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2022.2.18
ケストナーの名作絵本に現代アーティストらが向き合う。PLAY! MUSEUMの『どうぶつかいぎ展』で考える子どもたちの未来
ドイツの作家、エーリヒ・ケストナー(1899〜1974年)の絵本『動物会議』(1949年)。 第二次世界大戦が終わってすぐに書かれた作品は、かわいらしいどうぶつたちを主人公にしながら、戦争の愚行を繰り返す人間を痛烈に批判する物語として知られ、日本でも翻訳されるなど世界中で愛読されてきました。
目次
『どうぶつかいぎ展』(PLAY! MUSEUM)展示風景。撮影も楽しめます。
その『動物会議』に絵をつけたヴァルター・トリアー(1890〜1951年)の複製原画とともに、8人の気鋭のアーティストが再解釈を加え、絵や立体、映像などの作品を展示する『どうぶつかいぎ展』が、東京・立川のPLAY! MUSEUMにてスタート。見どころをレポートします。
ぬいぐるみからイラスト、インスタレーションまで。『どうぶつかいぎ展』に参加した8名のアーティスト
絵本『動物会議』原画/ヴァルター・トリアー/1947-49年/オンタリオ美術館蔵 ©Art Gallery of Ontario
まずは『どうぶつかいぎ展』に参加した8名のアーティストをご紹介しましょう。イラストや絵本、美術などの分野で第一線にて活躍する実力派が集いました。
参加作家(50音順)
植田楽(造形作家)/梅津恭子(ぬいぐるみ作家)/鴻池朋子(現代美術家)/junaida(画家)/秦直也(イラストレーター)/菱川勢一(映像作家)/村田朋泰(アニメーション作家)/ヨシタケシンスケ(絵本作家)
『無題』 梅津恭子 2021年 「テディベア教室」に通ったことをきっかけに、20年以上ぬいぐるみを手がける梅津。リアルな部分とぬいぐるみならではの表現のバランスを追求しながら、日々制作を続けてきました。
各アーティストはケストナーの『動物会議』から受けたインスピレーションをきっかけに、8つの場面をさまざまなアプローチにて表現。冒頭の第1幕「まったく、人間どもったら!」では、ぬいぐるみ作家の梅津恭子が、人間たちの行いや地球の行く末に憂うゾウやキリンなどをぬいぐるみとして制作しました。動物たちは戦争や食糧危機、それに疫病などで大きな被害を受け、最もかわいそうな存在であるのが子どもたちだとして、人間の大人たちに立ち向かうのです。
『無題』 秦直也 2021年 2011年頃よりイラストレーションを描きはじめた秦は、書籍の挿絵、CDジャケット、広告などでも活動し、主に動物をモチーフとしたイラストレーションを制作しています。
またイラストレーターの秦直也は、だらだらと会議を続けて結論を先延ばしにする人間に相対するべく、「ぼくたちも会議をしよう!」として世界中の動物たちと連絡を取り合う様子を描きました。細密に表された110点ものイラストには、手紙を運ぶリスやハリネズミ、それにパソコンの画面に見入るフラミンゴなど多種多様な動物たちが登場します。
秦は普段、Twitterにてその日のイメージをアップするなどして活動していますが、今回は『動物会議』の動物1体1体の個性を見出そうとしてイラストを制作したそうです。
「動物ビルをめざせ!」動物ビルに集まったさまざまな動物たち
『めざせ動物ビル』 村田朋泰 2021年 学生時代からコマ撮りアニメを作り続けてきた村田は、人形アニメ「睡蓮の人」にて文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。その後もNHKプチプチ・アニメ「森のレシオ」を手がけるなど幅広く活躍しています。
アニメーション作家の村田朋泰と造形作家の植田楽の作品も見逃せません。村田は世界中の動物たちが会議に参加するため、汽車や飛行機に乗ったりする光景をコマ撮りの映像で表現しながら、小さな氷山に乗って海を渡ろうとする北極のペンギンや白くまたちをインスタレーションとして制作しました。まさに会議に参加するのにも命懸けなのでしょう。波はゆらゆらと大きく揺れていて、今にも氷山ごと海にのまれてしまうかのようです。
