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STUDY

2021.9.24

西洋美術史を流れで学ぶ(第10回) ~盛期ルネサンス編②~

「アートに詳しくなりたいけど、なんかやたら敷居が高い……どこから知ればいいの?」

そうお困りの方が楽しく流れを掴めるよう、難しく語られがちな西洋美術史をフランクにお伝えするこの企画。第9回からは「盛期ルネサンス」と、その美術作品を紹介しています。

・関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第9回) ~盛期ルネサンス編①~
https://irohani.art/study/4966/

第10回はいよいよみんな大好き「ダ・ヴィンチ」「ミケランジェロ」「ラファエロ」が登場。彼らの作品を通して、15世紀半ばからの盛期ルネサンス美術をみてみましょう。

超好奇心旺盛で超リアリスト! レオナルド・ダ・ヴィンチ

レオナルド・ダ・ヴィンチ肖像画肖像画 Leonardo da Vinci, Public domain, via Wikimedia Commons

レオナルド・ダ・ヴィンチは好奇心お化けです。彼は67歳で没していますが、その人生でやった仕事の量は、常人であれば200年あってもできないレベルだと思います。間違いなく歴史上最も偉大な発明家の1人です。

彼の肩書きは「画家」とするのが一般的ですが、それだけではありません。リリー・フランキーもびっくりのマルチタレントっぷりです。医学者で料理人で音楽家で設計士で化学者で建築家で天文学者で動物学者で植物学者……あと飛行機の設計をしたり潜水服の設計をしたり、人を解剖したり哲学をやったり、もう肩書きでは語れない人です。絶対『ドラゴンボール』の「精神と時の部屋」にいたんだと思います。

ダ・ヴィンチというルネサンスを象徴するような超リアリスト

そんなダ・ヴィンチは死ぬほどリアリストで懐疑主義者でした。極端にいうと「自分の目で見たものしか信じない」という、もし口げんかになったらめっちゃ正論で攻めてくるタイプです。

「ペペロンチーノってうめぇよな」とか何の気なしに言ったら「それはいつ、どこで食べたもの?またなぜ美味しいんだい?食感?味付けかい?なぁ君がうまいというペペロンチーノを見せてから言ってくれ」とか早口で言ってきそうな感じの人です。

レオナルド・ダ・ヴィンチの肖像画自画像 Leonardo da Vinci, Public domain, via Wikimedia Commons

第8、9回でも書きましたが、このリアリズムのスタンスはルネサンスにおいてぴったりでした。ルネサンス時代の美術作品の1つが「写実主義」です。その背景の1つとして、もともとローマのキリスト教会や国が主なパトロンだったのが、だんだん市民のお金持ちも絵の発注をし始めたことがあります。またずっと遡ると「キリストだって人間だよ!」という考えが根付き始めたことも関係しているでしょう。

つまりルネサンス期のローマでは「人体や背景などをちゃんとリアリズムをもって描くこと」を意識し始めたんです。そのうえで絵の登場人物にはしっかりと感情(表情)が宿りましたし、遠近感も出始めました。

ダ・ヴィンチの発明

そんなダ・ヴィンチは「天使」を書く際に「天使の羽は見たことないけど鳥と同じなはずだ」と鳥の羽を見ながら宗教画を書いていたといいます。「受胎告知」でも確かに「オオワシかよ!」という感じで描かれていますね。

ダ・ヴィンチの「受胎告知」「受胎告知」Leonardo da Vinci, Public domain, via Wikimedia Commons

そんな現実主義の彼は「3次元には輪郭線がない」ということに気が付きました。輪郭線とはその通り顔の周りを描いた線のことです。前回に紹介した「ヴィーナスの誕生」でもしっかり輪郭線があります。

「ヴィーナスの誕生」(部分)「ヴィーナスの誕生」(部分)Sandro Botticelli, Public domain, via Wikimedia Commons

たしかに、こめかみ、頬、顎のラインが黒い人はいません。デーモン閣下すら輪郭は描いていません。そこでダ・ヴィンチは「スフマート」という技法を発明します。これは水に顔料を溶いて薄くしたものを指で何度も重ねるものです。

そしてスフマートを生かして描いたのが傑作「モナ・リザ(ラ・ジョコンダ)」になります。顎のラインなど輪郭線が無いのが分かると思います。

「モナ・リザ」「モナ・リザ」Leonardo da Vinci, Public domain, via Wikimedia Commons

またダ・ヴィンチは「あれ?近くに見えるものと遠くに見えるものでは色が違う!」ということも発見しました。どういうことかの例を持ち出してみましょう。

近くに見えるものと遠くに見えるものでは色が違う写真AC

同じ山でも近くで見ると新緑ですが、遠くにいくにつれてモヤがかかり青みがかっていきます。この色の違いでも遠近感を出せることを発見するんですね。これを「空気遠近法」といいます。

