INTERVIEW
2022.2.28
ゴミを素材に作品を生み出すアーティスト 淀川テクニック
消費社会の負の側面であるゴミを巧みに逆転させ、さまざまなアイディアを持って作品を生み出す、淀川テクニックこと柴田英昭(しばたひであき)さん。
3年に1度おこなわれる瀬戸内芸術祭の常設作品「宇野のチヌ」や「宇野のコチヌ」の作者としてよく知られています。
目次
「宇野のチヌ」©︎淀川テクニックCourtesy of YUKARI ART
現在、岡山県・旧玉野市消防署にて、淀川テクニックが製作総指揮をつとめ、本人も含め5名のアーティストが参加する、作品展示『瀬戸内ゴミンナ〜レ!!』が開催されています。
今回、『瀬戸内ゴミンナ〜レ!!』にあわせてインタビューをさせていただきました。
アーティスト柴田英昭(しばたひであき)さんについて
2003年頃から大阪淀川の河川敷のゴミや漂流物を使用し、楽しみながらさまざまな造形物を作りはじめた、“淀川テクニック” こと 柴田英昭(しばたひであき)さん。
赴いた土地の人々とゴミ拾いなどのイベントを通して、その土地で収集したゴミや漂流物などを使用し、さまざまな造形物を制作しているアーティストです。
―柴田さん、アーティストとして歩み出したキッカケはなんでしょうか?
柴田さん:
大阪文化服装学院を卒業後、一年程工場で働いてみたのですが、自分のアイディアとセンスで何かを作ってみたいと思い、会社を辞めてアルバイトをしながらアーティスト活動をはじめました。
活動当初は、現代美術作家の村上隆さんが主催していた、若手アーティストの登竜門「GEISAI(ゲイサイ)」に、僕ひとりで半年に一度出展していました。
「淀川フェスティバル」の様子 ©︎ 淀川テクニックCourtesy of YUKARI ART
その後、2003年に「淀川フェスティバル」という淀川河川敷で行われるイベントに誘われ、同じ大阪文化服装学院の一年歳下の学友である松永和也に声をかけ、河川敷のゴミや漂流物を使って作品を作ってみたところ、河川敷でゴミを探しながら作品を制作していくという行為が面白くて… “淀川テクニック” というアートユニットを組んで「GEISAI #5」 に出展したのがきっかけです。
2017年からはソロ活動となり、現在まで「淀川テクニック」の活動に邁進中です。
ゴミを素材に作品を生み出している背景とは?
―作品にゴミを使用する柴田さんにとってゴミの存在とは?
柴田さん:
僕にとって、ゴミはどこまで行ってもゴミなのですが、ゴミのまま作品の素材にするんです。
漂流ゴミはもともと人間が作った(アーティフィシャル※)なモノなのですが、それに“漂流”というランダム要素と、“経年劣化”というナチュラル要素が加わり、アーティフィシャルな形は残しつつも、目的を失って行きどころのないモノとなって岸辺に漂着しています。
※人工的。人為的。技巧的。不自然な。
―なるほど…さまざまなかたちの作品を生み出す柴田さんにゴミの魅力について教えてください。
柴田さん:
ゴミにはそれぞれ記憶があり、その断片が見えるのが魅力です。
店舗で販売されている商品は、生産者から消費者へと届けられますが、その消費者が使用した痕跡が見えたり、海の荒波に揉まれながら世界中を漂流し、僕の手に渡るまでの過程が見えたり、それぞれの記憶があるように感じます。
―柴田さんにとってゴミでアート作品をつくることの可能性についてどのようにお考えでしょうか?
柴田さん:
僕は漂流ゴミを拾い集め、もう一度漂流ゴミをモチーフとして、アート(芸術)な存在意義を持たせ、作品として生まれ変わらせるのが面白いと思っています。
そして、僕にとってアートは世の中の見方を変えたり、掛け合わせたり、違うものへと変化させるスキルだと思っています。
素材はゴミでなくてもいいんですけど、ゴミだからこそできることが沢山あるんです。
ゴミはいらないモノ、迷惑なモノとして見られていますが、その後ろめたさみたいな感情を使うことでよりアートの純度が高まると思っています。
瀬戸内ゴミンナ〜レ!!について
―淀川テクニックが製作総指揮をつとめる、作品展示『瀬戸内ゴミンナ〜レ!!』が開催中ですが、どのような経緯ではじまったのでしょうか?
柴田さん:
『瀬戸内ゴミンナ〜レ!!』は、僕がお世話になっているヤノベケンジさんから、京都大学RE:CONNECTが開発した PicSea(ピクシー)を使用し、何か企画をやってもらえないかという、ご相談があったことがキッカケです。
―京都大学RE:CONNECTが開発した PicSea(ピクシー)を用いて、柴田さんはどのような取り組みを行うのでしょうか?
