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2025.2.27
印象派の「風景画」の技法5つ解説!オルセー美術館の名作も紹介
印象派の風景画と聞いて、みなさんはどんな作品を思い浮かべますか?
印象派運動を牽引したモネは、さまざまな風景を異なる時間帯で書くほど風景画に情熱を注いでいました。モネ以外にも、印象派の芸術家の多くは屋外に出て作品を制作したことで知られ、自然景観や都市風景をテーマに好みました。
目次
Monet - Grainstacks, in Bright Sunlight, 1890, Public domain, via Wikimedia Commons.
「風景画」のジャンルは印象派以前から存在していましたが、印象派以降の風景画はアプローチや技法においてそれまでの作風といくつかの点において異なります。
2025年10月25日から2026年2月15日まで国立西洋美術館で、『オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語』が開催される予定です。展覧会の開催に先駆けこの記事では、展覧会のテーマとは対照的に、屋外で制作された「印象派の風景画」に焦点を当てています。
印象派の風景画の主な技法5つと、オルセー美術館に所蔵されている代表作を紹介しながら解説します!
なお、ここで紹介する作品が2025年の展覧会に来るわけではなく、あくまでオルセー美術館の所蔵作品紹介記事です。公式情報については、『オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語』からご確認ください。
印象派の風景画の5つの技法的特徴
特徴①:絵の具を混ぜない「筆触分割」技法
Water-Lily Pond Monet, Public domain, via Wikimedia Commons.
印象派は作品制作において、絵の具を混ぜずに使用することがよくありました。これを「筆触分割」と呼びます。では「絵の具を混ぜない」とは、どういうことでしょうか。
市販の絵の具や顔料には決まった色がありますが、通常、絵画では表現したい色を作り出すためにパレット上で絵の具を複数混ぜます。たとえば、紫色を作るためには赤と青を混ぜますよね。赤の絵の具の量を増やせば、赤紫色が出来上がります。
印象派の画家の多くは、伝統的な技法に則ってパレット上で絵の具を混ぜてカンバスに描くのではなく、カンバス上で視覚的に色を混ぜる筆触分割を採用しました。
つまり、絵の具の純粋な色をそのまま使用し、表現したい色になるように、複数の色を隣り合わせで配置したのです。先ほどの例を引用すると、紫色を表現するために赤と青を近くに塗るようなイメージです。
直接的に色を塗る代わりに、見る人の目を通して色を混合させる筆触分割は、印象派画家が大切にしている生き生きとした躍動感を表す効果があります。ビビッドな色は目が引くだけではなく、視覚が色を混合して認識する際に対象が揺れているような印象を与えるためです。
新印象派に分類されるスーラは、筆触分割をさらに発展させ、点描で色彩を表現したことで知られます。
特徴②:ダイナミックで即興的な筆致
Pierre-Auguste Renoir, A Garden in Montmartre, Public domain, via Wikimedia Commons.
印象派といえば、ダイナミックな筆致が特徴的ですね。伝統的な絵画では、筆致はなるべく見えないのが正しいとされ、なめらかな絵画表面が一般的でした。
一方で印象派の芸術家が、絵の具の塊がカンバス上に残ることさえも厭わないダイナミックさがあります。たっぷりとつけた絵の具を素早くカンバスに載せるため、筆致のストロークがありありと見える作品も少なくありません。
印象派の筆致は「荒々しい」と感じますか?もちろん、芸術家たちは手を抜いて、適当に絵の具を塗っているわけではありません。
絵の具が筆の流れに沿って伸びる様子は、そのまま対象物の即興性を表現しています。目の前で刻一刻と動く対象を正確に描くためには、従来のなめらかで緻密な筆遣いは不十分でした。
自由で力強い筆致を大切にしているからこそ、印象派の作品はエベルギッシュで生命力に溢れて見えるのです。とくに風景画においては風や水面の揺らぎなど、小さな自然景観の変化を表現するためにあえて荒い筆致が用いられることがよくありました。
特徴③:ゆらめく線
Joaquín Sorolla, 1905, Public domain, via Wikimedia Commons.
