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2022.9.9

【東京では初めての開催!】李禹煥の大規模回顧展をより楽しむための見どころ紹介

現代美術家の李禹煥(リ・ウファン、1932年生まれ)を知っていますか? 韓国の慶尚南道に生まれた李は、ソウル大学校美術大学入学後の1956年に来日。その後、日本大学にて哲学を学ぶと、東洋と西洋のさまざまな思想や文学に学び、60年代の後半から本格的な制作をはじめます。

そして作品としてのオブジェを作るのではなく、自然や人工の素材を組み合わせて出来事や場を生み出す「もの派」と呼ばれる動向を牽引し、国内外にて活動してきました。

『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』より。野外展示場にて公開された《関係項―アーチ》(2022年)。この作品は撮影も可能です。

リアルな風景を描いていないのに風景が立ち上がる?!初期の連作《風景I II III》の魅力

現在、東京・六本木の国立新美術館では、李の60年以上にわたる創作を紹介する大規模な回顧展が開催中です。石や鉄が置かれ、線がざわめき、点が壁に描かれた空間とは? 見どころを紹介します。

リアルな風景を描いていないのに風景が立ち上がる?!初期の連作《風景I II III》の魅力

まず会場に入ると、壁にピンク色の光が滲み出ていることに気づきます。その先の展示室にあるのが、ピンクの蛍光塗料を用いた《風景I》、《風景II》、《風景III》の三連画です。

これは1968年の「韓国現代絵画」展(東京国立近代美術館)に出品された初期作で、色がハレーションして錯視するような効果を引き起こします。そこにリアルな風景は一切描かれていませんが、作品が場そのものに作用して新たな風景を立ち上げているのです。

ものとものとの関係を問う。代表的シリーズ〈関係項〉

手前:《現象と知覚B 改題 関係項》(1968/2022年) 作家蔵

李の代表的な立体作品として挙げられるのが、石、鉄、ガラスを組み合わせた〈関係項〉のシリーズです。そのうち《現象と知覚B 改題 関係項》では、ガラスの上に自然の石が置かれていて、ガラスにヒビが入っていることから、石が落とされたことが分かります。重量感があり不透明な石と脆く透明なガラスといった、対比的な素材を用いるのも〈関係項〉の特徴です。

《関係項―サイレンス》(2006/石:2014年、カンヴァス:2022年) 個人蔵

また《関係項―サイレンス》では、加工された一枚の鉄板と自然の石が向き合うように置かれています。石は自然物、また鉄板は工業製品でもありますが、鉄は鉄鉱石という石を溶かして作られるため、兄弟や親子のような関係にあるとも言えます。まるで石と鉄板が会話しているようにも見えますが、石と鉄板とが寄り添い、支え合うような場そのものが、作品として提示されているのです。

石の上を歩き、鏡面に写る景色の変化を楽しむ。サイトスペシフィックな作品への展開

《関係項―棲処(B)》(2017/2022年) 作家蔵

作品が生み出す場の中へと立ち入り、その一部となって鑑賞できるのも魅力といえるかもしれません。例えば《関係項―棲処(B)》では、石の破片が敷かれた床の上を歩きながら見ることができます。

《関係項―棲処(B)》(2017/2022年) 作家蔵

まるで枯山水庭園を思わせるような光景が広がっていますが、足で踏むことでずれる石の動きや、互いにぶつかって出る音も作品の一部と言えるでしょう。

《関係項―鏡の道》(2021/2022年) 作家蔵

白く細かな砂利が敷き詰められた《関係項―鏡の道》も、両脇に石の置かれたステンレス板の上を歩くことのできる作品です。ステンレス板は鏡面になっているため、歩くことで周囲の景色が変わっていきます。こうしたものと空間、ものと場所とが変化するような環境も、李の作品の重要な要素なのです。

