INTERVIEW
2023.2.14
今日本に必要なのはアート教育と作品が正しく評価される場所。「WATOWA GALLERY」代表・小松隆宏氏インタビュー
2020年、コロナ禍に発足したアートプロジェクトのプロデュース集団「WATOWA GALLERY(ワトワギャラリー)」が、2022年、東京·浅草に「WATOWA GALLERY/THE BOX TOKYO」をオープン。
目次
この度、第2回を迎えたアートアワード『WATOWA ART AWARD 2022 〜この世代からはじまるカルチャーを〜』の取材時に、このギャラリーの設立や目的について代表の小松隆宏(こまつたかひろ)さんにお話を伺うことができました。
「モノ」や「コト」を人へ、社会へ、未来へ―
「WATOWA GALLERY」を運営しているWATOWA INC.は、どのようなことを行っているのでしょうか?
小松さん:
「WATOWA GALLERY」を運営しているWATOWA INC.は、「モノ」や「コト」を人へ、社会へ、未来へ向けて、“創造”し、“伝達”するクリエイティブ・コミュニケーションの仕事をしています。
具体的には、国内外の企業やブランドのPRやブランディング、VIPコミュニケーションなどを中心とした、プロジェクトの目的に対して、方向性と課題に対する解決策を見つけてファッションショーをはじめ、イベント、アート、テクノロジーなどのノウハウで、リアルイベントやメディアを利用したコミュニケーションを開発、演出、企画しています。
WATOWA INC.でさまざまなプロジェクトに関わっていますが、僕みずからのメッセージを具現化できて、発信できるアート専門のプロジェクトチームを持とうと思い、アートプロジェクトのプロデュース集団「WATOWA GALLERY」を設立しました。
『WATOWA ART AWARD』について
「WATOWA GALLERY」が企画しているのが、『WATOWA ART AWARD』。本アワードは今の日本のアート業界において少しでも新しい風の一つにできないかと考え、20〜45歳と幅広い年代のアーティストを対象に“この世代からはじまるカルチャーを”というコンセプトを掲げ、未来を担う新しい才能の発見を目的とした作品発表の機会を創出しています。
―30歳までのアワードが多く存在するなか、本アワードはどうして20〜45歳という幅広い年代にしているのでしょうか?
小松さん:
30代、40代のアーティストは、世間ではフレッシュな目で見てくれなくなり、ギャラリーに所属してなかったり、アワードでいい成績が残せてなかったりすると、生活が難しくなり大半が活動を辞めてしまうんですよね。
でも、その中でも自分を見失わずに意志を保ち、創作を続けている人はいるんですよ。そんな努力の賜物みたいな人を再評価するということが大切だと思っています。海外だと、30代、40代のアーティストはまだまだ若手ですからね。
―本アワードは15名の錚々たる審査員を迎えていますね。
小松さん:
アート教育を担う有識者をはじめ、国内外で活躍するアーティスト、インキュベーションを行うキュレーター、作品を収集するアートコレクター、アートマーケットの中心となるアートギャラリストなど、アートアワードとしては異例の年代もジャンルも異なるメンバーを集めました。
―本アワードはどのように審査されているのでしょうか?
