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2022.5.20

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート

世界遺産の街、エディンバラの中心部に位置するスコットランド国立美術館。1859年の開館以来、西洋絵画の巨匠たちとともに、スコットランドやイングランド出身の画家のコレクションを拡充し、ヨーロッパでも優れた美術館として地位を築いてきました。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートジョシュア・レノルズ『ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち』 1780-81年

東京都美術館にて開催中の『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』、通称『THE GREATS』では、同館のコレクションから選りすぐりの93点の作品を紹介。イギリスの絵画とともに、ルネサンス期から印象派までの西洋絵画史をたどることができます。見どころをレポートします。

作品総数全93点。「プロローグ」で目に焼き付けたい麗しの水彩画

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート東京都美術館で開催中の『THE GREATS』会場入口。

まずは『THE GREATS』の見取り図として、展示の構成について押さえておきましょう。会場の東京都美術館の企画展示室はLB階、1階、2階の3フロアに分かれています。LB階の「プロローグ」にはじまり、「ルネサンス」と「バロック」、そして1階に「グランドツアーの時代」、また1階と2階にまたがって「19世紀の開拓者たち」の展示が続いて「エピローグ」、そしてスコットランド美術館を紹介する映像コーナー、最後にグッズを扱う特設ショップがあります。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートジェームズ・バレル・スミス『エディンバラ、プリンシズ・ストリート・ガーデンズとスコットランド国立美術館の眺望』 1885年

「プロローグ」では、ジェームズ・バレル・スミスの『エディンバラ、プリンシズ・ストリート・ガーデンズとスコットランド国立美術館の眺望』や、アーサー・エルウェル・モファットの『スコットランド美術館の内部』といった、エディンバラや美術館そのものをモチーフにした水彩画が展示されています。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートアーサー・エルウェル・モファット『スコットランド国立美術館の内部』 1885年

これらは必ずしも大きな画面ではありませんが、瑞々しい色彩などに魅力あふれる作品ばかりです。元々、油彩の習作や素描の色付けとして描かれていた水彩を、国民的芸術へと引き上げたのはイギリスであることは知られていますが、じっくり見ておきたい作品ではないでしょうか。

卵が固まるようすに大注目!スペインの画家、ベラスケスの『卵を料理する老婆』の魅力とは

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートアンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)『幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)』 1470年頃

ルネサンス、バロックにおいても見逃せない作品が少なくありません。まずルネサンスで注目したいのは、レオナルド・ダ・ヴィンチの師だったヴェロッキオに帰属する『幼児キリストを礼拝する聖母』です。同時代の聖母子像としては異例の壮大な古代建築を背景に描いていますが、19世紀イギリスの有力な評論家で芸術家であったジョン・ラスキンの所蔵品だったことから、通称「ラスキンの聖母」と呼ばれています。なお廃墟となった建物は、キリスト誕生の瞬間に崩壊したという伝説が残る、ローマのテンピオ・デッラ・パーチェ(平和の神殿)を表していると考えられています。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートディエゴ・ベラスケス『卵を料理する老婆』 1618年

バロックでは、スペインの宮廷画家、ディエゴ・ベラスケスの『卵を料理する老婆』も見ておきたい作品です。スペインにおいて台所や居酒屋の場面を描いた作品を「ボデゴン」と呼びますが、左手で卵を持ち、調理する老婆のすがたや少年の肌や衣服の質感、また食器などの質感を実に巧みに描き分けています。中でも調理中の卵の白身が固まりつつある描写は絶品ではないでしょうか。これをベラスケスは18歳か19歳の時に制作したというから、高い画力に舌を巻くものがありました。

レーバーンからケインズバラ、そしてレノルズまで。スコットランド美術館が誇る珠玉の肖像画たち

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート右:ヘンリー・レイバーン『ウィリアム・クルーンズ少佐(1830年没)』 1809-11年頃 左:フランシス・グラント『アン・エミリー・ソフィア・グラント (”デイジー”・グラント)、 ウィリアム・マーカム夫人 (1836-1880)』 1857年