※編集部注:サイトスペシフィック…特定の場所と密接に結びつく美術作品の性質のこと

〈点より〉〈線より〉から〈風より〉へ。平面作品の変遷をたどる

《点より》(1975年) 国立国際美術館

続いて会場の後半に展示された平面の作品を見ていきましょう。まず李が1970年代に発表したのが〈点より〉や〈線より〉と呼ばれるシリーズです。そのうちの〈点より〉は地塗りをしたカンヴァスに岩絵具で点を打ったもので、繰り返されるうちに絵具がかすれています。

《線より》 1980年 宮城県美術館

また〈線より〉も規則正しく線が引かれていますが、同じく次第に薄らいでいて消えています。点も線も「一筆一画」として、塗り重ね、また描き直しをしていません。

《風より》(2022年に《点と線より》から改題) 1978年 作家蔵

その後〈点より〉や〈線より〉には余白が増え、線の始点の位置なども自由になっていきますが、1980年代よりはじまる〈風より〉や〈風と共に〉では荒れたストロークが縦横をめぐるなど、より伸びやかで大胆なスタイルへと変化します。まさに自然の中で強弱を繰り返しながら吹く風のイメージも思い浮かぶのではないでしょうか。

カンヴァスを超えて空間へと広がる。新作の《対話―ウォールペインティング》

左《対話》(2009年) 公益財団法人 福武財団/李禹煥美術館 右:左《対話》(2010年) 公益財団法人 福武財団/李禹煥美術館

1990年代以降の〈照応〉シリーズでは、余白がさらに大きくなり、ストロークは短く、簡潔なものとなって、水平や垂直方向に限定されます。そして到達したのが2000年以降の〈対話〉や〈応答〉のシリーズです。ここではもはや面とも受け取れるような点が1、2個のみで構成されていて、カンヴァスという枠を超えるようにして空間へと広がっています。

《対話―ウォールペインティング》(2022年) 作家蔵

さらに実際にカンヴァスを飛び出したのが、新作の《対話―ウォールペインティング》です。ここでの支持体は壁そのもの。白からグレー、また黒へと美しいグラデーションを描く点が、直接壁に描かれています。もはや作品が美術館の建物と一体化したとも言えるでしょう。

ものとの出会い、そして余白から無限の広がりへ

『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』展示風景。国内では2005年の横浜美術館以来、大規模な回顧展となります。

あえて作ることを制限し、空間とものそのものを作品へと取り込んできた李禹煥。オブジェや絵画といった美術の構成要素を超え、作品と空間、さらに鑑賞者が互いに関わりながら築かれる場は、人の感性に響くだけでなく、瞑想を誘うような静謐(せいひつ)な気配に満ちています。

『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』展示風景。作品の配置や構成はすべて李自身がプランニングしました。

一方でもの派の理論的支柱でもある李の作品には、思想や制作の理論に裏打ちされた強さが存在します。それらを理解するにはカタログや、李本人の解説が録音されたスマホの音声ガイド(無料)を利用するのもおすすめです。また李の経歴を漫画形式で紹介する「李禹煥鑑賞ガイド」もびっくりするほど良くできていました。

『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』展示風景。

2010年には香川県直島町に安藤忠雄設計による李禹煥美術館を開館させたほか、グッゲンハイム美術館(アメリカ、2011年)やヴェルサイユ宮殿(フランス、2014年)でも個展を開催するなど、ますます活躍の場を広げていています。

「一瞬の出会い 余白の響き 無限の広がり」とは李の言葉です。この回顧展にて、ものと出会いつつ、余白に身を委ねながら、無限へと広がる表現の可能性を感じてみてください。

展覧会概要

『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』 国立新美術館 企画展示室1E
開催期間:2022年8月10日(水)~11月7日(月)
所在地:東京都港区六本木7-22-2
アクセス:東京メトロ千代田線乃木坂駅6出口より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分
開館時間:10:00~18:00
 ※金曜・土曜は20時まで開館
 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:火曜日
料金:一般1700円、大学生1200円、高校生800円。中学生以下無料
https://www.nact.jp
https://leeufan.exhibit.jp/

※兵庫県立美術館へと巡回。会期:2022年12月13日(火)~2023年2月12日(日)

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。

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