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2024.9.26
モネの『睡蓮』の見どころは? 池の場所、鑑賞できる美術館も紹介
印象派の立役者、クロード・モネ。彼が画業の集大成として50代後半から描き始めた連作が『睡蓮』シリーズです。光の移ろいを追求したモネにとっての、最期の大きなモチーフであり、彼は睡蓮を描くためにアトリエを建てるほど、熱中しました。
今回はそんな睡蓮の見どころを、作品そのものと、モネの思想の両方から解説します。連作の枚数、実際に睡蓮の池がある場所、睡蓮を見られる美術館についても紹介しますので、参考にしてみてください。
目次
モネが描きたかったこと
Claude Monet, photo by Nadar, 1899. Public domain, via Wikimedia Commons.
モネは光の魔術師とも言われた画家です。その背景にあったのは「見たままの光景を絵に落とし込みたい」という信念でした。
モネが若い時期はまだ、古典主義的な作風が評価される時代でした。「見たままを描くのではなく、ちゃんと頭のなかで再構成したうえで美しく描こうね!」という教えです。
しかしモネは「そんなの古い!」と考えていました。理性より感性を重視したうえで、見た光景をそのまま描くことを意識したわけです。
その結果としてモネは当時はまだメジャーでなかった戸外制作を行い「筆触分割」をはじめとした技法で、景色を極力そのまま絵に落とし込みました。
特に「光」はモネを魅了しました。同じ景色でも時間帯や季節によって、見える光景が違います。この点に注目したモネは『睡蓮』以前にも、『サン=ラザール駅』『積み藁』『ポプラ並木』『ルーアン大聖堂』の連作を描いています。
モチーフ | 枚数 |
---|---|
サン=ラザール駅 | 12作 |
積み藁 | 25作 |
ポプラ並木 | 23作 |
ルーアン大聖堂 | 33作 |
『サン=ラザール駅:列車の到着』 Public domain, via Wikimedia Commons.
『積みわら、夏の終わり』 Public domain, via Wikimedia Commons.
『エプト河岸のポプラ並木』 Public domain, via Wikimedia Commons.
『ルーアン大聖堂、ファサード(日没)』 Public domain, via Wikimedia Commons.
そんなモネが50代後半にたどり着いたモチーフが、睡蓮でした。彼はフランス・ジヴェルニーの庭に池を作り、たくさんの睡蓮を植えました。
モネの生涯については以下の記事で詳しく紹介していますので、参考にしてみてください。
関連記事:【クロード・モネ】印象派とは?睡蓮とは?画家の生涯と合わせて解説
6つの『睡蓮』の見どころ
『睡蓮』(w.1683) Public domain, via Wikimedia Commons.
『睡蓮』は1898年からモネが描き始めた連作です。最後に取り組んだ大きな仕事となっています。ここからは『睡蓮』の見どころを6つに分けて紹介します。
見どころ①:日本風の太鼓橋
Work by Claude Monet Public domain, via Wikimedia Commons.
モネは1883年、ジヴェルニーの庭に小川の水を引き込むことを決めます。1895年には日本風の太鼓橋を架けました。ただし朱塗りではなく、緑に塗りました。モネは太鼓橋を含めた睡蓮作品も多く描いています。
モネは大の浮世絵好きとしても知られています。喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重などの作品を200点以上も持っていたとされており、1876年には妻・カミーユをモデルに『ラ・ジャポネーズ』という作品も描いています。
『ラ・ジャポネーズ』1876年。油彩、キャンバス、231.8 × 142.3 cm。ボストン美術館。第2回印象派展出品(W387)。 Public domain, via Wikimedia Commons.
見どころ②:『睡蓮』は第一連作と第二連作に分けられる
『睡蓮の池』(w.1516) 1899年 Public domain, via Wikimedia Commons.
