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2024.6.17
北斎 グレートウェーブ・インパクト!あの傑作が新千円札に採用
いよいよ今年7月3日、20年ぶりにお目見えする新紙幣。千円札の裏面には、海外でも「グレートウェーブ」として人気を集める、江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が図柄として登場します。
目次
『特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」』
その新紙幣の採用を記念した展覧会、『特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」』が、東京・両国のすみだ北斎美術館にて6月18日より開催されます。
まず知りたい!「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が新千円札に採用された理由とは?
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 すみだ北斎美術館蔵(通期) ※半期で同タイトルの作品に展示替えをします。
まず【プロローグ 新しいお札になったグレートウェーブ】にて紹介されるのは、本展のメインテーマであり主人公でもある「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」と新紙幣の千円券です。
財務省によれば、採用の理由は主に2つ。1つ目は日本を代表し、日本人にも馴染みの深い富士山をモチーフとしていること。2つ目には北斎の代表作として知名度が極めて高く、印象派の画家など世界の芸術家に影響を与えた作品であることをあげています。
グレートウェーブ誕生の土壌となった西洋の影響を、北斎や門人の作品を通して明らかに。
葛飾北斎「覗機関」 すみだ北斎美術館蔵(通期) ※半期で同タイトルの作品に展示替えをします。
それでは【第1章:江戸の西洋ブーム ―海外へのあこがれ】はどのような内容でしょうか。江戸時代は幕府により国を閉ざす「鎖国」の政策がとられていたものの、実際には長崎などを窓口として、西洋や中国の文化がゆるやかに流入していました。
享保5年(1720)には、八代将軍吉宗が洋書の輸入禁止を緩める「洋書輸入の禁緩和」の命令を発したことより、蘭学発展の大きな契機となります。そしてその影響のもと、浮世絵においては享保年間(1716-36)から、西洋の透視図法(線遠近法)を取り入れた浮絵が多く制作されるようになりました。
北斎が浮絵を手がけたのは20代の頃。40代には銅版画や油絵の陰影表現を応用した洋風版画を制作し、独自の画風を切り開いていきます。こうした蓄積を活かした作品のひとつが、かの有名な「神奈川沖浪裏」なのです。第1章では、北斎や門人の作品を通して、グレートウェーブ誕生の土壌となった西洋の影響を明らかにします。
北斎が「神奈川沖浪裏」を制作したのは70代!草創期からグレートウェーブ、そして最晩年に至る作品を見比べよう。
北斎の描く波はどのように変化していったのでしょうか?それをひも解くのが、【第2章:グレートウェーブ誕生 ―その波は、どこから来たのか】です。数え19歳にて役者絵の第一人者である勝川春章に入門した北斎は、数え90歳で亡くなるまでの約70年もの間、絵師として旺盛に活動します。
葛飾北斎『椿説弓張月』続編 巻一 高間礒萩洋中に自殺す すみだ北斎美術館蔵(通期)
その北斎が「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を制作したのは、実に70代の時のこと。つまりデビューから50年も絵師としての研鑽を積んだ上、本図が生み出されたのです。
葛飾北斎『富嶽百景』二編 海上の不二 すみだ北斎美術館蔵(通期)
第2章では、北斎が影響を受けたと考えられる作品や画派を紹介。さらに草創期からグレートウェーブの誕生を経て、最晩年に至る作品を並べることで、北斎の描く波が変化する様子を目の当たりにできます。同じ富士山の描かれた「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」と「『富嶽百景』二編 海上の不二」を見比べるのも面白いのではないでしょうか。
北斎と同時代の絵師の作品から、現代アートやプロダクトデザインまで。
葛飾北為「摂州大物浦平家怨霊顕る図」 すみだ北斎美術館蔵(後期)
ラストの【第3章:グレートウェーブインフルエンス ―その波は、どこへ行くのか?】で着目するのは、「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が与えた同時代の絵師、および後世のアーティストや工芸作家への影響です。
しりあがり寿「ちょっと可笑しなほぼ冨嶽三十六景 太陽から見た富士山」 すみだ北斎美術館蔵 ©SHIRIAGARI Kotobuki(通期)
ここでは北斎の門人である葛飾北為、幕末の浮世絵師を代表する歌川国芳、その国芳の門人で浮世絵の衰退期に人気を博した月岡芳年の作品を紹介します。そして現在、多方面で活躍しているしりあがり寿が、「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」からインスピレーションを受けた制作したユニークな作品を展示します。
あなたの身近にも「グレートウェーブ」がありませんか?「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が与えた影響は美術の領域だけにとどまりません。今回の新紙幣のような貨幣や切手、パスポートなど公共性の高いものから、暮らしに根ざした商品や世界的に展開するブランドまで、さまざまな製品に使用されています。
展示ではBE@RBRICK やレゴ® などの玩具、タバコやビール、ポテトチップスといった商品のプロダクトデザインをはじめ、レゴ®やルービックキューブを用いたアーティストの作品を紹介します。こうしたプロダクトやアートを通して、「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」が今も広く親しまれていることが見て取れるのです。
月岡芳年「都岐乃百姿 大物海上月 弁慶」 公益社団法人 川崎・砂子の里資料館蔵(後期)
本展の会期は2024年6月18日(火)〜8月25日(日) 。ただし会期中、一部の展示替えを実施します。※前期:6月18日(火)~7月21日(日)、後期:7月23日(火)~8月25日(日)
「神奈川沖浪裏」はいつでも見られるの?という声も聞こえそうですが、心配は無用です。前期はプロローグと第2章、後期は第2章の前後期あわせて3枚展示されます。※半期で同タイトルの作品に展示替えします。
新紙幣に採用されることでますます注目を浴びる北斎の「グレートウェーブ」。すみだ北斎美術館の『特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」』にて、「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の誕生の背景を知るとともに、図柄が現代へと受け継がれてきた軌跡を辿ってください。
『特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」』
展覧会情報
『特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」』 すみだ北斎美術館
開催期間:2024年6月18日(火)〜8月25日(日)
※会期中、一部展示替えを実施。前期:6月18日(火)~7月21日(日)、後期:7月23日(火)~8月25日(日)
所在地:東京都墨田区亀沢2丁目7番2号
アクセス:都営地下鉄大江戸線両国駅A3出口より徒歩5分。JR線両国駅東口より徒歩9分
開館時間:9:30~17:30
※入館は17:00まで
休館日:月曜日
※開館:7月15日(月・祝)、8月12日(月・振休)、 休館:7月16日(火)、8月13日(火)
観覧料:一般1500円、高校生・大学生1000円、65歳以上1000円、中学生500円
公式サイト:『特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」』 すみだ北斎美術館
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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