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2022.11.25
青森は現代アートの発信地!青森で巡りたいおすすめ美術館3選
目次
十和田市現代美術館。東北新幹線の八戸駅もしくは七戸十和田駅からバスでのアクセスとなります。
2006年に開館した青森県立美術館をはじめ、2020年に古い倉庫を改修してオープンした弘前れんが倉庫美術館など、5つの美術館やアートセンターを有する青森県。現代アートや青森ゆかりの作家の作品を鑑賞できるだけでなく、各館の個性的な建物でも人気を集め、近年、アートファン注目のスポットとなっています。
その青森県の5つの美術館やアートセンターから、青森県立美術館と十和田市現代美術館、それに弘前れんが倉庫美術館をピックアップ。各館の見どころや一押しポイントをご紹介します。
【青森県立美術館】三内丸山遺跡に隣接。自然に映える白い煉瓦壁の美術館
青森県にゆかりの深い郷土作家のコレクションが充実
青森県立美術館。建物、敷地とも広大で、隣接する三内丸山遺跡とあわせて見学するには丸一日が必要です。
「北海道・北東北の縄文遺跡群」として世界文化遺産に登録された三内丸山遺跡に隣接する青森県立美術館。青木淳の設計による白い煉瓦壁の建物は、周囲の木々の緑や青い空にも美しく映え、2006年7月の開館以来、450万人を超える来場者を迎えてきました。
青森県立美術館の最大の魅力は、日本を代表する版画家の棟方志功をはじめ、現代アーティスト奈良美智、それに怪獣デザインで知られる彫刻家で特撮美術監督の成田亨といった、青森県にゆかりの深い郷土作家のコレクションが充実していることです。
このうち青森市出身の棟方志功では、年4回の展示替えを行いながら棟方作品を紹介。花矢を空の四方に捧げるというアイヌの祭りに着想を得て、青森県新庁舎竣工を記念して制作された『花矢の柵』といった代表作なども鑑賞できます。※展示されていない時期もあります。
大人気のあおもり犬!現代アーティスト、奈良美智の作品も一堂に
奈良美智『あおもり犬』2005年 展示室の中からも、あおもり犬連絡通路を使っての屋外からも鑑賞できます(冬季除く)。
弘前市出身で世界的に活躍する奈良美智では屋外彫刻にも注目です。美術館の西側に位置する屋外空間では、高さ約8.5メートル、横幅約6.7メートルの『あおもり犬』を公開。美術館のみならず、青森全体のアートのシンボルと呼んで良いほど抜群の人気を誇っています。
南側の敷地にある八角堂では高さ約6メートルのブロンズ像『Miss Forest / 森の子』を展示。廃墟を思わせるような空間の中央にて、まるで風のそよぎや鳥のさえずりを聴きながら瞑想にふけるようにして鎮座しています。
高さ19メートルの大空間。マルク・シャガールによる「アレコホール」を体感しよう
最後に青森県立美術館でしか体感できない空間と作品としてご紹介したいのが、
縦・横21メートル、高さ19メートルにも及ぶ吹き抜けの大空間、「アレコホール」です。
ここでは20世紀を代表する画家、マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の舞台背景画を4点公開。青森県立美術館が所蔵するのは第1幕、第2幕、第4幕ですが、現在、残る第3幕をアメリカのフィラデルフィア美術館より借用しているため、すべて鑑賞することができます。
※借用期間は2023年3月末までを予定。
1点の大きさは縦約9メートル、横約15メートル。これほど大きな作品に囲まれる体験からして稀有とも言えますが、「色彩の魔術師」と呼ばれるシャガールの本領が発揮された幻想的な作品からは、バレエの物語へと誘われるような没入感も味わえます。また背景画を舞台用の照明と音楽、ナレーションとともに紹介する『アレコ』鑑賞のための特別プログラムもおすすめです。
空調工事や照明のLED化などの改修を終えた青森県立美術館は、11月23日より開館し、設置以来初となる『あおもり犬』の塗り替えも行われました。リニューアルを遂げ、ピカピカになった『あおもり犬』に会いに行くのも楽しいのではないでしょうか。
『青森県立美術館』
所在地:青森県青森市安田字近野185
アクセス:青森駅より青森市営バス6番バス停から三内丸山遺跡行き「県立美術館前」下車 (所要時間約20分)。新青森駅東口バス停よりルートバスねぶたん号「県立美術館前」下車 (所要時間約10分)
開館時間:9:30~17:00
※入館は16:30まで
※あおもり犬連絡通路開通時間:9:30~16:30(冬季閉鎖)
休館日:毎月第2、第4月曜日 (祝日の場合はその翌日)。年末年始(2022年度は12月26日から1月1日まで)
観覧料:一般510円、大学・高校生300円、中学・小学生100円
※常設展観覧料
https://www.aomori-museum.jp
【十和田市現代美術館】まちなかへと開かれる。東北初の現代アート専門の美術館
ガラスの廊下でつながる展示室。ロン・ミュエクの《スタンディング・ウーマン》が迫力満点!