「受胎告知」や「モナ・リザ」の背景でも空気遠近法がよく表れていますが「最後の晩餐」ではより分かりやすいです。

「最後の晩餐」「最後の晩餐」Leonardo da Vinci, Public domain, via Wikimedia Commons

これらの発明はダ・ヴィンチが作り、後世に語り継がれる大発見となりました。その背景にあったのは左脳型の懐疑主義、そして強烈な好奇心だったのだと思います。

ルネサンスの合理主義を高めた若き天才・ラファエロ

ラファエロ・サンティの自画像自画像 Raphael, Public domain, via Wikimedia Commons

ラファエロ・サンティのスゴさを見ていく前に「工房」の紹介をさせてください。ルネサンス当時は「工房を構える親方(マスター)」とその弟子の徒弟制で芸術家の社会は成り立っていました。

みんな10代で「頼もう!」と親方の工房の門を叩き、まずは雑用仕事から始まり、10年もすればようやく下書きなどを任せてもらえるようになり、下積みを積んで、親方に登録されたら独立、という職人っぽい感じだったんですね。

ラファエロも11歳で画家・ペルジーノの工房に入りますが、なんと独立したのは17歳という早さだったそうです。そんな彼の作品はとにかく合理的かつ明快。超分かりやすいんです。シンメトリーで、遠近法も正確、人体表現に誇張がない。

「聖母の結婚」「聖母の結婚」Raphael, Public domain, via Wikimedia Commons

「キリストの埋葬」「キリストの埋葬」Raphael, Public domain, via Wikimedia Commons

師であるペルジーノのほか、ダ・ヴィンチやミケランジェロの手法を吸収しながらキャリアを重ねた彼の最高傑作が「アテネの学堂」でしょう。

「アテネの学堂」「アテネの学堂」Raphael, Public domain, via Wikimedia Commons

古代ギリシャの哲学者たちが集まって議論する様子を描いた1枚で、シンメトリーと完璧な一点透視図法がラファエロらしさを出しています。

時代や思想が違う哲学者を並べただけでなく、自分自身やダ・ヴィンチ、ミケランジェロの顔に似せて書いているのも特徴的で、また左右の像は別の宗教の神々、手前のアーチがだまし絵としても機能しているなど「ちょっと奇妙な仕掛け」がいくつもある、おもしろい絵です。

ラファエロは30代で亡くなりましたが、作品数はめちゃめちゃ多く、この合理的な絵は今後の西洋美術史において何百年も「お手本」とされました。めっちゃ早熟で、死後に評価される、というかっこよすぎる芸術家です。

ルネサンスの流れに逆らったマニエリスムを創始したミケランジェロ

御三家の最後はミケランジェロ・ブオナローティ。本業は彫刻家ですが、絵の腕も抜群でさらに建築もできて、詩も書けちゃう総合芸術家です。彼の作品で有名なのは「ダヴィデ像」。完璧といってもいいくらいのバランスで正確な人体を彫りました。台座も含めると600cmくらいあります。

「ダヴィデ像」「ダヴィデ像」 David Gaya, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

天才っぽいエピソードとしてミケランジェロはノミで彫る前に「大理石の声」を聞いていたそうです。「どうなりたいんだい?ふむふむツイストパーマの男か……OK」という感じでしょうか。やってることが、もうマンガのキャラクターですよね。

また彼は画家として「マニエリスム的な表現」をはじめてやったことでも知られています。その表現がしっかり出ているのが「聖家族(トンド・ドーニ)」です。

「聖家族(トンド・ドーニ)」「聖家族(トンド・ドーニ)」Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons

向かって奥の「友だちのギャグを思い出し笑いする小学生」が可愛くて好きなのですが、ここでは置いておきます。

注目すべきは中央のマリアと、子どものイエスです。イエスを抱きかかえようとするマリアの腕や腰、首は激しくよじれています。イエスの腰もそうですね。ちょっと過度です。これを「セルペンティナータ(らせん状の)」といいます。

今までルネサンスでは「あるがままの姿を合理的に写実する」というブームだったんですが、ミケランジェロの作品はちょっと誇張しているんです。同時期の「アダムの創造」もやっぱりねじれています。

「アダムの創造」「アダムの創造」Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons

この絵から30年後に描いた「最後の審判」では400人以上の人が過度に筋骨隆々な姿であらわれます。もう6パックとかじゃないです。15パックくらい割れています。

「最後の審判」「最後の審判」Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons

この見たままの姿以上の「美」を人工的に描くのを「マニエリスム」といい、ルネサンスが終わった後に本格的に流行ります(マニエリスムは第12回くらいで紹介する予定です)。ミケランジェロはまさしくマニエリスムの先駆者だったわけですね。


さて今回は「盛期ルネサンス」の御三家「ダ・ヴィンチ」「ラファエロ」「ミケランジェロ」の作品を通じて、合理主義なルネサンスの特徴、そして何となく訪れるルネサンス終末の予感を紹介しました。次回はローマ以外のルネサンス期「北方ルネサンス」についてみていきましょう。

▼西洋美術史を流れで学ぶ(11回) ~北方ルネサンス編~
https://irohani.art/study/5282/

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ジュウ・ショ

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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

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