小松さん:
画像やステートメントなど資料による一次審査、作品実物による二次審査。その際にステートメント、表現力、クオリティ、テクニック、ポートフォリオを含むこれまでの活動はもちろん、作品単体としてのクオリティという観点から5点満点での評価を行い、15名の合計得点により上位者を入選としています。
それ以外に、各審査員が、点数とは別の作品や作家性、作家のプロフィール、ステートメントの思考などで、良いと思えた人にそれぞれ個人賞を渡しており、個人賞と特別賞、準グランプリ、グランプリが入賞者となります。
―このような審査方法を設けているのは、海外に通用するアーティストであり、「この世代からはじまるカルチャー」を生み出してほしい…という想いがあるということですね。
小松さん:
「この世代からはじまるカルチャー」を生み出すというのは、この世代僕が40代なので、その前後20歳くらいの40年分を帯として大きな “ムーブメント”を生み出すことだと思っています。しかし、ひとりではムーブメントをおこすことはできないので、アートに関わる時代をリードできる多様な方々と、“コミュニティ”を作るということを考えました。
アーティストの発掘はもちろんですが、市場の活性はもちろん、アートマーケットやアカデミックな人たちやコレクターなどのエコシステムの中の人達が、色んな意見を出し合うような“場”づくりがもう一つの目的です。
AWARDのエキシビジョンの前日には、審査員やアーティスト同士の交流の日を作っています。そしてエントリーしてきたアーティスト、そして鑑賞者も巻き込んだ一つの大きなうねりを生み出していきたいと思っています。
―今年、錚々たるメンバーを集めての審査でしたが、グランプリが選ばれませんでしたね。
小松さん:
…そうなんですよ、審査員の中で何度も話し合いを進めたそうですが、やはり結果が割れてしまいました。昨年と比較して全体のクオリティは高いものの、コンセプトがいいがクオリティやアートの強さが足りない、もしくはその逆など。全てにおいて突出していた作品がなかったことから、本年度のグランプリの選出は審査員の皆が見送りに合意しました。
―しかし、各受賞した展示作品のキャプション部分には、審査員からのコメントも記されており、作家への愛が感じられます。
小松さん:
コメントには審査員からの感想だけでなく、作家へアドバイスを送っているものもあり、それぞれ審査員の知見により審査作品へのフィードバックをおこない、受賞者との積極的なコミュニケーションを図ることで、若手作家の今後の活動を支援しています。
実際授賞式では、審査員が若手作家の作品を買ったり、作家のメンター的な存在となったり、本質的なアートというものを教える良き学びの場となりました。
日本に足りないものはアート教育、そして正しく審査される場所
―ギャラリーやアワードを通して伝えたいメッセージを教えてください。
小松さん:
日本に足りないものの一つはアート教育だと思っています。
雑な言い方をすると、日本は「芸術(アート)=美術=美の術(すべ)=技術」「印象派の絵が西洋画(アート)の基本」みたいな、年表とビジュアルだけ、教え込まれるような教育ですよね。アートの語源や歴史や時代との連結、なぜアートは面白いのか?なんて教えてないですよね? 僕もそんな記憶ありません。
教育全般にも言えることでしょうし、政治や経済など、日本社会からカオスな状況を取り除いて、効率化や現社会の発展実績をコピーしていく思考(いわゆる思考停止した人々を量産する社会構造)が、低迷している“現在”へと繋がっていると考えられます。
―確かに、表面的に美しさだけを感じるのがアートじゃないですからね。そういった事実にひとりでも多くの鑑賞者を含む、関わりを持った、全ての人が気づけるキッカケとなってほしいですね。
また、アーティストにとってもギャラリーやこのアワードの存在は大きいと思うのですが…
小松さん:
僕は正しく(多様にカオティックに)評価される場所を増やしていきたいと思っています。
例えば、真面目にARTを捉え社会に問いかけするアーティストも、思考性のないトレンドにのってる作品を生み出すアーティストも、知名度でアワードに応募するアーティストも、日本には後者が圧倒的に多いですが、それも、“今の日本のアート”シーンと捉えたときに、今後どういったアートシーンに成長すれば、世界に遺るアートが生まれる可能性が上がるのかを考えています。
アート業界はもちろん、いろんな業界で世界を捉えている審査員たちが、どういうふうに作品を評価しているのかをアーティストに理解させる場でもあると思っています。
―だからこそ、年代もジャンルも異なる審査員なんですね。
小松さん:
今のアートシーンはもちろんですが、日本社会や世界を捉えた上でしっかりと正しい判断ができる審査員を選んでいます。
例えば、審査員の中にはアートコレクターの方がいらっしゃいますが、現代アートを投機目的として購入するケースが多い昨今、そういった目的ではなく、自身の“好き”を大切にし、純粋に作品を買い求めるかたを選んでいます。
参加したアーティストはもちろんですが、参加していないアーティスト、これからアーティストを目指す方、投機目的のみのアートコレクター、現在アートコレクターの方、これからコレクターを目指す方、そして鑑賞者にも、上記のようなちゃんとアートを愛しているのか? アート好きの質の高いコレクターが参加していること、世界でかっこいいコレクターは投機目的だけの人はいないことが少しでも伝わってほしいと思っています。
