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STUDY

2021.11.9

西洋美術史を流れで学ぶ(第15回)~オランダ・バロック美術編~

なぜか高尚に語られがちな西洋美術史について、あくまでフランクにおもしろおかしく紹介していくこの企画。第15回は前回に引き続き、ヨーロッパ各地で17世紀に大流行するバロック美術をみていきます。

・前回記事:西洋美術史を流れで学ぶ(第14回)~バロック美術編~
https://irohani.art/study/5538/

前回は、イタリア・フランス・スペインでカトリックの入信者を増やすための“広告”として用いられた、超ダイナミックな表現が特徴の美術作品について紹介しました。今回は主にオランダで始まる、西洋美術の新たな表現を面白おかしくみていきましょう。

バロック時代は多様化の時代

前回の第14回を超ざっくり振り返ってみましょう。バロック美術以前、ルネサンス期の最後のほうになると、重大な事件として「宗教改革」が起きました。それでカトリックの一部(プロテスタント)が「もう、キリスト教よりお金稼ぎのほうが大事になってんじゃん!やってらんねぇ!」と分離することになります。

その後、カトリックは「キリストとかマリアのかっこいいシーンをバンバン描いて、信者を集めようぜ」という手法で画家にダイナミックで荘厳な宗教画を描かせるわけです。一方で、プロテスタントは「ちょっとキリスト描くのとか、もうやめなよ。偶像崇拝禁止って言ってるじゃん」と反対するという、はめ外す男子とそれを止める女子みたいな、バチバチのバトルが始まったんですね。

それでバロック時代の美術の大きな特徴は、カトリック主導によるとにかく劇的で激しい表現となっていきます。

とはいえ、バロック美術は一概にそれだけじゃないのが面白いところ。他のモチーフ、表現も育った「多様化の時代」なんですね。

オランダで「市民階級の玄関に飾りやすい絵画」が流行った背景

「ジプシー女」「ジプシー女」Frans Hals, Public domain, via Wikimedia Commons

「多様化」のなかでも特筆すべきなのが「風景画」「風俗画」「静物画」が誕生したこと。よくよく考えると、この時代までの美術作品は基本的に「宗教画(歴史画)」か「人物画」しかないんですね。パトロンが「教会」「君主(王様)」「金持ち市民」しかいないので「キリスト教の名シーン集」か「王・金持ち市民のモデル立ち」しかお金にならなかったんです。

そんななかで「その辺の風景」や「一般市民の何でもない日常」を描いた絵が流行ります。その舞台となるのが、当時の北部ネーデルラント、今のオランダです。オランダはイタリア、フランス、スペインとはまったく違う作品がブームになりました。

その理由が「カトリックでなくプロテスタント傘下に入ったこと」と「市民階級が力を付けたこと」です。

まず偶像崇拝禁止のプロテスタントを信仰していたので、カトリックのダイナミックな表現は生まれなかったんですね。「ちょっと!偶像崇拝禁止でしょ!」派が多数だったので、周りの国に比べて宗教画は制作されませんでした。

また「市民が力をつけたこと」。この背景にあるのが「貿易」です。当時はいわゆる大航海時代。ヨーロッパとアメリカやアジア大陸との貿易が始まりました。海沿いのオランダにいとっては、もう千載一遇の大チャンスです。これを完全にモノにして、もうぶっちゃけすんごい儲かります。

すると、国全体が裕福になるので、市民でも家に飾る用に絵を買うんですね。オランダは教会が偶像崇拝禁止だし、国王制でもない。なので、画家のパトロンは主に市民となったわけです。

「似てないじゃん!書き直してよ」を避けるための写実性

「テュルプ博士の解剖学講義」「テュルプ博士の解剖学講義」Rembrandt, Public domain, via Wikimedia Commons

そんなオランダでまず出てくるのが「集団の肖像画」。ざっくりいうと集合写真です。というのも、国王みたいに「1人が圧倒的に強い」というものではなく、商人グループで儲かったので「みんなで描いてもらおうよ」となったんですね。

すると、1枚の絵のなかにいろんな人を描く必要がるので、顔の特徴を精密に描く必要があります。みんな同じ顔見たいに描いたら「ん~これは髭があるから1丁目の田中さんだろうけど……。これは誰? 俺かこれ……? ちょっとこれ分かんないから描き直してもらおうぜ」となるんですね。なので当時のオランダ人画家は「写実性」が発達するんです。

