STUDY
2024.10.17
【ギリシャ神話とアート】女神アテナの物語・作品例を解説
アテナはギリシャ神話における知恵と戦略の女神であり、また都市アテネの守護神としても知られています。彼女はゼウスとメティスの娘で、神々の中でも特に尊敬される存在です。
目次
Athena column at the Academy of Athens«Μέγαρο Ακαδημίας Αθηνών», Public domain, via Wikimedia Commons.
戦略の女神でありながらも、アテナは戦争の神アレスとは異なります。戦いの場面だけではなく、知恵や技術の象徴として広く信仰されていました。この記事では、ギリシャ神話の女神アテナの物語や作品例について解説します!
ギリシャ神話の女神アテナは知恵の象徴
Greek Silver Tetradrachm of Athens (Attica), Public domain, via Wikimedia Commons.
アテナは、神話の中で数々の英雄を支援し、知恵と戦略で勝利を収める助けをしました。女性の教育や手工芸の守護神、教育、技術、芸術の保護者でもあります。トロイア戦争においては、ギリシャ軍の戦略を指導したり、英雄オデュッセウスに知恵を授けたりしました。
アテナの知恵は、彼女が持つ神秘的な盾「エジオス」に象徴されています。エジオスは魔法の盾で、最強の防具です。この盾はゼウスがアテナに授けたもので、強力な魔除けの力を持ち、敵を圧倒する力があるとされます。
"Varvakeion Athena" Statue, 200-250 AD, Public domain, via Wikimedia Commons.
エジオスの表面にはゴルゴンのメデューサの頭が取り付けられており、これを見る者を石に変えるという呪いが込められています。この神話的な盾の描写は、後の芸術作品や文学においても、アテナを象徴するアイテムとして広く取り上げられました。
アテナの使い魔としては、フクロウが有名です。このフクロウは知恵、洞察力、直感を表し、アテナの神聖なシンボルでもあります。古代ローマでは、フクロウは教育の象徴とも見なされ、学問や哲学の分野で重要視されました。
ドイツ哲学者ヘーゲルは『法の哲学』の序文で「ミネルヴァのふくろうは迫り来る黄昏に飛び立つ(※ローマ神話ではアテナはミネルヴァと呼ばれる)」(ドイツ語: die Eule der Minerva beginnt erst mit der einbrechenden Dämmerung ihren Flug)と述べました。
これは、哲学や歴史学などの深い考察は、時代の終わりに振り返ることでのみ実現するという意味が込められています。
彼女の知恵と公正さは、古代ギリシャの文化や社会において強い影響を持ちました。アテナは知識や文化の重要性を強調する存在で、ギリシャ社会に深く根付いています。
ギリシャ神話のアテナが主題のアートの例
アテナは古代から近代に至るまで、多くのアート作品のテーマとなってきました。彼女の美しさや知恵は、特に彫刻や絵画において力強く描かれています。
ここでは、アテナが登場する主な神話の物語を3つ紹介します。
・アテナとポセイドンの争い
・アテナの誕生
・アテナとアキレウスの戦い
アテナが登場するアート主題①:アテナとポセイドンの争い
Poseidon and Athena battle for control of Athens - Benvenuto Tisi da Garofalo (1512), Public domain, via Wikimedia Commons.
アテナとポセイドンの争いは、都市アテネ(ギリシャ)の名付け親を巡る重要な神話です。アテナイ(アテネの古称)という都市に、どの神が守護神となるかを決めるために、アテナとポセイドンが競い合いました。
ゼウスをはじめとするオリュンポスの神々は、どちらが都市に最も有益な贈り物を与えるかで勝敗を決めることにします。
ポセイドンは、彼のシンボルでもある三叉の矛で岩を打ち、水の泉を湧き出させました。しかし、その泉は海水だったため、飲むには適していませんでした。
アテナは、都市の土地にオリーブの木を植えます。この木は、実を収穫することで油や食料として使えるだけでなく、木材としても価値があり、都市の繁栄に大いに貢献するものでした。
最終的に、アテナの贈り物が市民にとって有用であったため、彼女が都市の守護神として選ばれました。この神話は、ポセイドンが象徴する海洋貿易や軍事力と、アテナが象徴する知恵や農業・平和的発展の対比を表しています。
オリーブは、古代アテネの象徴となり、平和と繁栄を導く「知恵」の重要性を教えてくれるアイテムです。実際、筆者がギリシャのアテネを訪れた際、街のいたるところにオリーブの木がある景色が印象に残っています。
芸術作品に描かれるアテナはしばしば木の枝を手にしているか、背景に植物が描かれています。これは、オリーブの枝で、アテナの数あるシンボルのうちの1つです。
関連記事:【ギリシャ神話とアート】海の神ポセイドンの物語・作品例を解説
アテナが登場するアート主題②:アテナの誕生
Amphora birth Athena Louvre F32, Public domain, via Wikimedia Commons.