『無題』 植田楽 2021年 6歳の時に紙とセロハンテープでボールとバットを作った植田は、10歳から動物を作りはじめると、以来、動物や恐竜をモチーフに制作を続けてきました。
造形作家の植田楽は会議が開かれる「動物ビル」を立体として再現しました。トリアーの挿絵を彷彿させるような作品には、海から陸の生きる86体もの動物たちのオブジェが置かれていますが、驚くのはすべてがセロハンテープで作られていることです。まるで陶器の作品かと見間違ってしまいますが、目を凝らすとセロハンテープがぐるぐると巻かれていることが分かります。
絵本において「動物ビル」には、博物館や音楽ホール、保育園や病院、さらにレストランや駅などが入居する施設として描かれていますが、今でいえば複合ビルのような賑わいも感じられるのではないでしょうか。中には互いに会話するような仕草をしていたり、一方で喧嘩をしそうな動物がいるなど、生き生きとした表情を見せているのも魅力でした。
いよいよ開幕!インスタレーションで再現された「動物会議」が面白い
『いざ、動物会議』 菱川勢一 2022年 ニューヨークを拠点に音楽や情報番組の演出を担っていた菱川。帰国後もNHK大河ドラマや企業CMの制作に携わるだけでなく、『ハモニカ太陽』などの映画も監督として手がけています。
それでは小さな扉の先へと進みましょう。いよいよ動物会議のはじまりです。まず映像作家の菱川勢一は、議場を埋め尽くす動物たちが会議する光景をオブジェや映像で表現。さらに動物の鳴き声を取り入れたBGMを加えて、あたかも森の中で動物たちがワイワイガヤガヤと語り合っているかのような空間を作り上げています。
しかも動物たちはふて寝していたり、プルプルと震えていたりとさまざま。そして鳴き声は「そうだ!そうだ!」と同調するように響いて、盛り上がりを見せたりします。さらに特定の動物を象っていないのもユニークです。木が散乱してラッパが置かれた床の上を、毛皮を丸めたような動物たちがぞもぞと動いていますが、「何の動物なのだろう?」と想像力を働かせて見るのも面白いかもしれません。
鴻池朋子 展示風景 さまざまな手法を駆使して芸術への問い直しを試みる現代美術家の鴻池朋子。過去に「インタートラベラー 神話と遊ぶ人」(東京オペラシティアートギャラリー、2009年)や「根源的暴力」(群馬県立近代美術館、2016年)、「ちゅうがえり」(アーティゾン美術館、2020年)など国内の美術館にて個展を開いてきました。
この菱川の展示に続くのが、現代美術家の鴻池朋子によるインスタレーションです。ここで鴻池は牛の皮にキツネやタヌキなどを描いた絵や、まるで百鬼夜行のように魑魅魍魎の動物たちを影絵で表現した『影絵灯籠』などを展示。あわせて『どうぶつのことば』(鴻池朋子著、羽鳥書店。)より抜粋された「人間と動物の境界に出現するノート」を公開しています。
『どうぶつの糞 模型』(ニホンザル) 鴻池朋子 2021年〜
ヒグマやニホンザルなどの糞をリアルに象った模型にも驚くのではないでしょうか。動物たちの姿がさまざまであるとともに、糞のかたちや大きさも同じではありません。
『動物会議』において人間たちは動物の要求を拒否し続けますが、むしろ動物に寄り添い、人間との共存のあり方を模索していこうとする、鴻池の想いが感じられるような展示でした。
動物たちが人間に突きつけた条件とは?ケストナーが絵本に込めたメッセージを探る
『闇の世界 夢の世界』 junaida 2021年 画家として展覧会で作品を発表する傍ら、絵本作家としても活躍するjunaida。近年には『怪物園』や『街どろぼう』(いずれも福音館書店)などの絵本を刊行し、2015年にはボローニャ国際絵本原画展にも入選を果たしました。
画家のjunaidaがポスターに表現したのは、ケストナーが作品に込めたメッセージです。いずれも子どもの姿をメインに、動物と子どもたちが遊ぶ様子などが描かれていて、「NO WAR」や「FOR PEACE」といったスローガンが記されています。
