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2022.11.23

琳派の継承者・神坂雪佳の世界に触れてみよう。神坂雪佳展内覧会レポート

日本美術の中でも、琳派(りんぱ)の作品は、浮世絵と並んで、国内外問わず高い人気を誇ります。琳派の作品が持つ高いデザイン性は、生み出されてから百年、数百年が経過しても、人の心をとらえうる力を持っています。それがあったからこそ、「私淑」という特殊な方式による継承が成り立つことができた、と言えましょう。

宗達、光琳、抱一……と江戸時代の約250年にわたって継がれてきた「美」のバトンは、江戸時代の後も、一人の男の手で受け継がれ、新たな命が吹き込まれます。彼の名は、神坂雪佳(かみさか せっか)。“光琳の再来”“近代の琳派”と呼ばれた画家・図案家です。

彼は明治から大正、昭和にかけて活躍し、図案の一つがエルメスの季刊誌の表紙に採用されるなど、その作品には、時が経っても古びない魅力があります。

神坂雪佳 『百々世草』原画より「八つ橋」 紙本著色 1909(明治42)年頃 芸艸堂蔵

10月29日から12月18日まで、パナソニック汐留美術館では、そんな彼の業績に焦点を当てた展覧会『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』が開催されています。今回はその見どころをご紹介しましょう。

①琳派の系譜

琳派は江戸時代初期、当時の京都において文化面の中心的存在だった本阿弥光悦、そして扇や料紙などを扱う絵屋を営んでいた俵屋宗達によって始まりました。彼らは、数百年前の平安王朝の典雅な美に憧れ、自らの手で復興させようとしたのです。

展示風景より

俵屋宗達 《双犬図》 紙本墨画 江戸前期 細見美術館蔵

それから約100年後、京の裕福な呉服商「雁金屋(かりがねや)」の子として生まれた尾形光琳が彼らの残した「美」を見いだし、より洗練された作風へと生まれ変わらせます。そして、光琳の生誕からさらに約百年を隔て、彼の「美」もまた、姫路藩主の家に生まれた酒井抱一によって見いだされ、新たな地・江戸へと移植されます。この抱一から始まる系譜は、「江戸琳派」と呼ばれます。

上記の大まかな流れを見てもわかるように、狩野派をはじめとする多くの流派と異なり、琳派は、約270年間の江戸時代を通して、基本的に「私淑」という形で受け継がれてきました(光琳の教えを直接受けたと思われる深江芦舟や、鈴木其一ら多くの門弟を育てた酒井抱一の例はあります)。

尊敬する相手から直接教えを受けられない分、残された作品を、手探りで解釈し、学んでいくことは、楽な道ではありません。しかし、そこに、直接の師弟関係にはない「自由」があったのも確かです。

宗達と光琳は、同じ京生まれの町人でも、生きた時代が異なります。抱一は、大名家の次男として、江戸で生まれ育ちました。先人の作品と向き合い、学ぶ中で、何か相容れないものを感じたり、「自分ならこうする」と考えることもあったでしょう。
それを受け入れ、作品に反映していくことで、彼らはそれぞれに新しい画境を開いていきました。それを可能にする柔らかさ、おおらかさも、また、琳派の特徴と言えるでしょう。

第1章では、今回の展覧会を監修した細見美術館のコレクションを中心に、光悦・宗達から抱一・其一に至るまでの琳派の系譜をたどることが出来ます。その系譜に、明治時代に連なるのが神坂雪佳です。その活躍ぶりは、いよいよ第2章から始まります。

②雪佳のデザイン

神坂雪佳は、1866年、京都で生まれました。十代で四条派に師事し、その技法を学んだ後、勧められて二十代前半から図案家・岸光景のもとで図案を学び始めます。三十代の頃には、図案家として、京都の図案・工芸界の重要な役割を担うまでになりました。
1901年のヨーロッパ視察を通して、日本古来の美を認識するようになった彼は、琳派を装飾の先達として意識し、尊敬するようになり、積極的にその手法を取り入れ、自分のものとしていきます。

第2章には、そんな彼の図案集が集められています。それらの多くは、実用性の高さだけではなく、鑑賞して楽しめる美しさも備えています。

展示風景より。開期中ページ替えを行っています。

その一つ『百々世草』の『八つ橋』を見てみましょう。

神坂雪佳 『百々世草』原画より「八つ橋」 紙本著色 1909(明治42)年頃 芸艸堂蔵

『八つ橋』は、王朝文学の『伊勢物語』に材を取ったテーマで、光琳の代表作『燕子花図屏風』が特に有名です。雪佳も図案を描く際には、光琳の作品を念頭に置いていたでしょう。
群生する花をより単純化した他、背景も金から銀に変更するなど、アレンジがほどこされています。背景の銀色が花の青とも相まって、光琳の花よりもモダンで少しクールな印象です。
この『八つ橋』は、2001年にはエルメスの季刊誌の表紙として採用されました。

図案集の他にも、染色や漆器、陶磁器などの工芸品の他、室内装飾や造園、と雪佳がデザインを手掛けたジャンルは多岐に渡ります。漆芸家の弟・祐吉をはじめ、多くの工芸家と共作を行っていますが、その事も、雪佳が尊敬していた光琳と共通するものがあります。

