EVENT
2024.7.24
【東京都美術館】大地に耳をすます 気配と手ざわり
自然と人の関係性を問い直す。東京都美術館の『大地に耳をすます 気配と手ざわり』の見どころとは?
全国を巡回するような大規模な特別展が注目されがちな東京都美術館。しかし同館の自主企画による、同館だけのオリジナルな企画展も見逃すことができません。
目次
それが7月20日から開かれる『大地に耳をすます 気配と手ざわり』。自然に深く関わり制作をつづける現代の5名の作家による展覧会です。3つの見どころをご紹介します。
北海道に拠点をもつアーティスト。自然とともに生きるよろこびを感じよう。
川村喜一《2018.1121.1043》 2018年 写真 作家蔵
最初の見どころとしてあげられるのが、都市を出て、自然と風土に身をおいたつくり手が紹介されることです。
東京都にて生まれ、2017年に「自然と表現、生命と生活」を学び直すために北海道・知床へ移住した川村喜一(写真家・美術家。1990年〜)は、新たに家族となったアイヌ犬・ウパシとの暮らしや、知床の風景や野生動物を撮影し、写真集『アイヌ犬・ウパシと知床の暮らし』(玄光社、2020年) を出版。
さらに狩猟免許を取得し、知床での生活者となる中、実感を伴った生命の循環をインスタレーションとして発表しています。
榎本裕一《結氷》 2024年 ウレタン塗料・インクジェットプリント、アルミパネル 作家蔵
同じく東京都に生まれ、2018年より北海道・根室にもアトリエを構える榎本裕一(1974年〜)も、北海道の大地、とりわけ根室の冬の景色に魅了された作家です。近年はアトリエの近くの景色や自然が偶然に生み出すかたちに着想した作品を制作しています。
一見すると抽象のような油彩画は、目を凝らすと、風景が浮かび上がります。また本展のためには雪の湖面を表す新作を制作します。
こうした川村や榎本による、自然とともに生きるよろこびを感じさせるような作品が展示されるのです。
奄美大島と青森の木立のイメージが東京に出現?!空間にあわせた新作も公開。
ミロコマチコ《光のざわめき》 2022年 アクリル・紙、木製パネル 作家蔵 Photo: Yuichiro Tamura
2つ目の見どころとしては、東京都美術館の個性的な空間にあわせた新作が公開されることです。大阪府に生まれ、2019年に「生きる」ことに軸を置き、絵を描きたいと奄美大島に移住したミロコマチコ(画家・絵本作家。1981年〜)は、自然と生活の密接なつながりを感じながら、いきものの気配や生命の煌めきが濃厚に漂う作品を生み出しています。
ふるさかはるか《織り》(部分) 2014年 木版 土、紙 作家蔵
同じ大阪府生まれで、フィンランド、ノルウェーなどの北欧での滞在制作を経験したふるさかはるか(美術家・木版画家。1976年〜)は、2017年からは青森県にて自然とともに生きる人々に取材を重ねながら活動を続けています。
そして採集した土や自ら育てた藍から絵具をつくり、木のかたちや木目を生かして版木をつくるなど、自然と関わる手しごととしての木版画を生み出しています。
本展ではミロコマチコが生命のうごめく奄美大島をイメージしたインスタレーションを公開。ふるさかはるかは、取材地の漆を使った15枚組みの大きな木版画をはじめ、青森の木立を思わせるような展示空間を作り上げます。
倉科光子の植物画にも注目!5人の現代作家による多彩な作品を紹介。
倉科光子《39°42'03"N 141°58’15"E》 2015〜21年 透明水彩、紙 作家蔵
3番目の見どころとしては、写真、木版画、油彩画、水彩画、インスタレーションなど、5人の現代作家による多彩な作品が展示されることです。
青森県にて生まれ、東京都に在住し、2001年から植物画を始める倉科光子(1961年〜)は、2013年から東日本大震災の被災地に足を運びながら、浜辺や津波の浸水域に生えた植物を描きつづけています。
倉科光子《37°33'22"N 141°01’31"E》 2016〜20年 透明水彩、紙 作家蔵
そして津波によって内陸の植物が浜に根を下ろしたり、何十年も地中にあった種が芽生えたりする様子に加えて、近年では復興事業で変化する植生にも目を向けています。
東日本大震災の津波による変化を追いつづけ、被災した人々の営みも重ねられているような倉科による植物画にも注目が集まることでしょう。
作家本人から制作にまつわるエピソードを聞こう!会期中にアーティスト・トークも開催。
川村喜一《2017.0629.1305》 2017年 写真 作家蔵
最後に会期中に開催される一部のトークイベントについてご紹介します。
【アーティスト・トーク 倉科光子】