『動物会議』では動物たちの最後の一手として、地上から子どもたちを取り上げてしまい、その結果、大人たちは永久平和を約束する条約に署名しますが、junaidaはそうしたやりとりを子どもたちがどう捉えていたのかを踏まえて、ポスターとして視覚化しました。ここには国境を排除し、軍隊を廃棄し、子どもたちを大切にするといった、動物たちが人間に提示した5つの条件が要約されるかたちで示されているのです。
『動物会議の最終日』 ヨシタケシンスケ 2021年 2013年に『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)でデビューしたヨシタケシンスケは、同作で第61回産経児童出版文化賞美術賞を受賞すると、国内外の絵本展で賞を獲得するなどして評価されました。2022年4月には初個展「ヨシタケシンスケ展かもしれない」の開催が予定されています。
最後のエピローグでは絵本作家のヨシタケシンスケが、『動物会議』が終わった後のストーリーを考案するとともに、『ケストナーとトリアー 動物会議ができたあと』として『動物会議』が出版された後の2人の物語を描いています。なお『動物会議』ができる前の2人のエピソードについても会場入口横の映像にて紹介されているので、あらかじめ見ておきましょう。
ケストナーが『動物会議』を世に送り出してから約70年。ヨシタケシンスケは「人間は人間の問題を解決できない」ことが物語に描かれているとして、「人間に変化をせまるための人間以外のものによる会議はまた開催されるかもしれない。」とエピローグに綴りました。その例として「ウイルス会議」や「気候会議」などを挙げています。
第5幕「子どもたちのために!」への入口。通常閉ざされている小さなドアが開放され、普段とは異なる動線が築かれています。
コロナ禍の中、まさにウイルスによって人間は行動の変容を迫られていますが、戦争や貧困、また難民といった問題も今も解消されることなく、世界では多くの子どもたちが困難な状況に置かれています。
絵本『動物会議』原画/ヴァルター・トリアー/1947-49年/オンタリオ美術館蔵 ©Art Gallery of Ontario
作品やキャプションなどから、『動物会議』の内容を知らずとも展示を楽しめるように工夫されていますが、ケストナーが絵本に込めたメッセージはまったく古びることなく現代性を帯びています。
『どうぶつかいぎ展』ミュージアムショップ。ヨシタケシンスケのサコッシュや、ヴァルター・トリアーの原画をあしらったワッペンなどが販売されています。
ケストナーの『動物会議』を8名のアーティストらが自由に表現した『どうぶつかいぎ展』を通して、世界の子どもたちの今と未来について考えてみてはいかがでしょうか。
『どうぶつかいぎ展』 PLAY! MUSEUM
開催期間: 2022年2月5日(土)〜4月10日(日)
所在地: 東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3 2F
アクセス:JR立川駅北口・多摩モノレール立川北駅北口より徒歩約10分。
開館時間: 10:00~18:00
※平日は17:00まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日: 2月27日(日)
観覧料:一般1500円、大学生1000円、高校生800円、中・小学生500円、未就学児無料。
※同時開催の「ぐりとぐら しあわせの本」展の料金も含む
※平日は当日券のみ/休日は希望者に向けてオンラインチケットの日付指定券を販売
https://play2020.jp
画像ギャラリー
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千葉県在住。美術ブログ「はろるど」管理人。主に都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。過去に「いまトピ」や「楽活」などへ寄稿。雑誌「pen」オンラインのアートニュースの一部を担当しています。
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