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2024.12.9
すみだ北斎美術館『読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー』江戸の粋な暦の世界―隠された「大小」を解読する江戸の楽しみ
すみだ北斎美術館では、江戸の粋な遊び心が感じられる暦文化にスポットを当てた展覧会を、2024年12月18日(水)から2025年3月2日(日)まで開催されます。
江戸時代、人々は太陰太陽暦を使用しており、月の日数が30日(大の月)か29日(小の月)で毎年異なっていました。このため、どの月が「大」か「小」かを示すことが重要で、それを工夫して表現したのが「絵暦」や「大小」と呼ばれる摺物です。これらは実用性を超えて、ユーモアや独創性に富んだデザインで江戸時代に大人気となりました。
本展では、すみだ北斎美術館が所蔵する大小を通じて、江戸時代の暦文化や人々の遊び心を紹介します。巧妙に隠された「大」と「小」を探しながら、当時の職人の技術や美意識を楽しむ構成となっています。
第1章 北斎も描いた江戸のカレンダーの「大小」を楽しむために
明治6年(1873年)の改暦以前、日本では太陰太陽暦(旧暦)が使われていました。旧暦では、月の日数が毎年変わるため、30日ある「大の月」と29日ある「小の月」を示すことが必要でした。そこで作られたのが、絵に「大」と「小」を巧みに隠し込んだ摺物(すりもの)です。現在では「絵暦」や「大小」と呼ばれています。
江戸時代の暦法を紹介する第1節では、その代表例として伊勢暦が取り上げられています。これは、伊勢神宮の御師が全国に配布したもので、その年の吉凶方位や大小、各日の干支や方角の吉凶が記されており、江戸時代を代表する暦として広く利用されていました。
第2節では、大小に隠された月の数字を読み解くための5つのパターンを紹介しています。文字絵、文字化、月数入り絵、順番、文中という方法があり、これらの分類を知ることで展示作品をより深く楽しむことができます。
兎の絵に「うさき」、煙草盆に「大のや」、着物に「五、十二、三、二、八、十一、正」と描かれ、文化4年(丁卯)の大小を示す「文字絵の大小」のパターンです。
第3節では、数字以外で月を示す大小について解説しています。睦月などの月の異称や、雛祭や端午の節句などの行事、風物を使ったものがあり、現代ではその意味を解釈するのが難しい場合もありますが、江戸時代の豊かな文化や美意識を垣間見ることができます。
最初の狂歌では、餅の名前を使って「正月(座り餅)」「3月(菱餅)」「5月(柏餅)」などが大の月を示されており、文化4年(丁卯)を表す「文字絵の大小」のパターンです。二首目の狂歌では、「二、小、四、六、七、重ねて(閏7月)、菊(9月)」が小の月を示し、寛政9年を表す「文中の大小」のパターンとなっています。
第2章 葛飾派のカレンダーの大小
明和期(1764〜1772)には、大小の交換会が開かれるほど大小が流行しました。そのデザインの発想は依頼者によるものと考えられますが、絵としての完成形は葛飾北斎ら絵師に委ねられていました。
北斎は宗理様式の時代(1794〜1804)に大小を多く制作しています。本章では、北斎やその一門が手掛けた大小を通じて、巧妙なデザインや趣向を楽しむことができます。
葛飾北斎「雪の朝」 すみだ北斎美術館蔵(通期) ※半期で同タイトルの作品に展示替え
狂歌に「酉」、鶏の絵、娘の帯に「十、正、三、七、九、十一、十二」と描かれ、文化10年(癸酉)の大小を示す「月数入り絵の大小」のパターンです。
第3章 江戸のカレンダーの大小に挑戦!
大小に触れた上で、月数がどこに隠されているのかを実際に読み解く体験も楽しめます。当時は、その年の月数を知るために作られた大小ですが、現代では隠された月数を解き明かすことで、制作年を推測するという新たな楽しみ方ができます。
本作品は、弘化5年(戊申・1848)の大小で、申年を表す猿のお面が描かれています。前期に展示されていますので、大の月と小の月がどこに隠されているかは、ぜひ会場でご確認ください。
まとめ
この展覧会では、江戸時代に栄えた太陰太陽暦の文化と、その中で生まれた「絵暦」や「大小」の魅力を紹介します。大小は、月数を巧妙に隠した遊び心あふれる暦で、デザインやユーモアが特徴です。
特に、葛飾北斎やその一門が手掛けた大小の作品では、江戸の美意識と技術を堪能できます。また、文字絵や行事などを使った月の隠し方をパターン別に解説し、謎解き感覚で楽しめる構成が魅力。江戸時代の人々の遊び心や文化を体感できる貴重な機会です。
開催概要
企画展『読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー』 すみだ北斎美術館
開催期間:2024年12月18日(水)〜2025年3月2日(日)
※前後期で一部展示替えを実施
前期:2024年12月18日(水)~2025年1月26日(日)
後期:2025年1月28日(火)~3月2日(日)
所在地:東京都墨田区亀沢2丁目7番2号
アクセス:都営地下鉄大江戸線両国駅A3出口より徒歩5分。JR線両国駅東口より徒歩9分
開館時間:9:30~17:30
※入館は17:00まで
休館日:月曜日
※開館:1月3日(金)、1月13日(月・祝)、2月24日(月・振休)
休館:12月29日(日)~2025年1月2日(木)、7日(火)、14日(火)、2月25日(火)
観覧料:一般1200円、高校・大学生900円、65歳以上900円、中学生400円
公式サイト:企画展『読み解こう!北斎も描いた江戸のカレンダー』
画像ギャラリー
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東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
東京美術館巡りというSNSアカウントの中の人をやっております。サラリーマンのかたわら、お休みの日には、美術館巡りにいそしんでおります。もともとミーハーなので、国内外の古典的なオールドマスターが好きでしたが、去年あたりから現代アートもたしなむようになり、今が割と雑食色が強いです。
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