アカデミックサイド×マーケットサイドの融合
―他のアワードに比して審査員の幅に驚きを隠せないんですが……
小松さん:
僕がやりたいことはアカデミックサイドとマーケットサイドの融合なんです。よくよくはオークショニアや海外のキュレーターも入れる構想もあります。海外のアートシーンを見ていると…世界トップのミュージアムやギャラリーは、資本主義と接続しているんですよね。アーティストも、アートギャラリーや、オークショニアもビジネスが成立しないともちろん生活できませんから、それが当たり前。
その一方で日本は、アートは貧乏で純粋でいることがアートだ、みたいな習慣が今もありますね。ある意味“武士道”なのかもしれませんが(苦笑)。世界では、国、政治や経済、メディアを巻き込んで、アートの価値をあげたり、アートの意味を見出したりしているし、もっというと、これからの現代アートはどうあるべきなのかを常に問いただしていくような活動体として僕は捉えています。
そうやって海外のアートシーンは成長を遂げているのに、どうして日本は見習わないのか? という問いが生まれました。社会経済を変えていくようなアート…資本主義が絡まないアートなんて存在しないので、そこを目指すのなら綺麗事を抜きにして取り組まないと、海外のアート関係者が目を向けてくれないし、国内のアーティストも、コレクターも、鑑賞者も育たないと感じました。
―なかなか根深い問題ですよね。国や政治に働きかけることって難しいですし…
小松さん:
例えば、印象派が流行した時代に目を向けてみると、100以上の集合アトリエが存在したと思うんですよ。美術史には“洗濯船”や“モンパルナス”のような有名なアトリエしか教科書には名が残っていないだけで、実際はかなりの数がないとムーブメントは起きないと予測できます。
日本に目を向けてみると過去にムーブメントはいくつか存在していますが、海外と接続してくれる要となる人物がいるケースが見受けられますし、加えて力のあるムーブメントでなければ、広く海外へと浸透していきません。
そんな力のあるムーブメントの仕組みを紐解いてみると、系譜や文脈を汲み取るだけでなく、まとめていく「ヒト」や「コト」のほうが重要です。そして、そのさまざまな集合体をいくつも作っていくためにもコミュニティの存在が必要であり、その存在こそが力のあるムーブメントの持続へと繋がっていきます。
アンディ・ウォーホルの「ファクトリー」にみられる横の繋がりや気軽な間柄のように、楽しみながら集まってくれた人たちを尊重したり、さまざまな考え方を議論したり、新しい表現に挑戦できる場を作りたいと思っています。
僕のような民間ができることはムーブメントの端くれみたいな存在なんですよ。ぜひ、この何かしら起こるかもしれない、ムーブメントの端くれの存在として「WATOWA GALLERY」は存在するつもりなので、経済的な参画もビジネスやアカデミックなことをする仲間も募集しているので、色んな人に門を叩いてほしいですね。
まとめ
今回「WATOWA GALLERY」代表の小松隆宏さんへのインタビューを通して、鑑賞者がアートに触れる際にもまた、アカデミックサイドとマーケットサイドの感覚を持ちえても面白いのではと気付かされました。
そういった感覚を養ったうえでアートと向き合う鑑賞者が増えていけば、小松氏の期待するコミュニティへの参加に繋がっていくこととなるのでしょう。
「この世代から始めるカルチャー」のきっかけとなるこのアワード、そしてムーブメントとなるギャラリー、プロデュース集団から、今後どのような世界に羽ばたくアーティストが生まれるのかにも期待が高まります。
小松隆宏さんプロフィール
小松隆宏 TAKAHIRO KOMATSU
SHOW director
“ファッション”、“アート”、“デジタル”、“今”を捉え、ブランディング、プロモーションを企画·演出をするクリエイティブプロダクション「WATOWA INC.」の代表。
アートエキシビジョン·プロデュース集団「WATOWA GALLERY」や、カルチャー・オルタナティブスペース「elephant STUDIO」の創設/プロデューサー。 “生き方を耕す”カルチャー・エデュケーション・キャンプ「LIFE FARMING CAMP」のプロデュースや、観光庁・文化庁の地方創生・観光事業のコーチングなど、地方のポテンシャルを活かす観光事業などのコンサル・PR・プロデュースも2019年からスタート。
世界を農でおもしろくする「農ライファーズ」社外取締役
東京のランドマークプロジェクト「KISS TOKYO」主要メンバー
ギャラリー情報
WATOWA GALLERY
住所:〒111-0024 東京都台東区今戸1-2-10 JK bld 3F
電話:07085606104
HP: http://watowagallery.com
Instagram: @watowagallery
CONTACT: gallery@watowa.jp
画像ギャラリー
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