さて『THE GREATS』、「スコットランドやイングランドの画家の作品もたくさん見たい!」と思われる方も少なくないかもしれません。そうした期待に応えてくれるのが、「グランドツアーの時代」と「19世紀の開拓者たち」の展示です。パリやロンドン、ヴェネツィアなどで芸術が花開いた18世紀、イギリスでは肖像画が発展し、ゲインズバラやレノルズ、ラムジーといった画家が活躍。同時にこの時代はイギリスのコレクターが美術品の購入や教養を深めるため、イタリアを中心地とする地域へ「グランド・ツアー」と呼ばれる旅行をしました。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートジョシュア・レノルズ『ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち』 1780-81年

ジョシュア・レノルズの『ウィルドグレイヴ家の貴婦人たち』がとびきりの名画として輝いています。肖像画の地位を高めることに尽力したレノルズは、18世紀のイギリスを代表する肖像画家として活躍。絹糸を巻き、絹レースに取り組む3人の若い姉妹の肖像画を描きました。「三美神」の世界を思わせる優雅で上品な世界に目を見張ります。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートトマス・ゲインズバラ『ノーマン・コートのセリーナ・シスルスウェイトの肖像』 1778年頃

レノルズのライバルであったトマス・ゲインズバラの『ノーマン・コートのセリーナ・シスルスウェイトの肖像』も見逃せない作品の1つです。そしてグランド・ツアーに関しては、イタリアのフランチェスコ・グアルディの『ヴェネツィア、サンタ=マリア・デッラ・サルーテ聖堂』といったヴェネツィアの景観を細かく描いた絵画とともに、ナポリ周辺の風景を幻想的に表したジョン・ロバート・カズンズの『カマルドリへの道』も魅力的といえるでしょう。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートジョン・ロバート・カズンズ『カマルドリへの道』 1783-90年頃

ロンドン生まれのカズンズは、水彩風景画の先駆者である父アレクサンダーのもとで訓練を受けると、1782年からアルプスを越えてヴェネツィアからローマ、ナポリを旅し、スケッチを行いながら美しい水彩画を制作しました。のちにコンスタブルやラスキンらからも高く評価されています。

イングランドやスコットランドの風景、それに日常生活を名画とともにたどる

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート右:ジョン・コンスタブル『テダムの谷』 1828年 左:ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー『トンブリッジ、ソマー・ヒル』 1811年

19世紀に入るとイギリスでは、肖像や風景といった題材が引き続き好まれる一方、物語や文学をテーマにした絵画も生み出されました。この時期の同国を代表する風景画家として知られるのが、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーとジョン・コンスタブルです。会場でも2人の『トンブリッジ、ソマー・ヒル』と『テダムの谷』を隣り合わせにして展示。夕暮れの光に染まるターナーの牧歌的な風景と、故郷の自然をありのままに描いたコンスタブルの作品を見比べることができます。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートジョン・マーティン『マクベス』 1820年頃

またロマン派の画家でロンドンに移り住んだジョン・マーティンは、シェイクスピアの戯曲をもとにした『マクベス』を制作。スコットランドの将軍マクベスとバンクォーの行手に、これからのマクベスの未来に予言を与える3人の魔女が現れるすがたを描いています。思わず絵の中へと引き込まれそうなドラマチックな背景も魅力ではないでしょうか。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートデイヴィッド・ウィルキー『結婚式の日に身支度をする花嫁』 1838年

このほかにもエディンバラで活動し、肖像画家の長老的存在だったヘンリー・レイバーンや、スコットランド出身で日常生活を描いて評価されたデイヴィッド・ウィルキー、またグラスゴー近郊の芸術家に生まれて地域の田園風景を描いたエドワード・アーサー・ウォルトンの絵画も見ておきたい作品といえるかもしれません。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート右:クロード・モネ『エプト川沿いのポプラ並木』 1891年 左:ポール・ゴーガン『三人のタヒチ人』 1899年

