は、四季の移ろいを映し出すだけでなく、大正時代に流行した琳派や応挙などの過去の名作への敬意を表したオマージュの側面もありました。
《燕子花図》と《雪中梅花》において、櫻谷は過去の名作、具体的には尾形光琳の《燕子花図屏風》や、応挙による《雪松図屏風》へのオマージュを表現しつつも、櫻谷独自の技法と解釈でこれらのテーマを再構築しています。このアプローチは、櫻谷が西洋画、特に浅井忠から学んだ油絵の技法を日本画に取り入れることで、伝統的な主題に新たな息吹を吹き込みました。
例えば、《柳桜図》では、櫻谷は幹の部分に半円形で下地を塗り、その上から重ね塗りをする技法を用いています。この方法は、西洋画における厚塗りの技法を日本画に応用したものであり、作品に立体感と深みを与えています。
木島櫻谷《柳桜図》 大正6年(1917)泉屋博古館東京(撮影:筆者)
また、《雪中梅花》においては、応挙が用いた塗り残しによる雪の表現とは異なり、櫻谷は胡粉を油絵のように豊富に使用し、雪を表現しています。これにより、絵画における雪の質感と明るさが強調され、視覚的に豊かな効果を生み出しています。
木島櫻谷《雪中梅花》 大正7年(1918)泉屋博古館東京(撮影:筆者)
木島櫻谷《雪中梅花》(部分) 大正7年(1918)泉屋博古館東京(撮影:筆者)
遠目からの鑑賞では、過去の名作のオマージュを、間近で見た際には、油絵技法などを日本画に取り入れた独自の表現方法が見どころになっています。
二章 「写生派」先人絵師たちと櫻谷 〜円山・四条派の画家たちと花鳥、動物画の競演
応挙による「生写し」技法は、日本画に新たな写実性をもたらしました。応挙は中国や西洋の画法を取り入れ、直接観察に基づく生き生きとした自然描写を追求し、これが日本画の写実表現を大きく進化させました。応挙の写生技法では、輪郭線を使わずに直接着色する方法と付立て技法が特徴です。これにより、物体のリアリスティックな質感と立体感が表現され、視覚的な現実感が強化されました。
詳細な描写を加筆することで写実性を高めていく四条派、筆使いを抑えることで雰囲気や内面性を表現していく円山派、またその技法が融合されてきたこともあり、円山・四条派という呼ばれ方に落ち着いていきます。円山・四条派の写生を基にした動物画の特色を掘り下げ、先人の画家たちの作品と比較しながら、櫻谷の動物画も紹介します。
白井直賢は円山応挙の愛弟子の一人で、「ネズミの直賢」として知られるほどネズミの絵を得意としていました。直賢の《福寿草鼠図》は、特に細かい毛の描写に優れており、その技法は面相筆と呼ばれる非常に細い筆を使用して行われます。この筆によって、ネズミの体毛の柔らかさをリアルに再現し、漆黒の瞳を通じてネズミの魅力を引き出しています。直賢の作品は、緻密な表現による動物の生命感と愛らしさを捉えることに成功しています。
白井直賢図・本居大平賛《福寿草鼠図》(部分)(18-19世紀)泉屋博古館(撮影:筆者)
伝・森徹山による《檀鴨・竹狸図》は、円山派から派生した森派の系譜に属します。この作品では、色を使って塊を捉え、手書きで細部を加える付立て技法が見られ、円山派特有のリアリスティックな表現を見せています。狸の表情、そして細やかに表現された体毛の描写が、徹山の繊細な技巧と円山派伝統の写実的なアプローチを示しています。
伝・森徹山《檀鴨・竹狸図》(部分) 江戸時代(19世紀)泉屋博古館東京(撮影:筆者)
森徹山の狸の作品と並べて展示された櫻谷の《秋野老狸》は、徹山の細かい毛描きに対して、やや減筆した表現が用いられています。櫻谷は毛の描写を控えめにすることで、写実性とともに、動物の内面性や老狸の哀愁を表現しています。
木島櫻谷《秋野老狸》(部分) 昭和初期頃(20世紀)個人像(撮影:筆者)
櫻谷の《狗児図》は、減筆系の表現方法を用いながらも子犬の魅力を最大限に引き出しています。体の輪郭線を用いて体格を示す一方で、その強弱によって体の柔らかさや立体感を巧みに表現しています。
顔のディテールは付立て技法で素早く表現されていますが、この減筆によるアプローチが子犬のリアリティを損なうことはなく、むしろその愛らしさや眠っている様子をより際立たせています。櫻谷はこの方法で、子犬の外見だけでなく、その無邪気な魅力と静かな存在感を捉えています。