十和田市現代美術館。外から展示室内を見られる広いガラス窓が特徴的です。
2008年、東北初の現代美術館として開館した十和田市現代美術館。まちなかの官庁街通りに面した西沢立衛の設計による建物は、個々の展示室が「アートのための家」として独立する作りとなっていて、一部の展示室は大きなガラスの窓を持つなど、開放感に満ちた空間が築かれています。これほど外から中が見える美術館も珍しいかもしれません。
十和田市現代美術館の大きな特徴は、それぞれの展示室にて、原則、ひとりのアーティストによる1作品が公開されていることです。ジム・ランビーによってカラフルに彩られた受付に展示された作品《ゾボップ》を過ぎ、ガラスの廊下を使って次の展示室へと向かうと、ロン・ミュエクの《スタンディング・ウーマン》がすがたを現します。高さは天井付近にまで達する約4メートル。異様なまでの大きさとともに、皮膚のしわやたるみ、また透き通る血管などを表現したディテールにも驚かされるのではないでしょうか。
塩田千春からマリール・ノイデッカー、それにレアンドロ・エルリッヒまで
トマス・サラセーノ《オン・クラウズ (エア-ポート-シティ)》 2008年
さらに進むと十和田湖の古い木船と赤い糸を用いた塩田千春の《水の記憶》や透明なバルーンの集合体が空中に繋ぎとめられたトマス・サラセーノの《オン・クラウズ (エア-ポート-シティ)》などが登場。またスゥ・ドーホーや栗林隆といった世界の第一線で活躍するアーティストの作品を鑑賞できます。
マリール・ノイデッカーの《闇というもの》も見ておきたい作品のひとつです。森で樹木をかたどって制作したという奥行き10メートル、幅6メートルのジオラマは、あたかも誰も踏み入れたことのない森の奥深くへ迷い込んだのかと錯覚するほどリアル。さらに木々の間から差し込む光は神々しくさえ思えます。
レアンドロ・エルリッヒ《建物―ブエノスアイレス》 2012/2021年
レアンドロ・エルリッヒの《建物―ブエノスアイレス》も大人気です。自由なポーズをとりながら記念撮影を楽しみましょう。
まちに開かれた美術館。アート広場やサテライト「space」を巡ろう!
マイダー・ロペス《トゥエルヴ・レヴェル・ベンチ》(2010年)より道路越しに見る十和田市現代美術館
十和田市現代美術館の魅力はこれだけに留まりません。十和田市を個性あふれる「アートのまち」にすべく、「まちに開かれた美術館」であるのも大きなポイントです。
アート広場。草間彌生の《愛はとこしえ十和田でうたう》(2010年)といった作品が展示されています。
まず官庁街通りを挟んだ美術館の向かい側を、草間彌生やエルヴィン・ヴルムの作品を展示したアート広場として整備。まるで公園のように作品の周りを駆け巡ったり、中に入って遊んだりすることもできます。そして官庁街通りだけではなくまちなかでもストリートファニチャーとして日高恵理香などの作品が展示されています。
サテライト会場「space」。スパッと建物をくり抜いたような窓が印象的です。
美術館より徒歩7分の場所にある「space」もサテライト会場として運営。これはかつてスナックなどに使われた一軒の空き家を、アーティスト目[mé]がホワイトキューブへと改装した作品で、現在はアーティスト青柳菜摘の個展『亡船記』の会場として用いられています。
※『青柳菜摘 亡船記』は、「space」をはじめ、美術館内カフェや市内の花屋、バーなど6拠点にて12月18日まで開催。
十和田市地域交流センターもオープン。ますます目が離せない十和田のアートシーン
十和田市地域交流センター。美術館から歩いて5分ほどの場所に位置します。
9月には藤本壮介の設計による十和田市地域交流センターがオープンしたほか、お茶や器を扱いながら、現代アートを展示したり美術館と連動した企画を行う松本茶舗など、十和田のまちなかには注目のアートスポットも存在します。
十和田市現代美術館。手前はチェ・ジョンファの《フラワー・ホース》(2008年)
街にアートが根ざし、さらに街へとアートが広がっていくような十和田市現代美術館の取り組み。来年開館15年を控え、今後も多くの人々を魅了しながら、アートの環をつなげていきそうです。
『十和田市現代美術館』
所在地:青森県十和田市西二番町10-9
アクセス:八戸駅より十和田観光電鉄バス「八戸駅」東口5から乗車、「官庁街通」バス停下車、美術館まで徒歩5分。(所要時間 約1時間)七戸十和田駅より十和田観光電鉄バス「七戸十和田駅」南口2番から乗車(所要時間 約35分)
開館時間:9:00~17:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始
観覧料:一般1800円、高校生以下無料
※企画展閉場時は1000円
https://towadaartcenter.com
【弘前れんが倉庫美術館】明治時代の古い倉庫跡がアートの空間として現代によみがえる
目印は赤い煉瓦壁。古い倉庫跡が美術館になった経緯とは?
