STUDY
2025.4.17
『浮世絵現代』がトーハクで開催!国内外のアーティストが伝統の木版画に新たな命を吹き込む
東京国立博物館 表慶館にて2025年4月22日から開催される『浮世絵現代』。
目次
安野モヨコ《『さくらん』きよ葉》 2016年 ©︎Moyoco Anno
アーティスト、デザイナー、クリエーターたちが現代の絵師となり、アダチ版画研究所の彫師・摺師たちと協働して制作した現代の浮世絵を紹介するユニークな展覧会です。
時代を超えて受け継がれる木版画の技術。『浮世絵現代』とは?
N・Sハルシャ《恥ずかしがりの猿 黄昏 ・鶏鳴・日出》 2017年 ©N.S.Harsha
江戸時代の文化で独自に発展し、浮世絵という華やかな芸術を生み出した日本の木版画。「浮世」の言葉は、現世を表す「憂き世」を語源とし、「当世風の」という意味があります。まさに浮世絵版画は、時代や社会の「今」を色鮮やかに映し出すメディアでした。
そして浮世絵には、庶民の生活、風俗、美人、役者、風景などを題材に、当時の都市文化のエッセンスが鮮やかに描かれます。また浮世絵はジャポニズムの潮流により、19世紀後半のヨーロッパの画家たちに大きな影響を与えるなど、国や地域を越えて高く評価されました。
写楽や歌麿、北斎の浮世絵を生み出した高度な木版画の技術は、何も江戸時代にて途切れてしまったわけではありません。山桜の版木を使い、和紙に墨と水性の絵具で摺り上げることで生まれるシャープな線や軽やかな色彩は、唯一無二のもの。
伝統の技術は、同時代の人々の心をとらえる作品を生み出すことで、現代までの職人たちに受け継がれてきました。
塩田千春《Connected to the Universe》 2023年 ©JASPAR, Tokyo, 2025 and Chiharu Shiota
江戸時代の技術や精神を継承し、発展させた現代の浮世絵を出品するのは総勢85名のアーティスト。そこから現代から未来に続く伝統の可能性を見出すことができることでしょう。
総勢85名のアーティストが参加!展覧会構成と出品作品
それでは各章に沿って参加アーティストや出品作品(一部)をご紹介します。
【第1章 漫画往還】
水木しげる《妖怪道五十三次 京都》 2023年 ©水木プロダクション
浮世絵と漫画の出版の構造的な類似や表現上の親和性を踏まえて、漫画家たちが挑んだ現代の浮世絵を紹介します。
江戸時代において浮世絵は絵師と彫師、摺師との協働によって作られましたが、現代の浮世絵も同じように漫画家、彫師、摺師の分業によって制作された木版画です。
ここに登場するのは江戸の浮世絵師たちへの深い敬意と、遊び心を感じる作品ばかり。誰もが知るおなじみのキャラクターたちが、見る者を伝統木版画の世界へと誘います。
歌川広重の代表作「東海道五拾三次」を下敷きに、様々な妖怪たちが登場する「妖怪道」を描いた水木しげるの作品にも注目が集まります。
※主な参加アーティスト:水木しげる、楳図かずお、安野モヨコ、石ノ森章太郎 ほか
【第2章 北斎賛歌】
粟津潔《うんすいに鶴(「北斎模様・潔彩色図譜」より)》 1987年
米国『ライフ』誌の特集、「この1000年の間に偉大な業績をあげた世界の人物100人」(1998年)において、日本人で唯一選ばれた浮世絵師が葛飾北斎でした。
木版画の魅力を最大限に引き出す北斎の優れたデザイン感覚に触発されたのが、当時の第一線にて活躍していた日本のデザイナーたちです。
2章では、木版画の素材や技法の特性を理解し、北斎のデザインの現役性を引き出すことに成功した4名のデザイナーの作品を紹介します。戦後日本のグラフィックデザインを牽引し、伝統的な木版による印刷の技術にも関心を寄せ、 多くの木版画を手がけた粟津潔の作品などが見どころとなります。
※主な参加アーティスト:粟津潔、浅葉克己、佐藤晃一、松永真
【第3章 模索と実験】
戦後、高度経済成長期を経て、彫師・摺師の数が減少すると、伝統的な木版の技術の真価が問われる局面を迎え、「現代の絵師」探しがはじまります。
3章では、1970年〜2000年代にかけて、伝統木版画の彫師・摺師たちと新たな浮世絵を制作することを試みた絵師の作品を紹介します。「虹の芸術家」として知られ、光のスペクトルを用いた靉嘔の《冨嶽噴火 凱風虹快晴》などに注目しましょう。