風景画、風俗画、静物画という「玄関に飾りやすい絵」

「真珠の耳飾りの少女」「真珠の耳飾りの少女」Johannes Vermeer , Public domain, via Wikimedia Commons

そしてそんな見たものをちゃんと描くという写実主義から発展して出てきたのが風景画、風俗画、静物画でした。

当時少なかったオランダの宗教画(歴史画)は、基本的にイタリアから影響を受けたダイナミックな絵が主流です。それはもう写実性ブームのオランダで「盛りすぎじゃね?」と嫌われちゃうんですね。ハリウッドザコシショウのネタを見て「いや、似てねぇよ……」とか言っちゃう感じです。

しかもサイズがデカくて高級でした。というのも当時「ジャンルのヒエラルキー」というものがあって「1.歴史画(宗教画)、2.肖像画、3.風俗画(日常生活)、4.風景画、5.静物画」という明確なランク付けがあったんです。今考えたらモチーフで順位付けするなんて、ちょっと衝撃ですよね。

その点、ヒエラルキーは下位でも市民にとっては「リアリティがあっていいわね」となり、サイズ的にも飾りやすい「風俗画」や「風景画」「静物画」が流行ります。玄関に巨大なキリストの磔刑像があったら、友だちに「え?病んでんの?」と言われちゃいますもんね。それよりは雄大な自然の絵があるほうが受けたわけです。

オランダ・バロック美術の代表的な作品

では最後に「風俗画」「風景画」「静物画」の代表的な作品を紹介してみましょう。

ヤコブ・ファン・ロイスダール「風車」

ヤコブ・ファン・ロイスダール「風車」「風車」Jacob van Ruisdael, Public domain, via Wikimedia Commons

ロイスダールの名作「風車」はこの時期の代表的な風景画です。「風車」はオランダの富の象徴であり、貿易の象徴「船」も描かれています。絵を通して当時のオランダのカルチャーまで分かる作品です。

ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」

ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」「牛乳を注ぐ女」Johannes Vermeer, Public domain, via Wikimedia Commons

西洋美術史全体でも、みんな知ってるくらい有名な作品です。大人気のフェルメールですが、意外と寡作で36点くらいしか描いていません。そのほとんどが裕福な家庭の何でもない日常や風景を描いたものでした。この向かって左に窓があって光が射すのが得意な構図。彼は物語性には興味がなく、光を表現したかったので、まるで写真のような作品を残しています。

ピーテル・クラース「ヴァニタス」

ピーテル・クラース「ヴァニタス」「ヴァニタス」Pieter Claesz, Public domain, via Wikimedia Commons

静物画としては調理器具とか、草花、果実などがよく描かれます。そんななかで「死」を匂わせる「ヴァニタス画」が軽いブームとなるんです。「人生はいつ終わってもおかしくないぞ」という警告的な意味合いも含まれていました。

その背景に「ペスト」の大流行があるのは間違いないでしょう。今でいうと新型コロナウイルスの脅威にも通じますが、ウイルスは目に見えない。いつ罹患して亡くなってもおかしくない。という恐怖がありました。また同時に戦争がいくつも起きたのもこの時期です。こうした「死」との距離感が近づいたことで、ヴァニタス画が描かれました。

ようやく画家の自由が認められてきたオランダ・バロック美術

オランダ・バロック美術の面白いところは「画家が自分の表現をしやすくなったこと」でしょう。それまでは「こんなのを描いてくれ」と発注がきて、その通りに描いて納品するのが通常でした。それまでの画家は今のような「表現者」という感じではなく「職人」というイメージのほうが近かったといえます。

しかしこの時代からは、発注者の肖像や宗教画といった、明確な目的がなくても、自分が興味をもった作品を描けば売れるシステムができたのです。これはようやく美術作品が「自己表現」という意味をおびてきた証ともいえるでしょう。

さて、そんなバロックが終わり、次回は太陽王・ルイ14世のもと、フランスで栄えた「ロココ美術」について紹介します。とにかく豪華絢爛でド派手な美術作品についてみていきましょう。

ジュウ・ショ

ジュウ・ショ

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アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。

アート・カルチャーライター。サブカル系・アート系Webメディアの運営、美術館の専属ライターなどを経験。堅苦しく書かれがちなアートを「深くたのしく」伝えていきます。週刊女性PRIMEでも執筆中です。noteではマンガ、アニメ、文学、音楽なども紹介しています。