INTERVIEW
2021.11.29
「花の生命」を伝えたいと語る フラワーアーティストahi.相壁琢人
…可憐な装いだけが花の美じゃない。時に妖艶でドメスティックな作風を打ち立て、花の在り方を問うような作品を生み出す、フラワーアーティストの相壁琢人。
今回、津軽・弘前という土地を再発見する市民参加型の地方展覧会『Hirosaki Arts Pollination(ヒロサキ・アーツ・ポリネーション)』に向け、新作をリリースすることからインタビューを実施しました。
自分と花との向き合い方について
相壁琢人は、フラワーアーティストとしてフラワーアートや押し花の作品制作及び、広告・会場の装花やMVなどのフラワーディレクションなどを中心に活動中。2016年からは写真家田中生氏とahi.を始動し、二人で花の可能性を捉えた写真作品を制作。近年では、アーティストのストリーミングライブやCMの装花など、フラワーディレクションの幅を広げています。
―相壁さん、フラワーアーティストとして歩み出したキッカケはなんでしょうか?
相壁:
両親が生花仲卸を営んでいたことから、幼少期から生花は身近な存在でした。
22歳から親が営んでいた花市場内の仲卸で働きはじめ、当時はバンドをしていて花に全く興味はなく、ただ音楽を続けるためだけに働いていました。
ある日、ダリアが入った箱を落としてしまったことあり、ダリアがバラバラに散った姿を見て、自分が殺めてしまったという感覚に陥り、そこで「花も生命なんだ」と初めて気づかされ、その日から花と真剣に向きあおうと決めました。
それから、夜間で花の専門学校に通って資格取得。そのタイミングでバンドが解散したこともあり、親元の生花仲卸を離れ、都内の花屋で修行し、2015年に独立。
そこから自分自身の作品制作をスタートさせましたね。
―どうして、相壁琢人の前に“ahi.”がついているのですか?
相壁:
『ahi』は「あひ」と読むんですが、古文では「ともに。一緒に。」という意味や、「黒と白の中間」みたいな意味があるんです。
『.』を最後に付けたのは、何かを伝える際に、勢いだけではなく一度踏みとどまり、伝えていくべきことを再確認し、行動しようという思いを込めて付けました。
作品制作時について
―どうして花の可憐で美しい姿ではなく、枯れて朽ちていく姿にフォーカスした作品制作をしているのでしょうか?
相壁:
今在る花の価値観は素晴らしいものですが、この先の価値観に焦点を当てた際に、「花の生命」は伝わるのか疑問が沸いて、このまま花の価値観を広げてくれる人を待つのなら、自分の人生で伝えていこうと思い立ちました。
花を生ける際には咲いている花の隙間に、敢えて朽ちている花を混ぜ合わせ、美しさだけではない雰囲気を作り出したり、押し花の場合だと消えていく品種を残したいという思いと、敢えて半乾きで発表することで、満開後に枯れていく姿を表現したり、花の価値観を壊すことなく広げていきたいと思っています。
―作品制作時に大切にしていることを教えてください。
相壁:
作品テーマごとに大切にすべきことは変わってくるので難しいのですが、一括して言えることは絶対に目の前の花の生命から目を逸らさないということです。
作品以外に花を燃やしたり、水中でインクを垂らしたり、肉や果実に生けたり…鑑賞者の受け取り方によっては、花が可哀そうと思われても仕方がないのですが、覚悟を持って目の前に生けた花の生命を見つめ、大切にしていないと、花も、表現も、殺してしまう作品だと思っています。
コロナ禍でスタートした新たな取り組み
―2020年、新型コロナウイルス感染症によりアート界も活動自粛を迫られたと思いますが、その中で新しく取り組んだことや心境の変化などありましたら教えてください。
相壁:
コロナ禍で分断されたことから他者との繋がりをより求めていたり、在宅時間が増えたことから自宅での暮らしを豊かにしたり、世間では新しい生活様式が求められるようになりましたよね。そのなかで、日々の暮らしに彩りを添えてくれたり、人の心を和ませ癒やしてくれたり、そんな花の側面に改めて気付くことができました。
そこで、もうスタートから半年ほど経ちましたが…毎月厳選した季節の花やアートワークを日々の生活にお届けし、Slack上でメンバーと花を永く楽しめる方法や花にまつわる知識を共有する、楽しく交流していくコミュニティ花屋『EDEN(エデン)』を立ち上げました。
『EDEN(エデン)』というタイトルにしたのは、コロナ禍で変わってしまったことを踏まえ、もう一度花の価値観を見つめ直し、活動をしていかないと本質的な部分が伝わっていかないと思い、また新たな場所を共につくっていくという意味を込めてつけました。
ただのサブスクではなく、一緒に場所を作っていくというコンセプトなので、「このように発送したらいいのではないか?」と親切なアドバイスをいただいたり、「住んでいる地域が北国なので届いた南国の品種の花が枯れやすい…どのようにしたらいいのか?」と地域性よる問題に触れることができたり、今まで表現者では知りえなかった利用者の気持ちを感じ取ることができましたね。
新作「Noah's Ark」について
―今回、津軽・弘前という土地を再発見する市民参加型の地方展覧会『Hirosaki Arts Pollination』に向け、新作リリースすることを伺いましたが、どのような作品になるのでしょうか?
