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2024.10.18

民衆を導く自由の女神(ドラクロワ)を徹底解説!なぜ胸がはだけているのか、どこで見られるのか、寓意・手法などを紹介

『民衆を導く自由の女神』は、フランスの画家、ウジェーヌ・ドラクロワが1830年に描いた名画です。フランス7月革命を象徴する重要な作品として、政治的・芸術的に大きな意味を持っています。

また西洋美術史のなかでも「ロマン主義」の代表的作品として、とても価値がある作品だといえます。

今回はそんな『民衆を導く自由の女神』について、詳しく紹介します。

『民衆を導く自由の女神』の概要

La Liberté guidant le peuple - Eugène Delacroix - Musée du Louvre Peintures RF 129 - après restauration 2024, Public domain, via Wikimedia Commons.

『民衆を導く自由の女神』は、当時32歳のウジェーヌ・ドラクロワによって制作された油絵です。ドラクロワといえば、19世紀フランスで流行したロマン主義を代表する画家として有名です。

サイズは260 cm × 325 cmと、かなり巨大です。ロマン主義的なダイナミックさ、躍動感がド迫力で伝わってきます。ルーヴル美術館でも存在感があり、人気の作品です。

時代背景

市街戦, 市庁舎への襲撃, Public domain, via Wikimedia Commons.

『民衆を導く自由の女神』は、1830年にフランスで起こった「7月革命」を現した作品です。

7月革命の約40年前には、フランス革命が起こりました。「パンがなければケーキを……」です。国民が浪費癖がすごかった貴族、王族に蜂起し、ナポレオンが新しくフランスを統治することになった事件です。

しかしナポレオンが失脚すると、国王・シャルル10世の専制政治がはじまります。「結局、王政に戻るのかよ! みんなで自由な生活を取り戻せ!」とフランス国民全体が蜂起したのが「7月革命」です。最終的には民衆が勝利しました。

ドラクロワはこの革命の熱気に触発され、民衆の自由への渇望を表現するためにこの絵を描いたとされています。

『民衆を導く自由の女神』は美術史でも重要な作品

ドラクロワは先述したようにロマン主義の画家です。実は当時、ロマン主義はメインの描き方ではなく、あくまで少数派でした。

ロマン主義とドラクロワ

ロマン主義とは、感情、個人の表現を強調する芸術運動です。とても劇的に描かれるのが特徴であり、インパクトのある作品が多いといえます。

実際におきた事件や事故をもとに描かれることも多く、ドラクロワの師匠的な存在でもあるテオドール・ジェリコーは1818-1819年に『メデューズ号の筏』を描きました。メデューズ号が難破した事件をモデルにした作品です。

Théodore Géricault, Le Radeau de la Méduse, Public domain, via Wikimedia Commons.

新古典主義VSロマン主義

当時、主流だったのは「新古典主義」と呼ばれる様式でした。決して派手ではなく、静かで重々しく、威厳のある作品を目指していました。

『玉座のナポレオン』 1806年 軍事博物館(パリ・アンヴァリッド) "Napoléon Ier sur le trône impérial", Public domain, via Wikimedia Commons.

新古典主義の旗手となったのはドミニク・アングルで、彼はドラクロワとライバル関係になります。

ドラクロワや彼の師匠であるジェリコーなどは、こうした新古典主義と真逆と言っても思想を持ったロマン主義を推進し、19世紀フランスではロマン主義が認められるようになりました。

こうした新古典主義とロマン主義の対立は以下の記事で詳しく説明しています。

関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第19回)~ロマン主義編~

ドラクロワが『民衆を導く自由の女神』に込めた寓意

この作品には、さまざまな寓意(アレゴリー)が込められています。寓意とは、今っぽい言葉でいうと「匂わせ」的な意味です。

絵画に登場するモチーフやポージングなどで、メッセージを伝える手法となっています。

描かれている女性は自由の女神・マリアンヌ

La Liberté guidant le peuple - Eugène Delacroix - Musée du Louvre Peintures RF 129 - après restauration 2024, Public domain, via Wikimedia Commons.