弘前れんが倉庫美術館。弘前駅からは土手町循環バス(蓬莱橋下車)が便利です。
赤いれんが造りの外壁とシードル・ゴールドの屋根が目印の弘前れんが倉庫美術館。明治時代、かつてリンゴ園があった場所に造られた建物は、日本酒の醸造所やシードル工場として使われ、その後は米倉庫として利用されたものの、長らく一般に公開されることはありませんでした。
しかし2002年に当時のオーナーだった吉井酒造の吉井千代子と現代アーティストの奈良美智の出会いをきっかけに、奈良の展覧会を3度開催。市内外から多くの人々で賑わうと、アート空間として再生する機運も高まり、2015年には弘前市が取得して芸術文化施設への整備がはじまりました。
コンセプトは「記憶の継承」。黒塗りの壁のユニークな展示室で見る現代アート
弘前れんが倉庫美術館。チタン材を約13000枚も使用した「菱葺」と呼ばれる屋根が、陽の向きによって微妙に色合いを変化させます。
弘前れんが倉庫美術館の設計を担ったのは建築家の田根剛。コンセプトは「記憶の継承」です。よってレンガやコールタールの壁をそのまま使用したほか、取り外した天井の木材を再利用するなど、残せるものは可能な限り残す形で改修が行われました。かつて使われたものの、現在は上の階へ行くことのできない鉄製の階段なども残っています。
『もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?』展示風景より。2023年3月21日まで開催中。小屋上の作品:奈良美智《Untitled》2006年
館内には5つの展示室をはじめ、貸出用の3つのスタジオ、市民ギャラリーや無料で利用できるライブラリースペースなどが設けられていますが、とりわけ面白いのは常設展示室、企画展示室という固定的な運用をせずに、建物の可能性を生かした自由な方法にて空間が展開していることです。
ホワイトキューブにて構成されることの多い美術館としては異例の黒い展示室の壁もユニークかもしれません。弘前れんが倉庫美術館では過去に『小沢剛展 オールリターン —百年たったら帰っておいで 百年たてばその意味わかる』や『池田亮司展』、それに現在開催中の『もしもし、奈良さんの展覧会はできませんか?』など、現代アーティストの展覧会が開かれてきましたが、歴史ある建物と現代アートが織りなす空間そのものも大きな見どころです。
奈良美智の『A to Z Memorial Dog』とジャン=ミシェル・オトニエルの『エデンの結び目』
奈良美智『A to Z Memorial Dog』 2007年
奈良美智『A to Z Memorial Dog』 2007年
エントランスで出迎えてくれるのは、奈良美智の『A to Z Memorial Dog』。過去にこの地で開かれた3度の展覧会に関わった人々への感謝の気持ちを込めて、奈良により制作されました。
ホワイエにはジャン=ミシェル・オトニエルの『エデンの結び目』も展示され、レンガの壁面と鏡面ガラスによる作品が美しいコントラストを見せています。また2階のライブラリーにて画集などを手にしながらゆっくりと時間を過ごすのも良いかもしれません。
『CAFE & RESTAURANT BRICK』もおすすめ!美術館を起点に弘前の街を歩こう
『CAFE & RESTAURANT BRICK』ロゴ。ミュージアムショップを併設しています。
最後に弘前れんが倉庫美術館にてぜひ立ち寄りたいのが、美術館棟に隣接する『CAFE & RESTAURANT BRICK』です。
カフェではシードル工房を眺めながら、カフェメニューや青森県産の旬の食材を用いた料理をはじめ、弘前で生産されたりんごによる「シードル」が楽しめます。このカフェは大変に人気のため、貸切営業が行われる場合もありますので、事前に公式サイトやSNSなどにてご確認ください。
古い洋館や教会、それに前川國男による近代建築などが点在する弘前は、のんびりと散策するのも楽しい街です。弘前れんが倉庫美術館を起点に、弘前の魅力を再発見してはいかがでしょうか。
『弘前れんが倉庫美術館』
所在地:青森県弘前市吉野町2-1
アクセス:弘前駅より徒歩20分。弘南バス100円バス(土手町循環)弘前駅中央口バスのりば「D100番」より「蓬莱橋」下車(乗車9分)、徒歩5分。
開館時間:9:00~17:00
※ただし金曜・土曜日に限りスタジオ、ライブラリーのみ21:00まで開館
休館日:火曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始
※弘前さくらまつり及びねぷたまつりの期間中は全日開館
観覧料:展覧会により観覧料が異なる
https://www.hirosaki-moca.jp
青森県の美術館が提携!「5館連携プロジェクト」が進行中
青森県では現在、この3つの美術館に加え、国際芸術センター青森(ACAC)と2021年に開館したばかりの八戸市美術館を加えた5館によって「5館連携プロジェクト」が進行中。各館が互いに連携しながら青森のアートの魅力を国内外に発信するなどして活動しています。
AOMORI GOKAN 5館が五感を刺激する
https://aomorigokan.com
全国8位の面積を有する青森県は広大なため、5つのアートセンターと美術館をめぐるのは簡単なことではありません。しかしそれぞれに個性的な建物やコレクションを有し、時に青森でしか見られないオリジナルな展覧会も数多く開いています。アートからはじまる青森への旅。あなたもぜひ訪ねてみてください。
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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