相壁:
本展では、アーティストや鑑賞者をりんごが結実する仕組みになぞらえ、植物の花粉を運び受粉させる「ポリネーター(送粉者)」と解釈しているそうです。
彫刻、グラフィック、音楽など様々なジャンルで活動する14組のアーティストたちの眼差しと、津軽の歴史、文化、産業、風土を掛け合わせて複眼的に捉えるとともに、新たな気づきや明日につながるエネルギーを心に実らせることをミッションとしています。
その中で、僕は30年程前の東急東横線をメンテナンスして使用されている、弘南鉄道大鰐線の1車両を使用した体験型インスタレーション作品を発表しました。
約2000本の花々の花弁が敷かれた車両に乗車していただき、来場者は花弁の上も歩行していただくことで、最終的に「押し花」として完成する作品となっています。
その作品展示する1車両をノアの箱舟に例えて、花(=種)の保存の意味合いも含め、実際に運行されることで、モノトーンになってしまった過去から未来に向かって色彩に溢れた『EDEN(楽園)』を描いていこうという想いが込められています。
今後の活動や展望について
―自身が目指している今後の活動や展望を教えてください。
相壁:
今後の活動としては…2015年にスタートした『ahi.』から、2020年にリリースした『Adam et Eve』で5年経過し、このコロナで花の価値観に変化があったことから、残りの5年間でこれまでの作風とはまた違った穏やかな側面を表現した作品にも挑戦しようと思っています。
それから、ワークショップや展示ができる店舗を持とうと思っていますが、その前に全国47都道府県を巡りたいと考えています。
サブスクを通して各地の環境に合わせて求められている花や、イメージではわかっていたけれど需要と供給が違うことを実感し、ネットで調べればわかることかもしれませんが、しっかり肌感で理解してからのほうが、より深く花を伝えていくというアプローチできると思いました。
そして、2025年のタイミングで大きなプロジェクトを発表できたらと思っています。
◉作家プロフィール◉
相壁琢人(Aikabe Takuto)
2015年からフラワーアーティストとして制作活動、またフラワーディレクションを開始。
これまで押し花制作・フラワーアート・フラワーディレクション・広告/会場装花・ワークショップ・コラム執筆など活動は多岐にわたる。近年では、アーティストのストリーミングライブやCMなど、フラワーディレクションの幅を広げている。
HP:http://ahi-aikabe.com/
Twitter:https://twitter.com/ahi_takuto
Instagram:https://www.instagram.com/aikabetakuto/
花屋『EDEN』-厳選した季節の花が届くサブスクリプション
https://community.camp-fire.jp/projects/view/434578
◉イベント情報◉
『Hirosaki Arts Pollination(ヒロサキ・アーツ・ポリネーション)』
会期:11月27日(土)~12月5日(日)
会場:弘前市のエリア内
※詳しくはホームページをご覧ください。
時間:10:00-17:00
HP:https://artspollination.com/
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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。
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