この「19世紀の開拓者たち」の展示ではモネやシスレー、それにゴーガンといった有名な印象派・ポスト印象派の画家の絵画も並んでいて、それらももちろん素晴らしいのですが、あえてイギリスの画家に注目して作品を追っていくのも面白いのではないでしょうか。

巨大なナイアガラの滝が登場!アメリカからスコットランドへと作品がもたらされた理由

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートフレデリック・エドウィン・チャーチ『アメリカ側から見たナイアガラの滝』 1867年

ラストを飾るのは、高さ2メートル50センチを超える大作、フレデリック・エドウィン・チャーチの『アメリカ側から見たナイアガラの滝』です。アメリカの風景画家であるチャーチは、壮大でドラマチックな山や荒野などをテーマとして作品を制作していて、この絵画でも滔々と水が落ちるナイアガラの滝をスケール感をもって描いています。右下に虹がかかり、水飛沫をあげる滝の迫力に圧倒されますが、画面左上の展望台から2人の人物が景色を眺めているのも見逃せません。

しかしこのアメリカ絵画がなぜスコットランドにあるのでしょうか?実はつつましい家庭に生まれながらも、アメリカにて財を成した1人のスコットランド人が、母国に感謝の気持ちを込めて国立美術館へと寄贈したもの。ヨーロッパの主要なコレクションに収められた、画家の唯一の大作という記念碑的作品なのです。

コウペンちゃんやぐでたまとのコラボも!特設ショップも見逃せない

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート『THE GREATS』特設ショップより

最後に特設ショップについてご紹介します。『THE GREATS』では、ブレイクやグレコといった出品作品をデザインしたTシャツ、クリアファイル、またクッキー・マシュマロ缶などを販売。あわせてビームスデザインやぐでたま、コウペンちゃんとのコラボグッズなども充実しています。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート『THE GREATS』特設ショップより

ベラスケスの『卵を料理する老婆』を引用したぐでたまのトートバックもかわいいのではないでしょうか。なお東京都美術館の企画展の特設ショップは入場ゲート内(展示室の最後)にあるため、一度外に出て、ショップのみ単独で利用することはできません。お財布を忘れずに持っていきましょう。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートウィリアム・ブレイク『石板に十戒を記す神』 1805年頃

入場に関する情報です。混雑緩和のために『THE GREATS』では日時指定予約制が導入されました。観覧無料対象(高校生以下)の方や招待券などを持っている場合も、原則、事前に観覧日時を専用サイトにて予約する必要があります。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポートジョン・エヴァレット・ミレイ『古来比類なき甘美な瞳』 1881年

予約枠は開館の9:30から閉館までの30分毎に区切られていて、その枠の中の時間に入場することができます。また予定枚数に達していない場合は当日の入場枠もあり、窓口でチケットも販売されますが、おおむね予約枠の開始時間に入場者が集中する傾向があります。よって予約開始時間直後ではなく、少しずらして、時間枠の後半に入場することをおすすめします。

スコットランドが誇る名画が日本へ。東京都美術館で開催中の『THE GREATS』レポート会場出口にある『THE GREATS』撮影スポット。

展示は東京での会期を終えると、神戸市立博物館(2022年7月16日~9月25日)と北九州市立美術館(2022年10月4日~11月20日)へと巡回します。スコットランドが誇る名画を東京、関西、そして九州にて楽しめるまたとない機会となりそうです。

『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』 東京都美術館
開催期間:2022年4月22日(金)~7月3日(日)
所在地:東京都台東区上野公園8-36
アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成電鉄京成上野駅より徒歩10分。
開館時間:9:30〜17:30
 ※金曜日は20時まで
 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日。
観覧料:一般1900円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1400円、高校生以下無料。
 ※オンラインでの日時指定予約制。
https://www.tobikan.jp
https://greats2022.jp/

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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