STUDY
2026.10.3
【体験記】細田守展で気づいた「なぜ夏の物語に惹かれるのか?」——細田作品と「夏」の魅力
「時をかける少女」「サマーウォーズ」「バケモノの子」。
細田守監督の展覧会を観に行って、自分の好きな作品を指折り数えていたら、あることに気づきました。
青い空、入道雲、セミの声……全部夏の作品だ!
もちろん細田作品すべてが夏を舞台にしているわけではありません。
でも、細田作品に出てくる「夏」って、ただ背景として選ばれているだけではなくて、たぶん「主人公が変わっていくこと」や「成長」そのものを表すための装置にもなっているのではないでしょうか?
今回は展覧会の感想とともに、細田守監督作品の魅力や、「なぜ夏の物語はこんなにも人を惹きつけるのか?」について考えてみたいと思います。
目次
原画に残された、手書きの修正指示
まず驚いたのが、とにかく原画の量!
一枚の絵が完成するまでに、同じカットでも何パターンもの原画や構想が描かれていました。
ストーリーが少し違ったり、それによって登場人物の性格が微妙に違って見えたり。
完成した映画ではほんの一瞬で通り過ぎてしまうシーンなのに、その一瞬のために、こんなに何度も描いて、修正して、また練り直しているんだ……と驚きました。
そして、個人的にすごく印象に残ったのが、原画の余白に書かれていた手書きの修正指示です。
細かい矢印や修正内容に混じって、
「何回も修正ごめんなさい」
「わかりづらくすみません」
のようなメモ書きがありました。
なんだかこの一言がすごく人間らしくて、思わず見入ってしまいました。
アニメーションって完成したものだけを観ていると、動きも映像もすごくきれいで、「どうやったらこんなものが作れるんだろう?」と思います。
でも、その裏側では、人と人とのやり取りが何度も繰り返されている。
妥協せずに作品を良くしたい気持ちと、一緒につくっている人への気遣い。
その両方が同じ原画の中に残っているのが、すごく印象的でした。
完成した作品だけでは見えない「つくっている人たち」が、原画を見ると少しだけ見えてくる気がします。
好きな作品を並べて気づいたこと
展示を見ながら、自分の好きな細田作品を考えてみました。
・『時をかける少女』(2006年)
・『サマーウォーズ』(2009年)
・『バケモノの子』(2015年)
ここで、ふと気づきました。
……全部、夏だ。
「空」の描写が印象的な作品が多いです。
真っ青な空だったり、大きな入道雲だったり、夕方になって少しずつ色が変わっていく空だったり。
細田作品=夏のイメージが強いのは、なぜなんでしょうか?
そして、なぜ「成長する物語」には夏がこんなにも似合うのでしょうか?
せっかくなので、少し考えてみました。
なぜ「成長物語」には夏が似合うのか?
① 変化が目に見えやすい季節だから
成長物語で描かれるのは、主人公の気持ちや考え方が変わっていくことです。
でも、「心が変わった」ということ自体は目には見えません。
だから、その変化を風景が代わりに見せてくれているのではないでしょうか。
夏の空って、一日の中でもすごく変わります。
朝は澄んだ青空だったのに、昼になると強い日差しになって、大きな入道雲が出てきて、突然夕立が降る。
そして雨が止むと、また全然違う空になっている。
特に入道雲は、短い時間でどんどん大きくなって、風が吹けば流されて形も変わっていきます。
そう考えると、「成長」や「変化」を表現するのにすごく合っているモチーフなのかもしれません。
主人公が何かを決意したり、一歩踏み出したりするタイミングで空の表情も変わる。
さっきまでうるさいくらい鳴いていたセミの声が、主人公の言葉に合わせるように突然止まる。
私たちは意識していなくても、そんな風景や音の変化から、「この子はさっきまでとは少し違うんだ」と感じ取っているのではないでしょうか。
② 夏には最初から「終わり」があるから
もうひとつ思ったのが、夏には最初から「終わり」があることです。
特に学生にとっての夏といえば、夏休み。
夏休みって、始まった瞬間はずっと続くような気がするのに、必ず終わります。
学校から離れて、いつもとは違う場所に行ったり、普段会わない人と会ったり、何か事件が起こったり、恋をしたり・・・。
でも夏休みが終われば、またいつもの日常に戻っていく。
ただ、戻ってきた自分は、夏休みが始まる前とはちょっと違う。
いろいろな経験をして、肌も少し小麦色に焼けているかもしれない。
「始まり」と「終わり」がはっきりしていて、その短い期間の中で何かが変わる。
この流れ自体が、成長物語とすごく相性がいいのかもしれません。
③ 日常から離れやすい季節だから
夏には、帰省、合宿、旅行、田舎の親戚の家など、「いつもの場所から離れる理由」がたくさんあります。
『サマーウォーズ』も、主人公の健二が夏休みに先輩の夏希と一緒に長野県上田市の陣内家を訪れるところから物語が始まります。
もしこれが普通の平日だったら、そもそもこんな状況になかなかならないですよね。
知らない場所に行って、知らない人たちに出会って、普段なら経験しないことに巻き込まれていく。
そう考えると夏って、
「景色が大きく変わる」
「終わりが決まっている」
「いつもの日常から離れられる」
という、成長物語にぴったりな要素が最初から揃っている季節なのかもしれません。
じゃあ、なぜ私たちは「夏」にこんなに弱いのか?