印象派作品を鑑賞して、「ゆらゆらしている」という印象を受けたことはありませんか?
印象派画家の多くは、自由で即興的な作品の制作を好みました。そのため、画家は計画的な加筆というよりは、その場で瞬間的に思いついた線を描いています。その結果が「ゆらめく」雰囲気です。
精密な計算に基づいて描かれた伝統的絵画とは対照的に、印象派が求めていたのは目の前にある景色そのものでした。
とくにモネやルノワールの作品では、ぼんやりと移る輪郭が特徴的ですね。印象派は絵画という二次元的な世界のなかで、可能な限りの躍動感を表現しようとした芸術様式と言えます。
目の前で動くものの輪郭を、私たちの目は正確にとらえることができません。同じように、あいまいで揺らぐ輪郭線を絵画に落とし込むことで、静的で格式高い伝統的な技法から一線を画したのです。
特徴④:スカンブル(厚塗り)技法
Berthe Morisot Le port de Lorient , Public domain, via Wikimedia Commons.
印象派画家の多くはスカンブル(厚塗り)技法を用いたことで知られます。スカンブルとは、不透明の絵の具をかすれされながら重ね塗りする技法です。かすれた不透明の絵の具は、鑑賞者にふんわりとした印象を与えます。
スカンブル技法自体は印象派よりも前のロマン主義時代から使用されてきました。この技法は先述した筆触分割とも類似点があり、微妙な色のニュアンスを表現するために有効です。
「物体は常に光の影響を受けるため決して単色ではなく、さまざまな色味を含んでいる」という印象派の哲学において、対象物に深みを与えるスカンブルは重要でした。
ポイントは、ベタ塗りするのではなく軽くかすれさせて塗っていること。もとの色が完全に隠れてしまっては、意味がないためです。あえて下の層を透けさせることで、鑑賞者から対象物までの間にある「大気」や「空間」を意識させる効果があります。
風景画においてスカンブル技法は透明感を表現するために役立ちました。たとえば、水面の光の反射や夕陽の光を表現する際に、単純な色の配置では表現できない深みを与えます。
モネの「睡蓮」シリーズでは、水面の反射が多く表現されています。作品をよく観察すると、何層にもわたる絵の具の重ね塗りが感じられますよね。
躍動的で輝くようなモネ作品は、スカンブルを含むいくつもの技法の上に成立しているわけです。たとえばラファエロの画法のようになめらかで緻密な伝統的絵画では、この躍動感を表現することは難しいでしょう。
特徴⑤:アン・プラン・エア(屋外制作)
Auguste Renoir Tréboul, près de Douarnenez , Public domain, via Wikimedia Commons.
アン・プラン・エア(屋外制作)は印象派を語る際にもっとも注目される技法の1つ、制作スタイルです。
印象派以前の画家は、風景画を作成する際でも屋内にとどまり、安定した作業環境で制作していました(一部例外もあります)。しかし印象派芸術は光の変化や瞬間性を重視したため、アン・プラン・エア(屋外制作)を好みました。
風景画を制作する際には、カンバスを外に持ち出し、対象物を目の前にして作業します。たとえば、モネは同じテーマの作品を、異なる季節、時間帯で描き続けたことで知られます。目の前に対象があるからこそ、正確で生き生きとした色味を捉えられたのでしょう。
アン・プラン・エアは、対象をよく観察して認識できるメリットがある反面、屋外という不安定な作業環境は画家にとってデメリットになることもありました。
じっくり時間をかけて細かい作業ができるわけではなかったため、自然と筆致は短く、自由になります。また、色をパレット上でゆっくり混ぜる時間もないため、素早く描ける技法が好まれました。
つまり、印象派の特徴である筆致分割や短いダイナミックな筆致は、表現上の理由だけではなく、屋外で作業範囲が制限されていたことにも起因するのです。
オルセー美術館にある印象派の風景画代表作3選
印象派の風景画にまつわる5つの技法を解説したところで、実際にいくつかの作品を見てみましょう。印象派のもっとも重要なコレクションを誇るオルセー美術館に所蔵されているものから3つ選びました。
モネ『ロンドン、国会議事堂。霧の中の太陽の光の筋』
モネ『ロンドン、国会議事堂。霧の中の太陽の光の筋』 Londres, le Parlement, trouée de soleil dans le brouillard (1904) par Claude Monet Musée d'Orsay, Paris , Public domain, via Wikimedia Commons.
