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STUDY

2021.10.21

西洋美術史を流れで学ぶ(第13回)~マニエリスム編~

「アートに詳しくなりたいけど、なんかやたら専門用語ばっかりで、学び方がいまいち分からない……」

そんな謎に高尚になりすぎた感のある「西洋美術」を、フランクに楽しくお伝えしていくこの企画。第13回はルネサンスが終わった1500年代半ばから1600年代前半に流行る「マニエリスム」、またフォンテーヌブロー派についてみてみましょう。

このあたりから西洋美術の舞台はイタリアからフランスへと移っていきます。では美術作品はどのように変わっていくのでしょうか。

・前回記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第12回) ~ルネサンスの終わり編~
https://irohani.art/study/5386/

マニエリスムとは

エル・グレコ『ラオコーン』エル・グレコ『ラオコーン』El Greco, Public domain, via Wikimedia Commons

マニエリスムとはイタリア語で「様式」とか「手法」という意味です。「マニエリスム美術だけじゃなく、ルネサンスも印象派も全部何かしらの様式だろ」と言いたくなりますよね。

これ、ミケランジェロの弟子のヴァザーリさんが「ミケランジェロ先生やっぱレべル違ぇわ……。これもう教科書(マニエラ)だわ……」と言ったらしく、そこからマニエリスムと名が付きました。その当時のミケランジェロは今でいうHIKAKINみたいな超絶インフルエンサー。周りの画家はみんな彼の手法を真似し、マニエリスムは発達していくわけです。

だからスタートはミケランジェロの絵なんですね。ラファエロやダ・ヴィンチの絵にもマニエリスムっぽいものがありますが、基本的にはミケランジェロ発進です。

マニエリスムの特徴は「自然を上回る美しさ」

では「ミケランジェロの絵ってどんなものだっけ」という話に移りましょう。第10回でもお伝えしましたが、ミケランジェロは他のルネサンス期の画家とはまったく違う絵を描いています。かなりのかっこつけたがり屋さんです。たぶん話とか盛ってくるタイプです。

まずはルネサンス期の画家・マザッチョの「アダムとエヴァ」を紹介します。

マザッチョ『楽園追放』 ※左が修復前、右が修復後マザッチョ『楽園追放』 ※左が修復前、右が修復後 Masaccio, Public domain, via Wikimedia Commons

リンゴをもぐもぐしちゃったので楽園を追放される2人の様子です。正確無比な人体構造、悲しみ溢れる表情がリアリティ溢れていてルネサンス的ですね。当時はみんなこうした写実的でリアルな絵を描いていました。

いっぽうミケランジェロの絵はこんな感じ。

『最後の審判』『最後の審判』 Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons

彼の手法の特徴が人体を「ひねる」というものです。このひねったりねじったり、引き延ばしたりした絵を「セルペンティナータ」といいます。イタリア語で「らせん状」とか「蛇がとぐろを巻いたような」という意味です。

「あるがままの写実的な絵を」というより「人工的に自然以上の美を」というのがミケランジェロの方針であり、マニエリスムの特徴になりました。とにかく首や腰、腕をひねらせたいので、必然的にミケランジェロ作品の人物は横を向いているケースが多いです。

この上の絵より「彫像」のほうが伝わりやすいかとも思いますので、そちらも紹介しましょう。「勝利」という作品です。

ミケランジェロ『勝利』像ミケランジェロ『勝利』像 Michelangelo, Public domain, via Wikimedia Commons

この右腕なにこれ、こんな姿勢したことないんだけど……みたいな。とにかく肘も膝も手首も首も可動部は全部動いています。ルネサンスからマニエリスムに転換するきっかけになった作品でもあります。

彫像に関しては「ひねり」によって、これまで前から観られることを前提としていたのが360度どこから見ても楽しめるようになりました。これも大きな変化でした。

マニエリスム期には「寓意(アレゴリー)」を楽しむ文化も発達

またマニエリスムの時代には絵に「寓意(アレゴリー)」を込める文化も発達しました。寓意とは「概念を視覚化したもの」です。あの、トレンディドラマとかで振られたシーンになると急に豪雨が降ってくることありますよね。アレです。悲しみを雨で視覚化しているわけですね。

アーニョロ・ブロンツィーノ(ブロンズィーノ)『愛の寓意』アーニョロ・ブロンツィーノ(ブロンズィーノ)『愛の寓意』Bronzino, Public domain, via Wikimedia Commons

この「寓意たっぷり絵」のことを寓意画と呼んだりもします。なかでも最も有名と言ってもいいのが上の『愛の寓意』でしょう。ブロンツィーノというマニエリスム期の代表的な画家が描いたものです。

現代の私たちがみると「何が何やら……」という絵ですが、実はいろいろメッセージが隠されています。


まず中央で接吻しているのがヴィーナスとクピドのカップルです。クピドの足元には愛欲の象徴であるハトがおり、背後の老婆は嫉妬の象徴です。ヴィーナスの足元にも愛欲の仮面があります。

ヴィーナスの右でバラの花を持っている少年は「快楽」の象徴、しかしその背後には手が逆についた爬虫類か哺乳類か分からん少女がサソリ(毒)と蜂の巣(甘美)を持っています。そしてその上では時間の神・クロノス(肩に砂時計付き)が強引にカーテンを開けており、真実の仮面を付けた女が姿を表しています。そしてヴィーナスがクピド(キューピッド)の矢を取って背後に掲げています。これは「男女の愛を避けよ」という寓意です。

