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2023.6.30
マヤ、アステカ、テオティワカン─古代メキシコ文明の壮大な遺産とは?『古代メキシコ』展見どころ紹介
紀元前15世紀から後16世紀のスペイン侵攻までの3千年以上にわたり、独自の文明が花開いたメキシコ。火山の噴火や地震、干ばつなどの厳しい自然環境のなか、人々は神を信仰し時に畏怖しながら、王と王妃の墓、大神殿、またピラミッドなどの壮大なモニュメントを築きました。
目次
『チャクモール像』 マヤ文明 900〜1100年 ユカタン地方人類学博物館 カントン宮殿
そのうちマヤ、アステカ、テオティワカンの代表的な3つの文明に焦点をあてた展覧会が、東京国立博物館(平成館)にてスタート。メキシコ国内の主要博物館から厳選した約140件の品々を通し、かつてのメキシコにおこった諸文明の魅力に迫っています。
【テオティワカン文明】「太陽」、「月」、そして「羽毛の蛇」の3つのピラミッドの謎を解く。
『火の老神石彫』 テオティワカン文明 450〜550年 テオティワカン考古学ゾーン
紀元前100年頃、メキシコ中央高原の海抜2300メートルほどの盆地におこり、550年頃まで栄えたのがテオティワカンです。テオティワカンは当時の人々が信じていた世界観にのっとって建物の配置が決められた宗教都市とされていて、約25㎢の面積の中に最大10万人が暮らしたと考えられています。
『死のディスク石彫』 テオティワカン文明 300〜550年 メキシコ国立人類学博物館
このテオティワカンで重要なのは3つのピラミッドからの出土品です。太陽や火などを象徴する「太陽のピラミッド」から出土された『死のディスク石彫』とは、地平線に沈んだ夜の太陽を表したとされる彫刻。メキシコ先住民の世界観では、太陽は沈んだ(死んだ)のち、夜明けとともに東から再生すると信じられていました。
左から『首飾り』、『モザイク立像』 ともにテオティワカン文明 200〜250年 テオティワカン考古学ゾーン
月や水を象徴する「月のピラミッド」から、12人の生贄の骨とともに発見されたのが『モザイク立像』です。胴体は蛇紋石やヒスイ輝石岩の小片によって象られていて、口と目は貝殻などにて作られています。
左から『シパクトリ神の頭飾り石彫』、『羽毛の蛇神石彫』 ともにテオティワカン文明、200〜250年 テオティワカン考古学ゾーン
「羽毛の蛇ピラミッド」では、ともに王権の象徴である『羽毛の蛇神石彫』と『シパクトリ神の頭飾り石彫』が圧倒的な存在感を見せています。こうした巨大な石彫で飾られた「羽毛の蛇ピラミッド」からは、総数200体以上の戦士の集団生贄墓も見つかっていて、古代メキシコにおける最初の大モニュメントといわれてきました。
【マヤ文明】美しく謎に満ちたマヤ文字から日本初公開の「赤の女王」の出土品まで。
『香炉台』 マヤ文明 680〜800年 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館
紀元前1200年頃から16世紀まで栄え、後1世紀頃には王朝が成立したマヤ。その後、250年から950年にかけて、ピラミッドをはじめとする公共建築や集団祭祀、また暦を特徴とする都市文化を築き上げます。
『96文字の石板』 マヤ文明 783年 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館
このマヤで見ておきたいのが、表語文字と音節文字から構成される美しいマヤ文字です。『96文字の石板』とは古典期マヤを代表する都市国家パレンケの王宮の遺跡より発見されたもので、同国の最盛期を築いたパカル王(在位:615〜683年) 以来の歴代の王の即位が刻まれています。マヤの人々は書跡を芸術品として愛好しましたが、その最高峰に位置付けられる名品です。
「パカル王と赤の女王 パレンケの黄金時代」より「赤の女王」出土品展示風景
メキシコ国内とアメリカ以外では初めて公開された「赤の女王」の出土品が見逃せません。孔雀石の小片を組み合わせたマスクや、170ものヒスイ輝石岩を装飾した胸飾りなどを身につけていた「赤の女王」は、真っ赤な辰砂(水銀朱)に覆われて埋葬されていて、パカル王墓に隣接した神殿より発見されました。
「パカル王と赤の女王 パレンケの黄金時代」より「赤の女王」出土品展示風景
なお頭蓋骨から顔の復元を試みた結果、石彫に描かれた妃の特徴と多くの一致がみられるという説もある「赤の女王」は、DNA分析により王と血縁関係にないことがわかったため、母ではなく妃である可能性が高いと考えられています。
【アステカ文明】大神殿「テンプロ・マヨール」から発見されたさまざまな文物とは?
『トラロク神の壺』 アステカ文明 1440〜69年 テンプロ・マヨール博物館
3つの文明で最も新しいのが、14世紀から16世紀のメキシコ中央部に築かれたアステカです。首都テノチティトラン(現在のメキシコシティ)では、中央にテンプロ・マヨールと呼ばれる大神殿が建てられ、太陽神ウィツィロポチトリとト雨の神トラロクが祀られていました。
『鷲の戦士像』 アステカ文明 1469〜86年 テンプロ・マヨール博物館
このテンプロ・マヨールの北側で発掘されたのが『鷲の戦士像』です。王直属の「鷲の軍団」を構成した高位の戦士、もしくは戦場で死を遂げて鳥に変身した戦士の魂を象ったとされていて、等身大の堂々たるすがたを見せています。
左から『耳飾り』、『人の心臓形ペンダント』 アステカ文明 1486〜1502年 テンプロ・マヨール博物館
アンデスなど南米の諸文明とは異なり、古代メキシコでは珍しい金の製品にも目を引かれるのではないでしょうか。神々にまつわるモチーフはもちろん、神への捧げ物として生命の象徴である心臓のかたちをしたペンダントなどを見ることができました。
『トニナ石彫171』 マヤ文明 727年頃 メキシコ国立人類学博物館
1521年にアステカがスペインに征服され、その後、マヤも併合されると、古代メキシコ文明は滅びます。しかしそこに根差した文化や伝統は、現代の人々にも息づいています。
さまざまな困難や課題に向き合い、「レジリエンス」(※)に依って生きてきたというメキシコの人々の誇る、脅威の古代文明の世界を『古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン』にて体感してください。
※resilience:回復力、立ち直る力、復活力
展覧会情報
『古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン』 東京国立博物館 平成館 特別展示室
開催期間:2023年6月16日(金) ~ 2023年9月3日(日)
所在地:東京都台東区上野公園13-9
アクセス:JR線上野駅公園口下車徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅下車徒歩15分。京成電鉄京成上野駅下車徒歩15分
開館時間:9:30~17:00
※土曜日は19:00まで開館
※6月30日(金)~7月2日(日)、7月7日(金)~9日(日)は20:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館)、7月18日(火)
料金:一般2200円、大学生1400円、高校生1000円、中学生以下無料
https://www.tnm.jp
https://mexico2023.exhibit.jp/
※九州国立博物館:2023年10月3日(火)~12月10日(日)、国立国際美術館:2024年2月6日(火)~5月6日(月・休)へと巡回予定。
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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