モネはしばしばロンドンの国会議事堂をテーマに作品を制作しました。この作品には、モネの風景画の特徴がいくつか如実に表れています。
ぼんやりとした国会議事堂の輪郭は、霧の中で陽に照らされた大気によってかすんでいます。霧がちなロンドンの空気が伝わるようです。
オルセー美術館の公式サイトは、この作品を次のように描写しています。
国会議事堂の非現実的で幽霊のような輪郭が、まるで幻影のように浮かび上がっている。石造りの建築物は実体を失っているかのようだ。空と水は同じトーンで描かれており、紫とオレンジ色が支配的である。筆の動きは系統的に何千もの色付きのパッチに分断されており、大気と霧の濃度を表現している。逆説的ではあるが、これらの捉えどころのない要素は、影の中に溶け込んで消え去ってしまいそうな儚い建物よりも、より実体があるように見える。
Londres, le Parlement. Trouée de soleil dans le brouillard - Claude Monet | Musée d'Orsay
太陽や水面の部分では、さまざまな色が重ねて塗られています。安定した絵の具の色で表現される水面とは異なり、瞬間的に変わっていく水面のきらめきが伝わりますね。
モネ『アルジャントゥイユ橋』
モネ『アルジャントゥイユ橋』, Pont Argenteuil Monet, Public domain, via Wikimedia Commons.
1つめの作品とは異なり、全体的に明るい印象の作品です。モネの風景画には水面がよく登場しますが、1874年の『アルジャントゥイユ橋』は画面の半分以上が水面という構図です。
水面に反射した景色や空は、ゆらゆらと揺らいでいますね。モネは反射している建物や木の元の色とは異なる色を細かい筆のストロークで表現することで、風になびく水を巧みに表現しています。
水面はズームして見ると、ほとんど何を描いているかわからないほど荒い表現です。しかし、離れてみると不思議なことに全体の調和がとれています。
風景画を描く際の印象派の技法を感じるためには、近づいたり離れたりして鑑賞するのがおすすめです。
ルノワール『マリーン、ガーネット島』
ルノワール『マリーン、ガーネット島』, Renoir marine guernesey, Public domain, via Wikimedia Commons.
ルノワールが残したこの風景画は、荒々しい波の飛沫が感じられる作品です。一般的な海から想像される青色だけではなく、緑や黄色、紫が加っている点は注目に値します。カラフルな波は、自由な躍動感があります。
細かいストロークの連続は、波の流れに沿ってカーブしたりかすれたりしていますね。反対に、白い絵の具がたっぷりと塗られている部分は波の飛沫を表現しています。
一見荒々しく絵の具を塗りたくっただけのようにも見えますが、短く強い筆致だからこそ、重たく湿った空気感や、岩にあたって砕ける波の様子が見事に表現されています。
まとめ:印象派の風景画は技法×表現で見るとより楽しい!
印象派の風景画を理解する鍵は、「屋外制作」という不安定な条件下で生まれたそれぞれの技法です。画家の表現したいものと技法がマッチした結果、印象派独特な力強く躍動的な風景画につながりました。
作品を鑑賞する際は、芸術家が対象物を目の前にして作業していたことを思い起こしてみましょう。作品を通じ、その場の空気や湿度までが伝わってくるかもしれません。
以上、印象派の風景画についてでした!
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イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
イタリア・ローマ在住美術ライター。2024年にローマ第二大学で美術史の修士を取得し、2026年からは2つめの修士・文化遺産法学に挑戦。専攻は中世キリスト教美術。イタリアの前はスペインに住んでいました。趣味は旅行で、訪れた国は45カ国以上。世界中の行く先々で美術館や宗教建築を巡っています。
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