木島櫻谷《狗児図》(部分) 大正時代(20世紀)個人像(撮影:筆者)
森一鳳の《猫蝙蝠図》に描かれた猫は、円山派の減筆系の画法で表現されています。この作品で注目すべきは、猫の毛並みを直接的な毛描きではなく、付立て技法を用いた濃淡と滲みで巧みに表現している点です。
このアプローチは円山四条派の筆の使い方の精妙さを示しており、画面上で猫の質感と生命感を生き生きと捉えています。さらに、一鳳はいたずらな雰囲気を演出することで、猫に人格を吹き込んでいます。これは近代の写生における特徴であり、動物を単なる被写体ではなく、独自の個性を持つ主体として捉える新しい試みを反映しています。
森一鳳《猫蝙蝠図》(部分) 江戸時代(19世紀)泉屋博古館(撮影:筆者)
三章 櫻谷の動物たち、どこかヒューマンな。 〜動物たちに人間的な感情を吹き込む独自のスタイル
櫻谷は「技巧派」や「最後の四条派」と評されながらも、その本質は古典に近代性を融合し、動物たちに人間的な感情を吹き込む独自のスタイルでした。彼の描く動物は生き生きとしており、観る者の心に深く訴えかけます。この斬新なアプローチにより、櫻谷は日本画に新たな視点を提供しました。
櫻谷の《獅子虎図屏風》では、明治37年に実物のライオンを基に描かれています。興味深いのは、竹内栖鳳の作品との類似性ですが、櫻谷のライオンにはより人格的な特徴が見て取れます。この作品は、実際に観察したライオンを通じて、櫻谷が独自の解釈と表現を加えた結果生まれたものです。
木島櫻谷《獅子虎図屏風》(部分) 明治37年(1904)個人蔵(撮影:筆者)
展示されている鹿の軸絵3点は、年代順に並べられ、円山派の細やかな毛描きから始まり、四条派の減筆へと進化し、最終的には近代の表現スタイルへと移行しています。
この過程で、画法は徐々に減筆傾向になる一方で、鹿を描く際の擬人化やヒューマンな表現の傾向が強まっていることが観察できます。これは、時代の流れと共に、動物画においても人間と動物との関係性の捉え方が変化してきたことを示しています。
木島櫻谷《双鹿図》(部分) 明治30年代(20世紀) 個人蔵(撮影:筆者)
木島櫻谷《雪中孤鹿》(部分) 明治30年代末頃(20世紀)個人像(撮影:筆者)
さいごに
櫻谷が描こうとしたのは、「生」すなわち「いのち」の在り様をまざまざと写しとることだった。と野地耕一郎館長は締めくくり、本展覧会の伝えたいことではないかと思いました。
この展覧会は、櫻谷作品の鑑賞だけでなく、櫻谷の研究成果を発表する場としても位置づけられています。また、2027年に予定されている櫻谷の生誕150年と没後90年を記念する大規模回顧展への期待が示され、櫻谷ファンにとっては今後も彼の深い探求を楽しみにすることができることが伝えられました。
開催概要
展覧会名:企画展 ライトアップ木島櫻谷 ― 四季連作大屏風と沁みる「生写し」
会期:2024年3月16日(土)〜5月12日(日)
会場:泉屋博古館東京
住所:東京都港区六本木1丁目5番地1号
開館時間:11:00~18:00 ※金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
※金曜日は19:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、4月30日(火)、5月7日(火)。(4月29日、5月6日は開館)
入館料:一般1,000円(800円)、高大生600円(500円)、中学生以下無料
※20名様以上の団体は( )内の割引料金
※障がい者手帳等ご呈示の方はご本人および同伴者1名まで無料
展覧会詳細ページ:ライトアップ木島櫻谷 ― 四季連作大屏風と沁みる「生写し」
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
主催:公益財団法人泉屋博古館、毎日新聞社
画像ギャラリー
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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