STUDY
2025.2.26
《太陽の塔》に込められた真のメッセージと岡本太郎の闘い
有名な現代アートといえば、何を思い浮かべますか?
草間彌生《南瓜》、バンクシー《Girl with Balloon(風船と少女)》、キース・ヘリング《Radiant Baby(光り輝く赤ん坊)》...こうした作品があるなか、岡本太郎《太陽の塔》を挙げる人もいると思います。
でも、作品に込められた真のメッセージや、岡本が挑んだ闘いについては、まだ知らない人も多いはず。この記事で作品の魅力と謎に迫りながら、《太陽の塔》を一緒に紐解いていきましょう!
目次
《太陽の塔》とは?建設目的と顔の意味
月の世界 太陽の塔 大屋根 , Public domain, via Wikimedia Commons.
1970年に開催された日本万国博覧会。スローガン「人類の進歩と調和」を表現するシンボルゾーンにおいて、テーマ館のひとつとして、芸術家・岡本太郎によってデザインされたのが《太陽の塔》です。大屋根を貫く70メートルの塔は、会場で強烈な存在感を発揮していたといいます。
作品には「黄金の顔」「太陽の顔」「黒い太陽」「地底の太陽」という4つの顔があります。
塔の頂点で金色に輝く「黄金の顔」は未来を象徴しています。実は、現在取り付けられているものは2代目。初代は老朽化のため、30年ほど前に取り外されました。
そして、人間の精神世界を象徴する「地底の太陽」は、塔の地下展示室に存在します。約50年間、行方不明となっていましたが、「太陽の塔 内部再生」事業によって復元され、2018年3月に一般公開が実現しました。
再生太陽の塔 | 岡本太郎記念館
引用元:地底の太陽
ちなみに、4つの顔だけでなく、内部の展示空間も圧巻です。万国博覧会終了後、地下は埋められてしまいましたが、2018年3月に修復・復元が完了。高さ41メートルもある「生命の樹」は、カラフルな樹の幹や枝に292体の生物模型群が取り付けられ、生命の進化の過程を表現しています。
生命の樹 | 岡本太郎記念館
引用元:生命の樹
《太陽の塔》に込められた真のメッセージ
ここからは、作品に込められた真のメッセージを、4つのキーワードから紐解いていきます。
キーワード①ベラボー
「ベラボー(べらぼう)」とは、程度が甚だしいことを指すことば。岡本は、万国博覧会のテーマプロデューサーを引き受けるにあたって「ベラボーなことをやりたい」と公言していました。
勤勉で真面目ではあるものの、スケールが小さい日本人のことを腹立たしく思っていた彼は、心を外に向かって打ち開くことが必要だと説きました。万国博覧会をきっかけに、無難な日本人にベラボーなものをぶつけて、人間本来の生命を打ち出したい。《太陽の塔》は、そんな想いを持った岡本によってデザインされたのです。
キーワード②神格
どうして岡本は、博覧会にベラボーをぶつけようとしたのでしょうか?なぜなら、万国博覧会を世界の祭りと考えていたからです。底流には、かつての共同体が持っていた本来の祭りに対する信頼と、それを失ってしまった近代社会への憤りがありました。ここでも彼は、日本人の在り方に疑問を呈しています。
また「祭りとお祭りは違う」とも岡本は主張しました。前者を「あくまで神聖で厳粛なもの」、後者を「無責任なお遊び」と区別したのです。「(祭りは)これによってなにかを得ようといったさもしい根性を捨てた、まったくの無償の行為だ。だから万国博はベラボーなものにしなければならない」。
万国博覧会は「国家が主導する産業文化の見本市」であり、参加する国や企業は自らの優位性や先進性をアピールするために出展します。岡本の考え方とは対極です。そこで彼は、人間の生命の根源的イメージを「神格」として突き立てることにしました。それが《太陽の塔》だったのです。
キーワード③文化コンプレックス
「日本人の価値基準は、西欧の近代主義と、その裏返しとしての伝統主義だけ。太陽の塔はその両方を蹴飛ばしているんだ」岡本は度々そう述べたそうです。
テーマプロデューサーのオファーを受けたとき、「万国博覧会を活かせば、日本人を文化コンプレックスから解放するきっかけになるかもしれない」と彼は考えたのでしょう。しかし、はるか昔から続く文化コンプレックスは根深いもの。太刀打ちするためには「ベラボー」な「祭り」が必要だったのです。
キーワード④はらわた
《太陽の塔》というベラボーな建造物で心を引き寄せ、潜在した文化コンプレックスに働きかけたあとは、館内に人々を招き入れます。そこで岡本は、展示理念の中心に「根源」を据えました。万国博覧会のコンセプトとは異なるにもかかわらず、「人間生命の根源」「人間精神の根源」「人間存在の根源」を表現しようと奔走します。
理屈ではなく、皮膚から根源を感じさせようとしたのは、DNAに書き込まれているはずの「人間の誇り」を爆発させるため。人間生命の根源を、岡本は「はらわた」と呼んだそうです。その信念は「生命の樹」に詰め込まれています。
《太陽の塔》で岡本太郎が挑んだ闘い
4つのキーワードを辿った先で、岡本が挑んだ闘いが浮き彫りになってきます。
テーマプロデューサーの仕事を岡本が引き受けたとき、日本万国博覧会のスローガン「人類の進歩と調和」はすでに決定済み。ただ、岡本はスローガンに違和感を持っていました。「人類は進歩なんかしていないし、日本人が考える調和(互譲)は真の調和じゃない」それが岡本の考えだったからです。
しかし彼は、テーマを否定したり、自らの考えに基づいてプロジェクトを私物化したりしませんでした。テーマと真摯に向き合い、自分なりの解釈を組み立て、それが観客に伝わるよう努力したのです。
そんな彼を見て、「前衛芸術家が国家事業の手先になるのか」と嫌悪感を抱く人々もいました。「日本万国博覧会は、安保闘争(1970年)を国民の目から反らせるための陰謀だ」との論調から、「反博(はんぱく)」ということばも生まれます。その批判の分かりやすいターゲットとなったのが岡本でした。
反博派から批判されていると聞いたとき、岡本はこう語りました。「反博?なに言ってんだい。一番の反博は太陽の塔だよ」。そして完成した、万博史に残るただひとつの異物。それが《太陽の塔》です。
《太陽の塔》を解き明かすインタビュー映画
「地底の太陽」「生命の樹」が再び一般公開された2018年。作品の魅力と謎に迫るドキュメンタリー映画『太陽の塔』が公開されました。多方面で活躍した岡本に影響を受けた29人へのインタビューが収録された作品で、《太陽の塔》の知られざる姿を解き明かしています。
この映画には、《太陽の塔》の制作秘話に加え、次のような内容も凝縮されています。
・岡本が日本人の在り方に関心を持った経緯
・《太陽の塔》とチベット仏教の関係性
・もうひとつの代表作《明日の神話》の制作背景
少し難しそうに見えるかもしれませんが、インタビューで構成され、難しい用語も丁寧に解説されているため、《太陽の塔》や岡本に関する知識がない人でも、安心して楽しめる作品になっていますよ。
《太陽の塔》に今こそ注目!
2011年に生誕100年を迎えた岡本太郎。進歩や調和がさらに叫ばれる今こそ、彼の代表作《太陽の塔》に目を向けてみませんか?
参考文献
平野暁臣『太陽の塔』(小学館、2018)
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ライター。若手社会人応援メディアや演劇紹介メディアを中心に活動中。ぬいぐるみと本をこよなく愛しています。アート作品では特に、クロード・モネ《桃の入った瓶》がお気に入りです。