絵の中心に描かれている女性は「マリアンヌ」です。マリアンヌとはフランスを象徴する女性像であり、いわゆる「自由の女神」です。フランスではメジャーな存在でフランス政府広報のロゴマークにも採用されています。

フランス政府広報のロゴマーク, Public domain, via Wikimedia Commons.

7月革命はまさに自由を勝ち取るための闘いだったため、マリアンヌが描かれました。

マリアンヌの胸がはだけている理由

この作品で、マリアンヌは胸をはだけた姿で民衆を導いています。当然、戦場にこうした女性はいないのですが、これがロマン主義のいいところです。見たままを描くのではなく、誇張してダイナミックに見せています。

彼女の胸がはだけているのは、ドラクロワが「母性」を表現したかったからです。ここでいう母性とは「祖国への愛」です。フランス国民の総意として7月革命が起こったことを表現しています。

階級問わず、さまざまな人が描かれている

La Liberté guidant le peuple - Eugène Delacroix - Musée du Louvre Peintures RF 129 - après restauration 2024, Public domain, via Wikimedia Commons.

マリアンヌを取り囲む民衆は、社会階級も年齢層もばらばらです。武装した市民兵、労働者、少年まで含まれています。これは「フランス全体の民衆が一つとなって革命に立ち向かったこと」を示すためです。

特に、マリアンヌの右にいる少年は「未来の世代」を表し、革命が次世代にも影響を与えることを示唆しています。

ちなみにマリアンヌの左にいるシルクハットの男性は、ドラクロワ自身だといわれています。

革命のシンボルとしてのフランス国旗

自由の女神が掲げる三色旗(青、白、赤)は、フランス革命の象徴でもあります。長く、辛い王政に耐えてきたフランスらしく「自由、平等、博愛」を表しています。

この国旗をマリアンヌに持たせることで、作品自体がとてもダイナミックかつ大胆なものになっているのが特徴です。この作品における最も重要なシンボルの一つといえます。

芸術的手法と技法の分析

La Liberté guidant le peuple - Eugène Delacroix - Musée du Louvre Peintures RF 129 - après restauration 2024, Public domain, via Wikimedia Commons.

最後にドラクロワが、『民衆を導く自由の女神』で用いた絵画技法について紹介します。

大胆で、動的(ダイナミック)な表現を意識した「ロマン主義」を念頭に置くと、作品が見やすくなります。

動きとエネルギーが伝わる「斜めの構図」

まず特徴的なのは「斜め」の構図です。ドラクロワはこの作品で、動きとエネルギーの感覚を非常に巧みに表現しました。

画面全体が斜めに傾いたような構図で描かれているのが特徴的です。自由の女神を中心に、民衆が一つの大きな波のように進んでいる印象を与えます。まさに「革命の緊迫感」と「民衆の団結力」が表現されています。

色彩と光の使用

ドラクロワはこの作品で、非常に強烈な色彩と光のコントラストを用いています。特に、自由の女神を囲む光は、彼女を神々しく見せています。

一方でまた、民衆や背景の人物は陰影によって描かれ、戦場の混乱と緊迫感を強調しています。

筆遣いとテクスチャ

ダイナミックな筆遣いは、ドラクロワの大きな特徴です。『民衆を導く自由の女神』では、背景の白煙・黒煙の動きは特徴的だといえます。

写真のような美しさではなく、絵画だからこその荒々しさがあります。だからこそ、見る人の心を打つ作品だといえます。

空間の奥行きと遠近法

この絵には、空間の奥行きが強調されているのも特徴的です。背景にはたくさんの民衆が描かれています。また遠景にはパリの建物があります。

この空間の奥行きによって、作品のスケールが大きくなっており、その分インパクトがありますね。

まとめ

今回はドラクロワの『民衆を導く自由の女神』について、詳細に解説しました。筆者は実際にルーヴル美術館で実物を見ましたが、想像より大きく、圧倒されました。また荒々しさもあり、当時の7月戦争のフランス国内の熱量を感じられるような作品です。

2023年9月20日から半年間の修復作業を経て、今でもルーヴル美術館で見られる作品となっています。ぜひ実物をご覧いただきたい作品です。

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ジュウ・ショ

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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

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