睡蓮は大きく以下の2つの時期に分けられます。
シリーズ | 特徴 |
---|---|
第1シリーズ(1898年~1900年ごろ) | 太鼓橋を中心として、画面下部には池、周囲にしだれ柳を含めて描いた作品群 |
第2シリーズ(1903年~1908年) | 太鼓橋を画面に入れず、池に浮かぶ睡蓮にフォーカスした作品群 |
1900年にモネはデュラン=リュエル画廊での「クロード・モネ近作展」に第1シリーズの作品を展示しました。また1909年に同じくデュラン=リュエル画廊で「睡蓮:水の風景連作」を開催。1909年の展示のため、大きく構図を変えました。
また1901年には池の拡張工事をしており、この影響も受けたとされています。
見どころ③:同じ「睡蓮の池」でも全く違う250枚の絵
『睡蓮』 1903年 Public domain, via Wikimedia Commons.
モネの『睡蓮』シリーズは世界中に約250枚あるといわれています。構図はもちろん異なりますが、すべて同じ池を描いた作品群です。
おもしろいのは、1枚1枚がまったく違う表情をしていること。鑑賞していると、睡蓮の池の色合い、波の動きなどから、当時のジヴェルニーの季節や時間帯が伝わってくるようです。まさにモネの信念が反映されているモチーフといえます。
見どころ④:刻々と変化する光の表現
『睡蓮』(w.1706) Public domain, via Wikimedia Commons.
『睡蓮』のうち特に第2シリーズの多くは、水面にフォーカスしています。その光の反射に注目するのも楽しみ方の一つです。水面はまるで鏡のように、光を反射しています。
モネは池の前で刻々と変わる光の射し方に注目して、ベストタイミングを待っていたといわれます。
見どころ⑤:大装飾画と睡蓮のためのアトリエ
Claude Monet - The Water Lilies - The Clouds - Google Art Project Public domain, via Wikimedia Commons.
モネは、19世紀末頃から「部屋全部を巨大な『睡蓮』の絵で埋め尽くそう」と構想していました。そのために、巨大な睡蓮を描くためのアトリエを建てます。
本格的に巨大な作品を作り始めたのは1915年あたりからです。1919年までの間に70面もの大画面作品を制作しました。この大壁画は紆余曲折ありつつ、オランジュリー美術館に寄贈され、今でも見ることができます。
参考:オランジュリー美術館「Les Nymphéas de Claude Monet」
見どころ⑥:白内障・妻の死・水害と闘いながら描き続けた睡蓮たち
晩年のモネは白内障との闘いもありました。具体的には1908年、68歳ごろから目の不調を感じ始めたそうです。
また1910年にはセーヌ川の氾濫による洪水で「水の庭」を被害を受けてしまいます。このほか1911年には妻が亡くなり、動けなくなるほどショックを受けました。
こうしたアクシデントの連続のなかで睡蓮は描かれました。特に白内障が悪化した際は色の識別ができず、モネ自身が「こんな作品を世に見せられない」と何枚も破壊してしまいました。それほどまでのストレスとの闘いを経て、描かれた作品だと知ると、深みを持って作品と接することができます。
睡蓮の池(水の庭)はどこで見られるか
ジヴェルニーのモネ邸の庭 Public domain, via Wikimedia Commons.
モネの睡蓮の庭(通称・水の庭)は、現在でもフランス・ジヴェルニーにあります。パリから1時間ほどの場所です。モネの家は現在、クロード・モネ財団が管理しており、刊行の際には事前予約も可能です。
またモネの家には、モネが収集していた浮世絵版画が200点以上所蔵されています。そのほか大装飾画を描く際に作ったアトリエもそのまま残っており、財団のギフトショップになっています。
参考:クロード・モネ財団
北川村「モネの庭」マルモッタンで疑似体験できる
北川村モネの庭マルモッタンの水の庭 via Wikimedia Commons.
高知県安芸郡の北川村モネの庭マルモッタンでは、水の庭を再現しています。クロード・モネ財団から唯一「モネ」の名を冠することを認められた場所です。
モネの睡蓮を見られる美術館
モネの睡蓮は世界中に250点ほどあります。日本の美術館にもたくさん所蔵されており、実物を見ることができます。
例えば以下の美術館には睡蓮が所蔵されています。
・群馬県立近代美術館
・川村記念美術館
・MOA美術館
・東京富士美術館
・ポーラ美術館
・ブリヂストン美術館
・国立西洋美術館
・大原美術館
・府中市美術館
・北海道立近代美術館
・広島美術館
・名古屋市美術館
・アーティゾン美術館
この記事を読んで、気になった方はぜひ美術館で実物を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。
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