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2022.5.24
海に囲まれた沖縄の豊かな文化と未来へつなぐ取り組み。『特別展「琉球」』
今年復帰50年を迎え、大小160の琉球列島の島々から成る沖縄県。かつては日本や朝鮮半島、それに中国などと交流しながら、東アジアの中継貿易地として栄え、12世紀以降に一体的な文化圏を形成すると、15世紀には琉球王国として統合を遂げました。
目次
『模写復元 尚穆王御後絵』 令和2年度 原資料:第二尚氏時代・18世紀 一般財団法人沖縄美ら島財団
そうした琉球の歴史資料や工芸作品、また国王尚家に伝わる宝物などの文化財を公開する『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』 が東京国立博物館にてスタート。先史時代の考古遺物や民族作品、失われた文化遺産の復元といった取り組みも紹介され、かつてないスケールの琉球・沖縄に関する展覧会が実現しています。
アジアの海を舞台に交流。中継貿易の拠点として栄えた琉球
まずはじめに展示されているのは、琉球王国や港市那覇の活況を今に伝える記録や、交易でもたらされた国際色豊かな品々です。
『琉球進貢船図屛風』 第二尚氏時代・19世紀 京都大学総合博物館
珊瑚礁に囲まれた琉球において、王都首里に近い那覇は、多くの船の行き交う国際貿易港でした。そして港の北の浮島には日本や中国の人々も居住し、外交や貿易関連施設が置かれます。そうした王国時代の港の賑わいは、那覇の光景をパノラマにて描いた『琉球進貢図屏風』からも知ることができます。
『首里城京の内跡出土陶磁器』 元〜明時代・14〜16世紀 沖縄県立埋蔵文化財センター
また首里城内の最大の聖域である「京の内」より出土した陶磁器は、どれも中国元時代の第一級のものばかり。青花磁器をはじめとして、日本の他の地域では見られない貴重な品々として知られています。
このほかにも中国明時代に南方で焼かれ、色鮮やかな「華南三彩」の水注も見どころといえるかもしれません。
王権の誇り。国際交流によって開花した琉球独自の芸術と文化
琉球国王尚氏に由来する宝物や書画の展示も充実しています。三山統一を遂げた第一尚氏に替わり、1470年から約400年余りも琉球王国を治めた第二尚氏の歴代の王は、中国の明や清と冊封を受けて王権を強化し、島々の統治とともに外交や貿易を推進しました。
『朱漆山水人物沈金足付盆』 第二尚氏時代・16〜17世紀 沖縄・浦添市美術館
『朱漆山水人物沈金足付盆』とは王府の祭祀儀礼や首里城にて食籠や酒瓶などをのせて用いたもの。漆器の表面に線を彫って金箔を埋める沈金と呼ばれる技法によって、中国風の山水人物図などを細かく描いた琉球漆器の名品として知られています。
『御玉貫』 第二尚氏時代・17〜18世紀 沖縄県立博物館・美術館
錫製の瓶子に、色とりどりのガラス小玉を麻糸で綴って覆いかぶせた『御玉貫』(うたまぬち)といわれる酒器も美しいのではないでしょうか。琉球独特の酒器である御玉貫は、首里城内での祭儀や王府からの下賜品として用いられました。
『紫地青海波立浪草花文様紅型木綿衣裳』 第二尚氏時代・19世紀 神奈川・女子美術大学美術館
13世紀頃に起源をもつと考えられ、沖縄を代表する染物である紅型も見どころです。華やかな色や柄を特徴とする紅型は、琉球王朝時代に王族や士族の階級を示す役割も果たしていましたが、その文様には日本や中国の影響を伺うことができます。また色材も赤や黄色系統は中国(清)、青系統の色は日本(大和)など、琉球以外から入手していました。つまり海に開かれた交易の地・沖縄だからこそ生み出した、ハイブリットとも呼べる染物でもあるのです。
戦禍を免れて…琉球王家に伝来した珠玉の文化財に心を奪われる
第2章「王権の誇り 外交と文化」より国宝「尚家宝物」展示風景
ハイライトを飾るのが、王国の栄華を世に伝える国宝「尚家宝物」の展示でした。これらは尚家に伝来した宝物のうち、2006年に工芸品85点と文書1116点が国宝に指定されたもので、戦前に東京に移されていたため、沖縄戦の戦禍を免れて今日まで残されました。
『玉冠 (付簪)』(琉球国王尚家関係資料 ) 第二尚氏時代・18〜19世紀 沖縄・那覇市歴史博物館
金筋にカラフルな玉をたくさんつけ、金の簪を差した『王冠(付簪)』は、現存唯一の琉球の王冠。金、銀、水晶、翡翠、珊瑚や黒真珠などが用いられて、実に煌びやかなすがたを見せています。
第2章「王権の誇り 外交と文化」より国宝「尚家宝物」展示風景
そして王家のみに着用が許された黄色の紅型や、螺鈿を施した刀剣、さらに漆や陶器、金属の皿を内包する蓋付の容器である東道盆(とぅんだーぶん)といった豪華な調度品を展示。琉球王国の高い美意識や技術を目の当たりにすることができます。なお国宝「尚家宝物」の展示コーナーのみ会期中も撮影が可能です。琉球が誇る貴重極まりないお宝を愛でながら、記念に写真へとおさめましょう。
海に囲まれた琉球の先史文化、そして人々の祈りとは?