柴田さん:
本展覧会で素材として使用しているゴミは、京都大学RE:CONNECTが開発した PicSea(ピクシー)を使用し、撮影してデータ収集に協力することで、環境問題などの課題解決に協力しています。
展覧会前に開催したワークショップ「ゴミジナル工作®️」では、参加者さんにゴミを使った作品を制作してもらい、展覧会でその作品を他アーティストの作品と一緒に展示しようと思っています。
また、ワークショップでは京都大学RE:CONNECTとコラボレーションし、そこでもPicSeaアプリの実演と、地Qクイズという環境啓発クイズもしました。
―本企画をグループ展にしたのには、どのような背景があったのでしょうか?
柴田さん:
以前より、世界的にもゴミを使用して作品をつくるアーティストが増えてきていることから、そんなアーティストたちを集めて大きな展覧会を開いてみたいという野望を持っていました。
アーティストによって、ゴミに問題意識を持っている人も、ゴミが単純に面白いと思っている人も、いろんな目線があっていいと思うし、兎に角ゴミを素材として扱っているアーティストを集め、グループ展をするとどうなるのか?…なんだかわくわくしますし、単純に面白そうですよね。
瀬戸内ゴミンナ〜レ!!、自身の作品と他の作家さんについて
―今回、『瀬戸内ゴミンナ〜レ!!』ではどのような作品を生み出すのでしょうか?
柴田さん:
いつもは動物や魚などの生き物をテーマに作ることが多いですが、今回は大きな涅槃像を作ろうと思っています。
生涯に約12万体の仏像を彫ったと推定され、現在までに約5,300体以上の像が発見されている、円空(えんくう)に興味があり、彼は各地に「円空仏」と呼ばれる独特の作風を持った、木彫りの仏像を残したことで知られています。
自分もやっているからわかるのですが、さまざまな場所に赴いて、現地で手に入れた素材を生かしながら、作品を作りつづけるのは、本当に大変でボロボロになります。
その反面、そこにしかない素材で作品を作ることと、その地でさまざまな人に出会える喜びがあり、放浪系アーティストとして見習いたいことが沢山あり、円空の気持ちを理解するには一度仏像を作ってみよう!と思い立ちました。
―今回、制作総指揮をつとめる柴田さんを含め、5名のアーティストが参加されるとお聞きしました。ゴミを用いて作品を制作されると思うのですが、それぞれどのような表現スタイルをお持ちなのでしょうか?
柴田さん:
独特の収集癖からその集めたものがいろんなものに見えてくる作品を生み出す出川晋さん、ポップで可愛らしい作品とは裏腹に狂気に似たものを感じるほど手数が多い吉田一郎さん、スマートな作品の見せ方をしてくれて、緊張感と脱力感の狭間で戦っているミシオさん、石川県で活動されており、現地の海ゴミを使用し、生き物の作品を作り出すあやおさん…
それぞれ表現スタイルやアプローチが違うので、企画している僕自身も楽しみにしています。
読者へのメッセージ
―最後に、読者の皆さんに向けてメッセージを伝えてください。
柴田さん:
ゴミって、自分はゴミを出していないと思っているけれど、自分たちの仲間がゴミを出してるんですよね。
人類が出しているゴミ…その人たちがいらないと思っているものを、僕等アーティストたちが使って何か面白いことをやっている、何かと何かを組み合わせることで、何か新しい何かが生まれるということ。
僕や僕の界隈のアーティストたちは“ごみに特化したこと”をしているので、ワークショップや作品鑑賞などを通じて、そういうことを知ってほしいし、体験してほしいと思っています。
インタビュアー、写真:ko-ki karasudani
編集、文:新麻記子
【作家プロフィール】
淀川テクニック
柴田英昭(1976年、岡山生まれ)のアーティスト名。2003年、大阪の淀川河川敷にて活動開始。ゴミや漂流物などを使い様々な作品を制作する。赴いた土地ならではのゴミや人々との交流を楽しみながら行う滞在制作を得意としている。近年では環境問題に関わる展示に招かれることも多い。
サイト:https://yukari-art.jp/jp/artists/yodogawa-technique/
【イベント情報】
瀬戸内ゴミンナ〜レ!!
会期:2021年2月25日(金)~3月15日(火)
会場:(旧庁舎)玉野市消防本部
岡山県玉野市宇野1丁目27-2
参加アーティスト:淀川テクニック/ 出川晋 /ミシオ / あやお / 吉田一郎
主催:京都大学RE:CONNECT
製作総指揮:淀川テクニック
共催:玉野市
特別協力:日本財団、ユカリアート
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アート・カルチャーの架け橋になりたい。やれることならなんでもやるフリーランス。日々の暮らしを豊かにしてくれるアート・カルチャー系記事の執筆業以外に、作詞家、仲介・紹介業、対話型鑑賞会のナビゲーター、アート・映像ディレクターとして活動中。
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