※主な参加アーティスト:田中一光、黒川紀章、靉嘔、和田誠、フンデルトヴァッサー ほか
【第4章 現代の絵師たち】
ロッカクアヤコ《無題》 2020年 ©AYAKO ROKKAKU
「当世風の」という形容詞的な用いられ方をされた「浮世」という言葉。その本来の意味に立ち返った時、現代の浮世絵を描く絵師は、今の時代を見つめ、多くの人々の心を揺さぶる現代アーティストだということもできます。
アレックス・ダッジ《Dancing Between the Shadows of Power》 2021年 Courtesy the artist and Maki Fine Arts, Tokyo
4章では、2010年代以降、世界各地で活躍するアーティストが日本の彫師・摺師とともに制作した現代の浮世絵を紹介します。バラエティに富んだ作品からお気に入りの一枚を見つけてください。
※主な参加アーティスト:草間彌生、横尾忠則、田名網敬一、加藤泉、塩田千春、名和晃平、ロッカクアヤコ、花井祐介、李禹煥、アントニー・ゴームリー、キキ・スミス、N・S・ハルシャ、ニック・ウォーカー、ジェームス・ジーン、アレックス・ダッジ、KYNE ほか
【第5章 継承と発展】
今、日本で伝統木版画の技術を継承する彫師と摺師は何名か知っていますか?実はわずか50名ほど…。しかも現役の職人に限れば、さらにその数は少なくなります。
また木版画の素材の生産者や道具をつくる職人も少なくなっていて、業界の規模は年々縮小しています。伝統木版画を取り巻く状況は厳しいといえるでしょう。
こうした中、浮世絵を生んだ伝統木版画の技術を次の世代へ継ぐことを目的として、1994年にアダチ伝統木版画技術保存財団が設立されました。主な事業は技術者の育成であり、財団の研修制度を経て、現在数名の彫師と摺師が活躍しています。
5章では、アダチ伝統木版画技術保存財団の30年の活動の一端として、同財団が企画・監修した木版画作品を紹介します。アダチ伝統木版画技術保存財団が主催する公募企画「アダチUKIYOE大賞」を受賞した、宮﨑優の《花ざかり》や福田美蘭の《2012年の雪月花》なども見どころです。
※主な参加アーティスト:福田美蘭、近藤聡乃、宮﨑優、ピーター・マクドナルド ほか
なお本展は「東博が江戸2025」の一企画として開催されるもの。特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」(平成館 特別展示室、会期:4月22日(火)~6月15日(日))、または「イマーシブシアター 新ジャポニズム」(本館特別5室、会期:3月25日(火)~8月3日(日))の観覧券を持っている方は、当日に限って無料で観覧することができます。ぜひお出かけください。
展覧会情報
◆『浮世絵現代』 東京国立博物館 表慶館
開催期間:2025年4月22日(火)〜6月15日(日)
所在地:東京都台東区上野公園13-9
アクセス:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
開館時間:9:30~17:00
※毎週金・土曜日、5月4日(日・祝)、5日(月・祝)は20時まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、5月7日(水)
※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館
観覧料(税込):一般1,400円(1,300円)、大学生700円(600円)、70歳以上400(300)円、高校生以下無料。
※( )内は前売券。販売期間:2025/2/13~4/21
展覧会HP:『浮世絵現代』 東京国立博物館 表慶館

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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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