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2024.8.1

2種類の浮世絵?浮世絵版画・肉筆浮世絵の違いと見どころを解説

「浮世絵」とは、誰もが知る日本の絵画ジャンルのひとつ。葛飾北斎の《富嶽三十六景》をはじめ、江戸時代を中心に盛んに作られた風俗画のような作品です。

広ーーーく知られた「浮世絵」。しかし……あなたが知っているのは、浮世絵のごく一部分かもしれません。

実は浮世絵は「浮世絵版画」と「肉筆浮世絵」の2種類に大きく分けることができます。作り方や見どころがそれぞれ異なるので、両方を理解すると、浮世絵を見るのがもっと楽しくなるんです。

この記事では「浮世絵版画」と「肉筆浮世絵」の違いを紹介します。ちょっと漢字が多いですが、内容は難しくないので、一緒に浮世絵の作品を見ていきましょう!

そもそも浮世絵とは?

葛飾北斎《富嶽三十六景》「神奈川沖浪裏」, Public domain, via Wikimedia Commons.

浮世絵とは、江戸時代を中心に盛んに描かれたひとつの絵画ジャンルです。「浮き世」とは「現実」のことで、庶民の暮らしを描いた絵から始まり発展しました。

東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛》, Public domain, via Wikimedia Commons.

浮世絵は大衆文化として広がり、葛飾北斎や歌川広重など人気絵師もたくさん誕生しました。絵の題材には、庶民の憧れだった役者や武将、美しい女性、また花鳥風月や名所の風景などが多く見られます。

◎浮世絵版画…版画のため同じ絵を何枚も摺る(刷る)ことができる。ポスターのようなイメージ
◎肉筆浮世絵…画家が絵筆で描いた1点モノの絵画

となります。それぞれ特徴と見どころが異なるので、詳しく紹介していきます。

大衆に広まった浮世絵版画

鈴木春信《雨夜の宮詣》, Public domain, via Wikimedia Commons.

「浮世絵版画」は、その名のとおり「版画」です。木を用いる木版画で、時代が進むにつれて色数が増えていきました。(初期には墨一色で刷り、塗り絵のように筆で色を塗った浮世絵もありました)

美術品には「1点モノ」のイメージがあるかもしれませんが、浮世絵版画はそうではありません。1枚あたりの価格を抑えて同じ絵を何枚も流通させられたので、庶民も手に取りやすかったのです。現在、国内外のあらゆる美術館が同じ浮世絵版画を所蔵しているのは、同じ作品が何枚も発行されたからです。

歌川広重《名所江戸百景》「水道橋駿河台」, Public domain, via Wikimedia Commons.

浮世絵版画を作る工程は、「絵を描く」「版木を彫る」「紙に摺る」という3つにざっくり分けられます。つまり絵師の他に、彫師(ほりし)と摺師(すりし)という職人が関わります。

これって結構びっくりしませんか? 私が初めて知ったときは驚きました…。作品の作者として名前が出るのは、北斎や広重など「絵師」だけだからです。他にも人が関わっているとは思いもしませんでした。

もちろん絵師の下絵も素晴らしいですが、彫師・摺師の高い技術があってこそ、後世に残る名品が生まれた…と、言っても良いのではないでしょうか? 浮世絵版画を見るときは、彫師・摺師の存在も忘れないようにしたいところです。

歌川国芳《相馬の古内裏》, Public domain, via Wikimedia Commons.

そんな「浮世絵版画」の重要な見どころのひとつが、「摺りの美しさ」です。木版画なので、摺れば摺るほど版木は消耗していくもの。最初の方に摺られた作品ほど、絵が鮮明な傾向があります。機会があれば、「初摺り(しょずり)」と呼ばれる貴重な作品は特にじっくりご堪能ください。

なお、人気の作品は後に改変を加えて発行されることがあります。同名の作品でも摺られた時期によって絵が微妙に違うことがあり、こうした違いも浮世絵版画の楽しむポイントのひとつです。

1点モノの肉筆浮世絵

菱川師宣《見返り美人図》, Public domain, via Wikimedia Commons.

対して「肉筆浮世絵」は、絵師が絵筆を持って絹や紙などに直接描く作品のことです。版画と違い、1点しか存在しません。

版画は大勢に買ってもらうため一般に「ウケる」題材を選んだのですが、肉筆浮世絵は異なります。絵師が自分の好きな題材で描いたり、お金のある人から注文を受けて描いたりしました。

喜多川歌麿《三味線を弾く美人図》, Public domain, via Wikimedia Commons.

例えば、肉筆浮世絵でよく描かれたのが美人画です。注文主のお気に入りの遊女など、プライベートな題材が取り上げられました。(大衆に販売する版画では扱えないモチーフですよね…)

ちなみに美人画は着物に注目するのがおすすめです。当時の流行が反映されているのか、現代の私たちには珍しく映る柄が面白いです。たまに不思議な柄もありますね…当時はこういうのが人気だったのかな? なんて想像を巡らせるのも楽しいです。

葛飾北斎《富士越龍図》, Public domain, via Wikimedia Commons.

一方、絵師が題材を選んだ作品で紹介したいのが、葛飾北斎の《富士越龍図》です。北斎の最晩年の作品で、富士山を越えて天に昇る龍が描かれています。90歳になった北斎の、まだまだ絵の道を極め足りない、もっと極めたいとする情熱が滲み出ているような。

このように、肉筆浮世絵は絵師や注文主の個人的な想いが強く表れやすい傾向があります。大衆向けとは別ベクトルの美意識を感じられる、面白い作品がたくさんあります。

美術館で浮世絵版画と肉筆浮世絵を見てみよう

浮世絵を取り上げる展覧会のチラシやウェブサイトをよく読むと、「肉筆浮世絵を特集します」「初擦りの浮世絵版画に注目します」など、詳しい内容が書いてあることがあります。

浮世絵には浮世絵版画と肉筆浮世絵の2種類があることを押さえておけば、展覧会の説明を読んだときにイメージを掴みやすくなるはず。この記事の内容を、美術館めぐりに役立てていただけたら嬉しいです。

「浮世絵」というテーマだけでも、お話ししたいことがまだまだ沢山あるのですが(ヨーロッパで人気を博したこととか…!)、いずれ別の機会に。それではまた、次の記事でお会いしましょう!

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明菜

明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館巡りの楽しさを発信している。西洋美術、日本美術、現代アート、建築や装飾など、多岐にわたるジャンルを紹介。人よりも猫やスズメなど動物に好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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