STUDY
2023.5.15
「便器」が芸術?マルセル・デュシャンがアートとみなされる理由
マルセル・デュシャン(1887年‐1968年)はフランス生まれの芸術家で、1915年以降はアメリカで活躍しました。代表作『噴水(泉)』は、後世の芸術に多大な影響を与え、20世紀で最も影響力のあった芸術家の1人と言われます。
『噴水(泉)』は、便器をそのまま活用した芸術作品であり、マルセル・デュシャンが本作を通じて提示したものは「芸術」の概念に対する大きな問いでした。
この記事では、奇才マルセル・デュシャンの作品『噴水(泉)』がなぜ芸術作品とみなされるのか、わかりやすく解説します。
マルセル・デュシャンの代表作『噴水(泉)』
マルセル・デュシャン『噴水(泉)』Photo by Alfred Stieglitz , Public domain, via Wikimedia Commons
マルセル・デュシャンは25歳ごろ(1912年)までは油絵を描いていましたが、その後大きく芸術の方針を変更します。マルセル・デュシャンの代表作である『噴水(泉)』は、1917年に自身が委員を務めるニューヨークの展示会に出品されましたが、委員会の決定により作品が公に展示されることはありませんでした。
作品は、男性用小便器を横に倒した状態で設置され、便器には「R.Mutt」と署名が残されています。マルセル・デュシャンは、作者が自分であることを伏せて展示会に出品していましたが、委員会の決定に反発しこの後委員会を辞任しました。
『噴水(泉)』は展示会のあと行方がわからなくなっており、現在では写真とコピーのみが残されています。一説では、委員会が意図的に作品を破棄したとも言われるほど、当時の芸術界においてこの作品は受け入れられないものでした。
マルセル・デュシャンが提示した概念「レディ・メイド」とは?
マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp), Public domain, via Wikimedia Commons
『噴水(泉)』は、マルセル・デュシャンの「レディ・メイド(Ready-made)」という新しい芸術の概念に基づいています。「レディ・メイド」とは元来「既製品」という意味の言葉で、マルセル・デュシャンが1915年頃から使うようになりました。
「レディ・メイド」は、実用目的の既製品を用いた作品であり、これらの素材は美的用途で用いられているわけではありません。これまでの芸術の目的が「美しさ」の追求にあったとすれば、マルセル・デュシャンの芸術では「見る人に思考を誘発する」ことが目的となっています。
マルセル・デュシャンが『噴水(泉)』を通じて提示したかった問いは、「美しいかどうか」ではなく「何が“芸術”か」でした。見る人が作品によって新しい思考に到達したり、なにかを考えるきっかけになったりしたとき、その物体は芸術としての価値を帯びる、とマルセル・デュシャンは考えていました。
マルセル・デュシャンが後世に与えた影響
ジョセフ・コスース『1つと3つの椅子』 Photo by Gautier Poupeau, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
マルセル・デュシャンの芸術全体への壮大な問いは、当初大きな反発を受けました。
しかし、マルセル・デュシャンの目的が「作品を通して見る人に思考を促す」ことであったとすれば、このような強い反発や議論が起こったことこそ彼の目的に則していたとも考えられます。彼にとって芸術は、議論や問いの始まりであるべきものだからです。発表当時の反発とは裏腹に、後世の評価では「古代ギリシャとマルセル・デュシャンによって芸術は始められた」と言われるほど、その革新性が認められています。
マルセル・デュシャン以前の美術は、芸術家は手作業で作品を手掛けることが一般的であり、思想家であると同時に職人であることが大切でした。一方マルセル・デュシャンの作品は、既製品をあえて用いることで「芸術=手作業」「芸術家=職人」の概念を打ち破ろうとしました。
実際マルセル・デュシャン以降の芸術では、作品の美しさ、品質の高さ、素材の貴重さなどこれまで重視されてきた側面の重要性が減り、受け手に与える影響の重要性が高まります。
まとめ
マルセル・デュシャンの『噴水(泉)』は、これが芸術作品? と不思議に感じるような内容ですが、「芸術」自体を問い直す革新的で挑戦的な作品でした。みなさんは、マルセル・デュシャンの芸術についてどう思いますか? ぜひ、親しい人と意見を交わしてみてください。
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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