アテナは、誕生のエピソードも神秘的です。彼女の父であるゼウスは予言で、彼と海の女神メティスとの間に生まれる子どもが、自分を凌ぐ強力な神になると告げられます。最初に生まれるのは知恵の神アテナで、その後に生まれる子がゼウスを脅かす存在となるとされていました。
この予言を恐れたゼウスは、まだ妊娠しているメティスを飲み込むことにします。しばらく経つとゼウスはひどい頭痛に悩まされ始め、痛みが限界に達したため、ゼウスは鍛冶神ヘーパイストス(もしくはプロメテウス)を呼び、自分の頭を斧で割らせました。
ゼウスの頭が割れると、その中から輝く鎧に身を包んだ女神アテナが、戦いの叫び声をあげながら飛び出しました。彼女は完全な成人の姿で、兜をかぶり、盾と槍を持っていたとされています。
アテナの誕生は、知恵と戦の戦略を象徴しています。ゼウスの頭から生まれたことは、彼女が知性や思慮深さを体現していることを意味します。
また、武装した姿での誕生は、彼女が戦争の神でもあることを示していますが、彼女の戦は防衛や秩序を守るための「正義の戦い」として描かれることが多いのが特徴です。
関連記事:【ギリシャ神話とアート】ゼウス(ジュピター)の物語・作品例を解説
アテナが登場するアート主題③:アテナとアキレウスの戦い
Athene suppressing the fury of Achilles, Public domain, via Wikimedia Commons.
アテナとアキレウスの物語は、『イリアス』の第1巻に掲載されており、戦場での冷静さと感情的な復讐の対比を強調しています。
たとえば、アガメムノンが自分の戦利品であるブリセイスを奪ったことに激怒し、アキレウスがアガメムノンを殺そうとした瞬間、アテナが彼の前に現れます。アテナは、女神ヘラの命令を受けてアキレウスをなだめ、理性を取り戻させました。
この場面は、アテナが戦争の神でありながらも知恵と冷静さを象徴することを示しており、彼女が人間の感情を抑える役割を果たしていることを象徴します。戦争の神アレスとは異なりアテナは暴力的な破壊ではなく、戦略的で正義を守るための戦いを重視していることが、この物語からよくわりますね。
ギリシャ神話の女神アテナのアートにおける影響
Tommaso Conca - Pallas Athena - NM 7148 - Nationalmuseum, Public domain, via Wikimedia Commons.
アテナは、ギリシャ神話の中でも特に重要な存在であり、その物語は多くの芸術作品に影響を与え続けています。彼女の知恵や戦略は、古代ギリシャの文化的価値や美学を象徴しており、現代でも多くのアーティストが彼女を題材に作品を制作しています。
アテナの物語を通じて、古代ギリシャの価値観や文化に触れることができ、彼女の姿がどのように表現されているかに注目することで、アートの鑑賞がより一層楽しくなることでしょう。
以上、ギリシャ神話とアート「アテナ」についてでした。
関連記事
【ギリシャ神話とアート】嫉妬深いヘラの物語・作品例を解説
西洋美術のモチーフになった「ギリシャ神話」3選!初心者向けにストーリーを解説
【ギリシャ神話】西洋美術を読み解くために重要な神々を簡単解説!
画像ギャラリー
このライターの書いた記事
-
STUDY
2024.11.08
西洋アートに描かれる「雲」には意味がある?表現の発展・歴史も解説
はな
-
STUDY
2024.10.31
オルセー美術館の印象派コレクションとは?歴史背景や重要性を解説!
はな
-
STUDY
2024.10.09
【ギリシャ神話とアート】英雄ヘラクレスの物語・作品例を解説
はな
-
STUDY
2024.10.07
【ギリシャ神話とアート】海の神ポセイドンの物語・作品例を解説
はな
-
STUDY
2024.10.01
【ギリシャ神話とアート】嫉妬深いヘラの物語・作品例を解説
はな
-
STUDY
2024.09.17
【ギリシャ神話とアート】ゼウス(ジュピター)の物語・作品例を解説
はな
はな
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
イタリア・ローマの大学の美術史修士課程に在籍中。3年半勤めた日系メーカーを退職後、2019年から2年半のスペイン生活を経てフリーライター、日英・日西翻訳として活動するかたわら、スペイン語話者を対象に日本語を教えています。趣味は読書、一人旅、美術館・教会巡り、料理。
はなさんの記事一覧はこちら