STUDY
2023.8.16
【奇怪】画家ヒエロニムス・ボスの人生って?作品の特徴・見どころ
ヒエロニムス・ボスは15世紀オランダで活躍した画家です。彼の作品は、なにも知らずに見ると現代アートかと錯覚するような独特な奇怪さがあり、その革新性は芸術界に大きな影響を与えました。
ヒエロニムス・ボス『地上の悦びの園』, Public domain, via Wikimedia Commons
ヒエロニムス・ボスは宗教的なテーマを幻想的なモチーフとともに描いたことで知られます。この記事では、ローマ大学院で美術史を専攻する筆者が、特異な芸術を生み出したボスの人生、作品の特徴と見どころをわかりやすく紹介します!
謎が多いヒエロニムス・ボスの人生
ヒエロニムス・ボスの肖像, Public domain, via Wikimedia Commons
ヒエロニムス・ボス(1450頃-1516年)の人生の詳細は、あまりよく知られていません。父方の家族が芸術家家系であり、ボスは父(もしくは叔父)から絵を教わっただろうと言われています。
13歳ごろにボスは町の大火事(約4000戸が焼失)を目撃した可能性があり、このときの経験が火の表現に反映されたのかもしれません。ボスは『聖アントニウスの誘惑』の背景に燃える街並みを含んでいますが、この「火に包まれた街」というテーマはのちにフランドル芸術家が「地獄」をテーマに描く際に好んで用いる要素です。
ヒエロニムス・ボス『聖アントニウスの誘惑』, Public domain, via Wikimedia Commons
ボスは何人かの弟子を持っていたため、彼の作品を間近で学んだ若い芸術家たちにより、彼の特異な作風が引き継がれました。また、『バベルの塔』や『死の勝利』を残したピーター・ブリューゲルに大きな影響を与えたと言われます。
ピーター・ブリューゲル『死の勝利』, Public domain, via Wikimedia Commons
ヒエロニムス・ボス作品の特徴は「摩訶不思議な生物たち」
ヒエロニムス・ボス『聖アントニウスの誘惑』,拡大, Public domain, via Wikimedia Commons
ヒエロニムス・ボスの作品の最大の特徴は、繊細で密集的な構図に散りばめられた、摩訶不思議な生物たちでしょう。ボスの作品を初めて見る人は、それが15-16世紀に制作されたものとは信じられないかもしれません。
ボスの人物や生物の表現は写実主義からは逸脱しており、当時のルネッサンスの機運からも一線を画すものでした。作品の詳細をクローズアップして見ると、描かれる人物の多くは不思議な体勢をとっており、他の生物は複数の種の掛け合わせのような想像上の存在であるとわかります。
ヒエロニムス・ボス『地上の悦びの園』,拡大, Public domain, via Wikimedia Commons
現実世界のルールにとらわれない自由で突飛な発想は、美術史の潮流の中でボスの存在感を際立たせています。しかし一方で、丁寧に書き込まれた背景や細部への強い執着は当時のフランドル芸術そのものでしょう。
ヒエロニムス・ボス作品の見どころは「怖さと可笑しさの融合」
ヒエロニムス・ボス『地上の悦びの園』,拡大, Public domain, via Wikimedia Commons
ヒエロニムス・ボスの作品は、人間の欲望と深くに眠る恐怖心の観察を基盤としています。一見かわいらしく面白可笑しいボス作品の特徴は、よく見るとドキッとするような怖さが散りばめられている点です。
一般的にヒエロニムス・ボスの作風は、「厭世的」で「幻想的」と評されます。しかし筆者は個人的に、厭世的というよりはボスの人間への深い関心が作品に表れているように感じます。どんなに醜くても人間の深層心理の観察を諦めず、それを独特な感性で表現しているのがボスの芸術です。
ボスの作品を見ると、「怖い」という感想を持つこともあれば、「面白い」「変」と感じる、人によっては「かわいい」と思うかもしれません。ボスのとくに有名な三連作『地上の悦びの園』では、まさにこの「怖さ」と「可笑しさ」の両面が表現されています。
ヒエロニムス・ボス『地上の悦びの園』, Public domain, via Wikimedia Commons
実際、ボスの奇怪で不気味な作風に対する解釈は20世紀以降、議論の対象となってきました。多くの学者が異なる解釈を示し、「ボスの芸術は異端要素(キリスト教以外の宗教)が強い」、「宗教的・哲学的な意図はなくただ楽しませるために生まれた」、もしくは「正統的な宗教的信念体系を反映している」などとも言われます。
ヒエロニムス・ボスの作品は、あなたの目にはどう映りますか?作品鑑賞の際は、ディテールに注目し、摩訶不思議な世界観を楽しんでくださいね。
以上、ヒエロニムス・ボスの人生、作品の特徴、見どころについてでした!
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イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
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