STUDY
2023.8.24
【ドナテッロ】ルネッサンス初期芸術家の人生と作品の特徴・見どころ
ドナテッロはルネッサンス初期にフィレンツェを中心に活躍した芸術家です。彼はおもに立像やレリーフ制作で功績を残し、透視図法を踏まえた彫刻表現を近世西洋世界にもたらしました。
ドナテッロ『聖母マリアと幼子』, Public domain, via Wikimedia Commons
ドナテッロは80歳まで生き、当時の平均寿命に比べるとかなり長生きだった芸術家です。この記事では、イタリア・ルネッサンスの礎を築いたドナテッロの人生、作品の特徴や見どころについてわかりやすく紹介します。
長いキャリア!ドナテッロの人生
ドナテッロの立像,ウフィツィ美術館, Public domain, via Wikimedia Commons
ドナテッロ、本名ドナート・ディ・ニコロ・ディ・ベット・バルディ(1386-1466年)はイタリア・フィレンツェに生まれました。ドナテッロはブルネレスキ、マサッチョとともに「フィレンツェ・ルネッサンスの3人の父」と呼ばれます。
若い頃、ドナテッロは芸術家の工房に弟子入りして技術の基礎を身に着けました。1402年から1404年まではブルネレスキ(彼よりも10歳ほど年上)とともにローマを訪れ、古典芸術を学びます。
この旅行を機にドナテッロとブルネレスキの間には強い絆が生まれました。記録によれば2人は非常に熱心に古典芸術に向き合っており、多くの遺跡を模写したり、ローマ中に眠る古典建築の破片を掘り起こしたりしたと言われています。
2人は古典芸術を応用したルネッサンス的な芸術の道を歩みましたが、人体表現においての意見が割れることもありました。好例として2人が制作した『イエスの磔刑』が挙げられます。
ドナテッロのキリストは、苦悩と人間的な真実性を強調しており、美的な修正は一切加えられていません。つまり、口や目は半開きの状態で、不格好ともいえる体勢で十字架に架けられているのです。ブルネレスキはこの作品について「農民を十字架に張り付けたようだ」と非難しています。
ドナテッロ『イエスの磔刑』, Public domain, via Wikimedia Commons
一方ブルネレスキが制作した同主題の作品は、落ち着きと厳粛さに重きが置かれています。理想化されたイエスの身体は数学的な解剖学に基づいて計算されており、完璧で神聖な美しさの追求が特徴です。
ブルネレスキ『イエスの磔刑』, Public domain, via Wikimedia Commons
写実的で人間的なイエスを目指したドナテッロと、理想的で威厳のあるイエスを描いたブルネレスキ。同時代に同じ古典復興の志のもとで活動していた芸術家同士でも、個人的な解釈によりここまで作風が異なるのですね。
その後も多くのフィレンツェの重要な宗教作品を受注し続けたドナテッロは、1440年に『ダヴィデ像』を制作しました。おそらくドナテッロが残した作品でもっとも有名なこの作品は、15世紀イタリア全体を象徴すると言われます。
ドナテッロ『ダヴィデ像』, Public domain, via Wikimedia Commons
ドナテッロの『ダヴィデ像』は、中世の建築的な要素から解放され、それ自体が作品として理解されるようになった最初の、完全な裸体のレリーフです。この頃からドナテッロはブロンズの制作に興味を示すようになり、豊富な素材を求めてフィレンツェを去ります。
1453年にフィレンツェに帰ってきたドナテッロは、木調作品の『懺悔するマグダラの女』を作りました。この作品は、若い頃のドナテッロにあった古典主義(写実主義)が超越され、表現主義的な趣向を帯びていることがわかります。
ドナテッロ『懺悔するマグダラの女』, Public domain, via Wikimedia Commons
マグダラのマリアの苦痛や疲労を、やつれた肉体と乱れた髪が表しています。しかし同時に、彼女のまっすぐな表情や触れそうで触れない繊細な指先からは、深い信仰心が感じられるでしょう。老年期のドナテッロは、人間のとくに深くに眠る感情を芸術に昇華することに注力していました。
ドナテッロ作品の特徴は「スティアッチャート技法」
ドナテッロ『ヘロデの宴』, Public domain, via Wikimedia Commons