今回の『特別展「琉球」』では、琉球列島の先史文化や、島に暮らした人々の信仰のあり方について紹介しているのも見過ごせません。
左:『浅鉢形土器』 沖縄県竹富町下田原貝塚出土 先史時代・前2000〜前1000年 沖縄県立埋蔵文化財センター 右:『貝斧』 沖縄県宮古島市浦底遺跡出土 先史時代・前5〜3世紀 沖縄・宮古島市教育委員会
まず先史文化で特徴的なのは、豊かな海による「貝の文化」が育まれたことです。人々は貝や斧などを道具に加工したり、首飾りや腕輪などの装身具に仕上げて身につけました。そして海を介して本州へ「貝の道」がつながると、貝は交易のための資源として利用されます。
『斎場御嶽出土品』 沖縄県南城市斎場御嶽出土 第二尚氏時代・17〜18世紀埋納 沖縄・南城市教育委員会 ※三庫理入口より奥は一般の参拝や見学の方は立ち入りの制限をしています。
一方で琉球の人々の宗教観はどのようなものだったのでしょうか。そのあり方は島や地域によって異なり、一様に語ることはできません。ただ例えば女性が祭祀を司ったり、海の彼方や海底、それに山を「ニライカナイ」と呼んで、来訪神がもたらす豊穣に感謝するなど、独自の祈りの文化が築かれました。
『玉ハベル』(江戸時代または第二尚氏時代・18〜19世紀)と『玉ダスキ』(江戸時代または第二尚氏時代・19世紀) ともに東京国立博物館
『玉ハベル』と『玉ダスキ』とは、神女が村落祭祀の際に身につけたとされる装身具です。水晶の飾りには青、赤、黄色といったガラス玉と、色鮮やかな三角形の「ハベル」と呼ばれる布が付けられています。ハベルとは蝶や蛾を意味し、神女や霊力を象徴する存在でもありました。
近代化から凄惨な沖縄戦へ。失われた多くの文化財の復元への取り組み
『模造復元 旧円覚寺仁王像(阿吽形)』 令和2年度 原資料:室町時代・15〜16世紀 沖縄県立博物館・美術館
最後に重要なのが、琉球と沖縄の歴史や文化を未来につなぐ取り組みです。明治の近代化において王国は幕を閉じ、琉球は沖縄県となりましたが、人々の生活様式は変化を余儀なくされます。古くからの文化や風習は日本と異なっているとして、改革されるべきものと位置づけられることもありました。
『旧円覚寺仁王像残欠』 当初材:室町時代・15〜16世紀 後補材:第二尚氏時代・18〜19世紀 沖縄県立博物館・美術館
そして戦争の時代へ。沖縄は太平洋戦争にて壊滅的な被害を受けました。凄惨を極めた地上戦において文化財そのものだけでなく、代々受け継がれてきた手わざ(製作技術)の多くが途絶えてしまうのです。そして約9万4千名の一般住民を含む、20万名もの人々が亡くなりました。あまりにも多すぎた犠牲でした。
『釈迦如来および文殊菩薩・普賢菩薩坐像(旧円覚寺関係木彫資料)』 吉野右京作 江戸時代・寛文10年(1670) 沖縄県立博物館・美術館
戦争で破壊された文化財は、生き抜いた人々が拾い集め、沖縄県立博物館・収蔵庫などに「残欠」として数多く保管されてきました。そして2015年度から2021年度にかけての「琉球王国文化遺産集積・再興事業」では、琉球王国時代に盛んだった絵画、石彫、木彫、金工、陶芸、漆芸、染織、三線の8分野の中から、約65件の文化財の復元模造製作が行われます。
『模造復元 朱漆巴紋沈金御供飯』 平成30年度 原資料:第二尚氏時代・17〜18世紀 沖縄県立博物館・美術館
そうした模造復元された作品もあわせて公開。王家の菩提寺だった円覚寺の山門に安置されていた仁王像をはじめ、いずれも原資料や最新の科学分析技術による調査のもと、作り手が当時の手わざよって忠実に作り上げたものばかりです。
『模造復元 美御前御揃(御玉貫)』 平成30年度 原資料:第二尚氏時代・16〜19世紀 沖縄県立博物館・美術館
そこには人々の地道な研究の積み重ねや、手わざを受け継ごうとする努力、また復元や復興にかける熱意も感じられるのではないでしょうか。
第5章「未来へ」展示風景 左奥は『大龍柱(旧首里城正殿前)』 第二尚氏時代・1711年 沖縄県立博物館・美術館
苦難の道をたどった歴史とともに、海に囲まれた豊かな自然と豊穣な文化、そして多様性にも富んだ人々の暮らしが浮き彫りなる『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』。2019年に火災によって大きな被害を受けた首里城についても、2026年を目指して進む復興への取り込みがパネルにて紹介されています。復帰50年を迎えた沖縄の原点に触れ、その文化を未来へと継承するための取り込みを理解する絶好の機会となりそうです。
※会期中に展示替えが行われます。詳しくは公式サイトより出品リストをご確認ください。
『沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」』 東京国立博物館 平成館 特別展示室
開催期間:2022年5月3日(火) ~ 2022年6月26日(日)
所在地:東京都台東区上野公園13-9
アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩10分。京成電鉄京成上野駅より徒歩10分。
開館時間:9:30〜17:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般2100円、大学生1300円、高校生900円、中学生以下無料
※当日に限り総合文化展も観覧可。
https://www.tnm.jp
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/ryukyu2022/
※東京国立博物館での展示を終えると、九州国立博物館へと巡回。会期:2022年7月16日(土)〜9月4日(日)
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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