展覧会会場にて、出品作家から制作の様子や作品についてお話をうかがいます。
日時・講師:8月4日(日) 11:00~11:40 倉科光子
会場:東京都美術館 ギャラリーB
※事前申込不要。手話通訳あり。
※聴講無料。ただし、本展観覧券が必要です。直接会場にお集まりください。
【トークイベント 漆・藍・土 自然と「ともに」つくる木版画】
木版画を自然と関わる手段と考える、ふるさかはるか。本展には青森での取材から生まれた新作を出品します。新しい素材に挑戦する制作過程や自然素材とのやりとりのなかで感じたことなどお話をうかがいます。
イベント終了後、昨年出版された、ふるさかの作品集『ことづての声/ソマの舟』のサイン会を開催します。
日時:8月24日(土)10:30~12:00
講師:ふるさかはるか(出品作家) 聞き手 大橋菜都子(東京都美術館 本展担当学芸員)
会場:東京都美術館 アートスタディルーム(交流棟2階)
定員:50名
※事前申込制(先着順で定員に達し次第申込締切)
※聴講無料、手話通訳あり
【トークイベント 倉科光子 × 平吹喜彦】
東日本大震災の津波と復興がもたらす植生の変化を捉えつづける倉科光子。観察に基づき描く「tsunami plants」(ツナミプランツ)のシリーズには、その土地の歴史が刻まれています。仙台市新浜地区を拠点に人の営みと密接にかかわる「海岸エコトーン」(海と陸、川が出合う境界領域)の調査・保全に携わられてきた平吹喜彦氏をお招きし、震災後、里浜で何が起きてきたのか、倉科が描いた景色が生まれた背景をひもといてゆきます。
日時:8月31日(土)14:00~15:30
講師:倉科光子(出品作家)、平吹喜彦(東北学院大学地域総合学部地域コミュニティ学科 教授)
会場:東京都美術館 講堂
定員:220名
※事前申込不要。13:30より受付開始、定員になり次第受付終了
※聴講無料、手話通訳あり
【トークイベント 川村喜一に聞く 知床の暮らしと制作】
2017年に「自然と表現、生命と生活」を学び直すため、北海道・知床に移住した川村喜一(写真家・美術家)。アイヌ犬ウパシを家族に迎え、狩猟免許を取得し、知床に根を下ろした、いまの暮らしと制作についてお話をうかがいます。
日時:9月22日(日)14:00~15:30
講師:川村喜一(出品作家) 聞き手 大橋菜都子(東京都美術館 本展担当学芸員)
会場:東京都美術館 アートスタディルーム(交流棟2階)
定員:50名
※事前申込制(先着順で定員に達し次第申込締切)
※聴講無料、手話通訳あり
ミロコマチコ《2匹の声》 2022年 アクリル、木製パネル 作家蔵 Photo: Yuichiro Tamura
そのほかに「キッズ+U18デー」や「ダイアローグ・デイwithとびラー」なども開催!詳細は公式サイト をご覧ください。
自然と人の関係性を問い直し、作家の鋭敏な感覚をとおして触れる自然と人のあり様から、「生きる感覚」をも呼び覚ましてくれる『大地に耳をすます 気配と手ざわり』。この夏から秋に見ておきたい展覧会のひとつであることは間違いありません。ぜひお出かけください。
展覧会情報
『大地に耳をすます 気配と手ざわり』 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
開催期間:2024年7月20日(土)~10月9日(水)
所在地:東京都台東区上野公園8-36
アクセス:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成電鉄京成上野駅より徒歩10分
開室時間:9:30~17:30
※金曜日は20:00まで
※入室は閉室の30分前まで
休室日:月曜日、9月17日(火)、9月24日(火)
※ただし、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・休)は開室
観覧料:一般1100円、大学生・専門学校生700円、65歳以上800円、高校生以下無料
※同時期開催の特別展「デ・キリコ展」「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」のチケット提示にて各料金より300円引き
※事前予約は不要。ただし、混雑時に入場制限を行う場合があります
※10月1日(日)は「都民の日」により、どなたでも無料。当日は混雑が予想されます。
展覧会HP:『大地に耳をすます 気配と手ざわり』
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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