つまり総合すると「男女の肉体的な愛には一瞬の快楽がある。それは時間とともに薄れてしまうが真実の愛があれば残るよ」という情報があるわけです。なんてややこしいんだ。でもこれを文字ではなく絵にするところがなんだかオシャレですよね。

ただし、この寓意性は現代の私たちが解釈したものです。全部は読み取れませんし正しいかもわかりません。なんなら絵の鑑賞に「正しい」なんてないですよね。僕は「少年の逆転満塁ホームランに喜ぶカップルと、悲しむ老婆、スタンドでボールを捕ろうとするおっさん……」という全裸のどんちゃん騒ぎに見えますが、それも正しいわけです(暴論)。事実、この「愛の寓意」はいまだに美術学者が他の解釈はないかを研究し続けています。

パルミジャニーノ『長い首の聖母』パルミジャニーノ『長い首の聖母』Parmigianino, Public domain, via Wikimedia Commons

このパルミジャニーノ作「長い首の聖母」も「左の天使が持っている壺」や「右下の預言者」「背後の円柱」などに寓意が込められているようですが、今となっては謎で、学者を悩ませている作品です。

こちらはマニエリスム期最高の名画といわれることもあります。もう描いた本人がタイトルにするくらい「あからさまに長い首と指、めっちゃピアノ上手そう……。そして感情が読み取れない無表情。まさに「人工的な美」を追究するマニエリスム感たっぷりですね。

またこの絵から分かる通り「比較的、遠近感が乏しいこと」もマニエリスムの特徴です。かなり後ろにいるはずの預言者が隣にいるように見えますよね。

マニエリスム期のフォンテーヌブロー派によって芸術の中心がイタリアからフランスに

そんなマニエリスム期への突入……というか前回ご紹介したルネサンスの終わりにしたがって、芸術の中心地はイタリアからローマに移動しました。

現在「芸術の都」といえばパリですが、逆にいうと1500年代までイタリアが芸術の中心地だったんですね。

芸術の都がフランスに移った背景

ではなぜ移動したのか。その理由としては前回でお伝えしたように「フランス軍がイタリアを壊滅させた」ということが大きいです。イタリア国内で内戦があったこともあり、弱体化していたところにフランス軍が攻め入ったアレですね。

・関連記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第12回) ~ルネサンスの終わり編~
https://irohani.art/study/5386/

で、勢いに乗るフランスはそのまま「文化、芸術のレベルもイタリアを追い抜こう」と決意。特にフランソワ1世はレオナルド・ダ・ヴィンチをフランスに呼び寄せます。ダ・ヴィンチは以前お話ししたように、めちゃめちゃ理系で賢い人ですから「イタリアはもう終わりですね。よし、この話乗りましょう」と快諾。結果的にイタリアのルネサンスをフランスで開花させるんです。

イタリア出身のフォンテーヌブロー派がフランスに文化を持ち込む

またフランソワ1世はそのほかにもイタリアや今のドイツ、ベルギーからも高名な画家をフランスに呼んで、彼らに「フォンテーヌブロー宮殿」の装飾をしてもらうんですね。それで彼らは「フォンテーヌブロー派」といわれます。

「フォンテーヌブロー宮殿」ignis, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

このフォンテーヌブロー派は最初イタリア出身の芸術家だけで形成されます。代表的な作品は「ガブリエル・デストレとその姉妹」ですが、これ作者不詳です。

真顔でこっちを向いて乳首をつまむ姉妹、そして奥にはこのとんでもない状況にも関わらず冷静に編み物をする侍女、というシュール過ぎる構図。15秒くらい観ていると「……なにこれ」とジワジワ笑えてきます。

『ガブリエル・デストレとその姉妹』『ガブリエル・デストレとその姉妹』 Unknown authorUnknown author (School of Fontainebleau), Public domain, via Wikimedia Commons

金髪の女性が王の愛妾だったガブリエル・デストレで茶髪が(たぶん)妹のビヤール公爵夫人です。もちろん「う~ん、なんか足りない気がするなぁ……乳首つまませるか……」と何の寓意もなしに描いたわけではありません。ガブリエルが王の子を懐妊したことを示す説が濃厚です。

またガブリエルは指輪をつまんでいます。これは「王と結婚してプリンセスになりたいんだけど!」という彼女の意思表示なんだろうと言われています。

マニエリスムはのちに「マンネリ」に

さて、今回はルネサンス後のマニエリスムについて紹介しました。この時代は斬新な表現だといわれ、こぞってマニエリスムを真似しましたが、実は200年後くらいに「マンネリ」といわれちゃいます。マンネリズムの語源でもあるんですね。

さてだんだんと「あるがままの姿」から「オーバーな表現」にシフトしてきた西洋美術ですが、次回はもっとオーバーになっていく「バロック美術」についてご紹介します。

▼西洋美術史を流れで学ぶ(14回) ~バロック美術編~
https://irohani.art/study/5538/

【写真8枚】西洋美術史を流れで学ぶ(第13回)~マニエリスム編~ を詳しく見る

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ジュウ・ショ

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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

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