ドナテッロ作品の特徴はイタリア語で「スティアッチャート(Stiacciato)」と呼ばれる技法です。「スティアッチャート」とは、背景との差異を最小限に抑えながらレリーフを彫り、ミリ単位の調整で奥行きを表現する技法を指します。
ドナテッロは平面的で薄い支持体のなかに、あたかも別の世界が広がっているように表現することに長けていました。支持体が薄いため、彫刻というよりは絵画的な分類となることもあります。しかし、遠近法を応用して背景の奥行きを調整する技術は、熟練した彫刻家のみが成せる業に間違いないでしょう。
芸術家列伝を記録したジョルジョ・ヴァザーリは、ドナテッロの「スティアッチャート技法」について「これらの作品は非常に難しく、偉大なデザインと発明が必要であり、輪郭のために優美さを与えることは難しい。このジャンルにおいてドナート(=ドナテッロ)は、芸術、デザイン、発明において他のどの画家よりも優れていた。」と述べています。
彫刻というと立像や胸像をイメージしますが、レリーフ作品にも独特の面白さがあります。ドナテッロのレリーフを見る機会があれば、背景に広がる奥行きと、気の遠くなるような細かい調整に成り立つ構図に注目してみましょう。
ドナテッロ作品の見どころは人間性
ドナテッロ『懺悔するマグダラの女』, Public domain, via Wikimedia Commons
ドナテッロは「スティアッチャート技法」の創始者であり技術面に優れた芸術家でしたが、作品のもう1つの見どころは「人間性」の表現です。先述した『懺悔するマグダラの女』からも見られるように、ドナテッロは心の奥底にある感情や思念の表出を大切にしていました。
彫刻は材料を使って形を生み出す芸術ですが、「内面」を表現するにはどんな要素が必要でしょうか。ドナテッロは、人物の表情はもちろん、髪、肌、体勢など、ありとあらゆるディテールに注意を払うことで、見る人に強いメッセージを与える作品を作り上げました。
ドナテッロが作る人物像には、神聖で厳かでありながら、どこか親しみやすさを感じるかもしれません。それはドナテッロが感情や思想を引き出すことを大切にし、1つ1つの作品に魂を吹き込んだためでしょう。
作品鑑賞の際は、圧倒的なテクニックだけでなく、作品に含まれた感情的な人間性にも目を向けてくださいね。以上、ドナテッロの人生、作品の特徴と見どころについてでした。
画像ギャラリー
あわせて読みたい
-
STUDY
2025.02.07
【色彩の魔術師】マルク・シャガールの魅力!愛の画家が描く幻想世界
加藤 瞳
-
STUDY
2024.10.13
【前編】画家フランシス・ベーコン 激動の生涯と独創的な表現世界
加藤 瞳
-
STUDY
2024.08.12
オノ・ヨーコとは?|現代アートのパイオニアの代表作を解説
emma
-
STUDY
2024.07.05
知れば欲しくなる!海のアートを描くアーティスト、ローラ ブラウニングを深掘り
イロハニアート編集部
-
STUDY
2023.11.22
【XSpaceArtTalk】Marina Rheingantz(マリーナ・ラインガンツ, 1983-)2023年11月08日放送分
Masaki Hagino
-
STUDY
2023.09.19
長谷川等伯72年の軌跡!狩野永徳がもっとも恐れた男
ヴェルデ
このライターの書いた記事
-
STUDY
2025.01.30
溶けた時計の意味とは?ダリ『記憶の固執』の面白さを3つのポイントで解説
はな
-
STUDY
2025.01.27
印象派は常に屋外で絵を描いた?光の重要性と伝統的画法への反発など理由解説
はな
-
STUDY
2024.12.20
【オルセー美術館】印象派の芸術家7人を解説! モネやルノワール など作品も
はな
-
STUDY
2024.12.04
ゴッホは印象派ではない?「ポスト印象派」と芸術家解説
はな
-
STUDY
2024.11.21
【後半】オルセー美術館の印象派10作品を解説!『草上の昼食』『睡蓮』など
はな
-
STUDY
2024.11.12
【前半】オルセー美術館の印象派10作品を解説!『草上の昼食』『睡蓮』など
はな

はな
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
はなさんの記事一覧はこちら