神坂雪佳 図案 神坂祐吉 作 《帰農之図蒔絵巻煙草箱》 木製漆塗、蒔絵、螺鈿 大正末期 細見美術館蔵 [展示期間:12月1日(木)~18日(日)]

③雪佳の絵画作品

琳派の継承者たちには、それぞれに軸になるものがあり、それが各々の「個性」の礎となりました。
例えば、尾形光琳の場合、実家の呉服屋が扱っていた大胆なデザインで名高い寛文小袖の図柄が、彼の美意識を磨く材料となりましたし、「ストック」としてインプットもされていたでしょう。代表作である『燕子花図屏風』(根津美術館所蔵)が、型紙を使う手法で制作されているのは、有名です。
酒井抱一は、絵の他に俳諧も嗜んでいました。その経験が、作品の持つすっきりした味わいにつながっている、とも言えるでしょう。

では、雪佳の場合は、どうでしょうか? 彼は、図案の道に進む前は、四条派に師事し、学んでいました。そして、良い図案家になるために必要なものとして、絵画の素養を挙げています。良い図案を描くためにも、画技を習得し、写生を集めておくのが良い、というのが彼の持論でした。

先に挙げた光琳のケースを考えても、アイディアの元となる「ストック」は重要です。絵の技術を学び、経験を積むことで、モチーフの扱い方や、構図などの感覚も養われていくでしょう。その逆に、図案の経験が、絵画に活かされる、ということもありえます。
雪佳自身も、四条派の描写力をベースに、たらし込みや、トリミングなど琳派の手法を加味しながら、おおらかで親しみやすく、同時に気品を備えた独自の画風を作り上げていきました。

展覧会の最後、第4章では、そんな彼の絵画作品を見ることができます。その一つ『金魚玉』を、ここではご紹介しましょう。

神坂雪佳 《金魚玉図》(部分) 絹本著色 明治末期 細見美術館蔵

金魚玉とは、金魚を入れて軒などに吊るす丸いガラス容器です。金魚をモチーフとして取り上げる際は、泳ぐ姿を上から、あるいは側面から見るケースが多いでしょう。しかし、この『金魚玉』において、金魚は真正面を向き、こちらを見ています。星形に広がったヒレと、金魚の表情の取り合わせが、ユーモラスです。

また、金魚の体に、琳派のたらし込みを使うことで、水のゆらめきが表現されています。
また、表装は葦簀に見立てられており、それと合わさることで、まるで夏に縁側で涼をとっているような、清涼感が作品全体から伝わってくる仕掛けになっています。

絵、そして図案の経験、琳派はじめ過去の装飾芸術からの学習、そして遊び心。
神坂雪佳の持つものが凝縮されたこの『金魚玉』は、今回の展覧会で是非見ておきたい作品の一つです。

琳派の「琳」には、玉の響きあう音、という意味があります。先人の残した美に触れ、その「感動」を種に、自らの手で育てた新たな美。その系譜に連なる一人である、神坂雪佳。
ここに紹介したのは、ほんの一部に過ぎません。是非、展覧会に足を運び、雪佳の美の世界に直に触れてみてください。

展覧会情報

『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』パナソニック汐留美術館
開催期間:2022年10月29日(土)〜12月18日(日)
※会期中、一部展示替えあり
【前期:10月29日(土)~11月29日(火)後期:12月1日(木)~12月18日(日)】
所在地:東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
アクセス:JR新橋駅「烏森口」「汐留口」「銀座口」より徒歩約8分、東京メトロ銀座線新橋駅「2番出口」より徒歩約6分、都営浅草線新橋駅「JR新橋駅・汐留方面改札」より徒歩約6分、ゆりかもめ新橋駅より徒歩約6分、都営大江戸線汐留駅「3・4番出口」より徒歩約5分
開館時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
※12月2日(金)は夜間開館 午後8時まで開館(入館は午後7時30分まで)
休館日:水曜日(ただし11月23日(祝)は開館)
観覧料:一般:1,000円、65歳以上:900円、大学生:700円、中・高校生:500円、小学生以下:無料 
※混雑緩和のため、土曜・日曜・祝日は日時指定予約にご協力をお願いします。
https://panasonic.co.jp/ew/museum/exhibition/22/221029/

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ヴェルデ

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アート・ライター。大学ではイタリア美術を専攻し、学部3年の時に、交換留学制度を利用し、ヴェネツィア大学へ1年間留学。作品を見る楽しみだけではなく、作者の内面や作品にこめられた物語を紐解き、「生きた物語」として蘇らせる記事を目標として、『Web版美術手帖』など複数のWebメディアに、コラム記事を執筆。

アート・ライター。大学ではイタリア美術を専攻し、学部3年の時に、交換留学制度を利用し、ヴェネツィア大学へ1年間留学。作品を見る楽しみだけではなく、作者の内面や作品にこめられた物語を紐解き、「生きた物語」として蘇らせる記事を目標として、『Web版美術手帖』など複数のWebメディアに、コラム記事を執筆。

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