ここまで考えて、もうひとつ気になりました。
なぜ夏の映画って、観終わったあとにあんなに「懐かしい」気持ちになるのでしょうか。
自分が映画の登場人物と同じ体験をしたわけではないのに、青空や入道雲、セミの声が出てくるだけで、なぜか自分の昔の記憶まで引っ張り出される感じがします。
調べてみると、これには記憶心理学も関係しているようです。
ひとつめが「レミニセンス・バンプ」というもの。
追手門学院大学の川口潤教授(認知心理学・記憶心理学などを専門)の解説によると、人が自分の過去を振り返ったとき、青年期、特に11〜20歳ごろの出来事を思い出しやすい傾向があるそうです。
青春時代は、初めて経験することや、その後の人生にも影響するような出来事がたくさんあります。
そして学生時代の夏休みって、普段とは違う経験が起こりやすい時期でもありますよね。
旅行に行ったり、友達と遊んだり、部活をしたり、好きな人ができたり。
だから「夏」というだけで、学生時代の記憶と結びつきやすいのかもしれません。
もうひとつ面白かったのが、「なつかしさ」が生まれる条件です。
京都大学の楠見孝教授らの研究では、なつかしさを引き起こすものとして、「過去に繰り返し経験したこと」と「その経験から長い時間が空いていること」が重要だとされています。
また、昔をなつかしむ傾向は男女ともに年齢とともに高まり、男性の方がやや高いという結果も出ています。
これって、夏の風景にすごく当てはまる気がします。
入道雲、セミの声、プールの匂い。
子どもの頃は毎年当たり前のように経験していたのに、大人になると、いつの間にか少し遠いものになっています。
だから映画の中でそれを見たり聞いたりした瞬間に、
「あ、この感じ知ってる」
と、自分の昔の記憶まで引っ張り出されるのかもしれません。
さらに川口教授は、なつかしさについて、楽しいだけでも悲しいだけでもない「ビタースイート(bittersweet)」な感情だと説明しています。
楽しかったことを思い出すと嬉しい。
でも同時に、「もうあの頃には戻れない」という少し寂しい気持ちもある。
これって、成長物語にもすごく似ています。
何かを経験して成長することは嬉しいことだけど、成長するということは、それまでの自分には戻れないということでもあります。
だから夏と成長物語って、こんなにも相性がいいのかもしれません。
そして細田作品の青空を見たとき、私たちは作品の中の夏だけではなく、自分が過ごしてきた夏まで一緒に思い出しているのではないでしょうか。
細田守監督について
細田守監督は1967年、富山県生まれのアニメーション映画監督です。
東映動画(現・東映アニメーション)を経て、『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)、『未来のミライ』(2018年)、『竜とそばかすの姫』(2021年)などを発表。
2011年にはスタジオ地図を設立し、長編アニメーション映画を制作しています。
最新作は『果てしなきスカーレット』。
「細田守の原点/展」について
今回観に行ったのは、『時をかける少女』20周年を記念した「細田守の原点/展」です。
会場には『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』を中心に、絵コンテやレイアウト、原画、美術ボードなど、たくさんの制作資料が展示されています。
完成した映画を観ているだけでは分からない、作品ができるまでの過程を見ることができます。
東京会場(CREATIVE MUSEUM TOKYO/東京・京橋)は2026年8月31日で終了していますが、今後は大阪・福岡・富山への巡回が予定されています。
大阪会場は、グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボにて、2026年10月28日〜2027年1月4日に開催予定です。
その後、福岡市美術館で2027年1月22日〜3月28日、富山県美術館で2027年7月3日〜9月5日の開催が予定されています。
会期やチケットなどの最新情報は、公式サイトを確認してみてください。
▼「細田守の原点/展」公式サイト
開催概要・巡回情報を見る
そして物販もかなり充実していました。
特に細田作品らしい「青空」をモチーフにしたグッズがかわいい!
……けど、私が欲しかったグッズは売り切れていました。残念!
グッズもたくさんあるので、展覧会に足を運んだ際には、ぜひ物販もチェックしてみてください。
最後に
もともと私は、細田作品の面白さや雰囲気、そして最後にはどこかあたたかい気持ちになれるところに惹かれていました。でも今回、改めて作品を振り返ってみると、私が特に好きな作品には「夏」が多いことに気づきました。
青い空、入道雲、セミの声、夏休みの終わり。
そんなエモーショナルな夏の風景と、登場人物たちの成長が重なっているからこそ、毎年夏になると、
「また観たいな……」
と思うのかもしれません。
そして、最新作の『果てしなきスカーレット』は、実はまだ観ていません。
今回の展覧会で作品づくりの裏側を知ったからこそ、今までとはまた違った視点で観られそうです。近いうちに観たいと思います!
皆さんは、細田守作品のどんなところが好きですか?
参考リンク
展覧会・作品について
・「時をかける少女」20周年記念 細田守の原点/展 公式サイト
公式サイトを見る
・「細田守の原点/展」開催概要・巡回情報
開催概要を見る
・スタジオ地図 公式サイト
スタジオ地図を見る
・映画『果てしなきスカーレット』公式サイト
公式サイトを見る
細田作品について参考にした記事
・Real Sound映画部「新海誠と細田守の“作家性”はなぜ差が出た? オリジナルアニメ映画がSNS時代に直面する壁」/杉本穂高
記事を読む
「なつかしさ」「記憶」について参考にした記事・研究
・追手門学院大学 OTEMON VIEW「『なつかしさ』はビタースイート。記憶心理学者とたどるメカニズムと心理的効果」/川口潤教授
記事を読む
・京都大学「なつかしさは何によって引き起こされるのかを明らかにしました」/楠見孝教授ら
研究紹介を読む
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Lily
1997年生まれ。観光学部出身の東京都在住のライター。
イロハニアートを通じて、芸術の美しさや楽しさを多くの人に伝えられるように日々精進しています。
猫と漫画が好き!
1997年生まれ。観光学部出身の東京都在住のライター。
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